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第十七節・落日の国編
第308幕 かつての因縁
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俺についてくる程の力を身につけているのは流石だ。吉田もあれから更に修行を積んだということだろう。
散々卑怯な真似をしてきたジパーニグの者には吐き気がするほど頭にくるが、それでもこの男にだけは真っ向から対峙して戦わなければならない。他の誰でもない俺の――男の意地がそれをさせる。
「うおおおお!!」
吉田の剣を魔方陣を纏った拳で応戦する。幾度も鋭い斬撃が鈍い音を立てた弾かれていく。お互いに言葉を交わさず、吠えるような怒声を浴びせるだけの攻勢。不思議と嫌な気分ではなかった。
いや、むしろこんなに心地良い事があるなんて思いもしなかった。本当に……本当に惜しいのは、それでも俺が『神』の魔方陣を何一つ使わずにして、ようやく対等であるという事だ。徐々に地力の差で現れてきている事に気づいた吉田は歯を食いしばって数歩距離を取って剣に刻まれた浄化陣を発動させる。
「これを……食らえ!」
一振り毎に鋭い風の刃が幾度となく解き放たれ、一斉に俺に襲い掛かってくる。それを皮一枚でかわし続け、吉田に接近して魔方陣を発動させる。
『炎』『爆』の起動式に対し、吉田は迷わず鎧に刻まれている浄化陣でそれを防いで、黒煙を斬り払うように突撃を仕掛けてくる。
再び刃と拳を合わせ、激しく睨み合い、動かなくなる。
「……しいな」
ぽつりと呟いた吉田の声が聞き取れず、何を言ってるのか注意深く観察していると――吉田は悔しそうに俯いていた。
「これでも……貴様には届かないか。まだ、魔人と戦うには足りないのか」
「吉田……」
それは激しい感情の吐露。力及ばなくて涙する男の慟哭。悔しくて、歯痒くて……それでも諦めきれない。そんな顔を吉田はしていた。
「グレリア。俺は馬鹿な男だ。貴様に関わらなければ、こんな気持ちを味わう事もなかった」
「そんな事はない。お前は強くなったし、誰よりも成長している。それは……少し悔しくもあるが、俺も認めるところだ」
本当なら認めてやるのも癪だ。俺はこの男の事が嫌いだったし、あまり会いたくはないと思っていた。
だが、彼の実力は本物だ。こうして『神』の魔方陣を使わなければ、俺に迫るほどの力を見せている。
「ふ、ふはは、違う……違うんだよ。そうじゃないんだ」
吉田の……何か違う声音に気づいたのは彼が俺の言ってる事を否定してからだった。何か、嫌な予感がする。それも観客席で狙撃された時よりも遥かに強く。
何か……思い違いでもしてるかのように。
それを確信させるように吉田は俺から距離を取って剣を高く掲げた。何をする気なのかと見守っていると、突如『拡声』の魔方陣を発動させる。
「俺は……俺は、貴様を討つ! この戦いで、例え命を落としたとしても、グレリアァァッッ! 俺はぁっ! 悪魔に魂を売り渡してでも、勝利をもぎ取って見せる!」
「吉田……?」
不穏な言葉と同時に吉田が眼を閉じ……次に開いたその瞬間、彼の眼には魔方陣が刻まれていた。
右眼には『限界』『超越』が。左眼には『竜』『人』『化』が。
「ぐ……お……オオォォォォォッ! コ、コウテイィィィッッ! 今コソ、約束ヲ果タソウゾ!!」
吉田の身体がボコボコと音を立てて変質していく。初めて見る起動式だが、あれがどんな影響を与えるのか……それ考えるとゾッとした。
吉田の身体は、今生まれ変わろうとしている。人――種族の超え、全く新しい種として。
「よ、吉田……様……?」
そのあまりの出来事に兵士の中から茫然とした声が聞こえてきたが、今はそんな事はどうでもいい。
吉田の『コウテイ』という言葉……正しく聞こえたなら『皇帝』になる。間違いなく……シアロルの玉座に鎮座するロンギルス皇帝の事だろう。ジパーニグは王制だし、吉田がそう呼ぶ人物なんて他に誰がいる?
