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せめてこんな世の中、世界征服でもされてしまえばいいのにな。
例えば人間が権力振りかざしてさ、獣人全てを征服するとか!
例えば獣人が本能むき出しにしてさ、人間全てを征服するとか。
それって結構最高だよね!
それってけっこーさいっこーかもな。
そういうこと言う君のこと好きだな、あはは。獣人だけどさ。
そういうこと言うお前のこと好きだぜ、がっはっは。人間だけどさ。
『軽々薄々承知の上で、世界征服望んで今日まで』
入間 仁々
気分は最悪だった。もう全然気乗りにならなくてさ。何のことかって言えば、新しい学校についてなんだけれど。
僕って結構勉強はできるのさ。だから、結構な進学校に入学するのは自明の理っていうか、当たり前っていうか。
けれどもけれど、最近の世界事情も相まって、進学校っていうのは殆どが人、獣、共学校なわけ。
獣人が人間の世界に突然湧き出してから、それはもう色んなことが変わって、色んな常識が書き換えられて、色んな尊重するべきことが山積みになって、色んな価値観が化けてしまって。
今のベストは、人間と獣人の共存だってさ。だから、進学校にもなると基本的に共学になるわけなのさ。
それが嫌だった。僕は獣人を、どこまでいってもインベーダー(侵略者)としか受け止められなくて。
でもでも、優等生を突き通すには、最終的に獣人と仲良しこよしをしなければいけないわけ。はーあ、どうしてテンションが上げられましょうか。いや、上げられない。
もういっそ、どっちかが独裁権を握ってしまえば良かったんだ。そうしたらもっとシンプルな世界になったのに。
そんな本性ぶちまけてしまったならば僕は、世間から異常者として見られてしまう。そんなご時世なわけなのだ。
間違っているのは世界の方だ、なんて、どっかで聞いた言葉はなんの意味も持たない。
いつだって、間違っているのは大勢に傾倒しない少数なんだから。
「そういうわけで、我が校は人間と獣人の共存を推進するために様々な活動と行事を用意しています……」
おっと。気付けば入学式の、校長先生からのスピーチじゃないか? 僕ってば、いつの間にこんなとこに?
わお、人、獣、人、獣、交互に座っている。なんだこれ、いっそもう独裁的じゃない?
あーあー。こんなの苦痛以外の何ものでもありゃしんせ。あー、でちゃう、でちゃいそう。苛立ちが口を貫いてでちゃいそうだよぉ……あー!
「馬鹿みたい」
「阿呆らし」
……あれ?
僕が口にしたのは、馬鹿という罵声だ。僕の意識が無意識に分裂して、同時に二つの罵倒を口にしていたわけでもない限り、阿呆という言葉は僕以外の誰かが漏らした罵倒であるはずだ。
そう、確か右隣から聞こえてきたような……
「お?」
「あ?」
虎獣人の、強面君。君が阿呆と言ったのかい? だってほら、君も僕の馬鹿って罵声を聞いて、こっちを向いたんでしょう?
わかるよ、わかるとも!
「ね、気持ち悪いよね、ハマらない歯車無理矢理回しているみたいな感じ」
「な、気持ち悪いよな、良いも悪いも全部平らに均していくみたいな感じ」
「あー」
「おー」
小声でひそひそ、まるで昔から仲良しなんだよって感じで、先生の目を盗んでこっそり話す。だって君、あまりにも僕と同じ気持ちを持っているじゃあないか。
獣人だけれどさぁ!
「獣人だけど話のわかる人だね」
「人間だけど話せる奴じゃんか」
ま、ね。僕は世界の、絶対仲良くしましょうって圧力がだいっっっっっっ嫌いなだけで、獣人単体はそこまで嫌いじゃない。
「僕、入間 仁々(いるま ひとひと)」
「俺、虎々ノ仔 虎ノ雄(ここのこ このお)」
「コノオ君?」
「ヒトヒト?」
「「イカしてる名前」」「だね!」「じゃんか!」
なんだこれ。もう絶対昔から友達だったじゃん。むしろ前世から親しい仲だったんじゃないの?
コノオ君、話せる奴じゃん。ちょっとだけれど、テンション上がってきたかも!
「えー、僕コノオ君と友達になる~」
「俺も、ヒトヒトとダチんなりてぇ」
あはは。これって絶対、世界が望んでいる人間と獣人の共存、そのあり方からは億千万逸脱している出来事だよね!
それって、最高に愉快かも!
「こらっ、そこ、静かにしろっ」
「ひっ、すみませ~ん」
「ちっ、うーっす」
先生にばれて、小声で叱られちゃったけれど、僕の心は最初よりもずっと、ドキドキワクワクしていた。
うん、ドキドキ……ドキドキ?
虎々ノ仔 虎ノ雄
「コノオは、授業についていけてる?」
「あん? 無理無理。俺、なんとか進学しただけで、勉強苦手だし」
「だよねー。獣人は基本野蛮だから」
「うわ、獣人差別だ。訴えよ」
「おっと失言。コノオは基本野蛮だから、だ」
「おーっとぉ? シンプル悪口に変わったな。殴ったろうかなぁ?」
学校はクソ食らえだ。授業はちんぷんかんぷんだし、何かにつけて人間と交流させたがりやがるし、周りの奴らは世間に順応してへーこらしてっし。
なーんで俺たち獣人が、人間と共存しなきゃなんねーんだっての、なぁ?
