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後編
しおりを挟む「セックスだってホントは毎日ヤりてぇけど、お前が仕事好きなの知ってっから週末まで待ってるし、ちゃんと日曜の夕方には家に帰してんだろ?」
大事な話をしている筈なのに時折トントンと奥を突く男を咎めるも「萎えたら生セックス」と言われてしまえばそれ以上小百合に文句は言えない。
でも小百合は考えなければならなかった。――知っている?私の過去を?何故?
甘い揺蕩う様な快感に蕩けそうになる心を叱咤して男に…カイトに説明を求めると男はアッサリと白状した。
「俺らの出会いはお前が会社の飲み会で遅くなった日に痴漢に路地裏に引きずり込まれそうになったのを“たまたま”助けて出会った、って思ってるだろ?」
「そ……そうでしょう?だってあの時あなたは私を家まで送るって言ってくれて……それで、それなのに」
最初の時の事を思って声を詰まらせた小百合の背中に口付けを落としたカイトはキスマークをつけながら会話を続けた。
見える所で無ければ痕を付けても良いから! と泣きながら縋った小百合の言葉をこの男は今思えば律儀に守ってくれている。
「警察は恥ずかしいからってまんまと俺を信用したアンタはココに連れ込まれて、処女喪失と同日にアヘアヘセックスしたんだよな」
「その言い方やめてちょうだい!」
かあっとなって叫ぶとカイトはさっと身体をずらして四十八手で言う所の『窓の月』の体勢になって会話は続く。
念の為言っておくとこの体位の名前はカイトが小百合に教えたものである。
「俺小百合を見付けてからずっと見てたよ」
「……はい?」
何か物凄く恐ろしい言葉を聞いた気がする。
だがそれを告げたカイトの言葉は今までで一番穏やかでもあった。
知る事は確かに恐ろしいが一度見付けてしまったゴキブリを仕留めずに見失う方がもっと恐ろしいのに近い理由で詳細を求めると、カイトが言ったのはちょっと小百合の予想を遥かに上回る……ハッキリ言えばかなりヤバ目のストーカー行為の告白だった。
一つ、数年前偶然小百合を見掛けて一目で気に入り即自宅まで尾行した。
二つ、空き室だった小百合のアパートの隣の部屋を即借り上げ彼女が在宅中はずっと隣に居た。
三つ、出勤時は駅まで見送り(と言う名の尾行)をして、自分のマンションで仕事を熟し退勤時は危険が無いか常に見守っていた。(いやそれは普通に尾行だ。)
四つ、パソコン関係の仕事?(反社会的勢力関連で無い事には正直安心した)の知識を活かし私がカウンセリングに長年通う病院をハッキングして全てを調べ上げた。
そこまで聞くと私は完全に……引いた。そう、引いたのである。
普通だったら恐怖に慄き震え上がり裸足で逃げ出してもおかしくないほどの熱量高めのストーカーの勃起したままのペニスを現在進行形で受け入れながら私が抱いた感想は「ちょっと度を越してるわアンタ」だったのだ。
それだけだった自分自身の反応に一番衝撃を受けて口籠るとカイトはそうは取らなかったらしく話を続ける。
「小百合の家庭環境から来てる色々なモンを小百合自体が諦めて結局受け入れてるのを見て普通に口説いても無理だって思った。……だから、手っ取り早く身体を堕として俺に縛り付けて後はもう死ぬまで根競べで行こうって決めたんだよ」
「……――え? アンタアホでしょう?」
犯罪だ。
犯罪である。完全なる犯罪だ。ギルティ、100%有罪。
性犯罪は魂の殺人とも言われているんだぞ? お前、何自分に都合よく解釈してやがるんだ?
