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第一節 アストリカ学園編
第23幕 恥辱にまみれた男
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吉田子爵所有の館。その一室でアルフォンス・吉田は荒れていた。
それこそ部屋はボロボロ。メイドが食事を持ってきてもほとんど八つ当たり同然の事をし、今では入ってすぐに床に食事を置かれる程度。
これが大人であるならば、酒でもあおって忘れようと努めるのかも知れないけれど、彼は未だ齢13。
そんなこと、到底出来るはずもなく、ただただ忘れられない痛みと耐え難い屈辱の中で身悶え、焼かれそうな思いに耐えていた。
どうして自分がこんな目に? そういう自問自答が脳内に浮かぶが、アルフォンスの中では最初から決まっている。全てはグレリア……彼風に言うと、下民のせいなのだ。
事の発端は実力トーナメントのあの日。グレリアに負けたあの日の屈辱のせいだった。
初めて相対した時は、このような下民に負ける事など思いもしなかったのだ。
勝って当然。勝利して当たり前。そう、貴族として下民に負けることなど、あってはならないのだ。
しかし結果は完全敗北。それも明らかに加減した様子の彼に対し、自身は軽くあしらわれてしまったのだ。
子飼いの者にわざと魔法を撃たせ、怯んだ隙を突いたはずなのに、剣を弾き飛ばされた挙げ句、情けなくへたり込むという失態を晒してしまう始末。
子爵の息子である自分を小馬鹿にした行為……アルフォンスはグレリアが自分を貶めようと画策していた。そう受け取ってしまった。
(よくも……よくもこの僕にこれだけの恥辱を与えてくれたな。許せない……許せないぞ! 下民風情が!)
彼の感情を真っ黒に染まる。トーナメントであのような負け方をしてしまった。
英雄の血筋に、他でもない、自分が泥を塗ってしまったのだ。
貴族の一員として生きた彼にはなにより許せないことだったのだ。
「くそ! くそ!! くそぉぉぉぉ!!!」
――ガシャ、ガシャァンッ!
あの日の出来事を思い出し、更に怒りに震えたアルフォンスは、自室にあった花瓶を思いっきり壁に投げつけ、破片をばらまいてしまう。
少し前にその恥辱を与えてくれた張本人から殴られた顔が痛み、アルフォンスは余計に憎悪の炎を熱く燃やした。
彼は幼少の頃から欲しいものは可能な限り与えられてきた。
英雄の血筋を誇らしく思えと、吉田家は普通の平民たちとは違うのだという考えを学んだ結果、彼に生まれた選民意識は、今の彼を形作り……その結果、自分と同じかそれ以上の地位にいる者の前では礼節に溢れ、平民を下民と見下すようになったのだ。
もちろん、これが吉田子爵――父親に知れればタダでは済まなかっただろう。
子爵自身は見下す、ということをあまり好ましく思わない人物だからである。平民の中では比較的良識があることで通っているが、やはりそんな子爵も息子には甘かった。
アルフォンスが猫被りしていることに結局気づかずにいたのだから。
ともあれ、アルフォンスが最も侮蔑すべき下民の一人であるグレリアに……ここまで侮辱されたのは初めてであったし、それを晴らすために武器を持っていないエセルカを囚えて辱め、人質として散々使い潰してやろうと思っていたはずが……返り討ちにあってしまう結果に。
グレリアの逆鱗に触れた挙げ句、親にも数えるほどしかぶたれたことのない彼の端正な顔が軽く歪んだほどの力で殴られ、あまりの恥ずかしさにA組寮の旅館に帰ることも出来なかった。
その事が更に怒りを募らせ……バンッ! と思いっきり机を殴りつけても尚収まらないほどだった。
「おのれ……おのれ下民風情がぁぁぁ……! よくもこの僕を、あそこまで侮辱してくれたな……!
