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116・予想外な客(???side)
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ガルアルムの王都ウルフォルの一角。大きな城の一室に狼人族の王シグルンドは一通の手紙に目を通していた。
それは黒い封筒に金の刺繍が入っている綺麗な物で、リシュファス家の封蝋がしっかりとされてあった。
「全く、あいも変わらず過保護な男だ。ここまでしっかり囲われておると、娘の方もさぞ息が詰まるだろう」
ふん、と鼻を鳴らして封筒の中身を机の上に散らばらせる。
そこにはエールティアとジュールの大まかな見た目が記載されていて、何故ガルアルムに行く事になったのか。その経緯と、自らがリティアへ行く事を反対した旨が記載されていた。
最後に『娘の事を、くれぐれも宜しく頼む』と綴っている辺り、ラディンの過保護ぶりが現れているだろう。
「どうしますか? 父上」
「放っておけ。わざわざワシらが干渉して、面倒事を引き受ける意味もない。貴族の連中に周知させ、愚かな行動を起こさぬように徹底させればそれでいいだろう」
しかしそれでも難しいのでは? とシグルンドは思っていたが、それはその時に考えればいい、と思い返す事にした。
それに狼狽えるような表情を見せたのが、シグルンド・ガルアルムの息子、ルードジーク・ガルアルムだった。
「父上、相手は大国のティリアースですよ? その姫君に何かあっては……」
「問題あるまい。そもそも、エールティア姫の噂は聞いているであろう? あの国の女傑に何かあるなど有り得んよ」
「し、しかし万が一の事も……」
弱気な発言を繰り返すルードジークに、シグルンドはため息を漏らさずにはいられなかった。
(全く、こやつの心配性にも困ったものだ。ティリアースがこの国を害することなど、有り得ん事だというに……)
シグルンド王は、王子時代をリーティファ学園で過ごしていた。ティリアースにいる三人の公爵位を持つ王族とも縁を持っている上、今でもこうして交流を続けている。基本的に属国だが、ある程度の自由は与えられている――それがガルアルムという国だった。
「聖黒族の女は強くあらねばならない。特に女王候補の一人ならば尚更だ。ラディンもそれはわかっておるはずだ」
「ですが、他の……中央都市リティアにいる王族や貴族が口を出してくるやも……」
「それこそ有り得ん事よ。あそこはエスリーア公爵夫人の息が掛かった者ばかりで、自分の娘を次期女王にするのに躍起になっている連中ばかりよ。エールティア姫に何かあれば、泣いて喜ぶだろう」
ルードジークはそれでも納得いかないといわんばかりの顔を浮かべている。『もし、万が一――』それが彼の頭の中にちらついてしまうのだ。
(父上にはもっと真剣に取り組んで欲しいものだ。下手をすればこの国の未来が危うくなるというのに……)
シグルンド王はティリアース国内の事情を常に調べており、出来るだけ安全牌切るようにしていた。そんな自信が、学生で縁を作っている最中のルードジークにはわからなかった。
お互いが考え方ですれ違っているが、一つだけ……共通している事があった。
「ティリアースの姫の事はどうとでもなる。問題は……お前の連れてきた男の方だ」
「カイザルの事、ですね。私は彼の事を信頼できる友人だと思っていますが……」
「エールティア姫と接触してしまった時の問題があるな」
シグルンド王の口から、再びため息が零れ落ちた。ガルアルムの貴族が手を出したところで、それらに罪を全て被せ、一族郎党を処罰することで穏便に済ませる事も可能に出来る……のだが、この地方以外の他国の学生が手を出した場合、ガルアルム一国で済まなくなる。
カイザルは貴族ではないが、来年の魔王祭に参加が確定している生徒だ。こういうタイプの生徒は、学園や国からも大切に扱われ、平民といえども迂闊に貴族が手を出すことが出来なくなる。
それだけの力を持っていながら決して驕ることなく、自らの道を進む。そんなカイザルだからこそ、ルードジークは彼に惹かれ、友として接していた。
しかし、保護されるのにも限度がある。あくまで『ある程度』保護されるというだけで、『自由に振舞っても良い』という免罪符ではなかった。
「カイザルは貴族や平民だといった立場には興味を持っていません。それはミスタリクス学園のあるエンドラガン王国ならばいいのですが……」
他国の……しかも他の地方の国で同じような態度を取ってしまった場合、カイザルが辿る道は一つしかない。それをシグルンド王、ルードジークの二人はよくわかっていた。
「ルードジーク。お前の友人から決して目を離すな。必ず監視下に置き、余計な事をしでかさないように見張れ」
「し、しかし……それでは礼を失するというものです。彼は我が国の賓客として――」
「馬鹿者! 同盟国の姫君と他国の平民、どちらが大切なのかわからぬ貴様でもなかろう! 仮に友人を選べば、我らは常に歩み続けてきたティリアースを裏切る事になるのだぞ!?」
「……っ! 申し訳ございません……!」
父親の見たことのないほどの激昂に、ルードジークは思わず頭を下げて謝った。それだけの圧力がシグルンド王から発せられていた。
