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第8章・エルフ族達との騒乱
217・本当の自分
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――ベリル視点――
もう戦いも佳境に差し掛かった辺りかな。
特に懐かしくもないパーラスタの地が戦火に塗れているところをわたしはどこか無感情な表情で見ていた。
だって、わたしは城から一歩も出たことないし、監視付きで本当に最低限の場所しか行ったことないから。
美しい街並みとか、活気の溢れた通りとか、そんなこととは無縁に育ってきたから。
これが本当だったら、少しはなにか感傷に浸ることもあるんだろうけど、そういうのも一切なくて、どうでもいいかも。
今、リーティアスの兵士達がパーラスタの中にまで入り込んで、エルフの人たちに『隷属の腕輪』で束縛されていた色んな種族の人たちを開放していった。
中には怒りをエルフ族の恨みをぶつけようとする男がいたり、泣きながら生を喜ぶ女がいたり……わたしの事を見て複雑そうな顔をしているのがいたりと様々。
だけどしょうがないかもね。
わたしだって『隷属の腕輪』がどんなものか知ってて作ったんだもの。
あれがもたらすもの……それを知っててばらまいたんだもの。
「――お兄様……」
でも、そんな事は今はどうでもいい。
お兄様と決着をつける。
他ならぬティファちゃんに手を出した罪、絶対償わせてあげるから。
そう改めて決めたわたしはずっと過ごしてきた城……少ししか離れてないのに、妙に懐かしい場所へ帰るのだった。
――
「……そうか。お前が来たか」
玉座の間。そこにフェイルお兄様はいた。
もう、城の中には誰もいない。
兵士は全員戦争に駆り出されていて、防衛に割いていた兵士たちも既に戦いの渦中。
エチェルジも同じようで、そこにいるのはまるで虚構の王様。
「お兄様、無残なお姿ね」
「はっ、屑のお前に言われるほどとはな……だが、見るに堪えないのは僕も同感だよ。
こんな無様な姿を晒すことになるとは、ね」
立ち上がるお兄様の手には魔力が宿っているような剣。
あれは確か――パーラスタで代々伝わる剣。『マナブレイド』だったはず。
「……そう、それ持ってくるなんて、本気なんだね」
「お前こそ、本気か? 自分の生まれ育った国に……恩を仇で返すのか?」
わたしはそれに対して鼻で笑ってあげる。
なにを今更……そんなこと、当たり前に決まってるじゃない。
「恩を仇で? それはきちんと育っててもらった子が言われることでしょ?
貴方達がわたしに何をしたか……知らないとは言わせないわよ……!」
怒りにわなわなと鉈を持つ手が震えるのがわかる。
散々無視して、都合の良い時だけ産んだ育てたと……そこまで恩着せがましく言えるほど、貴方や親はわたしになにかをしてくれたのか?
痛みを、苦しみを与えられて、自分が無くなっていく感覚。
景色から色が抜け落ちる感覚を与えられて……そんなものに恩を抱くわけがない。
「知らないな。僕は僕なりにきちんと向き合ってきたつもりだよ。
それがどんなに歪んだ感情であっても、僕はお前のことをきちんと評価していたよ。
『極光の一閃』、『隷属の腕輪』……どれもお前がいなければこんなに早く実用化まではいかなかっただろう。
どんな役立たずの愚妹であっても、どこか秀でたこともあるものだ、とな」
何を言ってるんだ。
わたしに向き合ってきた? 本だけが……知識がある部屋にだけ押し込めて、監視役をつけて……ずっと、ずっと一人で研究させられた。
「ふざけないでよ。わたしがあんな生活を望んだっていうの?