俺たちがその気になれば、一瞬で……は、無理目だとしても、七日七晩くれぇで人間をケチョンってできんだろう、ってのになぁ。
日和りすぎだろ、クソ人間相手によ。
あ、そのクソ人間の中に、今俺に罵詈雑言をぶつけている男、ヒトヒトは含まれていない。
こいつは結構、話せる奴だ。
「きゃー、暴力沙汰だ~。獣人の肩身が狭くなるぞ~、やったー!」
「それより、勉強教えろよ」
「ずこーっ、もうちょいノってきてよ~」
「赤点取りたくねぇんだって! 時間が! ねぇんだよ!」
「おやおや、こりゃ切羽詰まってら。ま、付け焼き刃になるけれど、僕にかかれば基本教科はなんとかなるさ!」
ヒトヒトは、獣人と共存しなければいけないこの世界が嫌いなんだと。それって、クソ人間にしてはすっげぇハードでクールな考えじゃねぇ? 日和ってる馬鹿共よりもよっぽど野性的だ!
だからな、この学校に通うのは結構楽しくなってきた。勉強はひとっつも楽しくねぇけど。
「マジか、助かる……つか、ヒトヒトも苦手な科目あんの?」
「あるある。ってかコノオもわかるでしょ?」
「あー、あれな」
「そうそう、あれあれ」
「「人、獣、共存学、ならびに新道徳」」
「ねー」
「なー」
いやわかるぜ? 世界が変わって、新しい事が、常識が、規則が、乱立した今日この頃だ。したら、ガキに新しい事を学ばせなきゃなんねぇだろ?
ましてや、ここは最前線。最戦線。俺たちそれを学ばにゃならん身。
がっはっは!
クソ食らえだっつの!
「やだやだ、わざと赤点取ろっかな~」
「つってもよぉ、俺たちの将来にも関わることだろ? いかな基本教科でねぇからって、この学校だぜ? せめて赤点回避はしねぇと」
「は~、本当に嫌だ、常識と良識を盾にした世界に将来を人質に取られている感じだなぁ。あんまりにサイコスリラー」
「どちらかと言えばSFって感じだけどもな、この現実」
「言えてる~」
赤点は取りたくないねぇけども、ヒトヒトの言うことの方がもーっとわかる。なんでそんな面白くもないことしなきゃなんねぇんだってな。
この憤りも、青春ってことになんのか? 世界はこれを青春て呼ぶんか?
くっそ、こんな世界クソ食らえ。いっそ滅べばいいんだっての!
「じゃあせめて、赤点ギリを目指さない? 当てつけ当てつけ!」
「はー? んな馬鹿みてぇなこと……さいっこうに面白そうだな!」
「ね! ま、それよりコノオは、基本科目を赤点ギリギリにしなきゃだけれどもね」
「うぎぃ! やっぱこの世界滅びねぇか!?」
「滅びない滅びない。よくてどっちかに世界征服されるくらいでしょ~」
滅びろと、口で言ったけれど、本当に滅んだらヒトヒトとこうすることもできなくなるし、それは面白くない。
まあ、そうだな。人間にでも獣人にでも世界が征服されるくらいが丁度良いか。それなら、離れないでは済みそうだろ。なんとか。どうにかこうにか。
ヒトヒトと離れるのは面白くねぇし、寂しいもんな。
ああ、寂しい……寂しい?
入間 仁々
「先生に呼び出された~……テストは基本満点なのに、共存学と新道徳は赤点すれすれなの、どういうこと、って~」
「がっはっは、だろーなー。俺なんて、全部ギリギリ赤点回避して浮かれていたら、ふっつうに叱られたわ。もう不良生徒扱いだわ」
「うわー、可哀想コノオ、よしよし」
「おめぇのが可哀想だろ、ヒトヒト。よしよし」
僕はコノオの顎下を、コノオは僕の頭を、それぞれ撫で撫でよしよし、傷の舐め合いならぬ、触れ合い。流石に真っ向から叱られると、結構クルものがある。いててだよぉ、だ。
っていうかあれだね、なんか最近、コノオとの距離が近くなっている気がする。なーんか触っちゃう。触んなくてもいいところでも触っちゃう。これが青春ってやつなのか、それともただの慰め合いなのか、僕にはまだわっかんないや。
「本当、この世界クソ」
「まじで滅びろ……じゃなくて、征服されちまえ」
「え!」
「え?」
「僕も考えたことある! 世界はどっちかに征服されちゃえばいいんだ、って!」
わおビックリ。まるで僕の気持ちを代弁されている気分だったよ。ってか、僕コノオにこのこと話していたっけか? 話していなかったと思うけれどな?
じゃあもうこれって、以心伝心!? それって最高に嬉しいかも!
「まじか!?」
「まじまじ! どうせ世界なんか滅びないんだし、っていうか滅びちゃったら面白くないし、なら人間か獣人か、どっちかが独裁してくれないかなーって!」
「うわ、わかりみが過ぎるぜ。このままうじうじと共存目指すくれぇなら、せめてこんな世の中、世界征服でもされてしまえばいいのにな」
わかりみが辞書より分厚い! わー、わー! なんか全身が熱くなってきた!
「例えば人間が権力振りかざしてさ、獣人全てを征服するとか!」
「例えば獣人が本能むき出しにしてさ、人間全てを征服するとか」
放課後の教室で、世界征服のご相談。傾いた太陽が教室を照らしていて、その光が異様にキラキラして見えて。なんだこれ、この世界は思っていたより最高なのかも?
「それって結構最高だよね!」
「それってけっこーさいっこーかもな」
やっぱり最高じゃん! コノオもそうだって言ってくれたら、僕らこの学校で二人きりのレジスタンス(反抗勢力)だけれども、まるでどんな奴よりも最強みたいだ!
ああ、ああ、また感情が口をつく。我慢できない、でちゃう、でちゃうってば!
