転生姫様の最強学園ライフ! 〜異世界魔王のやりなおし〜

灰色キャット

文字の大きさ
236 / 676

236・隠密部隊(フィンナside)

しおりを挟む
 ティリアースの王都リティアは夜でも眠らない場所が存在する。繁華街の真逆に位置するそこは、大人の為の夜の街。男は女と熱い夜を過ごし、女は男と一夜の夢を見る。

 そんな光景を、屋根の上で眺めていたフィンナは汚らわしいと感じていた。
 必要な事なのは理解できるが、それでも彼女は妹のフォロウと一緒にソコに売られかけたという事実が、襲いかかってくる。子供を拐い、親からは金を要求し、子供は違法奴隷として売り払う……。そんな組織に捕まった事をどれだけ呪ったかわからない。

 絶望の中にいた彼女達を助けたのは……アルファスを領地にしているラディン・リシュファス公爵だった。
 瞬く間に違法組織の男達を制圧したその手腕は、今でもフィンナの心の中に残っている。

「隊長、全員揃いました」

 頭の中で昔のことを思い出していたフィンナを現実に引き戻したのは、彼女よりも幼い、黒髪の魔人族の少年だった。
 かつてエールティアを殺そうとした少年であり、現在はフィンナの下で隠密のいろはを教わっている最中だった。

「遅いです」
「だ、だけど――」
「言い訳無用です。行動が遅かった結果、見つかりでもしたら、どう責任取るです? これなら、一人の方が十分です」

 ため息混じりに息を吐いたフィンナは、ジロリと少年を見つめ、周囲に潜んでいるであろう他の隠密達にも視線を向ける。
 拙い気配の隠し方。どこにいるのか一目でわかる程の下手な潜み方。

 そのどれもが、フィンナを呆れさせるには十分だった。

「それで気配隠してるつもりです? 指摘された途端に息を乱すなです。その隣は、なんで屋根に樽があるです? あり得ないものに隠れるなです」

 次々と言い当てられ、隠れていた子達次々と現れる。それを見てフィンナはため息吐く。

「揃いもそろってこの体たらくは何です? 私達はこれから、エスリーア公爵家に潜入するのです。これじゃ、捕まりにいくようなものです」

 フィンナ達の役目は一つ。エスリーア公爵家の不正の情報を入手し、それをラディンに伝える事だ。本来は彼女一人で行う予定だったのを、少年達が頭を下げて同行させてもらっていたのだが……。

「俺達だって一生懸命――」
「一生懸命やったから失敗してもしょうがないです? 達の仕事――ナメてるんです?」

 静かに威圧するフィンナに怖気づいた少年達は身体を硬直させてしまった。
 だがそれも無理もない。彼らは最低限の殺し技術を叩きこまれただけの捨て駒で、気配を隠すなんてことは素人同然だからだ。

「……すみません」
「お前達も命を救われて、それに報いたいというのなら、もっと命がけでやるです」
「……わかってるさ」

 ぷるぷると震える拳は悔しさによるものだ。少年はエールティアに助けられた事に感謝していた。だからこそ、少しでも報いる為に隠密として切磋琢磨している……のだが、フィンナにぼこぼこにされてかなりへこんでいた。
 もちろん、それで感情が揺らぐようなフィンナではないのだが。

は任務をこなすです。お前達は互いに隠れ鬼をやるです」
「またあれかー……。あんな遊び何になるんだ?」

 かくれんぼなのだが、今それが必要あるのか? と疑問を浮かべたような表情をしている少年に、フィンナは再びため息をついた。

「隠れる方は隠密行動。見つける方は気配を察知する能力を身に着けられるです。本気の隠れ鬼をし続ければ、良い修行になるです」
「……そうか。ただ遊びを教えてくれただけなのかと思っていた」
とフォーがそんな事を教える訳ないです。全部お前達の修行です。しっかりやるです」
「わ、わかった」
「それじゃあ、は行くです。お前達は絶対に……絶対に! 付いてくるなです」

 フィンナが念押しするのは、それだけ自分の仕事に誇りを持っているからだ。
 少年達の事をお荷物としてしか思っていないフィンナにとって、自らの仕事を邪魔されることは耐え難い屈辱だった。

 彼女にとって、エールティアの隠密を鍛え上げることなど二の次であり、最も優先すべき事はラディンの命じられた仕事を正確に、迅速にこなす事だった。

「言われなくてもわかってるよ。あん――師匠の仕事の邪魔は絶対にしない。そういう約束でついてきたんだからな」
「良い返事です。も時間が空いたら、出来る限り面倒見てやるです。だけど、少しは根性見せろです」

 少しだけ不敵に笑ったフィンナは、言うだけ言うと夜闇に溶け込む。少年達に、まるでこれがお手本だと言うかのように目の前から堂々と走り去る彼女は、ふと気付いた事があった。

(そういえば、少年達の名前を聞いてなかったです。……まあ、もう少し腕を磨いてもらわないと名前を覚えるのに値しないですが。それより仕事をこなす方が先決です)

 一応、弟子として教えているのだから名前くらい知っておいた方がいいだろう、と思ったフィンナだったが、すぐに思いなおすことにした。少年達に名前を聞きだす機会くらいこの先いくらでもある。今は与えられた仕事を忠実にこなそう。そう、心の中で思いながら、夜の屋根を駆け抜けるのであった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...