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16・才能の塊(レイアside)
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部屋中に響き渡るのは殴打の音。竜人族の男の子が一人の女の子を見下ろしていた。
「お前、何言ってるのかわかってんのか? ああ?」
「で、でもそれは……私が……お父様に貰った……」
二回目の音が響く。女の子――レイアは両頬に痛々しい後を残しながら床に倒れた。それを激昂しながらこぶしを握り、見下ろしている男が一人。黒い髪に真っ赤な髪の毛が混じっており、深紅に染まる瞳はどう猛さを宿している。そんな危険な雰囲気を宿している彼ではあるが、学園服を着ており、それがその男の子を生徒の一人だと確信出来る。
「おい、もう一度言ってみろ」
「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……!」
男の威圧に、レイアはただ泣いて謝るだけしか出来なかった。地べたに倒れ伏して涙を流す彼女の姿を見て、男は満足そうに見下ろしていた。
「レイア。お前はなんだ?」
「……一族の……恥晒しです」
「お前は誰に向かって物を言ってる?」
「……おに――! い、一族の……後継者……様です」
「そうだ。俺は始祖であり始竜であるフレイアールの血を最も濃く受け継ぎ、期待されている男――クリム・ルーフ。お前は普通の竜人族程度の力しか持たない黒竜人族の汚点。そんなお前が今、俺様になんて言いやがったこのクソがぁぁっっ!!」
クリムはレイアの頭を踏みつけ、腕を蹴り飛ばし、背中にかかと落としを放つ。そんな事をされても、レイアは痛みによるうめき声を上げるだけだ。これが、二人の関係。クリムの暴力にレイアは耐え続ける。それがこの二人の日常であり、当たり前だった。
「わかったら寄越せ。お前があの聖黒族に賭けた金全部だ」
「……はい」
レイアはよろよろと起き上がって、守るように自分の制服の中に隠していた賞金の入った袋を供物をささげるように差し出し、クリムは無造作にそれを奪い取る。
「……ふん。余計な手間取らせやがって。次やったらもっと酷い目に遭わせてやるからな」
顔面を蹴飛ばされたレイアは、後頭部を床に強かに打ち付けながら、泣きじゃくるだけだった。それを面白くなさそうに鼻を鳴らしたクリムは、椅子に座ってゆっくりと袋の中身を確かめ始める。
「しかしまぁ、まさかあんな小娘が勝つなんてな。おかげで大損だ。ま、これでむしろプラスだけどな」
上機嫌に金を数え終えたクリムがちらりとレイアの方に視線を向けると、彼女はぼろぼろの容姿を庇うようにゆっくりと立っている最中だった。それがクリムの琴線を更に刺激させる。
「レイア。お前……あの聖黒族の女と知り合いだったよな?」
「はい……」
「よし、その女、俺に紹介しろ」
「……え?」
何を言ってるのかわからない。そんな顔をしたレイアが気に食わなかったのか、クリムはレイアの髪の毛を掴む。
「いっ……!」
「お前、俺様に二度も同じこと言わせる気か?」
「ご、ごめんなさい! ごめん……なざい!!」
「あの女はあれでも、この国の王家の一員だ。そいつを手中に収めれば、何かと役に立つ」
クリムの笑顔は醜く歪んでいた。醜悪。そう表現するのが正しいだろう。自らの力に酔いしれるあまり、自分が頂点だと信じて疑わない。何しろ彼こそは初代魔王の忠実なる僕であり、始竜と呼ばれたフレイアールの末裔。その血を色濃く受け継ぐ絶対強者だと強く言い聞かせられ、育った存在なのだから。
「で、でも……」
「……頭の悪い奴だな。元々、お前を餌にあの馬鹿を釣る予定だったんだぞ? あの貴族の弱みを握れていれば、こんな面倒な事しなくても済んだのによ」
クリムは学園ではレイアと違う家名で通していた。これは彼のわがままが通された結果であり、どれだけクリムが優遇されているかの証拠だった。もっとも……彼は妹の前以外では基本的に善人の振りをしているからこその事だが。
そんなクリムはルドゥリアにレイアを押し付け、適当に難癖付けてぼこぼこにした後、自分の名前を明かして言いなりにさせようと画策していた。そうやって少しずつ貴族の連中に食い込んでいくのが目的だったのだ。
「お、お兄様……ティ、ティアさんだけは……」
「あ? お前さ……何もわかってないだろ。お前が! 一族の面汚し風情が! この俺様に! 意見してんじゃねぇよ!!」
話すごとに蹴り、殴り、レイアを痛めつけるクリムの心は非常に苛立ちを覚えていた。今まで暴力に訴えてきたら何でも言う事を聞いた存在が、エールティアの事に関しては決して譲らなかったのだ。その頑固さが一層クリムを苛立たせる。
「お、お願いします。お兄様……」
「仕方ないな」
「お兄様……!」
レイアはクリムが自分のいう事を聞いてくれるとは思ってなかったのか、驚きと喜びに満ちて――次の瞬間に地獄に叩き落される。
「お前のクラスメイト、一人一人じっくりと痛めつけてやろうか。お前のせいだと身体に刻み込んで……最終的にお前の居場所を奪ってやるよ」