「そういうこと言う君のこと好きだな、あはは。獣人だけどさ」
「そういうこと言うお前のこと好きだぜ、がっはっは。人間だけどさ」
あー、出ちゃった。僕がコノオのこと、友達として結構好きなこと!
……
あれぇ?
虎々ノ仔 虎ノ雄
あー、言っちまった。俺がヒトヒトのこと、結構好きなこと。
……
あれぇ?
「なんだそれ、告白かよ?」
「いや、それはこっちの台詞。告白じゃない?」
おいおい待て待て。俺の好きは、友達として結構好きって意味だ。他意はない。いや、マジでねぇってば。
でもどうだ、ヒトヒトの方は……なんか真剣に聞こえるよな? 俺よりちっと、マジ入ってる感じじゃねぇ?
あちゃー、やっちまった。こりゃあヒトヒト、片思いだぜ?
つって、それをはね付けんのも寝覚めがわりぃ……つうか、普通に俺が眠れなくなる。今やヒトヒトが一緒にいねぇと、学校は地獄と化しちまう。授業中に寝る余裕も無くなるだろうな。
「ま、好きに捉えてくれていいぜ?」
「ふーん、じゃあ僕もそうしてもらえれば」
だから、まあ、ここは一旦言葉を濁そう。事実を隠そう。どうやらヒトヒトもそれを望んでいるみてぇだし。したらば、俺もそれにノってやるのがダチってもんだろ。
こんなに話が合う奴、手放すのは惜しいかんな。つか無理。もう手放せないからな。
「まあいいや。兎にも角にも、だったら僕たちが目指すのはなんだろうね?」
「目指す? つまり、世界が征服されるように促すなんか、ってことか?」
「そうそう。世界を焚きつける冴えたやり方」
「それ、もう前提が冴えてねぇよ」
がっはっは、本当にこいつはイカれてやがる。まあそうなると、俺もイカれているってことになるわけなんだが、否定はできない。いっそ二つ返事で肯定をする勢いだ。
この学校で二人きりの少数弱者だ。足並みはちゃーんと揃えておかねぇとな。
「まあそっか。僕たちが冴えているとは到底思ってないだろうしね、この世界は」
「なー。俺たちこんなにメッチャ冴えてんのになー」
「いっそ二人で戦争の火種になる?」
「は? 死にたくはねぇからパス」
「それもそっか。僕も希死念慮があるわけでもないからパ~ス」
「きし、ね、りょ? なにそれ?」
「……コノオには難しいから、教えない」
はー!? こいつっ、馬鹿にしやがってぇ!
俺のこと馬鹿って言っていいのは、俺とヒトヒトだけなんだぞ!
……あ、じゃあ良いのか。
入間 仁々
「ね、知ってる? 今外国で、戦争が起き始めているってニュース」
「先公がホームルームでさんざ言ってたろうが。それくれーちゃんと聞いてたっての」
「そ。じゃあいいや」
なんだか、世界が崩れ初めているのかもしれない。外国で、人間と獣人が対立しちゃって、戦争を起こし始めたってニュースを聞いた。それって、そもそも僕たちが考えていた世界征服計画の一端としては、まあまあ良好な狼煙だったわけだけれども、こうして実際に起こってみると、流石に驚くね。
結局人って、軽薄だよね。上辺で共存を説いて、下辺で戦争の算段立ててたんだ。
まあ僕もさ、軽薄だよね。コノオが俺のこと好きなのに、フることもしないで曖昧にしているんだ。
この世界、軽薄が二倍だ。
軽々薄々だ。
「僕たちどうなっちゃうのかなぁ。世界が変わるのは、結構愉快な気持ちで見ていられるんだけれど、やっぱり死にたくはないもんな~」
「いやいや、死なないだろ、別に。こんなとこまで戦火が広がるなんて考えられないぜ? なにせここは、共存の最終戦線みてぇなもんだからな」
「そう。まあ、そうかもね」
「だからな、俺としてはシンプルに愉快痛快って感じだ。うまくいけば、共存学と新道徳が時間割から消えるんだぜー?」
「……それって結構、爽快全開かも~!」
ま、こんな安全地帯で心配しても、危険地帯の人たちに失礼だよね。うんうん。だったらせめて、楽しくない人たちの分も、世界を楽しまないとね。
こういうときウエットになりがちなのが人の悪いところだ。もっとカラっとしていないと、ね!
「じゃあ、僕たちもまだまだ一緒にいられるかな?」
「そりゃ当たり前だろ。ヒトヒトが離れない限りは、一緒だろうな」
「む、随分と自信満々ですな。僕としてはコノオが離れない限りは、って感じだったんだけれどな~?」
「お、そりゃあ重畳。これで離れないのが確定したじゃねーか。きゅーいーでぃー」
「……QEDの意味、わかってる?」
「こういう時に使うんだろ? かっこいいよな!」
「うん、コノオはやっぱり馬鹿。証明終了」
「なぁっ!?」
でもそっか。ならコノオとはこれからもずっと一緒だね。それは本当に嬉しいし、すっごく安心する。
離れたくないもん。
……
ん?
なんかこれ、あれだね。
文字にするとさ、まるで僕がコノオのこと、好きみたいだよね。
うん。
あれあれぇ?
虎々ノ仔 虎ノ雄
「離れんなよ。俺、お前に死なれたら困るから。お前のこと、離す気ねぇから」
「う、ん。あはは、大丈夫だよ、これはうん、かすり傷だから」
「ずっと一緒にいるんだろ? 俺はそうしたいし、そうじゃないと悲しい。頼むから、気合い入れてくれ」
「だからぁ、動けるってば~」
あれあれぇ?
おう。
あれだな。今の俺の言葉、文字にするとまるで、俺がヒトヒトのこと好きみてぇに見えるな。
なんだこれ、なんか。
んんー?
