権田原さんは腐っている。

一片澪

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彼女の名前は……――。

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彼女の名前は権田原 麗子ゴンダワラ レイコ、四十二歳独身。

国内屈指の難関大学を優秀な成績で卒業し、名前を聞けば誰もが知っている一流企業に合格し勤続二十年を迎えるベテラン社員だ。

彼女は今営業部に籍を置き若手~中堅、時には同年代から上司に至るほぼすべての社員のフォローアップをしながらも決して自分は前に出ることなくあくまでも社内で黒子に徹し日々の業務をプロフェッショナルに熟している。

容姿は至って平凡……と言うか自ら敢えて地味にしているのでは? と思わずにはいられないほど飾り気がない。
長い髪の毛をいつも束ねて一ミリの隙もなく纏めているので社内の人間は彼女が髪の毛を降ろせばどの程度の長さになるのかさえ知らないのだ。

肌はとても奇麗だが今の時代でもよくそんな分厚い眼鏡売ってましたねと誰もが思ってしまうほどの瓶底眼鏡をして、自己主張がない化粧は眉毛とベージュの薄い口紅を少々程度という感じと言えばどれほど彼女がシンプルに最低限度の身だしなみだけを整えていることが伝わると思う。

しかし隙が無いのはそこだけではなく、最近の女性にしてはとても珍しい常に整えられた生の爪を見ても毛玉や皺など一度も見たことがない服装も、靴の先端から踵、所持品のすべてに至るまでいつでも常に完璧に整えられた圧倒的な清潔感が彼女の仕事面でも一切のミスを起こさない人柄を表している。


彼女ほどの年齢になって独身となると所謂『お局』と呼ばれ煙たがられたり怖がられたりという場合も往々にしてあるが、彼女は強いて分類するとすれば『仕事が出来るパーフェクトプロフェッショナルお局様』だ。

悪口や噂話には一切反応せず、社員とコミュニケーションを取るのは仕事上必要な事のみだが誰かがミスを起こせば時に自分が矢面に立って頭を下げてもくれるし、上司にも新入社員にも一切態度を変える事無く必要だと思えば相手が部長であろうと明確な根拠と客観的な数字を用い異を唱える。

そして仕事上の問題と相手の人柄を完全に切り離して考えているのでその問題が解決すればまたフラットな普段の彼女に戻る為女性が特に抱きがちな「あの上司は私にばっかりきつい。きっと私のことが嫌いだからだ!」的な思考を一切持ち合わせていないので仕事をする相手としては最上級にやりやすい人でもある。

そんな彼女は社内でも有名で、彼女の世話になったり助けても貰ったりした経験を持つ人間が多過ぎる為誰も彼女を悪く言う人はいない。

さらに言うと本当はもっと仲良くなりたい! と思っている人間が圧倒的多数なのだが仕事とプライベートを完全に切り分けているので誰も彼女の私用の連絡先すら知らないのだ。
飲み会だって参加するのは新入社員の歓迎会と忘年会の二回だけ、しかも末席を常に陣取り様々な雑務を熟しつつ一次会だけ参加して霧のように消えて行く。


謎の女、権田原 麗子。
決して華美ではないが誰からもその仕事ぶりと人間性を認められ、尊敬される女性。
そんな彼女には……秘密があった。



――そう。
彼女は、とんでもなく『腐っている』のである。
腐女子を卒業し、貴腐人の仲間入りを果たしてからもう十年以上経過する根っからのBL好き。ML好き。

この物語はそんな権田原 麗子の知られざる日常における、最早朝目覚めれば即座に起動するスタートアップに登録されている基本機能『妄想(※超大事※)』をちらりと覗き見する……そんなとっても下らないお話である。





***






私の名前は権田原 麗子。四十二歳で生粋の喪女兼貴腐人である。

私が初めてBがLする甘美な世界を知ったのは中学生の時、隣のクラスの詩織ちゃんが貸してくれた彼女のお姉さんが所持する一冊のBLアンソロジーだった。

男性と男性が世間の偏見から身を守る為己の本心を隠しつつも惹かれあわずにはいられない、でも安易に好意を仄めかす事も難しい難易度の高い当時の時代的に言えば謂わば禁忌の恋は指先が触れ合う描写一つで私の心をかき乱した。

