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188・エスリーア公爵令嬢
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「お久しぶりです。ラディン叔父様」
「久しぶりだね。アルティーナ。以前会った時以上に綺麗になった」
「ありがとうございます」
ドレスの端を摘んで丁寧に挨拶をするアルティーナは、待っていました言わんばかりに私の方を睨んでくる。それだけでため息が漏れそうになる。
「エールティアさん。お久しぶりですね。野蛮な方々とお付き合いされていらっしゃるせいか、少々身体が筋肉質になっているのではないですか?」
「お久しぶりです、アルティーナさん。貴女もパーティーにお呼ばれする事が多いと私の耳にも入っておりますよ。宴を楽しむのはよろしいですが、肉付きが良くなっているように見えますよ?」
言い方は遠回しに。言いたい事は真っ直ぐ伝えて、挑発するように微笑む。それは彼女も同じで、きっと火花がなっていれば火事が起きていただろう。
流石に毎回こういう言い回しは面倒くさいから、最初の一回とだけと決めてある。向こうも同じようだからなんとなく気に入らないけど……つまらない意地張って疲れたくはなかった。
ちらっとアルティーナの隣にいる執事の少年に視線を向ける。黄色い髪に、宝石のように輝く薄黄色の目。身長は私達より頭一つ高くて、少したれ目がちなのが穏やかそうな雰囲気を醸し出している。
「お嬢様。ここには他の方々もいらっしゃいますので――」
「わかってるわ。……ああ、紹介しましょう。彼はフラウス。私の契約スライムなの。そちらは……」
「この子はジュール。私の契約スライムよ」
軽く会釈するジュールに対して、アルティーナは値踏みするような視線を向けてきた。
「随分と貧相な身体をしているけれど……それで本当に【契約】しているのかしらね?」
「なっ……!」
「ジュール、落ち着きなさい。どうせ挑発しか出来ないのだから」
明らかな挑発に憤るジュールの代わりに、私が答えてあげる事にした。
「……随分と言ってくれるじゃない。暴れ――」
「お嬢様」
完全に挑発に乗ったアルティーナを諫めるように、フラウスは強い口調で訴えてきた。
じろっと視線をフラウスに向けたアルティーナは、短く息を吐いて、怒気をひっこめた。どうやら、彼女も良いスライム族と巡り逢えたみたいだ。たったそれだけのやり取りで、二人の信頼関係が伝わってくる。
「はぁ……エールティアさん。貴女と私で王位を争う事になるだろうけれど……私は絶対に負けない。今日はそれだけ伝えておきたかったの。この国の女王になるのは、この私よ」
「ふふっ、貴女と相まみえる……その時が楽しみね」
「……ふんっ。行くわよ、フラウス」
「はい、お嬢様。……それでは皆様、またお会いいたしましょう」
槍のように鋭く突くような口撃を仕掛けてくるアルティーナに、余裕の笑みで返してあげた。私の態度が気に食わなかったのか、ぷいっとそっぽを向いて、そのままフラウスと一緒に宴へと戻っていった。
「なんだか、炎のような人でしたね」
「いっつもあんな感じなのよね。昔っから私の事を目の敵にして」
「ですが、アルティーナ殿下はエールティア様の事、嫌いではなさそうですよ」
「えぇ……そんな事ないでしょう」
雪風の言ってる事が本当だったとしたら、もう少し態度が軟化していても良いはずだ。
だけど、ジュールが感じたのと同じように燃えるように苛烈な女の子で、到底嫌いじゃないとは思えない。
「感情を向けられている本人には、意外とわからぬ物なのですよ」
そういうものなのだろうか……。
だったら、もう少し柔らかな態度で接して欲しいものだ。なんであんなに闘争心を剥き出しにされているのか、私には理解できなかった。
「あの、ラディン様の姿がないのですが……」
きょろきょろとお父様を探していたジュールがぽつりと呟いたけれど、既に知っていた私は、動じることもなく、お父様がいるであろう場所に視線を向けた。
そこには力のある貴族達に囲まれて、優雅にワインを傾けているお父様の姿があった。下手をすれば子供が背伸びしているようにも見えかねないのに、それが当たり前のように上手く溶け込んでいた。
「アルティーナ令嬢とのやり取りは恒例行事みたいなものだから。ほら、あそこで挨拶してる」
「……本当ですね。それで、いいのでしょうか?」
「いいんじゃない。ここで決闘をするほど、彼女も馬鹿じゃないんだし」
こんな祝いの場で揉め事を起こせば、後の活動に大きく支障が出る。その事くらい、彼女だって理解できるはずだ。
「さて、いつもの話も済んだ事だし、私達も他の方々に挨拶して回りましょうか。ほら、話したそうにしている人もいるしね」
私とアルティーナが言い合っているのを遠目で眺めていた他の貴族や、その子息令嬢がこちらを気にするように視線を送っていた。女王様が姿を表すのはもう少し先だろうし、ただ来ただけでは意味がない。