「俺、ヒトヒトのこと、好きだ」
「知ってる~。僕もコノオのこと好きだし」
「それこそ知ってるっての」
「あはは~、両思いじゃ~ん」
ヒトヒトの片思いだったはずの、この関係。けれど、そうじゃなかったことを、こんな土壇場の大ピンチな時にやっと理解するなんて、俺ってば本当に馬鹿野郎だな。
そっか俺、最初からヒトヒトのこと、好きだったんだな。
今もずっと、好きなままなんだ。
だって、こいつに死んで欲しくない。なんか、結構な量頭から血が出ているけれど、絶対に死んで欲しくない。
死ぬなら、世界が死ねばいい。それが嫌なら、早く征服されてしまえばいいのに。早く、早くこの不毛な争いが終わればいい。
もういい。もう世界がどうとか、常識がどうとか、共存がクソ食らえとか、人生つまんえーとか、本当にどうでもいいから。
こんな軽薄な世界を、さっさと征服してくれよ。
崩壊させるんじゃねぇーっての。軽薄すぎるだろ、それこそ。
軽々薄々だ。
「とりあえず、学校、の、屋上に行こうか~。上からなら、逃げ場が見えるかも~」
「お、そこそこナイスアイディア」
「おや~? 文句があるならセカンドプランを披露してもらおうか~?」
「ないない。プランもゼロ。つうかヒトヒト、さっきから語尾がのびのびじゃねーか」
「あっはは~、少し頭がふらふらするからさ~」
「……急ぐか」
「お、真面目でカッコいい~……ごめん、お願いね」
悲しい結末はごめんだ。折角両思いになれたってのに、こんなところでどっちか死んだら、けっこーさいってーな物語じゃあねぇか。
俺たち、二人だけの運命共同体。せめてハッピーエンドが欲しいぞ。今日まで結構頑張ったんだからさー!
「あー!!」
「うわ! な、なになに!?」
「世界ってマジでクソ! ムカつくぜー!」
「っ、あ、っはは! マジそれな~! 軽薄すぎ、軽々薄々すぎ~!」
「……それ、俺口に出してたか?」
「へ? これは僕が考えた造語だよ? 軽薄二倍で、軽々薄々~」
「……センス最高かよ。この世界マジ軽々薄々!」
うん、世界が軽々薄々なのは知ってるけれどな。だって元からあんなにクソだったんだ、知っちゃあいるんだけれどよぉ!
軽々薄々、承知の上で、
俺の世界からヒトヒトを奪わないでくれ……頼む、頼むよぉ!
入間虎々ノ仔 虎ノ雄仁々
「あ、っちゃ~、逃げ場なしだ。こりゃあ万事休すかもしれないね~」
「あー……っぽいな。おいおい、けっこー死に物狂いで屋上まで来たってんのに、そりゃねーぜ」
「まあまあ落ち着きたまえよコノオ君。学校が崩壊する前に、どちらかが降参すれば助かるかもしれないよ? それを祈ろうじゃ~ないか」
「なんだその、物知り博士みてーな喋り方……ぐ、っふふ、がぁっはっはっは!」
「あ、ツボった。い~じゃん、面白おかしく世界の行く末を眺めていようよ。ほら、ちゃんと一緒にいられたわけだしさ~」
屋上から、色々なところで争いが起こっているのが見える。人間は兵器を、獣人は己の肉体を、巧みに使って一進一退。幸いにも、ここにはまだ航空兵器は来ていない。
仁々と虎ノ雄は希望を繋ぐ。こんな、軽々薄々な世界に絶望してやることが、心底ムカつくからである。
「がはは、そうだな、そう思うとけっこードラマチックな展開っぽいか?」
「あはは、そうそう。いいじゃん、ドラマチック。でもそうだな、だったらほら、僕のこと抱きしめた方が、もっとそれっぽいよ?」
「マジか。マジだ。こりゃあ試すしかねぇな、っと」
「ん、わ。はは、結構ドキドキする~」
まるで、在り来たりな青春みたいだった。放課後にこっそり屋上に来て、お互いの好意を交わし合って、触れ合いに温もりを感じる。男同士な点や、異種族であるところは目を瞑れば、あまりに理想的な青春だ。
ただ。そう、ただ、そんな二人を残して、世界が崩壊しそうなだけで。
その前に、どちらかが世界を征服してしまうのだろうか。二人が生き残るには、もうそれしか方法が残っていない。
今日までずっと、二人で話し合っていた世界征服の計画。どっちでもいい、それが現実になれば、二人は……
「ね、ね、キスもしない? 折角だから~」
「キスぅ? お、俺、したことねーんだけど!?」
「僕も~」
「……じゃあ、いいか。ん」
「ん~」
熱い口づけは、初めての感覚を二人に教えてくれた。けれど、行く末までは教えてくれない。
それでも、二人はただ、お互いの唇を触れ合わせ、安堵と平穏、高揚と興奮を貪った。
「わ~……やばい、本当にコノオのこと好きすぎておかしくなりそ~」
「馬鹿、俺の方がおかしくなりそうだっての。ヒトヒトに心を持っていかれた気分だ」
お互いの世界を、お互いで征服してみせた。なんて平和な世界征服だろうか。なんて矮小な世界征服だろうか。
さて、ならば戦争ありきの世界征服の行く末は? 規模の広大な世界征服の行方は?
そんな、誰が決めるともわからないことを考える余裕はもう、二人にはなかった。
「世界がどうなっても、僕たちこれからも一緒だね、あはは!」
「世界がどうなっても、俺たちこれからも一緒だな、がはは!」
二人で顔を付き合わせて笑い合った。
その刹那、今までの中で最も大きな音が世界を揺らして、そして――
世界征服は完了した。
例えば人間が権力振りかざしてさ、獣人全てを征服するとか!
