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第七節 動き出す物語 セイル編

第126幕 追跡する者、される者

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 その日……食事が終わった俺たちは、いつものアンヒュル来襲の知らせを受け、事にあたっていた。
 敵は三人。俺たちは一人ずつと戦い、魔方陣を使う奴らに対し、終始有利な状況で戦いを進めていた。

 前は一人だと苦戦していたはずなんだが、今ではそんなこともなく、たった一人でも随分とやれるようになった。
 今戦ってるこいつらが、前に戦っていたやつよりも弱い、というのはあるがな。

「ちっ、おい退け! 撤退だ!」

 やがて向こうの不利を察知したのか、リーダー格の男が撤退を指示。
 そうすると他の二人は適度にこっちを警戒しながら少しずつ後退り、ある程度離れたら一気に逃げ出してしまった。

「よし、それじゃあ追いかけるとしますか」

 完全に姿が見えなくなり、向こうの警戒心が薄くなった時を見計らって行動を開始する。

「当たりはつけてるんでしょうね?」
「もちろんだ。いつもどおりの方向に逃げ出していた。
 それに今は……これがある」

 俺は他に誰も来ないことを良いことに探索の魔方陣を起動していた。
 なるべく人目につかないよう、出来るだけ小さく構築したけど、やっぱ兄貴みたいには上手くできないな。

 探すのも兄貴のように色々なことを調べることは出来ないけど、今逃げていったアンヒュルくらいなら調べることくらい――。

「よし、痕跡を見つけた。追えるぞ」
「エセルカ」
「うん、行こう」

 くずはとエセルカは互いに頷きあい、俺たちは行動を開始する。
 魔方陣をみんなで見ることが出来るように手のひらに乗せるような形にして展開して……それを頼りに後を追い始めた。


 ――


 決してあいつらを見失わないように注意を払って……俺たちはアンヒュルたちに気取られないよう、付かず離れずの位置を保ちながら歩いていくと――そこには家のようなものが一つあった。

「ここが……」
「アンヒュルの……魔人の拠点……?」

 拠点、というよりもどこかの空き家みたいな印象しか抱かなかった。
 なんというか……本当にここがアンヒュルの拠点なのか……?

「案外ぼろっちい家ね……」

 相変わらずはっきりと言うくずはだけど、その言葉には同意せざるを得ない。
 それだけ……不自然なほど、ぼろぼろな家だった。

「……くひひっ、やっと来たかぁ」
「誰!?」

 探索の魔方陣に魔力を込めるのをやめた俺はいざ入ろうとしたその時……家の方から男の声が聞こえてきた。
 まるで俺たちを待っていたかのような言葉……そして……。なぜだか聞き覚えのある声。

「くひっひっひひひ……誰、とは随分ご挨拶だな」

 家の方から出てきたのは……アリッカルの勇者のカーターだった。

「あんたは……ガーター!」
「カーターだ! 次間違えたらぶっ殺すぞ乳臭いガキがぁ!」
「だ、誰がち、ちち、乳臭いガキですってぇ!!」

 売り言葉に買い言葉……まあ、間違えたくずはの方が悪いんだけどさ、なんでカーターがこんなところにいるんだ?
 しかも妙に気味の悪い笑い声を上げて……勇者会合で出会ったときとは大違いだ。

「で、なんであんたがここにいるんだよ。
 俺たちはアンヒュルを追ってここに……」
「はっ、んなもん、知る必要ねぇんだよ。そんなことより……」

 ズン、と巨剣を地面に突き刺して、俺たちを品定めするように睨んでいるようだけど……知る必要ぐらいあるはずだ。

「お前らは俺様と一緒にアリッカルの首都に来い」
「はあ? なんでわざわざ……」
「あ? 誰もお前らの答えなんか聞いてねぇんだよ。
 良いから来い。来ねぇんならぶっ殺してでも連れて行ってやるよ!」

 巨剣を地面から抜いてぶんぶん振り回しているが……どうやら本気のようだ。
 びしびしと殺気を感じる。いつも戦っているアンヒュルの連中とは違う、本物の殺気だ。

 俺たちも思わず身構え、注意深くカーターを観察していると、そのままカーターは突撃を仕掛け――

「やれ!!」

 命令を出すようにその巨剣を振り下ろした。
 一体なにに命令を……そんな風に思った瞬間、がさっと周囲の草むらから音が聞こえて……次に聞こえてくるのはなにかが撃たれる音。

「く……うぅ……」
「くずは!?」

 呻きながら右肩を抑えてるくずはの方を伺う。
 今、何をされた? 周囲を見回すと、なにやら変な杖のようなものを両手でしっかりと握りしめている二人の兵士たちがゆっくりと俺たちに歩み寄ってきているみたいだった。

「だ、大丈夫……でもあれ、銃? なんでアリッカルの兵士が……」
「はっ、お前にはその程度しかわかんねぇんだろうな」

 小馬鹿にしているような顔でカーターは俺たちの方を見ていい気になっている。
 あれも銃ってやつか……確か勇者会合でシアロルの勇者のヘルガが同じ名前の武器を持っていたことをくずはから聞いたことがある。
 随分形状が違うようだけど……。

「あたしたちを連れてこいって言われてたんじゃないの?」

 くずははカーターの方に向き直り、睨みつけていたけど、肝心のあいつは涼しげにそれを受け流していた。

「ああ、抵抗しなけりゃ撃たねぇよ。だけど……くひひっ、足の一本や二本、無くなっても問題ないから……なぁ!」
「な……に……? きゃ……!」

 そのままカーターがくずはに手をかざしたかと思うと、くずはの足元の地面がひび割れ、なにかに縛られるように膝をついてしまって……やがて倒れ伏してしまった。

「く、くずは!」

 俺はくずはに近寄って抱き上げようとすると、信じられないほどの重みが彼女の身体にかかっている。

「あ……ぐ……ぅ……」
「くく、くくひひ、あははあひゃはははは! んんー……骨の軋む、いい音だぁ……一本、行っとくか?」
「カーター! てめぇぇぇ!!」

 ギリリ、と歯を食いしばって俺は臨戦態勢を取る……が、それをカーターはそれを愉快そうに見ている。
 ……こいつは、今、ぶっ飛ばしてやらないと気がすまない……!

「セイルくん、向こうは……私に……!」
「エセルカ、頼んだ。もうこの際、アレが使えることがバレたって構わねぇ……こいつは、俺が倒す!」

 エセルカも同じ気持ちでいてくれたようで、真剣味を帯びた表情でその銃とやらを持っている兵士に向かい合っている。

 ――くずは、待っていてくれ……すぐに……俺が助けてみせる!
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