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第十七節・落日の国編
第291幕 勇なき者
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二人の観客に見守られながら、ソフィアは身体強化をした俺と互角の戦いを見せていた。
以前とは比べ物にならない程の力を発揮している。
「くっ……」
「ふ、ふふ、あははは! ほら、ほらほらぁっ!」
次々と繰り出されるハンマーの振り下ろしの猛攻が続く。グランセストから出国する前に再び手に入れた騎士剣は、もうほとんど鉄屑のような状態だ。攻撃を防げればいい方だろう。
なんだか、俺が手入れた剣ってのはどれもこういう目に遭ってばかりだな。使い方が荒いと言われれば何とも言えないが。
「喰らい……なさいっ!」
右手の魔方陣が妖しく光ると同時にソフィアが俺に向けて手をかざすと、彼女の周囲に拡散するように電撃が発生した。
「くっ……!」
とっさに防御の魔方陣を発動させるが、それをこじ開けるように彼女のハンマーが襲い掛かり、俺ごと吹き飛ばしてしまう。体勢を崩すように地面に膝を付いて……起き上がろうとすると同時に重い一撃が上から降ってくる。
『神』『防』で魔方陣を構築して、それを真正面から受け止める。
「くっ……このっ……!!」
流石にこの魔方陣を貫通するほどの威力は持ってなかったらしく、焦れるようにソフィアは何度も何度もハンマーを魔方陣に叩きつけてくる。
「……いい加減、諦めたらどうだ?」
「くっ、そんな事言ってられるのも、今の内だか、らぁ!」
ガァン、ゴォンと危なそうな音が響いているが、ヒビが入るわけでもなく、均衡が崩れる事はない……とは言っても、これではいつまで経っても同じだ。
ちら、と二人の様子を見てみると、ヘンリーは俺の視線に気づいて呆れたような笑みをしていた。シエラは信じ切っている感じだ。二人とも俺が負ける事はないと思っているのだろう。それは裏を返せば、ソフィアの勝利を誰も信じていないということになる。
こんな暗闇に一人残され、侵入者を倒す為の道具のような扱いをされて……それでも戦いを止めない彼女が哀れに思えた。これが勇者の末路だと思うと、尚更だ。
「はあ、はあ……今度は……!!」
一旦離れたソフィアの左手に刻まれた魔方陣が光り出すと、俺の周辺にいくつもの炎が出現して、一斉に襲いかかってくる。
体勢を立て直した俺は、すぐさまそこから離脱して次に備える。この調子だと、次にソフィアは俺と距離を詰めてくる筈だ。彼女の攻撃はどれも近・中距離のものしかない。遠くから何もできない以上、行動パターンは把握出来る。
『神』『拳』『刃』の三つの起動式で魔方陣を構築しながら左手を剣になぞらえるように指をまっすぐ伸ばし、魔方陣を纏わせる。
ソフィアもこちらの行動に気づいたのか、雷の方の魔方陣を光らせ、発動させる。回避の難しいそれを身体強化を更に重ねながら僅かな隙間を通るように避け続け、ハンマーを振り上げ、待ち構えている彼女の正面に躍り出る。
「グレリア! ここで……死になさいっ!!」
「悪いが、それは出来ない相談だ」
振り下ろされたハンマーを紙一重で避け、俺は躊躇なくソフィアの左胸に俺の左手を突き出した。魔方陣の効果によって剣の刃のように研ぎ澄まされた俺の手は、ソフィアの命を奪ってしまった。
「カハッ……」
身体中から息を吐き出すような声を上げたソフィアは、手に持っていたハンマーを地面に落とし、力なく貫かれた場所を見ていた。
「せめて、安らかに眠れ」
身体から腕を引き抜くと、彼女の身体はそのまま地面に倒れ伏し、ドクドクと流れる血に塗れながらどこか空虚な表情を浮かべていた。
「し、ぬ……ね」
「ソフィア」
「あ、り……と……」
ソフィアは儚い笑顔を浮かべ、その命を散らした。『ありがとう』それが彼女が最期に残した言葉だった。
「勇なき者。ついぞ地に堕ちる。これが勇者ともてはやされ、利用され続けられた人間の末路ですか。……私もこうなっていたかと思うと、他人事とは思えませんね」
勝敗が決して、こちらに歩み寄ってきたヘンリーは、どこか悲しげな表情でソフィアを哀れんでいた。
「グレリア……」
シエラが心配そうに見ているが、大丈夫だ。俺は平気だ。
「このまま野晒しにするのは流石に哀れだろう。弔いだけでも、しよう」
『神』『炎』の魔方陣でソフィアの身体を焼いた。彼女をここに置いたまま、先に進む事は出来なかったから。
「……あの世、というのは信じていませんが、仮にあるとするなら……せめてそこでは幸せに暮らせるように願いましょう。それが彼女と共にこの世界に呼ばれた……私の手向けです」
「こんな終わり方、許せない。彼女の魂が、安らかな眠りにつけますように……」
ヘンリーは旧友として。シエラは見知らぬ者として、それぞれソフィアの冥福を祈っていた。
……彼女との思い出が頭の中によぎる。
カーターに絡まれ、間に入って助けてもらった事。エセルカを助けに行った時に戦った事……あまり多く彼女と接した事はなかったが、色々なものを貰ったような気がする。
「……行くぞ」