例えば獣人が本能むき出しにしてさ、人間全てを征服するとか。
それって結構最高だよね!
それってけっこーさいっこーかもな。
そういうこと言う君のこと好きだな、あはは。獣人だけどさ。
そういうこと言うお前のこと好きだぜ、がっはっは。人間だけどさ。
『軽々薄々承知の上で、世界征服望んで今日まで』
入間 仁々
気分は最悪だった。もう全然気乗りにならなくてさ。何のことかって言えば、新しい学校についてなんだけれど。
僕って結構勉強はできるのさ。だから、結構な進学校に入学するのは自明の理っていうか、当たり前っていうか。
けれどもけれど、最近の世界事情も相まって、進学校っていうのは殆どが人、獣、共学校なわけ。
獣人が人間の世界に突然湧き出してから、それはもう色んなことが変わって、色んな常識が書き換えられて、色んな尊重するべきことが山積みになって、色んな価値観が化けてしまって。
今のベストは、人間と獣人の共存だってさ。だから、進学校にもなると基本的に共学になるわけなのさ。
それが嫌だった。僕は獣人を、どこまでいってもインベーダー(侵略者)としか受け止められなくて。
でもでも、優等生を突き通すには、最終的に獣人と仲良しこよしをしなければいけないわけ。はーあ、どうしてテンションが上げられましょうか。いや、上げられない。
もういっそ、どっちかが独裁権を握ってしまえば良かったんだ。そうしたらもっとシンプルな世界になったのに。
そんな本性ぶちまけてしまったならば僕は、世間から異常者として見られてしまう。そんなご時世なわけなのだ。
間違っているのは世界の方だ、なんて、どっかで聞いた言葉はなんの意味も持たない。
いつだって、間違っているのは大勢に傾倒しない少数なんだから。
「そういうわけで、我が校は人間と獣人の共存を推進するために様々な活動と行事を用意しています……」
おっと。気付けば入学式の、校長先生からのスピーチじゃないか? 僕ってば、いつの間にこんなとこに?
わお、人、獣、人、獣、交互に座っている。なんだこれ、いっそもう独裁的じゃない?
あーあー。こんなの苦痛以外の何ものでもありゃしんせ。あー、でちゃう、でちゃいそう。苛立ちが口を貫いてでちゃいそうだよぉ……あー!
「馬鹿みたい」
「阿呆らし」
……あれ?
僕が口にしたのは、馬鹿という罵声だ。僕の意識が無意識に分裂して、同時に二つの罵倒を口にしていたわけでもない限り、阿呆という言葉は僕以外の誰かが漏らした罵倒であるはずだ。
そう、確か右隣から聞こえてきたような……
「お?」
「あ?」
虎獣人の、強面君。君が阿呆と言ったのかい? だってほら、君も僕の馬鹿って罵声を聞いて、こっちを向いたんでしょう?
わかるよ、わかるとも!
「ね、気持ち悪いよね、ハマらない歯車無理矢理回しているみたいな感じ」
「な、気持ち悪いよな、良いも悪いも全部平らに均していくみたいな感じ」
「あー」
「おー」
小声でひそひそ、まるで昔から仲良しなんだよって感じで、先生の目を盗んでこっそり話す。だって君、あまりにも僕と同じ気持ちを持っているじゃあないか。
獣人だけれどさぁ!
「獣人だけど話のわかる人だね」
「人間だけど話せる奴じゃんか」
ま、ね。僕は世界の、絶対仲良くしましょうって圧力がだいっっっっっっ嫌いなだけで、獣人単体はそこまで嫌いじゃない。
「僕、入間 仁々(いるま ひとひと)」
「俺、虎々ノ仔 虎ノ雄(ここのこ このお)」
「コノオ君?」
「ヒトヒト?」
「「イカしてる名前」」「だね!」「じゃんか!」
なんだこれ。もう絶対昔から友達だったじゃん。むしろ前世から親しい仲だったんじゃないの?
コノオ君、話せる奴じゃん。ちょっとだけれど、テンション上がってきたかも!
「えー、僕コノオ君と友達になる~」
「俺も、ヒトヒトとダチんなりてぇ」
あはは。これって絶対、世界が望んでいる人間と獣人の共存、そのあり方からは億千万逸脱している出来事だよね!
それって、最高に愉快かも!
「こらっ、そこ、静かにしろっ」
「ひっ、すみませ~ん」
「ちっ、うーっす」
先生にばれて、小声で叱られちゃったけれど、僕の心は最初よりもずっと、ドキドキワクワクしていた。
うん、ドキドキ……ドキドキ?
虎々ノ仔 虎ノ雄
「コノオは、授業についていけてる?」
「あん? 無理無理。俺、なんとか進学しただけで、勉強苦手だし」
「だよねー。獣人は基本野蛮だから」
「うわ、獣人差別だ。訴えよ」
「おっと失言。コノオは基本野蛮だから、だ」
「おーっとぉ? シンプル悪口に変わったな。殴ったろうかなぁ?」
学校はクソ食らえだ。授業はちんぷんかんぷんだし、何かにつけて人間と交流させたがりやがるし、周りの奴らは世間に順応してへーこらしてっし。
なーんで俺たち獣人が、人間と共存しなきゃなんねーんだっての、なぁ?