権力なんて物にはあまり興味はないけれど、遠ざける必要も全くない。アルティーナがそうしているように、私も少しは彼らと交流を図った方が良いだろう。
「久しぶりだね。アルティーナ。以前会った時以上に綺麗になった」
「ありがとうございます」
ドレスの端を摘んで丁寧に挨拶をするアルティーナは、待っていました言わんばかりに私の方を睨んでくる。それだけでため息が漏れそうになる。
「エールティアさん。お久しぶりですね。野蛮な方々とお付き合いされていらっしゃるせいか、少々身体が筋肉質になっているのではないですか?」
「お久しぶりです、アルティーナさん。貴女もパーティーにお呼ばれする事が多いと私の耳にも入っておりますよ。宴を楽しむのはよろしいですが、肉付きが良くなっているように見えますよ?」
言い方は遠回しに。言いたい事は真っ直ぐ伝えて、挑発するように微笑む。それは彼女も同じで、きっと火花がなっていれば火事が起きていただろう。
流石に毎回こういう言い回しは面倒くさいから、最初の一回とだけと決めてある。向こうも同じようだからなんとなく気に入らないけど……つまらない意地張って疲れたくはなかった。
ちらっとアルティーナの隣にいる執事の少年に視線を向ける。黄色い髪に、宝石のように輝く薄黄色の目。身長は私達より頭一つ高くて、少したれ目がちなのが穏やかそうな雰囲気を醸し出している。
「お嬢様。ここには他の方々もいらっしゃいますので――」
「わかってるわ。……ああ、紹介しましょう。彼はフラウス。私の契約スライムなの。そちらは……」
「この子はジュール。私の契約スライムよ」
軽く会釈するジュールに対して、アルティーナは値踏みするような視線を向けてきた。
「随分と貧相な身体をしているけれど……それで本当に【契約】しているのかしらね?」
「なっ……!」
「ジュール、落ち着きなさい。どうせ挑発しか出来ないのだから」
明らかな挑発に憤るジュールの代わりに、私が答えてあげる事にした。
「……随分と言ってくれるじゃない。暴れ――」
「お嬢様」
完全に挑発に乗ったアルティーナを諫めるように、フラウスは強い口調で訴えてきた。
じろっと視線をフラウスに向けたアルティーナは、短く息を吐いて、怒気をひっこめた。どうやら、彼女も良いスライム族と巡り逢えたみたいだ。たったそれだけのやり取りで、二人の信頼関係が伝わってくる。
「はぁ……エールティアさん。貴女と私で王位を争う事になるだろうけれど……私は絶対に負けない。今日はそれだけ伝えておきたかったの。この国の女王になるのは、この私よ」
「ふふっ、貴女と相まみえる……その時が楽しみね」
「……ふんっ。行くわよ、フラウス」
「はい、お嬢様。……それでは皆様、またお会いいたしましょう」
槍のように鋭く突くような口撃を仕掛けてくるアルティーナに、余裕の笑みで返してあげた。私の態度が気に食わなかったのか、ぷいっとそっぽを向いて、そのままフラウスと一緒に宴へと戻っていった。
「なんだか、炎のような人でしたね」
「いっつもあんな感じなのよね。昔っから私の事を目の敵にして」
「ですが、アルティーナ殿下はエールティア様の事、嫌いではなさそうですよ」
「えぇ……そんな事ないでしょう」
雪風の言ってる事が本当だったとしたら、もう少し態度が軟化していても良いはずだ。
だけど、ジュールが感じたのと同じように燃えるように苛烈な女の子で、到底嫌いじゃないとは思えない。
「感情を向けられている本人には、意外とわからぬ物なのですよ」
そういうものなのだろうか……。
だったら、もう少し柔らかな態度で接して欲しいものだ。なんであんなに闘争心を剥き出しにされているのか、私には理解できなかった。
「あの、ラディン様の姿がないのですが……」
きょろきょろとお父様を探していたジュールがぽつりと呟いたけれど、既に知っていた私は、動じることもなく、お父様がいるであろう場所に視線を向けた。
そこには力のある貴族達に囲まれて、優雅にワインを傾けているお父様の姿があった。下手をすれば子供が背伸びしているようにも見えかねないのに、それが当たり前のように上手く溶け込んでいた。
「アルティーナ令嬢とのやり取りは恒例行事みたいなものだから。ほら、あそこで挨拶してる」
「……本当ですね。それで、いいのでしょうか?」
「いいんじゃない。ここで決闘をするほど、彼女も馬鹿じゃないんだし」
こんな祝いの場で揉め事を起こせば、後の活動に大きく支障が出る。その事くらい、彼女だって理解できるはずだ。
「さて、いつもの話も済んだ事だし、私達も他の方々に挨拶して回りましょうか。ほら、話したそうにしている人もいるしね」
私とアルティーナが言い合っているのを遠目で眺めていた他の貴族や、その子息令嬢がこちらを気にするように視線を送っていた。女王様が姿を表すのはもう少し先だろうし、ただ来ただけでは意味がない。
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