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75・雪桜花を離れる者
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ペストラの16の日。『霊船流し』を無事に終えて、残り二日の祭りを楽しんだ私達は、ワイバーンに乗る準備をしていた。
「エールティア。くれぐれも気をつけるのだぞ」
「はい、お父様」
「知らない者について行っては駄目だからな。それと、きちんと学園から出された宿題も終わらせるように。後は――」
まるで世話を焼く事に生きがいでも感じてるんじゃないかと思うほど、次々と心配そうに言葉を投げかけてくるお父様にやんわりと反論する。
「安心してください。お父様の言いつけはちゃんと守ります。ですから、そう何度も確認しないでください」
「そ、そうか……」
お父様はこれからしばらく戻っていなかった領地に帰る事になったそうだ。それで、お母様とエルデもそれについていく訳だから……私は必然的にジュールを連れて二人でシルケットに向かう事になった。それがお父様は心配……という訳だ。
気持ちは嬉しいけれど、ちょっと心配しすぎだ。娘のことを少しは信頼して欲しい。
「ジュールは準備、出来た?」
「は、はい。ですが……私も一緒でいいんですか?」
「当たり前じゃない。貴女は私の契約スライムなんだから」
私は少し胸を張るようにジュールを見るんだけど……それでも彼女は自信なさそうだった。決闘の一件でジュールの過剰に大きな態度は引っ込んだんだけど……これじゃあ真逆に振り切れただけで、別の意味で厄介になっただけだ。
シルケットでは、どうにかして彼女の心を開かないといけないと思った。自分の魔力を与えた存在っていうのは、かけがえの無いものだからね。
「エールティア様。私は……」
「お嬢様。準備が整いました」
ジュールが何かを言おうとしたその時にエルデが声を掛けてきて、彼女はそのまま口を閉ざしてしまった。
ちょっとタイミングが悪かったけど、仕方がない。また話しかけてくる事を期待しよう。
「ありがとう。それではお父様、お母様。行って参りますね」
「ええ。楽しんでいらっしゃい」
お母様は微笑みながら軽く手を振って。お父様はしっかりと頷きながら見送ってくれた。
私はそれに手を振りながらジュールと二人で屋敷を出て、ワイバーン発着場に行った。そこには雪雨と黒鬼が見送りに来ていた。
「よっ、挨拶に来たぜ」
相変わらず戦いが絡まないと元気のいい少年にしか見えない雪雨は笑いながら片手を上げていた。
「お久しぶりでございます」
こちらも決闘の時とはまるで違う印象を抱かせるほどの丁寧な口調と態度で接してくる黒鬼は、雪雨の一歩後ろに下がって頭を下げていた。これだけでもジュールとはかなり違う。
「わざわざ見送りありがとう。礼を言わせて」
「はは、心友の見送りに来ないなんて、鬼人族じゃねぇよ」
雪雨は清々しい程に笑みを浮かべて接してくる。
「エールティア様。その節は誠にありがとうございました」
「いいえ。私の方も色々と教えられたから」
「でしたら良かったです。……それと、ジュール殿に少し伝えたい事があるのですが……よろしいですか?」
黒鬼が直接の接点がほとんどないジュールに何を伝えたいのかわからなかった私は、自然とジュールの方に視線を移したけれど……困惑気味な彼女は、予想外のことに狼狽えているように見えた。
「私は構わないけれど……」
「そうですか。では少々失礼いたします」
私の承諾を得たと判断した彼は、強い視線をジュールに向けた。拒否権がないと悟った彼女は、私達に頭を下げて、大人しく黒鬼と一緒に離れていった。
その姿を見送った私達は、適当に笑い合って、とりあえずその場の空気を流す事にした。
「エールティア。俺はお前に会えて本当に良かったと思ってる。俺より強い奴にも出会えたしな」
雪雨は少し照れるように笑って頰を掻いた。
その後すぐに真面目な表情になって、何事かと首を傾げてしまう。
「俺はもっと強くなる。誰にも負けない。どれだけお前が強くて、立ちはだかる壁が大きくても関係ねぇ。だから……また戦おうぜ。その時は……また、俺の飢えと渇きを満たしてくれ」
獰猛な笑いを浮かべてる雪雨を見て、思わず苦笑いを浮かべてしまった。やっぱり彼は、どこまでいっても戦闘狂みたいだ。
「御二方。お待たせいたしました」
向こうも話が終わったのか、こっちに向かって歩いてきていた。ジュールが少し落ち込んでいるようにも見えたけど……何か言われたみたい。
「ジュール? 大丈夫?」
「は、はい! 私は平気、です」
見るからに大丈夫じゃない素振りを見せてるけど……本当に大丈夫なのかな? ちらっと黒鬼を睨むように視線を向けると、彼は受け流すように涼しい顔をしていた。
「エ、エールティア様。黒鬼さんは何も悪くないです。だから……」
「そう。……わかった」
ジュールが私以外の誰かを庇うなんて思っても見なかったから驚いたけど……彼女はがそう言うならあまり踏み込む事じゃないのだろう。
気を取り直した私は、きちんと雪雨に向かい合った。