「グ、グオ、オオオオッッ!!」
変化したそれは、大きく空を見上げて咆哮した。最早吉田の影も形も無い。トカゲ……いや、左眼には『竜』の一文字が入っていた。差し詰め、竜人と呼んだ方が正しいだろう。
これを吉田が望んだのかどうかは知らない。だけど……これは人でも魔人でも、絶対にやってはいけない領域に足を踏み入れている。力を得る為に、俺と戦う為だけにこんな風に人体を変えるなんてしてはいけないことだ。
「吉田……お前は……」
「グルルル、イクゾ。グレリアァァァァッッ!!」
俺の名前を呼ぶと同時に大きく咆哮を上げて、ゆっくりと剣を構え、盾を前に突き出していた。その姿勢や言葉からは、彼から知性が失われずに残っている事を教えてくれている。
最早何の抵抗も無くなったのか、浄化陣――いや、魔方陣を自らの手で発動させて、自分の身体能力を上げていっている。思わず背中に冷や汗が流れた。これは……尋常じゃない強さを感じる。
内包する力自体は及ばないものの、力を小出しにしたり、どうにも慢心の強かった彼女と違って、なりふり構わない彼はヘルガの時よりも厄介な事になるのは間違い無いだろう。
なぜ吉田の眼に魔方陣の起動式が刻まれていたのか、それは定かではない。こんな奇跡じみた事、原初の起動式でもなければ無理なはずだが……いや、考えるのは後回しだ。
剣がないのが心許ないが、それでもやるしかないだろう。お前との因縁……このまま終わらせはしないさ。
散々卑怯な真似をしてきたジパーニグの者には吐き気がするほど頭にくるが、それでもこの男にだけは真っ向から対峙して戦わなければならない。他の誰でもない俺の――男の意地がそれをさせる。
「うおおおお!!」
吉田の剣を魔方陣を纏った拳で応戦する。幾度も鋭い斬撃が鈍い音を立てた弾かれていく。お互いに言葉を交わさず、吠えるような怒声を浴びせるだけの攻勢。不思議と嫌な気分ではなかった。
いや、むしろこんなに心地良い事があるなんて思いもしなかった。本当に……本当に惜しいのは、それでも俺が『神』の魔方陣を何一つ使わずにして、ようやく対等であるという事だ。徐々に地力の差で現れてきている事に気づいた吉田は歯を食いしばって数歩距離を取って剣に刻まれた浄化陣を発動させる。
「これを……食らえ!」
一振り毎に鋭い風の刃が幾度となく解き放たれ、一斉に俺に襲い掛かってくる。それを皮一枚でかわし続け、吉田に接近して魔方陣を発動させる。
『炎』『爆』の起動式に対し、吉田は迷わず鎧に刻まれている浄化陣でそれを防いで、黒煙を斬り払うように突撃を仕掛けてくる。
再び刃と拳を合わせ、激しく睨み合い、動かなくなる。
「……しいな」
ぽつりと呟いた吉田の声が聞き取れず、何を言ってるのか注意深く観察していると――吉田は悔しそうに俯いていた。
「これでも……貴様には届かないか。まだ、魔人と戦うには足りないのか」
「吉田……」
それは激しい感情の吐露。力及ばなくて涙する男の慟哭。悔しくて、歯痒くて……それでも諦めきれない。そんな顔を吉田はしていた。
「グレリア。俺は馬鹿な男だ。貴様に関わらなければ、こんな気持ちを味わう事もなかった」
「そんな事はない。お前は強くなったし、誰よりも成長している。それは……少し悔しくもあるが、俺も認めるところだ」
本当なら認めてやるのも癪だ。俺はこの男の事が嫌いだったし、あまり会いたくはないと思っていた。
だが、彼の実力は本物だ。こうして『神』の魔方陣を使わなければ、俺に迫るほどの力を見せている。
「ふ、ふはは、違う……違うんだよ。そうじゃないんだ」
吉田の……何か違う声音に気づいたのは彼が俺の言ってる事を否定してからだった。何か、嫌な予感がする。それも観客席で狙撃された時よりも遥かに強く。
何か……思い違いでもしてるかのように。
それを確信させるように吉田は俺から距離を取って剣を高く掲げた。何をする気なのかと見守っていると、突如『拡声』の魔方陣を発動させる。
「俺は……俺は、貴様を討つ! この戦いで、例え命を落としたとしても、グレリアァァッッ! 俺はぁっ! 悪魔に魂を売り渡してでも、勝利をもぎ取って見せる!」
「吉田……?」
不穏な言葉と同時に吉田が眼を閉じ……次に開いたその瞬間、彼の眼には魔方陣が刻まれていた。
右眼には『限界』『超越』が。左眼には『竜』『人』『化』が。
「ぐ……お……オオォォォォォッ! コ、コウテイィィィッッ! 今コソ、約束ヲ果タソウゾ!!」
吉田の身体がボコボコと音を立てて変質していく。初めて見る起動式だが、あれがどんな影響を与えるのか……それ考えるとゾッとした。
吉田の身体は、今生まれ変わろうとしている。人――種族の超え、全く新しい種として。
「よ、吉田……様……?」
そのあまりの出来事に兵士の中から茫然とした声が聞こえてきたが、今はそんな事はどうでもいい。
吉田の『コウテイ』という言葉……正しく聞こえたなら『皇帝』になる。間違いなく……シアロルの玉座に鎮座するロンギルス皇帝の事だろう。ジパーニグは王制だし、吉田がそう呼ぶ人物なんて他に誰がいる?
「グ、グオ、オオオオッッ!!」
変化したそれは、大きく空を見上げて咆哮した。最早吉田の影も形も無い。トカゲ……いや、左眼には『竜』の一文字が入っていた。差し詰め、竜人と呼んだ方が正しいだろう。
これを吉田が望んだのかどうかは知らない。だけど……これは人でも魔人でも、絶対にやってはいけない領域に足を踏み入れている。力を得る為に、俺と戦う為だけにこんな風に人体を変えるなんてしてはいけないことだ。
「吉田……お前は……」
「グルルル、イクゾ。グレリアァァァァッッ!!」
俺の名前を呼ぶと同時に大きく咆哮を上げて、ゆっくりと剣を構え、盾を前に突き出していた。その姿勢や言葉からは、彼から知性が失われずに残っている事を教えてくれている。
最早何の抵抗も無くなったのか、浄化陣――いや、魔方陣を自らの手で発動させて、自分の身体能力を上げていっている。思わず背中に冷や汗が流れた。これは……尋常じゃない強さを感じる。
内包する力自体は及ばないものの、力を小出しにしたり、どうにも慢心の強かった彼女と違って、なりふり構わない彼はヘルガの時よりも厄介な事になるのは間違い無いだろう。
なぜ吉田の眼に魔方陣の起動式が刻まれていたのか、それは定かではない。こんな奇跡じみた事、原初の起動式でもなければ無理なはずだが……いや、考えるのは後回しだ。
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