散々利用して使い倒しただけじゃない!」
「それはお前も同じことじゃないか。
『隷属の腕輪』……それはお前の全てを現してるじゃないか」
お兄様は小馬鹿にした笑みを浮かべてわたしの事を見ているけど……『隷属の腕輪』がわたしを体現している? それって……。
「どういうこと……?」
「『隷属の腕輪』……他者を思い通りにする腕輪。
意識すらも自在に操り、自分の意思で身体を動かすことすらままならない……。
まるでお前の人生の全てじゃないか」
ニヤリと笑うお兄様の言葉を上手く飲み込む事が出来なかったわたしは、ただただ呆然とつぶやいてしまった。
「わたしの人生の全て……?」
「生まれたときから小さな箱のような部屋に閉じ込められ、自分の意志では外に出ることもない。
他人には無視され続け、お前の意思なんて誰も聞いていない。
ははっ、まるで『隷属の腕輪』を箱にしたような場所に閉じ込められてたってわけだ。
わかるか? 『隷属の腕輪』を嵌められた奴らは……他でもない、お前自身なんだよ」
「わたし……自身……」
そう言われて、わたしはようやくきちんと自覚することができた。
『隷属の腕輪』……それは過去の遺物の再現だったのと同時に、わたし自身の体現だったということを。
ああ、なあんだ。
わたし、結局自分の辛さ、苦しさを誰かに分けたかっただけなんだ。
ティファちゃんに救われてたと思ってた。
事実、わたしの世界には色が戻って、ずっとそれを糧にして生きてきた。
でも、心の何処かで会えなかったら……忘れていたら……って不安もあった。
もうわたしとの約束を忘れて、戦うことになっちゃったら……多分、耐えきれない。
だから、『隷属の腕輪』を再現することにためらわなかったんだ。
「そんなお前が今更誰かの為だなんて笑い話にも程がある。
ティファちゃんの為に? フラフが? 国を傷つけたから?
お前が本当にここに来た理由はそうじゃないだろう?」
「それは……それは……」
「お前はただ単に自分がティファリスに愛されたいたいから。離れたくないから……そんな小賢しい考えでここまで来たんだろうが。
そのために……僕をここで殺して、より深い寵愛を受けたい……それだけがお前の本心だ」
「本心……」
確かに。本当の事だ。
アシュルがいるが契約スライムの中でも一番なのはしかたない。
だけど……本当はわたしが一番でありたい。
今まで辛い目に遭った分、愛されたい。大切に思われたい。
誰かにもっと幸せにしてもらいたい……。
……本当は一番でいたい。一番でありたい。
一番愛して欲しい。一番愛してください。
「……そうよ。それの何が悪いの?
わたし、ずっと独りぼっちだったもん! 好きな人に愛されたいって……それって悪いこと!?」
「悪いことじゃないさ。むしろそういうの、僕は好ましいと思うね」
「だったら!」
わたしは握りしめていた鉈を突きつけてお兄様を睨みつける。
フラフを誘拐された。セツキ王の国が撃たれた。
全部わたしの研究のせい。
最初はそんな風に理由つけてた。
でもやっぱりわたしにはティファちゃんが一番。
ティファちゃんに向けていった言葉がわたしの全てなんだ。
「だったらお兄様、わたしの為に死んでよ。
わたしはティファちゃんにもっと愛されたい。大事にされたいの!
だから……ここでお兄様を殺して、わたしが一番ティファちゃんに褒めてもらうんだ」
「ふっふふふふ……いいよ、本気で殺し合おうじゃないか。
兄と妹同士で、最低の理由で、お互いの理想と夢をかけて……戦おうか」
もう言葉は不要。
だって、わたしはもうティファちゃん以外どうでも良かった。
それがお兄様に言われてはっきりとわかった。
他の人に感情が動かないことも……自分の命だって本当はどうでもいいことがわかった。
さっき戦った時の冷えた感情とか、あったかい気持ちとか……そういうのも全部まやかしで……わたしのところに残っているのは本当にティファちゃんだけなんだ。
ティファちゃんが全て。ティファちゃんがなにより愛おしい。
あの人だけいればわたし、もう何もいらない。
お兄様も要らないし、この国も要らない。
だから……わたしがあの人に伝えるのは……これだけ。
「お兄様、ティファちゃんの為に死んで?