だから、最期は何も言わずに……ソフィアを骨まで残さず焼き払って、先へと進んだ。
――決して、振り返る事なく。
以前とは比べ物にならない程の力を発揮している。
「くっ……」
「ふ、ふふ、あははは! ほら、ほらほらぁっ!」
次々と繰り出されるハンマーの振り下ろしの猛攻が続く。グランセストから出国する前に再び手に入れた騎士剣は、もうほとんど鉄屑のような状態だ。攻撃を防げればいい方だろう。
なんだか、俺が手入れた剣ってのはどれもこういう目に遭ってばかりだな。使い方が荒いと言われれば何とも言えないが。
「喰らい……なさいっ!」
右手の魔方陣が妖しく光ると同時にソフィアが俺に向けて手をかざすと、彼女の周囲に拡散するように電撃が発生した。
「くっ……!」
とっさに防御の魔方陣を発動させるが、それをこじ開けるように彼女のハンマーが襲い掛かり、俺ごと吹き飛ばしてしまう。体勢を崩すように地面に膝を付いて……起き上がろうとすると同時に重い一撃が上から降ってくる。
『神』『防』で魔方陣を構築して、それを真正面から受け止める。
「くっ……このっ……!!」
流石にこの魔方陣を貫通するほどの威力は持ってなかったらしく、焦れるようにソフィアは何度も何度もハンマーを魔方陣に叩きつけてくる。
「……いい加減、諦めたらどうだ?」
「くっ、そんな事言ってられるのも、今の内だか、らぁ!」
ガァン、ゴォンと危なそうな音が響いているが、ヒビが入るわけでもなく、均衡が崩れる事はない……とは言っても、これではいつまで経っても同じだ。
ちら、と二人の様子を見てみると、ヘンリーは俺の視線に気づいて呆れたような笑みをしていた。シエラは信じ切っている感じだ。二人とも俺が負ける事はないと思っているのだろう。それは裏を返せば、ソフィアの勝利を誰も信じていないということになる。
こんな暗闇に一人残され、侵入者を倒す為の道具のような扱いをされて……それでも戦いを止めない彼女が哀れに思えた。これが勇者の末路だと思うと、尚更だ。
「はあ、はあ……今度は……!!」
一旦離れたソフィアの左手に刻まれた魔方陣が光り出すと、俺の周辺にいくつもの炎が出現して、一斉に襲いかかってくる。
体勢を立て直した俺は、すぐさまそこから離脱して次に備える。この調子だと、次にソフィアは俺と距離を詰めてくる筈だ。彼女の攻撃はどれも近・中距離のものしかない。遠くから何もできない以上、行動パターンは把握出来る。
『神』『拳』『刃』の三つの起動式で魔方陣を構築しながら左手を剣になぞらえるように指をまっすぐ伸ばし、魔方陣を纏わせる。
ソフィアもこちらの行動に気づいたのか、雷の方の魔方陣を光らせ、発動させる。回避の難しいそれを身体強化を更に重ねながら僅かな隙間を通るように避け続け、ハンマーを振り上げ、待ち構えている彼女の正面に躍り出る。
「グレリア! ここで……死になさいっ!!」
「悪いが、それは出来ない相談だ」
振り下ろされたハンマーを紙一重で避け、俺は躊躇なくソフィアの左胸に俺の左手を突き出した。魔方陣の効果によって剣の刃のように研ぎ澄まされた俺の手は、ソフィアの命を奪ってしまった。
「カハッ……」
身体中から息を吐き出すような声を上げたソフィアは、手に持っていたハンマーを地面に落とし、力なく貫かれた場所を見ていた。
「せめて、安らかに眠れ」
身体から腕を引き抜くと、彼女の身体はそのまま地面に倒れ伏し、ドクドクと流れる血に塗れながらどこか空虚な表情を浮かべていた。
「し、ぬ……ね」
「ソフィア」
「あ、り……と……」
ソフィアは儚い笑顔を浮かべ、その命を散らした。『ありがとう』それが彼女が最期に残した言葉だった。
「勇なき者。ついぞ地に堕ちる。これが勇者ともてはやされ、利用され続けられた人間の末路ですか。……私もこうなっていたかと思うと、他人事とは思えませんね」
勝敗が決して、こちらに歩み寄ってきたヘンリーは、どこか悲しげな表情でソフィアを哀れんでいた。
「グレリア……」
シエラが心配そうに見ているが、大丈夫だ。俺は平気だ。
「このまま野晒しにするのは流石に哀れだろう。弔いだけでも、しよう」
『神』『炎』の魔方陣でソフィアの身体を焼いた。彼女をここに置いたまま、先に進む事は出来なかったから。
「……あの世、というのは信じていませんが、仮にあるとするなら……せめてそこでは幸せに暮らせるように願いましょう。それが彼女と共にこの世界に呼ばれた……私の手向けです」
「こんな終わり方、許せない。彼女の魂が、安らかな眠りにつけますように……」
ヘンリーは旧友として。シエラは見知らぬ者として、それぞれソフィアの冥福を祈っていた。
……彼女との思い出が頭の中によぎる。
カーターに絡まれ、間に入って助けてもらった事。エセルカを助けに行った時に戦った事……あまり多く彼女と接した事はなかったが、色々なものを貰ったような気がする。
「……行くぞ」
だから、最期は何も言わずに……ソフィアを骨まで残さず焼き払って、先へと進んだ。
――決して、振り返る事なく。
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