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SIDE. アニール レノスト教団にて
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アニールは落ち着かない心地で長兄の管轄するレノスト教団へと訪れていた。
先日訪れた次兄シェードの所では、幸か不幸か、特に目新しい情報は得られなかった。
寧ろどこでそのことを耳にしたのか、竜の名を騙る者に手を貸すなと逆に釘を刺されてしまう始末であった。
無論、竜の名を騙る者にではなく御使い様に手を貸しているのですと反論はしたが、ものは言いようだなと鼻で笑われてしまい、アニールの主張が理解されることはなかった。
次兄が知っていたとなればおそらく長兄も、ひいては父も既にそのことを知っているのだろう、とアニールは苦い気持ちになった。
竜の名を騙る《クエレブレ》に一番否定的なのは父なのだ。
このまま長兄からもなんの情報も得られなければ、次に向かうのは父の所である。
その場合、厳格な父から直々に小言を頂戴しなければいけないのか、とアニールは痛む頭を抑えた。
正直シンの言葉を信じているかと言われれば、答えは否である。
教祖である父を含め、兄たちも立派な人物であることは疑いようのない事実であるし、人殺しを行う集団に手を貸すなどそんな馬鹿げたことあるはずがない。
きっぱりとそう断言できる。
だがもし、その集団に《竜の子》がいるのであれば、それはまた少し変わってくるのかも知れない。
そうほんの僅かに頭を過ぎったために、アニールはそれを確かめる気になったのだ。
何より、レンリの身に危険が迫っていると脅されては、動かないという選択肢はなかった。
次兄から長兄の元へと休むことなく続いた旅路に従者が少しばかり疲れた顔を見せたため、彼らには先に休むように伝えてアニールは一人応接室で兄の到着を待った。
三十分ほどして姿を現わした長兄マルカは、長く伸ばした髪を後ろで緩く縛り目元には知的な眼鏡がかけていた。
以前会った時と寸分変わらない姿に、アニールの顔には自然と笑みが浮かんだ。
「――久しぶりだね、アニール。事前に連絡をもらえれば待たせることなどなかったのに」
「お久しぶりです、兄上。気を遣わせてしまったようで申し訳ありません」
柔和な笑みを湛えたマルカはゆったりとした動作でアニールの前に腰かけると、片手を上げて紅茶を配膳した神官に退出を促した。
「そう言えば、小耳に挟んだのだが……竜の名を騙る者に手を貸しているんだってね」
「その話は既にシェード兄上から注意を受けました」
「なるほど。であれば、私からは特に何も言うことはないね」
マルカは朗らかに微笑むと、上品な仕草で紅茶に口をつけた。
兄の様子は至って普通であった。
「それで、家族の元を順番に訪れているのには、一体どういう訳があるんだい?」
「……先日私が鳥を送った件について、再び詳しく聞きたいと思いまして」
言いながら、アニールは注意深く兄を観察した。
マルカは紅茶を持つ手を僅かに揺らしたが、反応はそれだけであった。
「先日の……竜の子についての情報を探っていたようだけれど、そのことかな?」
「そうです」
「答えは変わらないよ。私は知らない」
マルカは申し訳なさそうに眉を下げた。
それは、穏やかな兄らしい表情だと思った。
「……知らないと言わなければ、殺されてしまうのですか?」
「っ」
刹那、マルカの顔が青ざめた。
そんな兄の変化を目の当たりにし、アニールは驚愕に目を見開いた。
シンからもらった情報を使って軽い気持ちでかまをかけたつもりであった。
しかし、この反応は。
「っどうして?」
マルカは胸を押さえながら苦しげにアニールを見つめた。
しかし、アニールの顔を見て誘導されたことに気付いたのだろう、その顔はみるみるうちに歪んでいった。
「あ、にうえ、何故?」
「……」
「……それすらも、答えることは許されないのですか」
アニールはどこか呆然としながら兄を見つめた。
マルカは力なく顔を伏せており、その思惑を読み取ることは出来なかった。
小さく縮こまった兄の姿を視界に捉え、アニールはようやく状況を理解するに至った。
「っ何故、アノニマスに協力など――」
「――協力などしていない! 私は、騙されてっう」
マルカは顔を上げて大きな声で叫んだかと思うと、すぐに胸を押さえて俯いてしまった。
「彼らをどこに匿っているのですか、教えてください」
「……」
マルカは何も答えなかった。
いや、きっと答えることができなかったのだろう。
アニールは沸々とわき上がる感情を持て余して立ち上がった。
「御使い様の危機なのですっ、兄上!」
マルカは尚も黙ったままであった。
兄はこんなに頼りない人であっただろうかと思いながら、アニールは唇を噛んだ。
命を握られているが故に下手なことを言えないのだろうとは想像が付いた。
しかし、兄が黙ったままでは《竜の子》に危険が及ぶのだ。
兄の命か、《竜の子》の命か。
そんなの、天秤にかけるまでもなく決まっていた。
「……どこを提供したのですか? イーラですか? それともパレス?」
兄の管理している遺跡を思いつくままに口にした。
何個か口にしたところで、その一つにマルカがピクリと反応を見せた。
「そうですか、ルクスリアですか」
アニールは苛立つ心を落ち着かせるために一度大きく息を吐き出し、それから、さっと右手を挙げてシンから押しつけられた水色の小鳥を呼び出した。
「場所はルクスリアです。私もすぐに向かいます」
伝言を吹き込むと、小鳥は壁をすり抜けて飛び去っていった。
「……何をしようとしているのですか? 危険です、関わるのは止めなさい」
「もっと早く相談してくだされば、兄上をお救いすることができたかも知れませんのに」
自身を心配するかのような兄の言葉に、アニールは思わず顔を歪めた。
「竜の名を騙る者に手を貸すなと、よく私を非難することができましたね」
「っ」
可哀想なほどに震え上がる兄を見てしまえば、ここに長居をすればするほど兄を責める言葉を紡いでしまいそうだとアニールは唇を噛み締めた。
これ以上恨み言を口にしたくない一心で踵を返すと、マルカの焦ったような声が耳に届いた。
「っ御使い様だと思ったのです。だから、協力しようと。まさか、あんな……私は、本当に知らなくて、」
「……残念です、見る目がなかったのですね」
アニールは振り返ることなく、わざと突き放すように告げた。
たとえ本意では無いとは言え、肉親が《アノニマス》に協力していたという事実がショックだったのは勿論、それ以上に尊敬する兄の保身に走った行動に失望したのである。
先日訪れた次兄シェードの所では、幸か不幸か、特に目新しい情報は得られなかった。
寧ろどこでそのことを耳にしたのか、竜の名を騙る者に手を貸すなと逆に釘を刺されてしまう始末であった。
無論、竜の名を騙る者にではなく御使い様に手を貸しているのですと反論はしたが、ものは言いようだなと鼻で笑われてしまい、アニールの主張が理解されることはなかった。
次兄が知っていたとなればおそらく長兄も、ひいては父も既にそのことを知っているのだろう、とアニールは苦い気持ちになった。
竜の名を騙る《クエレブレ》に一番否定的なのは父なのだ。
このまま長兄からもなんの情報も得られなければ、次に向かうのは父の所である。
その場合、厳格な父から直々に小言を頂戴しなければいけないのか、とアニールは痛む頭を抑えた。
正直シンの言葉を信じているかと言われれば、答えは否である。
教祖である父を含め、兄たちも立派な人物であることは疑いようのない事実であるし、人殺しを行う集団に手を貸すなどそんな馬鹿げたことあるはずがない。
きっぱりとそう断言できる。
だがもし、その集団に《竜の子》がいるのであれば、それはまた少し変わってくるのかも知れない。
そうほんの僅かに頭を過ぎったために、アニールはそれを確かめる気になったのだ。
何より、レンリの身に危険が迫っていると脅されては、動かないという選択肢はなかった。
次兄から長兄の元へと休むことなく続いた旅路に従者が少しばかり疲れた顔を見せたため、彼らには先に休むように伝えてアニールは一人応接室で兄の到着を待った。
三十分ほどして姿を現わした長兄マルカは、長く伸ばした髪を後ろで緩く縛り目元には知的な眼鏡がかけていた。
以前会った時と寸分変わらない姿に、アニールの顔には自然と笑みが浮かんだ。
「――久しぶりだね、アニール。事前に連絡をもらえれば待たせることなどなかったのに」
「お久しぶりです、兄上。気を遣わせてしまったようで申し訳ありません」
柔和な笑みを湛えたマルカはゆったりとした動作でアニールの前に腰かけると、片手を上げて紅茶を配膳した神官に退出を促した。
「そう言えば、小耳に挟んだのだが……竜の名を騙る者に手を貸しているんだってね」
「その話は既にシェード兄上から注意を受けました」
「なるほど。であれば、私からは特に何も言うことはないね」
マルカは朗らかに微笑むと、上品な仕草で紅茶に口をつけた。
兄の様子は至って普通であった。
「それで、家族の元を順番に訪れているのには、一体どういう訳があるんだい?」
「……先日私が鳥を送った件について、再び詳しく聞きたいと思いまして」
言いながら、アニールは注意深く兄を観察した。
マルカは紅茶を持つ手を僅かに揺らしたが、反応はそれだけであった。
「先日の……竜の子についての情報を探っていたようだけれど、そのことかな?」
「そうです」
「答えは変わらないよ。私は知らない」
マルカは申し訳なさそうに眉を下げた。
それは、穏やかな兄らしい表情だと思った。
「……知らないと言わなければ、殺されてしまうのですか?」
「っ」
刹那、マルカの顔が青ざめた。
そんな兄の変化を目の当たりにし、アニールは驚愕に目を見開いた。
シンからもらった情報を使って軽い気持ちでかまをかけたつもりであった。
しかし、この反応は。
「っどうして?」
マルカは胸を押さえながら苦しげにアニールを見つめた。
しかし、アニールの顔を見て誘導されたことに気付いたのだろう、その顔はみるみるうちに歪んでいった。
「あ、にうえ、何故?」
「……」
「……それすらも、答えることは許されないのですか」
アニールはどこか呆然としながら兄を見つめた。
マルカは力なく顔を伏せており、その思惑を読み取ることは出来なかった。
小さく縮こまった兄の姿を視界に捉え、アニールはようやく状況を理解するに至った。
「っ何故、アノニマスに協力など――」
「――協力などしていない! 私は、騙されてっう」
マルカは顔を上げて大きな声で叫んだかと思うと、すぐに胸を押さえて俯いてしまった。
「彼らをどこに匿っているのですか、教えてください」
「……」
マルカは何も答えなかった。
いや、きっと答えることができなかったのだろう。
アニールは沸々とわき上がる感情を持て余して立ち上がった。
「御使い様の危機なのですっ、兄上!」
マルカは尚も黙ったままであった。
兄はこんなに頼りない人であっただろうかと思いながら、アニールは唇を噛んだ。
命を握られているが故に下手なことを言えないのだろうとは想像が付いた。
しかし、兄が黙ったままでは《竜の子》に危険が及ぶのだ。
兄の命か、《竜の子》の命か。
そんなの、天秤にかけるまでもなく決まっていた。
「……どこを提供したのですか? イーラですか? それともパレス?」
兄の管理している遺跡を思いつくままに口にした。
何個か口にしたところで、その一つにマルカがピクリと反応を見せた。
「そうですか、ルクスリアですか」
アニールは苛立つ心を落ち着かせるために一度大きく息を吐き出し、それから、さっと右手を挙げてシンから押しつけられた水色の小鳥を呼び出した。
「場所はルクスリアです。私もすぐに向かいます」
伝言を吹き込むと、小鳥は壁をすり抜けて飛び去っていった。
「……何をしようとしているのですか? 危険です、関わるのは止めなさい」
「もっと早く相談してくだされば、兄上をお救いすることができたかも知れませんのに」
自身を心配するかのような兄の言葉に、アニールは思わず顔を歪めた。
「竜の名を騙る者に手を貸すなと、よく私を非難することができましたね」
「っ」
可哀想なほどに震え上がる兄を見てしまえば、ここに長居をすればするほど兄を責める言葉を紡いでしまいそうだとアニールは唇を噛み締めた。
これ以上恨み言を口にしたくない一心で踵を返すと、マルカの焦ったような声が耳に届いた。
「っ御使い様だと思ったのです。だから、協力しようと。まさか、あんな……私は、本当に知らなくて、」
「……残念です、見る目がなかったのですね」
アニールは振り返ることなく、わざと突き放すように告げた。
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