殺す! あいつは絶対に、殺してやる!!」
英雄である吉田英彩の血を引く自分を、ここまで愚弄してただでは済ませない。
いや、済まさせてはいけない。そう思い込んだアルフォンスは、ある妙案を閃いた。
それは一番出してはいけない結論。おおよそノブレスオブリージュを掲げるべき貴族の血族としては、あってはならない考え方だった。
「く……くっくっくっ……そうだ。最初からあのごろつきの下民共を雇ったのがいけなかった。
やはり、使えるものは、なんでも使わないとなぁ……」
彼は仄暗い笑みを浮かべ、最初から――館の私兵たちを使えばいいのだと。
そのような答えを出してしまったのであった。
実力トーナメントで辱められ、もはや使われなくなった――廃墟同然の倉庫のところでは思いっきりぶん殴られてしまった。
――そう、英雄の血を、子爵の息子としての地位を、貴族としての自分を否定され、侮辱された。
それがどんなに自分勝手で、独善的な理由であっても、彼にとっては館にいる吉田家の兵を動かすには十分な理由になっているのだ。
ごろつき共を雇い、今度はその中に私兵を混ぜる。そして……次に起こるであろう事に、心をときめかせているのであった――。
しかし哀れな彼は気づかない。それは彼の選民意識はから来ているだけのものであって、これ以上下手に動くことは恥の上塗りでしかないことに。
子爵自身にも迷惑がかかる行為だということに、彼は目を向けることはない。
アルフォンスにとって、平民が自分の思い通りにならないことなど、あってはならないことなのだから。
それこそ部屋はボロボロ。メイドが食事を持ってきてもほとんど八つ当たり同然の事をし、今では入ってすぐに床に食事を置かれる程度。
これが大人であるならば、酒でもあおって忘れようと努めるのかも知れないけれど、彼は未だ齢13。
そんなこと、到底出来るはずもなく、ただただ忘れられない痛みと耐え難い屈辱の中で身悶え、焼かれそうな思いに耐えていた。
どうして自分がこんな目に? そういう自問自答が脳内に浮かぶが、アルフォンスの中では最初から決まっている。全てはグレリア……彼風に言うと、下民のせいなのだ。
事の発端は実力トーナメントのあの日。グレリアに負けたあの日の屈辱のせいだった。
初めて相対した時は、このような下民に負ける事など思いもしなかったのだ。
勝って当然。勝利して当たり前。そう、貴族として下民に負けることなど、あってはならないのだ。
しかし結果は完全敗北。それも明らかに加減した様子の彼に対し、自身は軽くあしらわれてしまったのだ。
子飼いの者にわざと魔法を撃たせ、怯んだ隙を突いたはずなのに、剣を弾き飛ばされた挙げ句、情けなくへたり込むという失態を晒してしまう始末。
子爵の息子である自分を小馬鹿にした行為……アルフォンスはグレリアが自分を貶めようと画策していた。そう受け取ってしまった。
(よくも……よくもこの僕にこれだけの恥辱を与えてくれたな。許せない……許せないぞ! 下民風情が!)
彼の感情を真っ黒に染まる。トーナメントであのような負け方をしてしまった。
英雄の血筋に、他でもない、自分が泥を塗ってしまったのだ。
貴族の一員として生きた彼にはなにより許せないことだったのだ。
「くそ! くそ!! くそぉぉぉぉ!!!」
――ガシャ、ガシャァンッ!
あの日の出来事を思い出し、更に怒りに震えたアルフォンスは、自室にあった花瓶を思いっきり壁に投げつけ、破片をばらまいてしまう。
少し前にその恥辱を与えてくれた張本人から殴られた顔が痛み、アルフォンスは余計に憎悪の炎を熱く燃やした。
彼は幼少の頃から欲しいものは可能な限り与えられてきた。
英雄の血筋を誇らしく思えと、吉田家は普通の平民たちとは違うのだという考えを学んだ結果、彼に生まれた選民意識は、今の彼を形作り……その結果、自分と同じかそれ以上の地位にいる者の前では礼節に溢れ、平民を下民と見下すようになったのだ。
もちろん、これが吉田子爵――父親に知れればタダでは済まなかっただろう。
子爵自身は見下す、ということをあまり好ましく思わない人物だからである。平民の中では比較的良識があることで通っているが、やはりそんな子爵も息子には甘かった。
アルフォンスが猫被りしていることに結局気づかずにいたのだから。
ともあれ、アルフォンスが最も侮蔑すべき下民の一人であるグレリアに……ここまで侮辱されたのは初めてであったし、それを晴らすために武器を持っていないエセルカを囚えて辱め、人質として散々使い潰してやろうと思っていたはずが……返り討ちにあってしまう結果に。
グレリアの逆鱗に触れた挙げ句、親にも数えるほどしかぶたれたことのない彼の端正な顔が軽く歪んだほどの力で殴られ、あまりの恥ずかしさにA組寮の旅館に帰ることも出来なかった。
その事が更に怒りを募らせ……バンッ! と思いっきり机を殴りつけても尚収まらないほどだった。
「おのれ……おのれ下民風情がぁぁぁ……! よくもこの僕を、あそこまで侮辱してくれたな……!
殺す! あいつは絶対に、殺してやる!!」
英雄である吉田英彩の血を引く自分を、ここまで愚弄してただでは済ませない。
いや、済まさせてはいけない。そう思い込んだアルフォンスは、ある妙案を閃いた。
それは一番出してはいけない結論。おおよそノブレスオブリージュを掲げるべき貴族の血族としては、あってはならない考え方だった。
「く……くっくっくっ……そうだ。最初からあのごろつきの下民共を雇ったのがいけなかった。
やはり、使えるものは、なんでも使わないとなぁ……」
彼は仄暗い笑みを浮かべ、最初から――館の私兵たちを使えばいいのだと。
そのような答えを出してしまったのであった。
実力トーナメントで辱められ、もはや使われなくなった――廃墟同然の倉庫のところでは思いっきりぶん殴られてしまった。
――そう、英雄の血を、子爵の息子としての地位を、貴族としての自分を否定され、侮辱された。
それがどんなに自分勝手で、独善的な理由であっても、彼にとっては館にいる吉田家の兵を動かすには十分な理由になっているのだ。
ごろつき共を雇い、今度はその中に私兵を混ぜる。そして……次に起こるであろう事に、心をときめかせているのであった――。
しかし哀れな彼は気づかない。それは彼の選民意識はから来ているだけのものであって、これ以上下手に動くことは恥の上塗りでしかないことに。
子爵自身にも迷惑がかかる行為だということに、彼は目を向けることはない。
アルフォンスにとって、平民が自分の思い通りにならないことなど、あってはならないことなのだから。
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