189 / 415
第九節 迫りくる世界の闇・セイル編
幕間 決意の女王
しおりを挟む
グランセストの首都アッテルヒアにある城の一室――執務室で女王のミルティナは青く輝く水晶と向かい合っていた。
……いや、正確には『彼ら』と連絡を取るための道具に、だが。
「……要件はわかった。
そなたが離れている間、そのセイルなる者を見張ればよいのだな?」
『その通りだ。だけどな、奴は俺の獲物だ。
それだけは勘違いするなよ?』
「わかっておる。わしとて、そこまで愚かではない」
深いため息とともに首を左右に振るミルティナに、その声は何かを含むように笑い声をあげる。
『念を押すが、馬鹿なことは考えるなよ?
お前をその椅子に座らせてやってるのが誰か……わかってるよな?』
「もちろんだ。片時も忘れたことはない」
水晶玉の向こうの男――ラグズエルの声には『替えはいくらでもいる』というニュアンスを秘めたものが宿っている。
彼にとって、勇者が道具であることと同じく、ミルティナ女王もまた『取り替えられる道具』にしか過ぎない……そういう考えがその一言には込められていた。
それに対し、文句の言葉一つもなく従順な態度を取るミルティナに満足したのか、そのまま水晶玉は輝きを失い……連絡は途切れた。
再びため息と共にミルティナは天井を見上げる。
そこにあったのは侮蔑を込めるかのような……何かを憎むような目。
先程の殊勝な態度とはまるで別の感情を顕わにするミルティナは、拳を震わせ、力を込めずにゆっくりと机を叩く。
今は感情に任せて行動するべきではない。
そういうかのように、彼女は静かに深呼吸をして、調子を整えていた。
「忘れたことなど……有りはしない。
そなたが約束を果たさなかった事もな」
執務机の上に置いてある鈴の内、柄の先端に狼をあしらったレリーフが彫られている銀色の鈴を鳴らせる。
それは使用人を呼ぶ為のものではなく、彼女専属の――銀狼騎士団を呼ぶ為の物だった。
「およびでしょうか」
すぐさま現れた騎士団員の一人であるアルディ。
優雅に膝を付き、頭を下げ、彼の主たるミルティナ女王に最大限の礼を払う。
その姿は正しく女王に仕える者に相応しい。
「アルディ。グレファを連れてまいれ。
騎士団の者以外、彼がここに来る事を知られてはならん。
よいか? 必ずだ」
「かしこまりました。我らが尊き女王よ」
彼らにとっては女王の命令こそが全て。
なんでそこまでグレファに固執するのか……その理由すらも、問う必要はない。
女王が望んだ。
ならば、彼女に仕える者としてそれに必ず応えなければならない。
それこそが女王自らが心血を注ぎ、完成させた銀狼騎士団に属する魔人の姿だった。
ゆえにミルティナにとって、彼らは何置いても信頼できる存在なのだ。
そして彼らも……同じかそれ以上に、女王の事を信じており、そこに疑う余地は何一つなかった。
「表向きはセイルと呼ばれている男の捜索・監視の任に就かせることにする。
上手く彼と接触するように。よいな?」
「はっ、全ては貴女様の為に」
アルディはすぐに行動を起こすため、頭を下げた後、素早く部屋から出ていく。
自身の仕える『女王』の為に。
彼の後ろ姿を見届けたミルティナは、どこか疲れた様子で背もたれに身体を預けてしまう。
その姿はアルディに見られることはなかったが……彼の言葉に思うところがあったようだ。
「『尊き女王』か……これほどわしを皮肉る言葉は存在しないな」
何を思って彼女がそんな言葉を口にしたのか……その心中は誰にもわかりはしないだろう。
しかし、その悲痛な表情からは、自らが『尊き女王』と呼ばれることに対してどう思っているのかが嫌というほどに伝わってくるであろう。
そして――ラグズエルとの会話。それが彼女にとって、何を意味するか。
彼を嫌う女王の真意は唯一つ。
「感謝するぞ。
何も出来ぬ小娘だったわしは、騎士団を持つほどまでになった。
あの時、わしを始末しなかったことを後悔させてやろう」
次にミルティナは金色のベルを鳴らし、使用人を呼び出して指示を出す。
アルディがグレファを連れてくるために行動を起こす事はあくまで隠密に行われなければならない。
城の中にもラグズエルの手のものが存在する以上、表向きは彼に従わなければならないのだ。
「およびでしょうか?」
「兵士を使い、至急セイルと呼ばれる男の捜索を行え。
ただし、決して手を出してはならん。監視するだけに留めることを厳命せよ」
「かしこまりました」
「よろしい、これには騎士アルディを別行動で付けている……が、不用意な接触を行い、監視対象に我らの存在を決して気づかれてはならない。
よって、彼に出会ったとしても話は必要最小限に留めるように。
そして肝心の対象者の容姿は――」
ラグズエルから伝え聞いた姿をそのまま伝え、捜索するように命令を出す。
アルディの事を話しつつも、接触させない体裁を取ることで少しでも彼の行動をしやすくする為に動く。
これが彼女の出来る精一杯であった。
この城の内部であっても、真に彼女に仕えていると言える存在は……そう多くはないのだから。
――セイルとラグズエルの戦いにより、盤面は新たな局面を迎える。
今まで国々の奥底に隠れていた影は徐々に白日の下に曝け出されるが、未だ彼らの目的は見えず。
戦いは、さらなる過酷さを増して、少年少女……そして、最古の英雄を戦乱の渦へと誘っていくだろう。
……いや、正確には『彼ら』と連絡を取るための道具に、だが。
「……要件はわかった。
そなたが離れている間、そのセイルなる者を見張ればよいのだな?」
『その通りだ。だけどな、奴は俺の獲物だ。
それだけは勘違いするなよ?』
「わかっておる。わしとて、そこまで愚かではない」
深いため息とともに首を左右に振るミルティナに、その声は何かを含むように笑い声をあげる。
『念を押すが、馬鹿なことは考えるなよ?