しかし悲しいかな当時はまだ今なら小学生でも普通に持っているスマホなんて物は無かった。
携帯電話という物がどうにか普及しだした最初の頃で、今では骨董品か化石かと言うレベルのストレートタイプの本体に引っ張れば伸びるおもちゃの様なアンテナと小さな液晶がついている程度の物をどうにか父親世代が仕事上必要になって渋々持ち始めた……そんな頃だ。

だから電子書籍? 何それいつかそんなのドラ〇もんがポケットから出してくれたら嬉しいな、と本気で思っていた頃なんだ。今の若い人からすると謎だと思うけれど、そんな時期が本当にあったんだよ。

だから私が愛するBLを手にするには本屋さんしかなかった。
少ないお小遣いを貯めて、知り合いに会わないように緊張しつつ本屋さんに行って……今みたいにネットで前評判を調べてから買いに行くとかじゃなくて表紙とかをこそこそチェックして選んだり毎月出るアンソロジーをまとめたシリーズもの(R15が精いっぱい)を心臓をバクバクさせながらレジに持っていくという試練が必要だったのだ。

そして購入してからも大変だった。
家族に見つからないように保存場所を考えて、巧妙なダミーと触られたら後で分かる仕掛けを必死で考えながら私は成長していった。

そして私が成長すると同時に文明も急成長して、世の中はどんどん便利になっていった。
今よりは不便だったけどガラケーで漫画が読めるようになって、スマホが出て来て電子書籍が少しずつ増えて来てくれた。

その頃私は大学生でまだ自分だけの城を持っていなかったので基本はスマホで読んで、いつか仕事に就いて自分の給料で部屋を借りたら壁一面の本棚を用意して楽園を作るのだ! と言う煩悩を原動力にめちゃめちゃ勉強した。就職も頑張って給料の良い今の会社に入れたので時代錯誤の考えと言われようと私はこの会社に骨を埋めることを決めている。


就職し数年経って順調に給料も上がって、ボーナス等を堅実に己の野望に向かって突き進む為に貯金しまくった私は最初から一生独身でいる事は中学生の時から決めていたので三十歳の時に思い切ってマンションを買った。

会社から徒歩圏内で新築、角部屋の2LDKは当時ではちょっと高かったけど頭金がかなり溜まっていた事と私の勤務先と同じグループにある金融機関でのローン申し込みをした為問題なく通って買えたのだ。

一応退職前に完済するようにローンは組んだけれど繰り上げ返済出来るくらいのゆとりは余裕である。
そっちは住宅ローン控除との兼ね合いを考えて最適な時期を見極めてサクサク返済していこうと考えているし、将来的に老朽化などの問題が顕著になった時の事も考えて早めに売却する可能性も捨ててはいない。

そんなこんなで念願の城を手に入れた私はありとあらゆる単行本を毎月山のように購入して、理想通りの本棚を作り上げた。

壁一面に広がる私の宝物達が作り出すパラダイス! そう、まさに桃源郷!
その時の気分と季節に応じて面出しで展示するスペースも設けて、朝仕事に行く前にパラダイス部屋を開けて

「今日も稼いでくるわ、マイパラダイス!」

と言ってから出かけるし、帰宅したら手を洗ってうがいをしてまたドアを開けて

「ただいまマイパラダイス! すぐに戻ってくるからね!」

と言って最速でやることをすべて終わらせてパラダイスに籠ってお気に入りのソファに座って「ぐふふ♡」な時間を過ごす。
仕事で例えどんなに嫌なことが起きてもその「ぐふふ♡」タイムを思えば私の心は絶対に乱れないのだ。
だって職場でのすべてはお金になる。

お金があれば、パラダイスを私は無限に増やし続けられるのだ。
ちなみに新作本を抱えて帰宅した時は「お友達が増えたわよ、仲良くしてねパラダイス!」も忘れない&欠かさない。