俺たちがその気になれば、一瞬で……は、無理目だとしても、七日七晩くれぇで人間をケチョンってできんだろう、ってのになぁ。
日和りすぎだろ、クソ人間相手によ。
あ、そのクソ人間の中に、今俺に罵詈雑言をぶつけている男、ヒトヒトは含まれていない。
こいつは結構、話せる奴だ。
「きゃー、暴力沙汰だ~。獣人の肩身が狭くなるぞ~、やったー!」
「それより、勉強教えろよ」
「ずこーっ、もうちょいノってきてよ~」
「赤点取りたくねぇんだって! 時間が! ねぇんだよ!」
「おやおや、こりゃ切羽詰まってら。ま、付け焼き刃になるけれど、僕にかかれば基本教科はなんとかなるさ!」
ヒトヒトは、獣人と共存しなければいけないこの世界が嫌いなんだと。それって、クソ人間にしてはすっげぇハードでクールな考えじゃねぇ? 日和ってる馬鹿共よりもよっぽど野性的だ!
だからな、この学校に通うのは結構楽しくなってきた。勉強はひとっつも楽しくねぇけど。
「マジか、助かる……つか、ヒトヒトも苦手な科目あんの?」
「あるある。ってかコノオもわかるでしょ?」
「あー、あれな」
「そうそう、あれあれ」
「「人、獣、共存学、ならびに新道徳」」
「ねー」
「なー」
いやわかるぜ? 世界が変わって、新しい事が、常識が、規則が、乱立した今日この頃だ。したら、ガキに新しい事を学ばせなきゃなんねぇだろ?
ましてや、ここは最前線。最戦線。俺たちそれを学ばにゃならん身。
がっはっは!
クソ食らえだっつの!
「やだやだ、わざと赤点取ろっかな~」
「つってもよぉ、俺たちの将来にも関わることだろ? いかな基本教科でねぇからって、この学校だぜ? せめて赤点回避はしねぇと」
「は~、本当に嫌だ、常識と良識を盾にした世界に将来を人質に取られている感じだなぁ。あんまりにサイコスリラー」
「どちらかと言えばSFって感じだけどもな、この現実」
「言えてる~」
赤点は取りたくないねぇけども、ヒトヒトの言うことの方がもーっとわかる。なんでそんな面白くもないことしなきゃなんねぇんだってな。
この憤りも、青春ってことになんのか? 世界はこれを青春て呼ぶんか?
くっそ、こんな世界クソ食らえ。いっそ滅べばいいんだっての!
「じゃあせめて、赤点ギリを目指さない? 当てつけ当てつけ!」
「はー? んな馬鹿みてぇなこと……さいっこうに面白そうだな!」
「ね! ま、それよりコノオは、基本科目を赤点ギリギリにしなきゃだけれどもね」
「うぎぃ! やっぱこの世界滅びねぇか!?」
「滅びない滅びない。よくてどっちかに世界征服されるくらいでしょ~」
滅びろと、口で言ったけれど、本当に滅んだらヒトヒトとこうすることもできなくなるし、それは面白くない。
まあ、そうだな。人間にでも獣人にでも世界が征服されるくらいが丁度良いか。それなら、離れないでは済みそうだろ。なんとか。どうにかこうにか。
ヒトヒトと離れるのは面白くねぇし、寂しいもんな。
ああ、寂しい……寂しい?
入間 仁々
「先生に呼び出された~……テストは基本満点なのに、共存学と新道徳は赤点すれすれなの、どういうこと、って~」
「がっはっは、だろーなー。俺なんて、全部ギリギリ赤点回避して浮かれていたら、ふっつうに叱られたわ。もう不良生徒扱いだわ」
「うわー、可哀想コノオ、よしよし」
「おめぇのが可哀想だろ、ヒトヒト。よしよし」
僕はコノオの顎下を、コノオは僕の頭を、それぞれ撫で撫でよしよし、傷の舐め合いならぬ、触れ合い。流石に真っ向から叱られると、結構クルものがある。いててだよぉ、だ。
っていうかあれだね、なんか最近、コノオとの距離が近くなっている気がする。なーんか触っちゃう。触んなくてもいいところでも触っちゃう。これが青春ってやつなのか、それともただの慰め合いなのか、僕にはまだわっかんないや。
「本当、この世界クソ」
「まじで滅びろ……じゃなくて、征服されちまえ」
「え!」
「え?」
「僕も考えたことある! 世界はどっちかに征服されちゃえばいいんだ、って!」
わおビックリ。まるで僕の気持ちを代弁されている気分だったよ。ってか、僕コノオにこのこと話していたっけか? 話していなかったと思うけれどな?
じゃあもうこれって、以心伝心!? それって最高に嬉しいかも!
「まじか!?」
「まじまじ! どうせ世界なんか滅びないんだし、っていうか滅びちゃったら面白くないし、なら人間か獣人か、どっちかが独裁してくれないかなーって!」
「うわ、わかりみが過ぎるぜ。このままうじうじと共存目指すくれぇなら、せめてこんな世の中、世界征服でもされてしまえばいいのにな」
わかりみが辞書より分厚い! わー、わー! なんか全身が熱くなってきた!
「例えば人間が権力振りかざしてさ、獣人全てを征服するとか!」
「例えば獣人が本能むき出しにしてさ、人間全てを征服するとか」
放課後の教室で、世界征服のご相談。傾いた太陽が教室を照らしていて、その光が異様にキラキラして見えて。なんだこれ、この世界は思っていたより最高なのかも?
「それって結構最高だよね!」
「それってけっこーさいっこーかもな」
やっぱり最高じゃん! コノオもそうだって言ってくれたら、僕らこの学校で二人きりのレジスタンス(反抗勢力)だけれども、まるでどんな奴よりも最強みたいだ!
ああ、ああ、また感情が口をつく。我慢できない、でちゃう、でちゃうってば!
「そういうこと言う君のこと好きだな、あはは。獣人だけどさ」
「そういうこと言うお前のこと好きだぜ、がっはっは。人間だけどさ」
あー、出ちゃった。僕がコノオのこと、友達として結構好きなこと!