お前をその椅子に座らせてやってるのが誰か……わかってるよな?』
「もちろんだ。片時も忘れたことはない」
水晶玉の向こうの男――ラグズエルの声には『替えはいくらでもいる』というニュアンスを秘めたものが宿っている。
彼にとって、勇者が道具であることと同じく、ミルティナ女王もまた『取り替えられる道具』にしか過ぎない……そういう考えがその一言には込められていた。
それに対し、文句の言葉一つもなく従順な態度を取るミルティナに満足したのか、そのまま水晶玉は輝きを失い……連絡は途切れた。
再びため息と共にミルティナは天井を見上げる。
そこにあったのは侮蔑を込めるかのような……何かを憎むような目。
先程の殊勝な態度とはまるで別の感情を顕わにするミルティナは、拳を震わせ、力を込めずにゆっくりと机を叩く。
今は感情に任せて行動するべきではない。
そういうかのように、彼女は静かに深呼吸をして、調子を整えていた。
「忘れたことなど……有りはしない。
そなたが約束を果たさなかった事もな」
執務机の上に置いてある鈴の内、柄の先端に狼をあしらったレリーフが彫られている銀色の鈴を鳴らせる。
それは使用人を呼ぶ為のものではなく、彼女専属の――銀狼騎士団を呼ぶ為の物だった。
「およびでしょうか」
すぐさま現れた騎士団員の一人であるアルディ。
優雅に膝を付き、頭を下げ、彼の主たるミルティナ女王に最大限の礼を払う。
その姿は正しく女王に仕える者に相応しい。
「アルディ。グレファを連れてまいれ。
騎士団の者以外、彼がここに来る事を知られてはならん。
よいか? 必ずだ」
「かしこまりました。我らが尊き女王よ」
彼らにとっては女王の命令こそが全て。
なんでそこまでグレファに固執するのか……その理由すらも、問う必要はない。
女王が望んだ。
ならば、彼女に仕える者としてそれに必ず応えなければならない。
それこそが女王自らが心血を注ぎ、完成させた銀狼騎士団に属する魔人の姿だった。
ゆえにミルティナにとって、彼らは何置いても信頼できる存在なのだ。
そして彼らも……同じかそれ以上に、女王の事を信じており、そこに疑う余地は何一つなかった。
「表向きはセイルと呼ばれている男の捜索・監視の任に就かせることにする。
上手く彼と接触するように。よいな?」
「はっ、全ては貴女様の為に」
アルディはすぐに行動を起こすため、頭を下げた後、素早く部屋から出ていく。
自身の仕える『女王』の為に。
彼の後ろ姿を見届けたミルティナは、どこか疲れた様子で背もたれに身体を預けてしまう。
その姿はアルディに見られることはなかったが……彼の言葉に思うところがあったようだ。
「『尊き女王』か……これほどわしを皮肉る言葉は存在しないな」
何を思って彼女がそんな言葉を口にしたのか……その心中は誰にもわかりはしないだろう。
しかし、その悲痛な表情からは、自らが『尊き女王』と呼ばれることに対してどう思っているのかが嫌というほどに伝わってくるであろう。
そして――ラグズエルとの会話。それが彼女にとって、何を意味するか。
彼を嫌う女王の真意は唯一つ。
「感謝するぞ。
何も出来ぬ小娘だったわしは、騎士団を持つほどまでになった。
あの時、わしを始末しなかったことを後悔させてやろう」
次にミルティナは金色のベルを鳴らし、使用人を呼び出して指示を出す。
アルディがグレファを連れてくるために行動を起こす事はあくまで隠密に行われなければならない。
城の中にもラグズエルの手のものが存在する以上、表向きは彼に従わなければならないのだ。
「およびでしょうか?」
「兵士を使い、至急セイルと呼ばれる男の捜索を行え。
ただし、決して手を出してはならん。監視するだけに留めることを厳命せよ」
「かしこまりました」
「よろしい、これには騎士アルディを別行動で付けている……が、不用意な接触を行い、監視対象に我らの存在を決して気づかれてはならない。
よって、彼に出会ったとしても話は必要最小限に留めるように。
そして肝心の対象者の容姿は――」
ラグズエルから伝え聞いた姿をそのまま伝え、捜索するように命令を出す。
アルディの事を話しつつも、接触させない体裁を取ることで少しでも彼の行動をしやすくする為に動く。
これが彼女の出来る精一杯であった。
この城の内部であっても、真に彼女に仕えていると言える存在は……そう多くはないのだから。
――セイルとラグズエルの戦いにより、盤面は新たな局面を迎える。
今まで国々の奥底に隠れていた影は徐々に白日の下に曝け出されるが、未だ彼らの目的は見えず。
戦いは、さらなる過酷さを増して、少年少女……そして、最古の英雄を戦乱の渦へと誘っていくだろう。
0
あなたにおすすめの小説
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。
詳細は近況ボードをご覧ください。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!
菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは
「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。
同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと
アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう
最初の武器は木の棒!?
そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。
何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら
困難に立ち向かっていく。
チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!
異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。
話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい!
****** 完結まで必ず続けます *****
****** 毎日更新もします *****
他サイトへ重複投稿しています!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
無限に進化を続けて最強に至る
お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。
※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。
改稿したので、しばらくしたら消します
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる