110 / 676
110・暗がりの向こう
しおりを挟む
暗い路地を進んでいく私は、息を潜めて静かに先に進んでいく。どんどん闇が深くなってきているけれど、私は真っ暗闇や眩い光の中でも、いつもの視界を保てる魔導『ヴィシディリティ・ノーマリゼーション』を使って何不自由ない視界のまま歩いて行く。
最初は黒い影のようなものが動いているように見えたけれど、視界を正常化したおかげではっきりとそれを見る事が出来た。
……まさかそれが本当に悪魔族だとは思いもしなかったけれどね。
あの特徴的な角がうっすらぼけて見えるところから、何かしらの魔導具を使っているのは間違いない。
こういう風に悪用されているのを見つけると、主に魔導具を作っているドワーフ族に文句を言いたくなるんだけど、別に彼らがこれを作ったわけじゃないから何とも言えないんだけどね……。
でも、こんなのを作る人は、少しは悪用される事を考えて作って欲しい。
「影の奥へ」
「更なる闇に包まれん」
路地裏の奥いた魔人族と妙な合言葉を交わし合った悪魔族の男は、更に奥へと進んでいく。どっちもいかにもな風貌をしているからか、余計に怪しさが増していく。
私の方は『シャドウウォーク』を保ちながら、静かに魔人族の男の横を通り抜けて行く。
見張りの男を置いて奥に進んだ先には……小さな建物があって、そこの扉に悪魔族の男が入り込んでいるのが見えた。建物の間に隠されるようにあるそこは、悪い奴の隠れ家と呼ぶのに相応しい佇まいをしていた。
ここまで来るのは簡単だったけれど、これからどうするか悩んでしまって、動きを止めてしまった。
尾行している間に冷静さを取り戻したからこそだけれど……私は結局、先に進むことにした。
慎重に、ゆっくりと扉を開けると、中からは何とも言えない臭いが溢れ出してきた。思わず鼻を覆いたくなるようなそれは、血の臭いも混じっていた。
部屋の中に入ってしまった事によって『シャドウウォーク』の効果はかなり下がってしまったけれど、一度発動したおかげで、効果は持続している。気配などに敏感な人には見つかるだろうけれど、今はまだ大丈夫だ。
建物の中を歩いていると、食糧庫代わりになっている部屋があった。明らかに一人二人じゃ多すぎる量だ。それだけで嫌な感じが伝わってくる。探索を続けていくと、部屋の一つから話し声が聞こえてきた。
「……ら、……きは」
「……てる。だ……て」
大声だ話さずに、ぼそぼそと話しているからか、よく聞き取れない。割り込んでも良いけれど、あまりよくわからないのに突っ込む事はしたくなかった。ここまで来た私が何を言っているんだって話だけどね。
この部屋には二人ほど敵がいるって覚えておけばいい。
更に奥に進んでみると、地下の方に続く階段があった。音が出ないように慎重に降りていくと、壁が無機質な石になっていて、扉は分厚く重たそうな物が佇んでいた。
ちょっと錆びているような感じはするけれど、使われていない訳じゃない。上の方に覗き穴があって、下の方には食事などを入れる穴が空いている。
中を覗いてみると――そこには何人もの子供が監禁されていた。男女問わず、私よりも幼いであろうその子達の腕には、例外なく腕輪が装着されている。
何かの認識用の装具かとも思うけれど、その姿はまるで……。
「――奴隷」
苦々しい言葉が私の口から漏れ出てきた。みんなが虚空を見つめていて、見るに耐えない姿を晒している。
この世界では、原則奴隷は禁止されている。無理に過酷を敷いたところで、生産性が低くなるだけだと初代魔王様が各国の王と話し合って決めたルールの一つだ。戦争に負けたとしてもそれは例外じゃなく、今の世界では『奴隷』というのは犯罪を犯した者に限る。
約束事に絶対的な決闘においても、一日や二日はともかく、その人の生涯を奴隷として扱う事は認められていない。それだけ重たい世界の法――界法だ。
でもこれは……目の前のこれは、そんな法を嘲笑っている。初代魔王様の時代に蔓延したと言われている奴隷の姿そのものだ。
血が滲みそうなほど拳を握りしめて、悔しくて歯噛みしてしまう。先人が苦労して作り出した法を、こうも容易く破ってしまう彼らに激しい怒りを覚える。
だけど、それを決して出さないように、静かに息を吸って、吐いて――心を落ち着かせる。
――怒りに任せた戦いは出来る限りしない。判断を鈍らせて、必要のない危険を背負い込む必要はない。
頭の中で必死にそう言い聞かせる。私は誰か? どうするべきか? それを心の中ではっきりとさせる為に。
「……あん? おい! おま――」
だからそう、ちょうど良く下に降りてきて、鉢合わせした男の足を蹴飛ばして、拳で顎を打ち抜くのも、大声を出されるのが面倒だったから。
私はエールティア。アルファスの生まれ。お父様やお母様に大切にされていて、町のみんなとも仲が良い。だから――
「よくも……よくも私の町で、こんな薄汚い真似を……!!」
お父様が必死でこの町を守ってきた事を誰よりも知っている。だからこそ、こんな事を許してはいけない。
頭の中をフル回転させる。今まで見てきた相手は、どれも私の足元にも及ばない。なら……これ以上、不必要な様子見は必要ないだろう。
冷静に、残酷に、無慈悲に、冷酷に……潰す。それだけだ。
最初は黒い影のようなものが動いているように見えたけれど、視界を正常化したおかげではっきりとそれを見る事が出来た。