「全く……狙いすましたのではないかと思うほど面倒な時期にやってきたものだ……」
苦痛に頭を抱えるシグルンド王の受難は、まだまだ終わる事を知らない。
それは黒い封筒に金の刺繍が入っている綺麗な物で、リシュファス家の封蝋がしっかりとされてあった。
「全く、あいも変わらず過保護な男だ。ここまでしっかり囲われておると、娘の方もさぞ息が詰まるだろう」
ふん、と鼻を鳴らして封筒の中身を机の上に散らばらせる。
そこにはエールティアとジュールの大まかな見た目が記載されていて、何故ガルアルムに行く事になったのか。その経緯と、自らがリティアへ行く事を反対した旨が記載されていた。
最後に『娘の事を、くれぐれも宜しく頼む』と綴っている辺り、ラディンの過保護ぶりが現れているだろう。
「どうしますか? 父上」
「放っておけ。わざわざワシらが干渉して、面倒事を引き受ける意味もない。貴族の連中に周知させ、愚かな行動を起こさぬように徹底させればそれでいいだろう」
しかしそれでも難しいのでは? とシグルンドは思っていたが、それはその時に考えればいい、と思い返す事にした。
それに狼狽えるような表情を見せたのが、シグルンド・ガルアルムの息子、ルードジーク・ガルアルムだった。
「父上、相手は大国のティリアースですよ? その姫君に何かあっては……」
「問題あるまい。そもそも、エールティア姫の噂は聞いているであろう? あの国の女傑に何かあるなど有り得んよ」
「し、しかし万が一の事も……」
弱気な発言を繰り返すルードジークに、シグルンドはため息を漏らさずにはいられなかった。
(全く、こやつの心配性にも困ったものだ。ティリアースがこの国を害することなど、有り得ん事だというに……)
シグルンド王は、王子時代をリーティファ学園で過ごしていた。ティリアースにいる三人の公爵位を持つ王族とも縁を持っている上、今でもこうして交流を続けている。基本的に属国だが、ある程度の自由は与えられている――それがガルアルムという国だった。
「聖黒族の女は強くあらねばならない。特に女王候補の一人ならば尚更だ。ラディンもそれはわかっておるはずだ」
「ですが、他の……中央都市リティアにいる王族や貴族が口を出してくるやも……」
「それこそ有り得ん事よ。あそこはエスリーア公爵夫人の息が掛かった者ばかりで、自分の娘を次期女王にするのに躍起になっている連中ばかりよ。エールティア姫に何かあれば、泣いて喜ぶだろう」
ルードジークはそれでも納得いかないといわんばかりの顔を浮かべている。『もし、万が一――』それが彼の頭の中にちらついてしまうのだ。
(父上にはもっと真剣に取り組んで欲しいものだ。下手をすればこの国の未来が危うくなるというのに……)
シグルンド王はティリアース国内の事情を常に調べており、出来るだけ安全牌切るようにしていた。そんな自信が、学生で縁を作っている最中のルードジークにはわからなかった。
お互いが考え方ですれ違っているが、一つだけ……共通している事があった。
「ティリアースの姫の事はどうとでもなる。問題は……お前の連れてきた男の方だ」
「カイザルの事、ですね。私は彼の事を信頼できる友人だと思っていますが……」
「エールティア姫と接触してしまった時の問題があるな」
シグルンド王の口から、再びため息が零れ落ちた。ガルアルムの貴族が手を出したところで、それらに罪を全て被せ、一族郎党を処罰することで穏便に済ませる事も可能に出来る……のだが、この地方以外の他国の学生が手を出した場合、ガルアルム一国で済まなくなる。
カイザルは貴族ではないが、来年の魔王祭に参加が確定している生徒だ。こういうタイプの生徒は、学園や国からも大切に扱われ、平民といえども迂闊に貴族が手を出すことが出来なくなる。
それだけの力を持っていながら決して驕ることなく、自らの道を進む。そんなカイザルだからこそ、ルードジークは彼に惹かれ、友として接していた。
しかし、保護されるのにも限度がある。あくまで『ある程度』保護されるというだけで、『自由に振舞っても良い』という免罪符ではなかった。
「カイザルは貴族や平民だといった立場には興味を持っていません。それはミスタリクス学園のあるエンドラガン王国ならばいいのですが……」
他国の……しかも他の地方の国で同じような態度を取ってしまった場合、カイザルが辿る道は一つしかない。それをシグルンド王、ルードジークの二人はよくわかっていた。
「ルードジーク。お前の友人から決して目を離すな。必ず監視下に置き、余計な事をしでかさないように見張れ」
「し、しかし……それでは礼を失するというものです。彼は我が国の賓客として――」
「馬鹿者! 同盟国の姫君と他国の平民、どちらが大切なのかわからぬ貴様でもなかろう! 仮に友人を選べば、我らは常に歩み続けてきたティリアースを裏切る事になるのだぞ!?」
「……っ! 申し訳ございません……!」
父親の見たことのないほどの激昂に、ルードジークは思わず頭を下げて謝った。それだけの圧力がシグルンド王から発せられていた。
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苦痛に頭を抱えるシグルンド王の受難は、まだまだ終わる事を知らない。
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