……
あれぇ?
虎々ノ仔 虎ノ雄
あー、言っちまった。俺がヒトヒトのこと、結構好きなこと。
……
あれぇ?
「なんだそれ、告白かよ?」
「いや、それはこっちの台詞。告白じゃない?」
おいおい待て待て。俺の好きは、友達として結構好きって意味だ。他意はない。いや、マジでねぇってば。
でもどうだ、ヒトヒトの方は……なんか真剣に聞こえるよな? 俺よりちっと、マジ入ってる感じじゃねぇ?
あちゃー、やっちまった。こりゃあヒトヒト、片思いだぜ?
つって、それをはね付けんのも寝覚めがわりぃ……つうか、普通に俺が眠れなくなる。今やヒトヒトが一緒にいねぇと、学校は地獄と化しちまう。授業中に寝る余裕も無くなるだろうな。
「ま、好きに捉えてくれていいぜ?」
「ふーん、じゃあ僕もそうしてもらえれば」
だから、まあ、ここは一旦言葉を濁そう。事実を隠そう。どうやらヒトヒトもそれを望んでいるみてぇだし。したらば、俺もそれにノってやるのがダチってもんだろ。
こんなに話が合う奴、手放すのは惜しいかんな。つか無理。もう手放せないからな。
「まあいいや。兎にも角にも、だったら僕たちが目指すのはなんだろうね?」
「目指す? つまり、世界が征服されるように促すなんか、ってことか?」
「そうそう。世界を焚きつける冴えたやり方」
「それ、もう前提が冴えてねぇよ」
がっはっは、本当にこいつはイカれてやがる。まあそうなると、俺もイカれているってことになるわけなんだが、否定はできない。いっそ二つ返事で肯定をする勢いだ。
この学校で二人きりの少数弱者だ。足並みはちゃーんと揃えておかねぇとな。
「まあそっか。僕たちが冴えているとは到底思ってないだろうしね、この世界は」
「なー。俺たちこんなにメッチャ冴えてんのになー」
「いっそ二人で戦争の火種になる?」
「は? 死にたくはねぇからパス」
「それもそっか。僕も希死念慮があるわけでもないからパ~ス」
「きし、ね、りょ? なにそれ?」
「……コノオには難しいから、教えない」
はー!? こいつっ、馬鹿にしやがってぇ!
俺のこと馬鹿って言っていいのは、俺とヒトヒトだけなんだぞ!
……あ、じゃあ良いのか。
入間 仁々
「ね、知ってる? 今外国で、戦争が起き始めているってニュース」
「先公がホームルームでさんざ言ってたろうが。それくれーちゃんと聞いてたっての」
「そ。じゃあいいや」
なんだか、世界が崩れ初めているのかもしれない。外国で、人間と獣人が対立しちゃって、戦争を起こし始めたってニュースを聞いた。それって、そもそも僕たちが考えていた世界征服計画の一端としては、まあまあ良好な狼煙だったわけだけれども、こうして実際に起こってみると、流石に驚くね。
結局人って、軽薄だよね。上辺で共存を説いて、下辺で戦争の算段立ててたんだ。
まあ僕もさ、軽薄だよね。コノオが俺のこと好きなのに、フることもしないで曖昧にしているんだ。
この世界、軽薄が二倍だ。
軽々薄々だ。
「僕たちどうなっちゃうのかなぁ。世界が変わるのは、結構愉快な気持ちで見ていられるんだけれど、やっぱり死にたくはないもんな~」
「いやいや、死なないだろ、別に。こんなとこまで戦火が広がるなんて考えられないぜ? なにせここは、共存の最終戦線みてぇなもんだからな」
「そう。まあ、そうかもね」
「だからな、俺としてはシンプルに愉快痛快って感じだ。うまくいけば、共存学と新道徳が時間割から消えるんだぜー?」
「……それって結構、爽快全開かも~!」
ま、こんな安全地帯で心配しても、危険地帯の人たちに失礼だよね。うんうん。だったらせめて、楽しくない人たちの分も、世界を楽しまないとね。
こういうときウエットになりがちなのが人の悪いところだ。もっとカラっとしていないと、ね!
「じゃあ、僕たちもまだまだ一緒にいられるかな?」
「そりゃ当たり前だろ。ヒトヒトが離れない限りは、一緒だろうな」
「む、随分と自信満々ですな。僕としてはコノオが離れない限りは、って感じだったんだけれどな~?」
「お、そりゃあ重畳。これで離れないのが確定したじゃねーか。きゅーいーでぃー」
「……QEDの意味、わかってる?」
「こういう時に使うんだろ? かっこいいよな!」
「うん、コノオはやっぱり馬鹿。証明終了」
「なぁっ!?」
でもそっか。ならコノオとはこれからもずっと一緒だね。それは本当に嬉しいし、すっごく安心する。
離れたくないもん。
……
ん?
なんかこれ、あれだね。
文字にするとさ、まるで僕がコノオのこと、好きみたいだよね。
うん。
あれあれぇ?
虎々ノ仔 虎ノ雄
「離れんなよ。俺、お前に死なれたら困るから。お前のこと、離す気ねぇから」
「う、ん。あはは、大丈夫だよ、これはうん、かすり傷だから」
「ずっと一緒にいるんだろ? 俺はそうしたいし、そうじゃないと悲しい。頼むから、気合い入れてくれ」
「だからぁ、動けるってば~」
あれあれぇ?
おう。
あれだな。今の俺の言葉、文字にするとまるで、俺がヒトヒトのこと好きみてぇに見えるな。
なんだこれ、なんか。
んんー?