そんな幸せな生活を数年間続けて、私は知らず知らずのうちに調子に乗っていたんだな。
BがLする世界を愛してもう二十年以上経った。

もう一通りのジャンルは読んだ。多種多様のキワモノも、バイオレンス気味の物も読んだ。
オメガバースもDom/Subユニバースも大ッ好きだ! ケーキとフォークはまだ心にクリティカルヒットする作品に巡り合えていないからあれなんだけど、それでも一通り目を通した! そして今ではもう無機物を見ても妄想できちゃうレベルにも達した!!
私は、この世界をもしかしたらやっと一通り一巡出来たのかもしれない……。
そう思った自身の驕りをぶちのめす一冊の作品に私はある時出会ったのだ。



――爆裂☆ナマコ帝国。



その作品を読んだ時の衝撃が忘れられない。
ストーリーはこうだ。

ナマコ達は人間に対するフラストレーションをずっと抱えていた。
だってなんか海水浴に来たら人間は自分達を踏むし、時には水鉄砲替わりにしておもちゃにするし、力加減間違って千切ったりしたくせに「わーなんか中身気持ち悪―い!」とか言って無残に放り投げたりする。

おい、仲間を殺すな。
そして何より、食うな。
ただ海中で必死に生きている自分達を弄ぶ人間達に対するナマコ側の憎しみは募った。

募って募って、ついにナマコ達は神様から特殊な能力を授かったのである。
その時の神様は自分が作り上げた数多の生物たちが暮らす地球という惑星を我が物顔で支配して、挙句壊そうとしている人間達に見切りをつけたタイミングでもあったのだ。
世界中に群生するナマコ達の中から選ばれたスーパーエリートナマコは、なんと擬人化する能力を得た。

そして人間の特に権力者男性に近付き、時に自分の分身(ナマコサイズの見た目もナマコ)を人間のチンコに装着。オナホ機能を備えたチンポケースにして精液を悉く搾り取り、時には人間のアナルに入り込み排泄物を栄養として半永久的に機能する自動で性感を開発する超高性能ディルドとして活躍させて次々と篭絡して行ったのだ。

徐々にだがでも確実に世界中はパニックになった。
国を動かすような要職に就く男性から徐々にナマコの与える快楽の虜になって仕事なんてとてもじゃなく出来なくなっていくのだ。

そんな中日本の片田舎に住む一人の素朴な漁師のおじさん(受・け♡)が、傷付いたスーパーエリートナマコを保護して癒したことで二人は種族を超えた愛に目覚める……。

さっくりまとめるとそんなお話だった。
それを読んだとき、私は本当に顔面を思いっきり殴られたような衝撃を受けたのだ。



――この世界には、ナマコでBLを描ける巨匠がいる。

なんて、なんて奥が深い世界なのだろう。
私は、本当に情けないのだが今までナマコを見て「あ、これチンポケースに最適♡しかもお尻もズポズポOK♡」なんて考えに至ることは……恥ずかしながら出来なかった。

そして自分の思い上がりを心の底から恥じた。
何がこの世界を一巡したかも、だ。何にも分かって無かったじゃないか!
それもそうだ。
BがLして、MがLしてLOVEがFOREVERする世界をたった二十年傍観者の立場で見ていただけで知った気になっていたなんて!! 思い上がりも甚だしいじゃないか!!!

しばし床に崩れ落ちて己の愚行をBLの神に懺悔した後に作者様を確認。
ペンネームは『てんて古米』先生となっている。
……好きだ。エッジが効いている。

私は即先生の作品を集める事にしたのだが、先生はこの爆裂☆ナマコ帝国が二冊目の単行本でなんと来月新刊が出てサイン会までしてくれるらしい!
ドキドキしつつ私はそのサイン会に精いっぱいのお洒落をして会いに行くことを決めた。

洋服一式を新調し、メイクとヘアセットは美容院でお願いして差し入れを用意しお会いした先生は……――見事なまでの本気でぴちぴちしている圧巻の黒ギャルだった。


そう来たか! そうか、さすが『てんて古米』先生だ。
先生は私に大事な、でもどうしても忘れがちになってしまう基本的なことを教えてくださった。
――人は年齢じゃないし、見た目でもない!!!


「来て下さってマジあざーっす!」

そう弾けるような笑顔で言ってくださった先生に「好きです」と言うのが精いっぱいだったが、購入した新刊に先生は無邪気な笑顔のままサインをしてくださった。
新刊のタイトルは『元総長サマの縦割れケツマ×コ!~完全屈服子猫ちゃん~』。
ちなみにひょろひょろ気弱攻め×元暴走族総長のガチムチ受けだそうだ。
……好きだ。攻めまくっている。

先生とのその邂逅は私の人生に大きな影響を及ぼした。
今までも当然気を付けていたが、職場の若い子たちへの接し方により一層気を配りいずれ伸びて自分を軽々超えていくであろう原石達を潰さず、型にはめず、出来るだけ彼らの良さを残したまま成長させることを強く心に刻んだのだ。

一つだけ悲しい事があるとすれば、その後先生はご結婚され毎年の様に年子→年子→年子の超人的出産ラッシュを熟し執筆作業に割く時間が取れないことくらいだろうか。
しかしそれは仕方がないことなので私は今も爆裂☆ナマコ帝国を毎月一度は必ず読んで、初心を忘れないように刻んでいるのである。



ああ、言い忘れていたが今は仕事中だ。
でも大丈夫、長い年月を掛けて鍛え上げた私の脳は完全なるマルチタスクを習得しており仕事をしながらでも並行して完璧な妄想を熟すことができる。

私の中では妄想=回復魔法、の役割を果たしているので勤務時間中は特に無駄な休憩を取る必要もなく仕事を熟し続け毎日の定時退社を可能にしているのだ。

先生との出会いの後私は今まで自身に禁じていた『身近な人物同士』での妄想を許した。
何かを禁じるということは己の視野を狭め、結果として誰かの選択肢すらも狭めてしまうということに気づいたからなのだが、それで言うと今は高坂部長(五十四歳)と営業部のホープ、新田君(三十二歳)が熱い。

ガラス張りの部長の仕事スペースの中二人はまじめに意見を交わしているが何と言っても新田君の尻はエロいのだ。
私的には部下×上司のオジ受けの方が好きなのだが、あの新田君のムチムチっとした適度に筋肉のある尻を見てしまうと受けから外すことは惜しい。惜しすぎる。


「新田……お前、こんなメスイキ覚えてちゃんと嫁さん抱けんのか?」
「ぶ、部長ッ、やめてください! こんな時に、他の人の話題なんて出さないでくださいっ」
「はは、お前可愛いな」
「部、部長こそ……奥さんがいるくせに……俺の事、こんなに毎日無茶苦茶にしてッ」
「何だ妬いているのか? 安心しろ、家内とはとっくに家庭内別居だ。子供が独立したらどうするか、ってところだよ」


………良い。すごく良いな。
しかも新田君は昨年離婚して独身に戻ったと周りの女子たちはきゃあきゃあしていたが、それもまた良いスパイスではないか。

「部長……俺、離婚しました」
「そうか」
「嫁さんに言われたんです。『あなたは他に好きな人がいるんでしょう?』って……」
「そうか」
「何で、何で何も言ってくれないんですかっ!」

うんうん。出張先のビジネスホテルで結腸セックス決めた後の会話ねコレ。あー……高ぶる。
定期的に揉まれてさらにパンパンされてなきゃ絶対あの尻にはならないもんね。

マジで。あれは男に揉まれる為にある尻だ。そして、男に揉まれて仕上がった尻だ。

そんでもって部長はキスをして新田君を黙らせて言うんだな。

「二年待て」
「……え?」

滅多にしない舌を絡ませる濃厚なキスの後にそう言った部長に、新田君は戸惑う。
そして部長は言うんだよ。

「あと二年で下の子が大学を出る」
「そ、それって……」

ドキドキしながら胸を思わず押さえた新田君。
部長は笑って、また彼を押し倒す。

「俺が縦割れまで育てたんだ、責任取るのが筋だろ」
「部長――!」


……良い。
我ながらありふれていて、だからこそどこにでもあってもおかしくないようなMLだ。
リーマン物のごくごく普通の物だ。
だが普通こそが至高。何処にでもある日常をドラマティックに妄想出来てこその嗜みである。

いいぞ、ノってきた!
これなら今日中に期日が来週の分まで奇麗に終わらせられそうだ!!!
止まらん、妄想も、仕事をする手も止まらんぞー!!!