……まさかそれが本当に悪魔族だとは思いもしなかったけれどね。
あの特徴的な角がうっすらぼけて見えるところから、何かしらの魔導具を使っているのは間違いない。
こういう風に悪用されているのを見つけると、主に魔導具を作っているドワーフ族に文句を言いたくなるんだけど、別に彼らがこれを作ったわけじゃないから何とも言えないんだけどね……。
でも、こんなのを作る人は、少しは悪用される事を考えて作って欲しい。
「影の奥へ」
「更なる闇に包まれん」
路地裏の奥いた魔人族と妙な合言葉を交わし合った悪魔族の男は、更に奥へと進んでいく。どっちもいかにもな風貌をしているからか、余計に怪しさが増していく。
私の方は『シャドウウォーク』を保ちながら、静かに魔人族の男の横を通り抜けて行く。
見張りの男を置いて奥に進んだ先には……小さな建物があって、そこの扉に悪魔族の男が入り込んでいるのが見えた。建物の間に隠されるようにあるそこは、悪い奴の隠れ家と呼ぶのに相応しい佇まいをしていた。
ここまで来るのは簡単だったけれど、これからどうするか悩んでしまって、動きを止めてしまった。
尾行している間に冷静さを取り戻したからこそだけれど……私は結局、先に進むことにした。
慎重に、ゆっくりと扉を開けると、中からは何とも言えない臭いが溢れ出してきた。思わず鼻を覆いたくなるようなそれは、血の臭いも混じっていた。
部屋の中に入ってしまった事によって『シャドウウォーク』の効果はかなり下がってしまったけれど、一度発動したおかげで、効果は持続している。気配などに敏感な人には見つかるだろうけれど、今はまだ大丈夫だ。
建物の中を歩いていると、食糧庫代わりになっている部屋があった。明らかに一人二人じゃ多すぎる量だ。それだけで嫌な感じが伝わってくる。探索を続けていくと、部屋の一つから話し声が聞こえてきた。
「……ら、……きは」
「……てる。だ……て」
大声だ話さずに、ぼそぼそと話しているからか、よく聞き取れない。割り込んでも良いけれど、あまりよくわからないのに突っ込む事はしたくなかった。ここまで来た私が何を言っているんだって話だけどね。
この部屋には二人ほど敵がいるって覚えておけばいい。
更に奥に進んでみると、地下の方に続く階段があった。音が出ないように慎重に降りていくと、壁が無機質な石になっていて、扉は分厚く重たそうな物が佇んでいた。
ちょっと錆びているような感じはするけれど、使われていない訳じゃない。上の方に覗き穴があって、下の方には食事などを入れる穴が空いている。
中を覗いてみると――そこには何人もの子供が監禁されていた。男女問わず、私よりも幼いであろうその子達の腕には、例外なく腕輪が装着されている。
何かの認識用の装具かとも思うけれど、その姿はまるで……。
「――奴隷」
苦々しい言葉が私の口から漏れ出てきた。みんなが虚空を見つめていて、見るに耐えない姿を晒している。
この世界では、原則奴隷は禁止されている。無理に過酷を敷いたところで、生産性が低くなるだけだと初代魔王様が各国の王と話し合って決めたルールの一つだ。戦争に負けたとしてもそれは例外じゃなく、今の世界では『奴隷』というのは犯罪を犯した者に限る。
約束事に絶対的な決闘においても、一日や二日はともかく、その人の生涯を奴隷として扱う事は認められていない。それだけ重たい世界の法――界法だ。
でもこれは……目の前のこれは、そんな法を嘲笑っている。初代魔王様の時代に蔓延したと言われている奴隷の姿そのものだ。
血が滲みそうなほど拳を握りしめて、悔しくて歯噛みしてしまう。先人が苦労して作り出した法を、こうも容易く破ってしまう彼らに激しい怒りを覚える。
だけど、それを決して出さないように、静かに息を吸って、吐いて――心を落ち着かせる。
――怒りに任せた戦いは出来る限りしない。判断を鈍らせて、必要のない危険を背負い込む必要はない。
頭の中で必死にそう言い聞かせる。私は誰か? どうするべきか? それを心の中ではっきりとさせる為に。
「……あん? おい! おま――」
だからそう、ちょうど良く下に降りてきて、鉢合わせした男の足を蹴飛ばして、拳で顎を打ち抜くのも、大声を出されるのが面倒だったから。
私はエールティア。アルファスの生まれ。お父様やお母様に大切にされていて、町のみんなとも仲が良い。だから――
「よくも……よくも私の町で、こんな薄汚い真似を……!!」
お父様が必死でこの町を守ってきた事を誰よりも知っている。だからこそ、こんな事を許してはいけない。
頭の中をフル回転させる。今まで見てきた相手は、どれも私の足元にも及ばない。なら……これ以上、不必要な様子見は必要ないだろう。
冷静に、残酷に、無慈悲に、冷酷に……潰す。それだけだ。
0
あなたにおすすめの小説
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件
さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ!
食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。
侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。
「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」
気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。
いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。
料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。
《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!
犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。
そして夢をみた。
日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。
その顔を見て目が覚めた。
なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。
数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。
幼少期、最初はツラい状況が続きます。
作者都合のゆるふわご都合設定です。
日曜日以外、1日1話更新目指してます。
エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。
お楽しみ頂けたら幸いです。
***************
2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます!
100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!!
2024年9月9日 お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます!
200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!!
2025年1月6日 お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております!
ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします!
2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております!
こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!!
2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?!
なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!!
こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。
どうしよう、欲が出て来た?
…ショートショートとか書いてみようかな?
2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?!
欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい…
2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?!
どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
転生したみたいなので異世界生活を楽しみます
さっちさん
ファンタジー
又々、題名変更しました。
内容がどんどんかけ離れていくので…
沢山のコメントありがとうございます。対応出来なくてすいません。
誤字脱字申し訳ございません。気がついたら直していきます。
感傷的表現は無しでお願いしたいと思います😢
↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓
ありきたりな転生ものの予定です。
主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。
一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。
まっ、なんとかなるっしょ。
S級冒険者の子どもが進む道
干支猫
ファンタジー
【12/26完結】
とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。
父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。
そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。
その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。
魔王とはいったい?
※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる