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本編
4 叶うならもう一度
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起きているのか、寝ているのか。生きているのか、死んでいるのか。昼なのか、夜なのか。
何一つ分からない。意識がぼやけている。
時間感覚が分からないまま、俺は今までのことをぼんやり考えていた。前世のことも、今世のことも。
俺は、そう、魔王として転生して、する前はヒモなんてくだらない生き方してて、それって大学辞めちゃって身体売るしかなかったからで、辞めたのは家を追い出されて金がなかったからで、追い出されたのは俺がセックスばっかりしてるからで、それって同級生たちに無理やり調教されたからで、そうなったのは、ええと……。
考えれば考えるほど、不幸だったんだなぁ俺、と他人事のように思った。
いつだって俺は真剣に生きていなかった、気がする。
セックスを知る前は何も持ってなくて、知ってからも俺にはそれしかなくて、そういう現実に直面するのは辛いから、ぼんやりと流されるままに。
それじゃ嫌だった、ちゃんと生きたかった。そう確かに死ぬ間際の俺は祈った。だから、こうして転生できたのかもしれない。なんでもできる力を持って。
そうやって転生してからの俺は、少しは変われたのかもしれない。
たとえば先代魔王に焼き尽くされる街を見たとき。こんなことがあっていいのか、どうしてこんなことが許されてしまうのか、と前世でも感じなかったほどの怒りを感じた。
それからヒューイに出会って、ヒューイや他の仲間と共に苦しむ人や街を救って。
仲間たちに言われるがままに、そういう部分があったことは否定しない。けれど、俺自身が望んで助けて、望んで守ったものたちだ。
転生してからは色んなものを得た。気づかないうちにそれが当たり前になっていた。
幸せだったんだ。仲間たちが、魔族が大好きだったんだ。そのことにようやく気づいた。
セックスしたくてしたくてたまらなかった気持ちはあったけれど、それがなくても確かに満たされていた。前世を思うと、そう感じる。
それから、ヒューイ。あのアイスブルーの色を思うと、泣きそうになる。
俺は死んじゃったのかな。もう会えないのかな。あの色を見ることは二度と叶わないのかな。
そう考えると、もっと二人で色んなことをしておけばよかった、と後悔で苦しくなる。
最初はセックス目当てなんてしょうもない理由だったのは確かだ。でも、月日を経ることに好きになっていったのも確かで。
カノン様、って笑ってくれるあの顔が好きだった。俺がからかうとすぐ顔を真っ赤にするところが好きだった。俺が疲れているとすぐ察してくれる細やかなところが好きだった。
あんなに暖かい気持ちになったのは初めてのことかもしれない。身体を繋げなくても、ただ手を握るだけでも幸せだと思えるような。
俺とヒューイはセックス以外に何かしたっけ。二人で出かけたことはあったっけ。
執務が忙しかったのもある。だけど、今思うとセックスばっかりじゃなくて、ただ寄り添う時間がもっとあればよかったのに、と後悔ばかりが湧く。
それから、もっと好きだと言えばよかったなんて思う。チープな恋愛ソングの歌詞みたいだけど、いざとなるとこんなことしか浮かばない。もっと、ヒューイの笑った顔が、見たかった。
どうして、と何度目かのその言葉をつぶやいて、晴海さんの顔を思い出した。
前世で、一緒に暮らし始めるなんてしなければよかった。あの人があんなに俺に執着している人だとは、最初は思わなかったのだ。
それから転生した後も、会おうなんてしなければよかった。そしたら俺はこんなことにならなかったのに。
前世と今世、あの人に閉じ込められてひたすら抱かれた日々を思うと、気持ち悪くて、怖くて仕方がない。
だんだん感覚が麻痺していくのだ。ずっと同じ場所にいて、ずっと同じ人と会って、ずっと同じことをしていると。それで、今の状況に慣れてしまう。それが怖い。
あの人はどうなったんだろう。俺と同じで死んじゃったのかな。だとしたら嫌だな。最期の記憶があの人だなんて。
どうせ死ぬなら、最期にヒューイの顔が見たかった。
ああ、ヒューイがこんなに大切だなんて思わなかった。伝えたかった。この気持ちを生きている間に気が付きたかった。
ああ、ヒューイ。叶うなら、もう一度、あのアイスブルーの色を――。
何一つ分からない。意識がぼやけている。
時間感覚が分からないまま、俺は今までのことをぼんやり考えていた。前世のことも、今世のことも。
俺は、そう、魔王として転生して、する前はヒモなんてくだらない生き方してて、それって大学辞めちゃって身体売るしかなかったからで、辞めたのは家を追い出されて金がなかったからで、追い出されたのは俺がセックスばっかりしてるからで、それって同級生たちに無理やり調教されたからで、そうなったのは、ええと……。
考えれば考えるほど、不幸だったんだなぁ俺、と他人事のように思った。
いつだって俺は真剣に生きていなかった、気がする。
セックスを知る前は何も持ってなくて、知ってからも俺にはそれしかなくて、そういう現実に直面するのは辛いから、ぼんやりと流されるままに。
それじゃ嫌だった、ちゃんと生きたかった。そう確かに死ぬ間際の俺は祈った。だから、こうして転生できたのかもしれない。なんでもできる力を持って。
そうやって転生してからの俺は、少しは変われたのかもしれない。
たとえば先代魔王に焼き尽くされる街を見たとき。こんなことがあっていいのか、どうしてこんなことが許されてしまうのか、と前世でも感じなかったほどの怒りを感じた。
それからヒューイに出会って、ヒューイや他の仲間と共に苦しむ人や街を救って。
仲間たちに言われるがままに、そういう部分があったことは否定しない。けれど、俺自身が望んで助けて、望んで守ったものたちだ。
転生してからは色んなものを得た。気づかないうちにそれが当たり前になっていた。
幸せだったんだ。仲間たちが、魔族が大好きだったんだ。そのことにようやく気づいた。
セックスしたくてしたくてたまらなかった気持ちはあったけれど、それがなくても確かに満たされていた。前世を思うと、そう感じる。
それから、ヒューイ。あのアイスブルーの色を思うと、泣きそうになる。
俺は死んじゃったのかな。もう会えないのかな。あの色を見ることは二度と叶わないのかな。
そう考えると、もっと二人で色んなことをしておけばよかった、と後悔で苦しくなる。
最初はセックス目当てなんてしょうもない理由だったのは確かだ。でも、月日を経ることに好きになっていったのも確かで。
カノン様、って笑ってくれるあの顔が好きだった。俺がからかうとすぐ顔を真っ赤にするところが好きだった。俺が疲れているとすぐ察してくれる細やかなところが好きだった。
あんなに暖かい気持ちになったのは初めてのことかもしれない。身体を繋げなくても、ただ手を握るだけでも幸せだと思えるような。
俺とヒューイはセックス以外に何かしたっけ。二人で出かけたことはあったっけ。
執務が忙しかったのもある。だけど、今思うとセックスばっかりじゃなくて、ただ寄り添う時間がもっとあればよかったのに、と後悔ばかりが湧く。
それから、もっと好きだと言えばよかったなんて思う。チープな恋愛ソングの歌詞みたいだけど、いざとなるとこんなことしか浮かばない。もっと、ヒューイの笑った顔が、見たかった。
どうして、と何度目かのその言葉をつぶやいて、晴海さんの顔を思い出した。
前世で、一緒に暮らし始めるなんてしなければよかった。あの人があんなに俺に執着している人だとは、最初は思わなかったのだ。
それから転生した後も、会おうなんてしなければよかった。そしたら俺はこんなことにならなかったのに。
前世と今世、あの人に閉じ込められてひたすら抱かれた日々を思うと、気持ち悪くて、怖くて仕方がない。
だんだん感覚が麻痺していくのだ。ずっと同じ場所にいて、ずっと同じ人と会って、ずっと同じことをしていると。それで、今の状況に慣れてしまう。それが怖い。
あの人はどうなったんだろう。俺と同じで死んじゃったのかな。だとしたら嫌だな。最期の記憶があの人だなんて。
どうせ死ぬなら、最期にヒューイの顔が見たかった。
ああ、ヒューイがこんなに大切だなんて思わなかった。伝えたかった。この気持ちを生きている間に気が付きたかった。
ああ、ヒューイ。叶うなら、もう一度、あのアイスブルーの色を――。
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