「そ、そん……な……」
にたぁ、と浮かべた彼の笑顔はレイアが震え上がるには十分で……彼女の心を折るにはぴったりだった。
「選べ。たった一人の友達を犠牲にするか、クラスメイト全員を犠牲にするかをよ」
「お前、何言ってるのかわかってんのか? ああ?」
「で、でもそれは……私が……お父様に貰った……」
二回目の音が響く。女の子――レイアは両頬に痛々しい後を残しながら床に倒れた。それを激昂しながらこぶしを握り、見下ろしている男が一人。黒い髪に真っ赤な髪の毛が混じっており、深紅に染まる瞳はどう猛さを宿している。そんな危険な雰囲気を宿している彼ではあるが、学園服を着ており、それがその男の子を生徒の一人だと確信出来る。
「おい、もう一度言ってみろ」
「ご、ごめんなさい……ごめんなさい……!」
男の威圧に、レイアはただ泣いて謝るだけしか出来なかった。地べたに倒れ伏して涙を流す彼女の姿を見て、男は満足そうに見下ろしていた。
「レイア。お前はなんだ?」
「……一族の……恥晒しです」
「お前は誰に向かって物を言ってる?」
「……おに――! い、一族の……後継者……様です」
「そうだ。俺は始祖であり始竜であるフレイアールの血を最も濃く受け継ぎ、期待されている男――クリム・ルーフ。お前は普通の竜人族程度の力しか持たない黒竜人族の汚点。そんなお前が今、俺様になんて言いやがったこのクソがぁぁっっ!!」
クリムはレイアの頭を踏みつけ、腕を蹴り飛ばし、背中にかかと落としを放つ。そんな事をされても、レイアは痛みによるうめき声を上げるだけだ。これが、二人の関係。クリムの暴力にレイアは耐え続ける。それがこの二人の日常であり、当たり前だった。
「わかったら寄越せ。お前があの聖黒族に賭けた金全部だ」
「……はい」
レイアはよろよろと起き上がって、守るように自分の制服の中に隠していた賞金の入った袋を供物をささげるように差し出し、クリムは無造作にそれを奪い取る。
「……ふん。余計な手間取らせやがって。次やったらもっと酷い目に遭わせてやるからな」
顔面を蹴飛ばされたレイアは、後頭部を床に強かに打ち付けながら、泣きじゃくるだけだった。それを面白くなさそうに鼻を鳴らしたクリムは、椅子に座ってゆっくりと袋の中身を確かめ始める。
「しかしまぁ、まさかあんな小娘が勝つなんてな。おかげで大損だ。ま、これでむしろプラスだけどな」
上機嫌に金を数え終えたクリムがちらりとレイアの方に視線を向けると、彼女はぼろぼろの容姿を庇うようにゆっくりと立っている最中だった。それがクリムの琴線を更に刺激させる。
「レイア。お前……あの聖黒族の女と知り合いだったよな?」
「はい……」
「よし、その女、俺に紹介しろ」
「……え?」
何を言ってるのかわからない。そんな顔をしたレイアが気に食わなかったのか、クリムはレイアの髪の毛を掴む。
「いっ……!」
「お前、俺様に二度も同じこと言わせる気か?」
「ご、ごめんなさい! ごめん……なざい!!」
「あの女はあれでも、この国の王家の一員だ。そいつを手中に収めれば、何かと役に立つ」
クリムの笑顔は醜く歪んでいた。醜悪。そう表現するのが正しいだろう。自らの力に酔いしれるあまり、自分が頂点だと信じて疑わない。何しろ彼こそは初代魔王の忠実なる僕であり、始竜と呼ばれたフレイアールの末裔。その血を色濃く受け継ぐ絶対強者だと強く言い聞かせられ、育った存在なのだから。
「で、でも……」
「……頭の悪い奴だな。元々、お前を餌にあの馬鹿を釣る予定だったんだぞ? あの貴族の弱みを握れていれば、こんな面倒な事しなくても済んだのによ」
クリムは学園ではレイアと違う家名で通していた。これは彼のわがままが通された結果であり、どれだけクリムが優遇されているかの証拠だった。もっとも……彼は妹の前以外では基本的に善人の振りをしているからこその事だが。
そんなクリムはルドゥリアにレイアを押し付け、適当に難癖付けてぼこぼこにした後、自分の名前を明かして言いなりにさせようと画策していた。そうやって少しずつ貴族の連中に食い込んでいくのが目的だったのだ。
「お、お兄様……ティ、ティアさんだけは……」
「あ? お前さ……何もわかってないだろ。お前が! 一族の面汚し風情が! この俺様に! 意見してんじゃねぇよ!!」
話すごとに蹴り、殴り、レイアを痛めつけるクリムの心は非常に苛立ちを覚えていた。今まで暴力に訴えてきたら何でも言う事を聞いた存在が、エールティアの事に関しては決して譲らなかったのだ。その頑固さが一層クリムを苛立たせる。
「お、お願いします。お兄様……」
「仕方ないな」
「お兄様……!」
レイアはクリムが自分のいう事を聞いてくれるとは思ってなかったのか、驚きと喜びに満ちて――次の瞬間に地獄に叩き落される。
「お前のクラスメイト、一人一人じっくりと痛めつけてやろうか。お前のせいだと身体に刻み込んで……最終的にお前の居場所を奪ってやるよ」
「そ、そん……な……」
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