リヴァイヴ・ヒーロー ~異世界転生に侵略された世界に、英雄は再び現れる~

灰色キャット

文字の大きさ
306 / 415
第十七節・落日の国編

第289幕 三度、アリッカルへ

しおりを挟む
 俺は……エセルカを置いて、シエラとヘンリーの二人とアリッカルへと向かう事にした。記憶の整理の為か、どこか宙を眺め、全くこちらを気にも留めていなかった。

 ミルティナ女王には俺から詳しく説明して、納得してもらったの事だ。世話はアルディに任せることになってしまったけど……彼は笑顔で引き受けてくれた。
 アルディには申し訳ない事をしたな。彼の代わりに別の騎士がイギランス方面の防衛に就くことになった。

 俺は……もうエセルカに会わない方が良いのかもしれない。もし、彼女が全ての記憶を覚えていたとしたら……きっと重荷を背負わせてしまう。俺も、多分彼女に負い目を感じて、まともに向き合えない気がするんだ。
 だから、いっその事……関係を切った方が二人の為になるんじゃないかと思う。

 それすら、今の俺がエセルカから逃げ出したいが為に考えている事のようで……思考が渦の中に囚われてしまったかのように感じてしまう。もう一度。出来ることならあの時間に帰りたい。あの時の彼女に真剣に向かい合いたい。そういう思いを胸に秘めながら、アリッカルへの道を進んだ。

 複雑な感情を整理出来ずに、俺はこの先、戦っていけるのだろうか? そんな不安すら、感じながら――

 ――

 久しぶりに訪れたアリッカルは、相変わらず何も変わってはいなかった。何年経っても俺の知っている場所だ。
 首都サンシンレアの方に行ってもそれは変わらなかった。あの日、拐われたエセルカを助ける為に行った国そのままがそこにあった。

「それで、この後はどうするのですか? 私は既に勇者から排除された身ですので、名前を使うことは出来ませんよ?」
「わかってるさ。もし、警備が前と変わっていないのであれば……同じやり方で潜入すれば楽だろう」

 前回は……確か、魔方陣で魔力を隠蔽して、『索敵』をしている敵に対して見える幻を撒いて撹乱した形だったはずだ。あれから全く変わっていないのであれば、もう一度同じ事が通用するはずだが……流石にそれは見通しが甘いのかもしれない。

 今もフード付きのローブで顔隠していたり、夜に移動したりはしているけど……最悪を想定しておくことに越したことはないだろう。

「同じって……そういえば、前にもここに潜入した事があったっけ。その時は私は置き去りにされたけど」

 シエラもあの時の事を思い出してたのか、少し不機嫌そうに口を尖らせている。

「あの時はシエラを連れて行けるほどこっちも余裕がなかった。すぐにでもエセルカを――」

 ――助けたかったからな。

 途中まで口から出かかった言葉を飲み込んだ。今の俺にはこれを言う権利は、ない。

「今はその余裕があるってこと? それとも……少しは私も強くなった?」
「強くなったさ。前よりもずっとな。頼りにしているよ」

 少なくとも、今の彼女ならアリッカルで共に戦う事が出来るはずだ。

「これはまた、随分頼もしいことですね」
「ヘンリー、他人事のように言ってるけど、お前も必要になったら戦うって事、きちんとわかってるか?」
「ええ。私の方も既に覚悟は出来ています。何にせよ……生き延びなければ明日には繋がらないのですから」

 生きることに執着する、彼らしい返答だ。彼自身はあまり信頼することは出来ないが、この一点に関してのみ、信じる事が出来るだろう。人の国に居場所がない以上、魔人の国で自らの場所を作り出すしかないんだからな。

「ヘンリーって、なんでそんなに生きることに一生懸命なの? あ、別に深い意味なんてないからね。ただ、普通より生きることに貪欲なのはなんでかなって」

 ずっと気になっていた疑問をふと口にするかのようにシエラはヘンリーに問いかけていた。確かに、生きたいという気持ちが少し強すぎるような気がする。その感情は第一だが、それ以外にも見栄や誇りなどがついてきていた他の勇者とは少し毛色が違う。

「そうですね……明日を見たいから、ですかね」
「明日を?」

 いまいち要領の得ない回答に、疑問が尽きない。そんねシエラの気持ちに同調していると、ヘンリーは困惑した笑みを浮かべていた。

「私は幼少の頃、一度死にかけた事がありました。命が流れて、自分が消えていく感覚。それは幼い私にとっては耐えがたい恐怖だったのです。一命を取り留め、意識を取り戻した日の朝。あれほど生に感謝し、明日を迎える喜びを知った日はありません。だからですかね。生きている喜びに比べれば、残りの全てが取るに足らない事のように感じてしまうのですよ」

 少々長い話を終えた後、俺はヘンリーに抱いていた感情を恥ずかしいと思った。手段は確かに褒められたものじゃないが、あれも彼なりに考えた生きる術だったんだろう。

「あの、そんな目を向けないでもらえますか? …….だから嫌だったんですよ」

 俺たちの生暖かい視線に、ヘンリーは居心地が悪そうにそっぽを向いてしまった。少しでも彼の事が知れてよかった。ここから先は……なにが起こるか俺にもわからないのだから。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

無限に進化を続けて最強に至る

お寿司食べたい
ファンタジー
突然、居眠り運転をしているトラックに轢かれて異世界に転生した春風 宝。そこで女神からもらった特典は「倒したモンスターの力を奪って無限に強くなる」だった。 ※よくある転生ものです。良ければ読んでください。 不定期更新 初作 小説家になろうでも投稿してます。 文章力がないので悪しからず。優しくアドバイスしてください。 改稿したので、しばらくしたら消します

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

処理中です...