ジャストフィット、粗チン!!!

一片澪

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07.知らず知らずの内に刺さっているんだなぁ。

それからあれよあれよという間に翔太はチラルレットに世話になった礼を言ってジェルデラートに移った。

移動の際は馬車に何故か王太子と一緒に乗せられて色々な話をしたし、ホテル的な場所に泊まる時は寝る前にアレグレンともゆっくり会話する時間を作って貰った。
二人きりで話す時のアレグレンは勇猛果敢な武人である筈なのにその大きくていかつい身体と顔立ちに反して口調も動作も穏やかな部分は翔太にとって物凄く嬉しい誤算だった。

突然だが翔太は動作音が大きい人間が苦手である。
単にガサツなだけの奴ならまだ我慢出来ても、自分の機嫌を動作音で暗に周囲に伝えようとする人間が本当に苦手なのだ。
会社でいうなら引き出しの開け閉め、ファイルの置き方、挙句の果てにはエンターキーの叩き方などで暗に「自分は今忙しいです!」とか「自分は今怒っています!」みたいに主張する奴がハッキリ言うと大嫌いだ。
学生の時は動作音が大きい奴がいても「お前うるせえよ」と笑って言えたが就職して最初の部署にこの動作音自己機嫌主張系の先輩が一人いて苦手になったという経緯がある。

その点アレグレンはドアノブごと粉砕できそうな筋肉を持っているのにすごく穏やかにドアの開け閉めをしてくれるから良い。
初対面の勢いよくドアを開け放ったあの荒々しさは王太子の行動へ抗議する為に急いでいただけなんだな、と普通に納得できるくらいの穏やかさだ。

そんなアレグレンだからこそ翔太は二か国の間で壮大に繰り広げられている勘違いについて切り出すことが出来る。きっとアレグレンなら冷静に聞いてくれるという確信があるから。

「なあ、アレグレン。念の為話しておきたいことがあるんだ」
「どうした翔太?」

最初は戸惑ったタメ口&呼び捨てもやっと馴染んで来たしアレグレンもこっちの人間特有の発音の固さが抜けた「翔太」呼びがすっかり板についている。
二人きりの部屋で切り出すとテーブルの向こうで優雅にお茶を飲んでいたアレグレンは律儀に持っていたティーカップを静かに置いてくれた。

「あのさ……俺実は『娶りの儀』に出る男は『男しか愛せない』って誓約があるの知らなかったんだよ」
「……なんだと?!」

心底驚いたように目を見開いたアレグレンを見て翔太は自分の口の前に人差し指を立てて「シーッ!」と極めて日本的なジェスチャーをしたが幸いにも伝わったようでアレグレンは声を抑えてくれる。
お互い無言のまま数秒見つめ合った後翔太は話を続けた。

「今ではそうじゃないってちゃんと理解しているけど『娶りの儀』について説明を受けた時俺納得出来なくてさ。『大国の奴らが嫌って言えない女性を攫って行く』んじゃないかって疑ったんだ。……それで実際に見学して本当かどうか見極めようって思った」
「……」

唖然として言葉が出ないアレグレンを見て翔太は気恥ずかしくなって自分の頬を無意識に掻く。

「そしたら何が何だか分からない間に気付いたら参加者になってて、殿下に貰われてアレグレンと結婚することになったんだよ」

自分で言いながらもなんて可笑しな話だ、と翔太は苦笑いしつつ続ける。
その間もアレグレンの表情は驚きのままだ。

「こっちの世界でも同じ表現をするのかは分からないけれど、俺らって『白い結婚』ってやつになるだろう? だから、アレグレンに好きな人が出来たり実はもう公にできない秘密の恋人がいたりしたら遠慮しなくても良いからな!」
「……成程」

翔太の言葉を遮ることなく最後まで聞いた後アレグレンが低い声で言ったのはそれだけだった。
だから翔太はお茶を飲みながら「何が成程?」と首を傾げる。すると翔太の表情を見てアレグレンは言葉を足してくれた。

「移動中の馬車で殿下とかなり話し込んだだろう?」
「え? ああ、うん。あの人意外と色々喋んのな。公の場では絶対言えないけど『近所の気の良い兄ちゃん』みたいで助かる」
「フッ」
「え、今笑った?」

初めて微かに吹き出したアレグレンの顔を翔太は珍しそうにテーブル越しに覗き込んだがそれは一瞬のことですぐにいつもの涼しい表情に戻ってしまった。
そして何事もなかったかのようにアレグレンは口を開く。

「普通殿下に気さくに対応されると大概の人間は好意を持つ」
「……コウイ」
「実際殿下からも『翔太からは下心の類を感じない』とも言われていたのだが、納得だ」

――コウイ……好意。
え? まさかあの王太子俺が恋愛感情的に自分に靡いてくるか試してたの?
何それ酷い。何それ怖い。
普通に「話しやすくて助かるわ~」とか思ってた俺が馬鹿みたいじゃん。

そんな翔太の心中を察してかアレグレンは小さく咳払いをしてから「違うぞ」とこれまた良い声で言った。
どうなってんだその声帯。国宝でも埋蔵してんのか?

「殿下は殿下で自分が翔太を貰い受けたことで翔太と俺の人生に介入した自覚がある。だから翔太という人間を理解しようとなさったのだろう。どうか悪く取らないでやって欲しい」
「アレグレンがそう言うなら、そうなんだろうけど……――まあ、お偉いさんは大変だもんな。分かった、気にしない」
「はははっ!」

アッサリと言い放った翔太を見てアレグレンは今度こそ隠すことも無く笑顔を見せる。
満面の笑みを浮かべる推し(ヴェルフラード様)のスチルは彼の性格的に存在しなかったので、翔太の心は分かっていても「描きおろしありがとうございますぅ!」となってしまうが太ももを自分で抓って耐えた。
これはオタクが一般人に擬態して生き抜く為の必須のスキルである。

「何がおかしいんだよ」
「――失礼。儚げな見た目に相反して俺の伴侶は懐が広いと感心したんだよ」
「へーそー、ふーん」

――どうせ扱いやすい奴だとか思ったんだろ?
あと儚げじゃなくてヒョロガリって正直に言えよ。自分でちゃんと分かってるんだわ、筋肉どころか贅肉もつかない体質だってな!
これだから貴族とか城勤めは信用ならないんだよ、と気持ちむくれているとアレグレンはもう一度「違うぞ」と言ってから翔太に自分を見るように言った。

「『娶りの儀』に出て来るなら男性しか愛せない人間で間違いがない筈だ。しかし、殿下がどれだけ隙を見せても不思議なほどに全く気付かない。……俺達はそこが純粋に謎だった」
「いやいや、一応これから結婚する相手の国に移動中に他の人間にどうこうする奴なんていないだろう?」
「いるだろう? 結婚してしまえば不義不貞は許されなくなるのだから猶更いる」

きっぱりと言い切るアレグレンに翔太は首を捻る。

「いや、殿下結婚してるじゃん」
「王族はいつの世も別格だからな、そこを上手くやろうとするのが人間という生き物だろう」
「うわぁ……え? ジェルデラートってそういう国なの? こっわぁ」

思わず自分の腕をさすった翔太を見てアレグレンがまた笑う。
多分この笑顔は余所行きでは無いと……思いたいが見抜く自信は翔太にはまだない。

「チラルレットが平和過ぎると思って貰った方が生きやすいぞ」
「それはそうだな」

アッサリと頷いた翔太をアレグレンはまた穏やかに見詰めて、確認するように言う。
本当に纏う空気も穏やかな大人の男だ。

「一般的に不貞は許されないがジェルデラートは特にその風潮が強いと思ってくれ」
「貴族って本妻公認の愛人とか普通に居そうだけどそういうのは無いの?」

お茶を飲み干してしまったのでカップを置くとアレグレンは視線だけでおかわりを問うてきたので「あ、お願い」というと普通に注いでくれた。
翔太の未来の旦那様は今の所亭主関白の様相は見えない。
これは有難いことだと翔太は思い出のレスタルの入った焼き菓子を手に取った。「アンタの嫁(仮)、チラルレットでこの豆に似てるって言われてたんだぜ」と切り出せない空気であることが惜しい。

「ジェルデラートではあり得ないな。配偶者を持ちながら別の相手に手を出すことは社会的な死を意味する。……本当に心を移す相手を見付けたならまずは離縁してからだ」
「へえ~」
「翔太、完全に他人事だがこの法則は私達の間にも当然当てはまるんだぞ?」

呆れたような声で言われて翔太は「え?」と焼き菓子を食べていた手を止めた。

「俺は別に良いから上手いことやれって」
「馬鹿なことを言うな。私は不義不貞が何よりも嫌いなんだ、有り得ない」
「え?! じゃあアレグレンどうするの? 後の人生どうするの?」

思わず目を剥いて言った翔太を見てアレグレンは呆れを隠さない微妙な表情を浮かべるが翔太ではアレグレンの本心なんて読める筈がないから読みたいとも思わない。


――バズーカEXの持ち腐れで死ぬの?

脳内はそれで一杯だがそれは口に出してはいけないという配慮くらいはある。
だがアレグレンはすっと真面目な表情に戻って推しヴォイスをこれでもかと効かせて翔太に向けて言った。

「俺に関しては一切問題無い。しかしこれは翔太にも当てはまることなんだ、本当にちゃんと考えているのか? ――先ほどの言葉からすると翔太の恋愛対象は女性のみなんだろう?」

その言葉と表情が余りにも真剣だった為翔太は男としてのプライドがどうかいう気持ちを放り投げて敢えて取り繕うことを止めた。
だっていくら白い結婚だろうともアレグレンはこっちの世界で今の所唯一の家族になる予定の相手なのだから。



「あのな、アレグレンだから恥を忍んで正直に言うけどさ……俺こっちの世界だとびっくりするレベルのチビでしかもガリガリだろ?」
「……」
「体格面だけで言ってもさあ、俺がいくら好きになった所で正直全く相手にされないと思うんだわ。しかもこっちの男ってすげえ性格も良いし気も利くし、本気で俺じゃ勝ち目無しだよ。――さらに言うと無職だしな!」
「――っ」



これはこちらに来て過ごしている内に翔太なりに色々と考えて辿り着いた嘘偽りない切ない結論だった。

翔太にとっては自分自身の情けないコンプレックスを晒しただけのつもりだったので、目の前の男にどう響いたかなんて想像することもしなかった。
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