転生姫様の最強学園ライフ! 〜異世界魔王のやりなおし〜

灰色キャット

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148・少女の可能性

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「お兄様、格好良かったにゃー……」
「そうね。あれほどの魔導。中々気軽に使えるものじゃないわ」

 初めて見たベルンの魔導が、あれほどのものとは思いもしなかった。確か……シューリアは『二重魔法デュアルマジック』って呼んでたっけ。二つの魔導を全く同時に放つなんて、私でも出来ない芸当だ。

 二つの魔導を使うときは、どうしても若干のタイムラグがある。少しでも遅れたら間に合わない時もあるし、強化と攻撃をどっちを先にするかによって結果も変わってくる。
 ベルンが最初に繰り出した回避と攻撃を当たる寸前に発動させることで、相手が反撃を避けられないようにも出来る。
 瞬時の判断が物を言う心理戦を有利に進める事も出来るだろう。

「でしょ? お兄様は、私の自慢なんだもの!」

 少し落ち着いたのか、いつもの口調に戻ったリュネーは、ベルンの勝利がかなり嬉しいみたい。
 元々リュネーは肉親以外とあまり仲が良くなかったみたいだし、自然と身内びいきになったんだろう。私だって姉妹が出来たら変わるかもしれない。

「『二重魔法デュアルマジック』を使えるという事は、あの御方は英猫族なのですね」
「うん。お兄様だけが【覚醒】してるからね。私やニンシャは違うけどね」

 才能のある王族が――っていうあれだね。正直、本当にそうだったのかは甚だ疑問だけれど。
 真実としては【覚醒】した者が王として国を設立した……というのが本当のところだろう。じゃなかったら、各地で【覚醒】の報告が上がっている説明がつかない。
 ……なんでそうなってるのか、まではわからないけどね。

「……やっぱり、才能なのかなぁ」

 ぽつりと呟いたレイアは、少し顔に暗い影を落とした。その言葉に、私は何も言うことは出来ない。
 私自身は全く別の異世界から、記憶と能力をそのまま引き継いだうえに、魔力に関してはそこから更に伸びている始末。
 聖黒族という種族自体も相当能力が高いし、実際私自身も【覚醒】済みなんだと思う。

 そんな私が何を言っても、レイアの心にはしっかりと響くことはない。私自身が『特別』な種族なのだから。
 だから、リュネーの「慰めてあげて欲しい」という視線には応じる事は出来なかった。

「確かにそういう部分ありますが、それだけが全て――というわけではない、と私は思います。経験を積んで、力と心を鍛え上げれば……その刃は、いつか必ず届きうると信じています」

 私が何も言えなかった代わりに、雪風が力強く言い切った。雪風の考え方は素晴らしいと思う。もっとも、今私が口にすれば……途端に薄っぺらくなるようなものだけれどね。

「でも……」
「黒竜人族である貴女ならば、可能性はゼロではないはず。ですが、自分の可能性を信じない者に、その時が来ることはありません」

「雪風ちゃんの言う通りだよ。レイアちゃん。頑張って手を伸ばしたから、今があるんじゃないかな? だから、一緒に頑張ろう?」
「二人とも……」

 雪風とリュネーの励ましの言葉に、レイアは少しだけ元気を取り戻したようだけど、やっぱりちらちらと私の事を見てくる。あまり言っても仕方ないと思うけれど、何か期待しているのなら、言わなきゃいけないだろう。

「……レイア。私は持っている者だから、どんな事を言っても説得力の無さが付き纏うでしょう。でも、そんな私でも努力を怠ればただの暗愚に成り果てる事になる。全ては自分次第。貴女がアルフやベルンと同じくらい強くなりたいと願うのなら、自分を信じて頑張りなさい。ね?」
「ティアちゃん……!」

 我ながらよく回る口だとも思うけれど、決して嘘は言ってない。レイアも黒竜人族。例え【覚醒】しなくても、強くなれる術はある。諦めてしまえばそこで全ておしまいだ。
 努力もせず、駄目だ出来ないと叫んで何もしないで輩よりも、その方が私は好きだ。

「おーい、何やってるんだ? 早く帰ろうぜー」

 私達が大切な話をしていた最中に、水を差すような言葉を投げかけてくるフォルスを少しだけ睨むと、彼は戸惑うような顔をして周囲をきょろきょろしていた。

「……なんだか、白けちゃったね」
「全く……行きましょうか」

 リュネーが苦笑いをしていたのを見ながら、ゆっくりとフォルス達の方に向けて歩き出した。

「……がとう、み……」

 か細い声が聞こえてきた気がしたけれど、それを気にしないように歩く。
 ここで聞き直すほど、私も野暮じゃない。レイアの気が少しでも晴れたなら、それでいい。

 もし……アルフとの実力差に思い悩んで振り切れないその時は……私が少しだけ、力を貸してあげよう。
 一人で苦悩して押し潰されそうにならなくてもいい。みんながいる。

「ねぇ、ティアちゃん。もし私がレイアちゃんみたいに悩んでたら、助けてくれる?」

 ちょっと意地悪でも思いついたのか、リュネーがにやにやしてそんな事を言ってきた。何を言い出すかと思えば――

「くだらない。そんな質問、答える必要なんてないじゃない」
「……ティアちゃん。やっぱり人たらしだね」

 リュネーは苦笑いした後、さっさと先に行ってしまった。

「そういう貴女はちょっと意地が悪いんじゃない? 当たり前のことを聞くなんて」

 彼女には聞こえない声でぽつりと呟いて、仕方ないなぁと思う。

 ――助けないわけ、ないじゃない。その時は全力で守ってあげる。だって……大切な友達なんですもの。
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