「最後まで色々あったけど……ありがとう。また会いましょう。雪雨」
「……ああ。またな」
それだけ告げて、私達ワイバーンに乗った。短いけれど、色んなことがあった雪桜花に別れを告げて……私達はシルケットを目指す。約束を果たしに。
「エールティア。くれぐれも気をつけるのだぞ」
「はい、お父様」
「知らない者について行っては駄目だからな。それと、きちんと学園から出された宿題も終わらせるように。後は――」
まるで世話を焼く事に生きがいでも感じてるんじゃないかと思うほど、次々と心配そうに言葉を投げかけてくるお父様にやんわりと反論する。
「安心してください。お父様の言いつけはちゃんと守ります。ですから、そう何度も確認しないでください」
「そ、そうか……」
お父様はこれからしばらく戻っていなかった領地に帰る事になったそうだ。それで、お母様とエルデもそれについていく訳だから……私は必然的にジュールを連れて二人でシルケットに向かう事になった。それがお父様は心配……という訳だ。
気持ちは嬉しいけれど、ちょっと心配しすぎだ。娘のことを少しは信頼して欲しい。
「ジュールは準備、出来た?」
「は、はい。ですが……私も一緒でいいんですか?」
「当たり前じゃない。貴女は私の契約スライムなんだから」
私は少し胸を張るようにジュールを見るんだけど……それでも彼女は自信なさそうだった。決闘の一件でジュールの過剰に大きな態度は引っ込んだんだけど……これじゃあ真逆に振り切れただけで、別の意味で厄介になっただけだ。
シルケットでは、どうにかして彼女の心を開かないといけないと思った。自分の魔力を与えた存在っていうのは、かけがえの無いものだからね。
「エールティア様。私は……」
「お嬢様。準備が整いました」
ジュールが何かを言おうとしたその時にエルデが声を掛けてきて、彼女はそのまま口を閉ざしてしまった。
ちょっとタイミングが悪かったけど、仕方がない。また話しかけてくる事を期待しよう。
「ありがとう。それではお父様、お母様。行って参りますね」
「ええ。楽しんでいらっしゃい」
お母様は微笑みながら軽く手を振って。お父様はしっかりと頷きながら見送ってくれた。
私はそれに手を振りながらジュールと二人で屋敷を出て、ワイバーン発着場に行った。そこには雪雨と黒鬼が見送りに来ていた。
「よっ、挨拶に来たぜ」
相変わらず戦いが絡まないと元気のいい少年にしか見えない雪雨は笑いながら片手を上げていた。
「お久しぶりでございます」
こちらも決闘の時とはまるで違う印象を抱かせるほどの丁寧な口調と態度で接してくる黒鬼は、雪雨の一歩後ろに下がって頭を下げていた。これだけでもジュールとはかなり違う。
「わざわざ見送りありがとう。礼を言わせて」
「はは、心友の見送りに来ないなんて、鬼人族じゃねぇよ」
雪雨は清々しい程に笑みを浮かべて接してくる。
「エールティア様。その節は誠にありがとうございました」
「いいえ。私の方も色々と教えられたから」
「でしたら良かったです。……それと、ジュール殿に少し伝えたい事があるのですが……よろしいですか?」
黒鬼が直接の接点がほとんどないジュールに何を伝えたいのかわからなかった私は、自然とジュールの方に視線を移したけれど……困惑気味な彼女は、予想外のことに狼狽えているように見えた。
「私は構わないけれど……」
「そうですか。では少々失礼いたします」
私の承諾を得たと判断した彼は、強い視線をジュールに向けた。拒否権がないと悟った彼女は、私達に頭を下げて、大人しく黒鬼と一緒に離れていった。
その姿を見送った私達は、適当に笑い合って、とりあえずその場の空気を流す事にした。
「エールティア。俺はお前に会えて本当に良かったと思ってる。俺より強い奴にも出会えたしな」
雪雨は少し照れるように笑って頰を掻いた。
その後すぐに真面目な表情になって、何事かと首を傾げてしまう。
「俺はもっと強くなる。誰にも負けない。どれだけお前が強くて、立ちはだかる壁が大きくても関係ねぇ。だから……また戦おうぜ。その時は……また、俺の飢えと渇きを満たしてくれ」
獰猛な笑いを浮かべてる雪雨を見て、思わず苦笑いを浮かべてしまった。やっぱり彼は、どこまでいっても戦闘狂みたいだ。
「御二方。お待たせいたしました」
向こうも話が終わったのか、こっちに向かって歩いてきていた。ジュールが少し落ち込んでいるようにも見えたけど……何か言われたみたい。
「ジュール? 大丈夫?」
「は、はい! 私は平気、です」
見るからに大丈夫じゃない素振りを見せてるけど……本当に大丈夫なのかな? ちらっと黒鬼を睨むように視線を向けると、彼は受け流すように涼しい顔をしていた。
「エ、エールティア様。黒鬼さんは何も悪くないです。だから……」
「そう。……わかった」
ジュールが私以外の誰かを庇うなんて思っても見なかったから驚いたけど……彼女はがそう言うならあまり踏み込む事じゃないのだろう。
気を取り直した私は、きちんと雪雨に向かい合った。
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