***



「――以上が今回の件の報告です」
「わかった、ご苦労だったな」

部下から報告を受けた部長である高坂は、ふと目の前に立つ優秀な部下の新田を見た。
ここは高坂の専用のスペースなので話が外に漏れ聞こえる事は無い。

「私的な内容なので答えたくなければ良いが、生活は落ち着いたのか?」
「お気遣い痛み入ります。……ええ、なんとか。部長にはかなりお世話になりましたので報告しようと思っておりましたが、今お時間宜しいですか?」
「ああ、構わん」

この穏やかだが努力家でとても仕事が出来る新田という男はなんの因果か妻となった女性に手ひどく裏切られていた。
……ハッキリと言うと、托卵されていたのである。

子供が生まれて幸せ絶頂の時、幼い子供が怪我をして病院に連れて行った時の血液型からそれが判明し、法的親子DNA鑑定だ離婚だ嫡出否認だなんだと同じ男として考えただけで気の毒すぎる事態が一気に襲ってきたのだ。

更に何よりも気の毒なのがその時の様々な流れの中で彼が根っからの『無精子症』だった事が判明した事もある。

元妻側は違う、子供が出来てから無精子症になったんだと意味の分からない理屈で争おうとしたがDNA検査の結果親子関係が科学的に否定されてしまえばもうどうでもいい主張なので新田はどうにか相手百パーセントの有責で離婚して、かなりの困難に見舞われたにも関わらず休職することも無く乗り越えたのだから大した男である。

「……と言う訳で戸籍関係も無事に終了しました。ご協力頂き本当に感謝しています」
「いや、本当に頑張ったな。よく耐え抜いたと同じ男として本気で思うよ」

心からの言葉を贈ると新田は微かにほほ笑んだが、この手の噂はどうやっても広がるので彼には何一つ非がないのにも関わらず嫌な思いをした部分もあったと思う。

元から優秀な営業マンである彼を妬んでいた人間は少ないものの居たので、心無い言葉を掛けられることもあっただろう。
そして新田が離婚した時は後釜を狙って一時期騒いでいた女性たちも『なんか種無しらしいよ?』との噂が広がると潮が引くように静かになったのだ。
そのあからさまな手のひら返しは見ている周りの方が気分が悪くなる程だった。

「確かに人間不信になりそうな時もありましたけれど、部長の様にお力になって下さる方もおりましたし」
「ああ」
「それに……権田原さんには随分救われました」
「権田原女史が?」

権田原 麗子はかなり社内でも重要視されているので一部の人間は嫌味ではなく純粋な尊敬と敬意の念から『女史』と付けることがある。当然本人には言わないが。
特別誰かと接点を持とうとする女性では無いと思っていたが? と高坂は視線だけで話の続きを求め、新田はそれに応じる。

「終始一貫して何一つ変わらなかったのは彼女だけです。騒動が発覚した時も、後処理中も、噂が広まった時も……正直この期間は申し訳ないことにいつもよりミスが明らかに増えたのですがそのほぼ全てを権田原さんが気付いて何も言わずフォローしてくれていました」
「そうか、彼女らしいな」
「はい。……本当に信頼できる女性というのは、彼女のような人のことを言うんでしょうね」

その時の新田の微かな表情の変化で高坂は何か察する物があったが、かなりの精神的なダメージを負ってまだ回復期の最中である部下に野暮な言葉を掛ける気は無かった。

でもまあ、縁があったならいつか何処かで結びつく事もあるかも知れない……とだけ思い言葉は飲み込んだのである。





二人がそんな事を話しているなんて一ミリも思っていない麗子はさらに妄想を高ぶらせていた。

――そうよ! きっと今新田さんのお尻にはローターが仕込まれてて!

「新田、顔が赤いぞどうしたんだ」
「な、なんでもッ……ありませっ」

とかしてるんだわ。そうよ、そうに決まってる!!!


あああああ!!!!!
滾るうううううううううううう!!
今日はもう、このまま定時まで――余裕で駆け抜けちゃうぞおおおおお!!!!!!






(恋になれば良い……のかな? 良いかも、ね? うん。)
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