つらつらと口頭で反撃し出した小百合にカイトは実力行使で黙らせることは無く、その代わりにぎゅうーっと抱き締めつつ言った。
「それはホントに、ごめんなさい」
普通ならごめんじゃねえんだわ!!! と激怒する所だったが、素直な謝罪は彼女の中でドカンと響いた。
だって、だってだって、基本的にモラハラ男は絶対に謝らないのだ。
自分が絶対的に正しいと本気で思っているから、あの手の人種は絶対に謝らない。でも、でもカイトは小百合の言葉を否定するでも言い負かそうとするでもなく素直に謝った。
その事実は世間一般の人間が思うよりも遥かに小百合の心に響いたのである。
衝撃を受け固まる小百合の心なんてカイトは当然知らないので、彼女がまだ怒っていると思っているのだろう、謝罪は続く。
「悪い事だって分かってた。でも、でもどうしても欲しかった。――こんなに何かを欲しい! 絶対逃がしちゃ駄目だって思った事が今まで一度も無くて、止められなかった……ごめん。ゆ、許してくれなくて良いから……会えなくなるのだけは、嫌だ……」
あれだけ頑張っていたのに萎えてしまったペニスがおずおずと小百合の中から去って行く。
その事に彼女が感じたのは微かな寂しさで……それが一種の答えだった。
「わ、私の事好きなら……なんで酷い事言うの?」
「え?」
「ざ、雑魚ま……とか、身体が貧弱とか、その割にお腹がどうとか、そう言うの」
視線を合わせる様に動くとカイトは初めて見る穏やかな表情で普通に答えて来た。
「だってそうシた方が小百合の反応良いから。多分自覚無いだけで結構Mだと思うよ」
「はあ?!!!?」
侮辱だ! いや、別に他人様の性癖にどうこう言うつもりも無いけれどカイトが言った事は小百合にとってはかなり受け入れがたかった。
でもそんな小百合の認識をひっくり返す証拠をカイトは出して来たのだ。
「ほら! コレ俺の一番のお気に入りで一番のズリネタ」
「え?」
それは別の動画だったがカイトは小百合が暴れまわらない様に再生ボタンを押してからすぐにぎゅうっと彼女を抱き締め抵抗を封じる。
今回は見える位置に置かれたスマホの中で小百合がとんでもない格好をしているのだが、それは完全に蕩け切って意識が不明瞭になった姿を鮮明に映し出していた。
―あっ、あんっ、あ……あー、きもちい、きもちいッ、ねえ、ねぇ気持ちいい?
―うん。すげーイイ、最高
誰だその女、と自分でも思わずにはいられない位蕩けた顔の女は無防備な心を曝け出す様にカメラを向けるカイトを見詰めている。
―小百合の、小百合の雑魚マンコ…本当に気持ちい?
―雑魚マンコじゃないよ。小百合のマンコはすっげえ最高に気持ちいい。
正常位で突き上げられている様は傍から見たら愛し合う恋人同士のセックスにしか見えない。
だがスマホの中の自分(とは思いたくない)は顔を顰めて首を振った。
―私ね! 私、駄目な女なの。だからね、ちゃんと厳しくしてくれる人じゃ無いと駄目なの!
―そうなの? 小百合に駄目な所なんて無いと思うけど…
―違うの! 私が駄目だから、だからお母さんは私よりもあの男を選んだの。だから私は駄目な女なの!
すごいなこの男、と小百合は素直に思った。
何年も、幾人もの精神科医とカウンセラーの世話になっても引き出せなかった心の最奥のドアをこの男はたった一度のセックスで開いたのだ。
スマホの中にカイトは映っていないが、鮮明に声を拾う事はしていた。
―そっか。じゃあこれからは俺が小百合の雑魚マンコ厳しく管理してあげるよ。
―あんっ!
厳しく管理、の言葉を聞いた瞬間画面の中の自分が心底嬉しそうに笑ったのが嫌が応にも理解出来る。
スマホはカイトの小さく笑う声を拾って、二人のセックスは音声だけになったが続いた。
―ほんと? ほんとにずっと? 一人にしない?
―うん。だって俺小百合のガチストーカーだから、多分自分の意志じゃ離れらんないと思う。
―そうなの? わ、私の事が好きなの?
―すげぇ好き。 確実に踏み外してるレベルで愛してる。会えなくなったりしたら絶対実力行使に出る。接近禁止を突破する自信しかない。
―へへ、そっか、そっかぁ。
バチュン、と言う極めて下品な音がして画面の中の自分が汚い声で喘ぐ。
ひっと耳を塞ぎたくなったがカイトの腕の力は緩まず、自分の喘ぎ声と駄々洩れの本心を小百合は聞かされるハメになった。
―乳首がちょっと黒いのは?
―エロくていいじゃん。俺吸うの好きだからついでにデカくしようよ
―うん! お腹がだらしないのは?