ティファちゃんの喜ぶ顔の為に。わたしがティファちゃんに褒めてもらうために」
「かかってくるがいい。愚妹よ。
互いに他人を食い物にして生きている身。存分に醜く汚し尽くしてやろうじゃないか!」
お兄様が握った剣を構えて、互いに駆けていく。
それが最も醜く、最低な理由での戦いの始まりだった。
もう戦いも佳境に差し掛かった辺りかな。
特に懐かしくもないパーラスタの地が戦火に塗れているところをわたしはどこか無感情な表情で見ていた。
だって、わたしは城から一歩も出たことないし、監視付きで本当に最低限の場所しか行ったことないから。
美しい街並みとか、活気の溢れた通りとか、そんなこととは無縁に育ってきたから。
これが本当だったら、少しはなにか感傷に浸ることもあるんだろうけど、そういうのも一切なくて、どうでもいいかも。
今、リーティアスの兵士達がパーラスタの中にまで入り込んで、エルフの人たちに『隷属の腕輪』で束縛されていた色んな種族の人たちを開放していった。
中には怒りをエルフ族の恨みをぶつけようとする男がいたり、泣きながら生を喜ぶ女がいたり……わたしの事を見て複雑そうな顔をしているのがいたりと様々。
だけどしょうがないかもね。
わたしだって『隷属の腕輪』がどんなものか知ってて作ったんだもの。
あれがもたらすもの……それを知っててばらまいたんだもの。
「――お兄様……」
でも、そんな事は今はどうでもいい。
お兄様と決着をつける。
他ならぬティファちゃんに手を出した罪、絶対償わせてあげるから。
そう改めて決めたわたしはずっと過ごしてきた城……少ししか離れてないのに、妙に懐かしい場所へ帰るのだった。
――
「……そうか。お前が来たか」
玉座の間。そこにフェイルお兄様はいた。
もう、城の中には誰もいない。
兵士は全員戦争に駆り出されていて、防衛に割いていた兵士たちも既に戦いの渦中。
エチェルジも同じようで、そこにいるのはまるで虚構の王様。
「お兄様、無残なお姿ね」
「はっ、屑のお前に言われるほどとはな……だが、見るに堪えないのは僕も同感だよ。
こんな無様な姿を晒すことになるとは、ね」
立ち上がるお兄様の手には魔力が宿っているような剣。
あれは確か――パーラスタで代々伝わる剣。『マナブレイド』だったはず。
「……そう、それ持ってくるなんて、本気なんだね」
「お前こそ、本気か? 自分の生まれ育った国に……恩を仇で返すのか?」
わたしはそれに対して鼻で笑ってあげる。
なにを今更……そんなこと、当たり前に決まってるじゃない。
「恩を仇で? それはきちんと育っててもらった子が言われることでしょ?
貴方達がわたしに何をしたか……知らないとは言わせないわよ……!」
怒りにわなわなと鉈を持つ手が震えるのがわかる。
散々無視して、都合の良い時だけ産んだ育てたと……そこまで恩着せがましく言えるほど、貴方や親はわたしになにかをしてくれたのか?
痛みを、苦しみを与えられて、自分が無くなっていく感覚。
景色から色が抜け落ちる感覚を与えられて……そんなものに恩を抱くわけがない。
「知らないな。僕は僕なりにきちんと向き合ってきたつもりだよ。
それがどんなに歪んだ感情であっても、僕はお前のことをきちんと評価していたよ。
『極光の一閃』、『隷属の腕輪』……どれもお前がいなければこんなに早く実用化まではいかなかっただろう。
どんな役立たずの愚妹であっても、どこか秀でたこともあるものだ、とな」
何を言ってるんだ。
わたしに向き合ってきた? 本だけが……知識がある部屋にだけ押し込めて、監視役をつけて……ずっと、ずっと一人で研究させられた。
「ふざけないでよ。わたしがあんな生活を望んだっていうの?
散々利用して使い倒しただけじゃない!」
「それはお前も同じことじゃないか。
『隷属の腕輪』……それはお前の全てを現してるじゃないか」
お兄様は小馬鹿にした笑みを浮かべてわたしの事を見ているけど……『隷属の腕輪』がわたしを体現している? それって……。
「どういうこと……?」
「『隷属の腕輪』……他者を思い通りにする腕輪。
意識すらも自在に操り、自分の意思で身体を動かすことすらままならない……。
まるでお前の人生の全てじゃないか」
ニヤリと笑うお兄様の言葉を上手く飲み込む事が出来なかったわたしは、ただただ呆然とつぶやいてしまった。
「わたしの人生の全て……?」
「生まれたときから小さな箱のような部屋に閉じ込められ、自分の意志では外に出ることもない。
他人には無視され続け、お前の意思なんて誰も聞いていない。
ははっ、まるで『隷属の腕輪』を箱にしたような場所に閉じ込められてたってわけだ。
わかるか? 『隷属の腕輪』を嵌められた奴らは……他でもない、お前自身なんだよ」
「わたし……自身……」
そう言われて、わたしはようやくきちんと自覚することができた。
『隷属の腕輪』……それは過去の遺物の再現だったのと同時に、わたし自身の体現だったということを。
ああ、なあんだ。
わたし、結局自分の辛さ、苦しさを誰かに分けたかっただけなんだ。
ティファちゃんに救われてたと思ってた。
事実、わたしの世界には色が戻って、ずっとそれを糧にして生きてきた。
でも、心の何処かで会えなかったら……忘れていたら……って不安もあった。
もうわたしとの約束を忘れて、戦うことになっちゃったら……多分、耐えきれない。
だから、『隷属の腕輪』を再現することにためらわなかったんだ。
「そんなお前が今更誰かの為だなんて笑い話にも程がある。
ティファちゃんの為に? フラフが? 国を傷つけたから?
お前が本当にここに来た理由はそうじゃないだろう?」
「それは……それは……」
「お前はただ単に自分がティファリスに愛されたいたいから。離れたくないから……そんな小賢しい考えでここまで来たんだろうが。
そのために……僕をここで殺して、より深い寵愛を受けたい……それだけがお前の本心だ」
「本心……」
確かに。本当の事だ。
アシュルがいるが契約スライムの中でも一番なのはしかたない。
だけど……本当はわたしが一番でありたい。
今まで辛い目に遭った分、愛されたい。大切に思われたい。
誰かにもっと幸せにしてもらいたい……。
……本当は一番でいたい。一番でありたい。
一番愛して欲しい。一番愛してください。
「……そうよ。それの何が悪いの?
わたし、ずっと独りぼっちだったもん! 好きな人に愛されたいって……それって悪いこと!?」
「悪いことじゃないさ。むしろそういうの、僕は好ましいと思うね」
「だったら!」
わたしは握りしめていた鉈を突きつけてお兄様を睨みつける。
フラフを誘拐された。セツキ王の国が撃たれた。
全部わたしの研究のせい。
最初はそんな風に理由つけてた。
でもやっぱりわたしにはティファちゃんが一番。
ティファちゃんに向けていった言葉がわたしの全てなんだ。
「だったらお兄様、わたしの為に死んでよ。
わたしはティファちゃんにもっと愛されたい。大事にされたいの!
だから……ここでお兄様を殺して、わたしが一番ティファちゃんに褒めてもらうんだ」
「ふっふふふふ……いいよ、本気で殺し合おうじゃないか。
兄と妹同士で、最低の理由で、お互いの理想と夢をかけて……戦おうか」
もう言葉は不要。
だって、わたしはもうティファちゃん以外どうでも良かった。
それがお兄様に言われてはっきりとわかった。
他の人に感情が動かないことも……自分の命だって本当はどうでもいいことがわかった。
さっき戦った時の冷えた感情とか、あったかい気持ちとか……そういうのも全部まやかしで……わたしのところに残っているのは本当にティファちゃんだけなんだ。
ティファちゃんが全て。ティファちゃんがなにより愛おしい。
あの人だけいればわたし、もう何もいらない。
お兄様も要らないし、この国も要らない。
だから……わたしがあの人に伝えるのは……これだけ。
「お兄様、ティファちゃんの為に死んで?
ティファちゃんの喜ぶ顔の為に。わたしがティファちゃんに褒めてもらうために」
「かかってくるがいい。愚妹よ。
互いに他人を食い物にして生きている身。存分に醜く汚し尽くしてやろうじゃないか!」
お兄様が握った剣を構えて、互いに駆けていく。
それが最も醜く、最低な理由での戦いの始まりだった。
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