「俺、ヒトヒトのこと、好きだ」
「知ってる~。僕もコノオのこと好きだし」
「それこそ知ってるっての」
「あはは~、両思いじゃ~ん」
ヒトヒトの片思いだったはずの、この関係。けれど、そうじゃなかったことを、こんな土壇場の大ピンチな時にやっと理解するなんて、俺ってば本当に馬鹿野郎だな。
そっか俺、最初からヒトヒトのこと、好きだったんだな。
今もずっと、好きなままなんだ。
だって、こいつに死んで欲しくない。なんか、結構な量頭から血が出ているけれど、絶対に死んで欲しくない。
死ぬなら、世界が死ねばいい。それが嫌なら、早く征服されてしまえばいいのに。早く、早くこの不毛な争いが終わればいい。
もういい。もう世界がどうとか、常識がどうとか、共存がクソ食らえとか、人生つまんえーとか、本当にどうでもいいから。
こんな軽薄な世界を、さっさと征服してくれよ。
崩壊させるんじゃねぇーっての。軽薄すぎるだろ、それこそ。
軽々薄々だ。
「とりあえず、学校、の、屋上に行こうか~。上からなら、逃げ場が見えるかも~」
「お、そこそこナイスアイディア」
「おや~? 文句があるならセカンドプランを披露してもらおうか~?」
「ないない。プランもゼロ。つうかヒトヒト、さっきから語尾がのびのびじゃねーか」
「あっはは~、少し頭がふらふらするからさ~」
「……急ぐか」
「お、真面目でカッコいい~……ごめん、お願いね」
悲しい結末はごめんだ。折角両思いになれたってのに、こんなところでどっちか死んだら、けっこーさいってーな物語じゃあねぇか。
俺たち、二人だけの運命共同体。せめてハッピーエンドが欲しいぞ。今日まで結構頑張ったんだからさー!
「あー!!」
「うわ! な、なになに!?」
「世界ってマジでクソ! ムカつくぜー!」
「っ、あ、っはは! マジそれな~! 軽薄すぎ、軽々薄々すぎ~!」
「……それ、俺口に出してたか?」
「へ? これは僕が考えた造語だよ? 軽薄二倍で、軽々薄々~」
「……センス最高かよ。この世界マジ軽々薄々!」
うん、世界が軽々薄々なのは知ってるけれどな。だって元からあんなにクソだったんだ、知っちゃあいるんだけれどよぉ!
軽々薄々、承知の上で、
俺の世界からヒトヒトを奪わないでくれ……頼む、頼むよぉ!
入間虎々ノ仔 虎ノ雄仁々
「あ、っちゃ~、逃げ場なしだ。こりゃあ万事休すかもしれないね~」
「あー……っぽいな。おいおい、けっこー死に物狂いで屋上まで来たってんのに、そりゃねーぜ」
「まあまあ落ち着きたまえよコノオ君。学校が崩壊する前に、どちらかが降参すれば助かるかもしれないよ? それを祈ろうじゃ~ないか」
「なんだその、物知り博士みてーな喋り方……ぐ、っふふ、がぁっはっはっは!」
「あ、ツボった。い~じゃん、面白おかしく世界の行く末を眺めていようよ。ほら、ちゃんと一緒にいられたわけだしさ~」
屋上から、色々なところで争いが起こっているのが見える。人間は兵器を、獣人は己の肉体を、巧みに使って一進一退。幸いにも、ここにはまだ航空兵器は来ていない。
仁々と虎ノ雄は希望を繋ぐ。こんな、軽々薄々な世界に絶望してやることが、心底ムカつくからである。
「がはは、そうだな、そう思うとけっこードラマチックな展開っぽいか?」
「あはは、そうそう。いいじゃん、ドラマチック。でもそうだな、だったらほら、僕のこと抱きしめた方が、もっとそれっぽいよ?」
「マジか。マジだ。こりゃあ試すしかねぇな、っと」
「ん、わ。はは、結構ドキドキする~」
まるで、在り来たりな青春みたいだった。放課後にこっそり屋上に来て、お互いの好意を交わし合って、触れ合いに温もりを感じる。男同士な点や、異種族であるところは目を瞑れば、あまりに理想的な青春だ。
ただ。そう、ただ、そんな二人を残して、世界が崩壊しそうなだけで。
その前に、どちらかが世界を征服してしまうのだろうか。二人が生き残るには、もうそれしか方法が残っていない。
今日までずっと、二人で話し合っていた世界征服の計画。どっちでもいい、それが現実になれば、二人は……
「ね、ね、キスもしない? 折角だから~」
「キスぅ? お、俺、したことねーんだけど!?」
「僕も~」
「……じゃあ、いいか。ん」
「ん~」
熱い口づけは、初めての感覚を二人に教えてくれた。けれど、行く末までは教えてくれない。
それでも、二人はただ、お互いの唇を触れ合わせ、安堵と平穏、高揚と興奮を貪った。
「わ~……やばい、本当にコノオのこと好きすぎておかしくなりそ~」
「馬鹿、俺の方がおかしくなりそうだっての。ヒトヒトに心を持っていかれた気分だ」
お互いの世界を、お互いで征服してみせた。なんて平和な世界征服だろうか。なんて矮小な世界征服だろうか。
さて、ならば戦争ありきの世界征服の行く末は? 規模の広大な世界征服の行方は?
そんな、誰が決めるともわからないことを考える余裕はもう、二人にはなかった。
「世界がどうなっても、僕たちこれからも一緒だね、あはは!」
「世界がどうなっても、俺たちこれからも一緒だな、がはは!」
二人で顔を付き合わせて笑い合った。
その刹那、今までの中で最も大きな音が世界を揺らして、そして――
世界征服は完了した。
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