―女性的な柔らかさで最高じゃん。俺ガリガリはあんま得意じゃないんだよね
―かいと、かいとっ♡
―なぁに?
―私達、ぴったりだね!
そこで獣の様に低く唸った声を上げたカイトがスマホを放り投げた事で動画は終わっていた。
小百合はもう虫の息である。
そんな彼女をカイトは愛しそうに見つめて、そのまま額に優しくキスをした。
「小百合は全然俺の事知ろうとしてくれなかったから後回しにしてたけど、自己紹介して良い?」
「……オネガイシマス」
今?! とも思うが沈黙よりも遥かに気が楽なので頷くと彼は続ける。
「橘 櫂途、二十六歳。今のメインの仕事は音楽クリエーターで、Soraって分かる?」
「わ、分かる! 最近有名な覆面歌手でしょ?」
「そうそう。 そう言う人達に楽曲を提供したり、ゲームとかCM向けの曲を書いたり他にも結構手広く稼いでるからお金はある方だよ」
「……そ、そうなんだ」
「趣味兼ライフワークは小百合のストーカーで、特技は小百合のゴミから一週間の献立を予想する事」
「は?! 気持ち悪ッ」
ぶるりと震えてちょっと距離を取ろうとすると結構な速度で捕まる。
思わず見た彼の目は……なんということでしょう。
全てのガラの悪さを完全に打ち消す様なチワワの如き眼でございます。――曇りなき眼、とはきっとこう言う物をさすのでございましょう。
「お願い…嫌わないで?」
「いやギャップが凄すぎてもうあなたが誰か分からない…」
皆忘れないで? 大事な事だから、思い出して?
この男、三白眼の爬虫類系イケメンで、身長百八十五センチ以上の腹筋バキバキエイトパック! しかもバチバチピアスの上に首から胸に掛けてはド派手なタトゥーまで入ってるんだからね?!
どこからチワワが出て来るの?
どちらかと言うと食べもしないチワワを嗤いながら絞め殺してそのまま放置して去って行く大蛇のようなジャンルのルックスだからね?!
混乱を極め脳の処理に時間が掛かる小百合に向かって、カイトは静かに身体を起こし薄暗くしていた照明を明るくした。
突然の事に慌てて身体を隠す小百合を見て「かーわい」と笑った男は自分のタトゥーが入っている胸の辺りを何故か見せて来たのだ。
「え? 胸筋自慢?」
「違うよ、ココココ」
そう言われて顔を近付けると、左胸の中央寄り……そう。まさに心臓の辺りに『ソレ』は確かに彫り込まれていた。
――Sayuri.T
「………はあッ?!」
お洒落な筆記体だが確かにそう書いてある。でも、T? 私の苗字は大貫だ――なんて考えていると目の前の大男は微かに頬を染め、チワワの瞳でこう言った。
「だってほら、いずれ……俺のお嫁さんになってもらうし。へへ、なんか照れるねっ」
と。
その言葉で小百合は完全にフリーズ。
そんな彼女の頬を優しく撫でたカイトはベッドサイドの引き出しを開けて十二個入りのコンドームの外装フィルムを慣れた様子で剝がしている。鼻歌でも歌い出しそうなご機嫌な顔で。
え? 待て待て待て!
「ちょっと?! ゴムは残り一個だけって言ったよね?!」
「うん! 『今回の箱』の最後の一個だったよ。大丈夫、最低未開封五個はストックしてるから安心して!」
じゃあ再開しようか、念願の恋人セックス♡
なんて言われて……見事流された小百合は次の月には住み慣れたアパートを離れカイトが新しく契約したマンションに引っ越していた。
その次の月にはカイトの友人達や親しい仕事関係者の方達と何故か一緒にランチをした。
そしてさらにその次の月にはカイトの実家で、彼のご家族全員と一緒に夕食をご馳走になった。
その場でカイトは自分の両親と「式はいつにするの?」とか「ご両親がおられなくとも結納は礼儀だから」とか話していたけれど、小百合は自分の人生において結婚なんてとても考えていなかったので「そんなそんな」と終始逃げ腰だった。
それなのに……そ・れ・な・の・に! 何故かその半年後には歓喜のあまり号泣するカイトを宥めつつウエディングドレスを着ていたのだ。
それでもって、本当に良く分からないけれど……何だかんだで末永く幸せに過ごした。
人生って本当に――意味不明である。
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