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261・エスリーア家の妹令嬢
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アルティーナがここに暮らし始めてから、更に数日。今はペストラの12の日。去年は諸外国に旅行をしに行ったのだけれど、流石に今はそんな事をしている場合じゃない。
とは言っても、アルティーナに関わっても悪い事が起きそうだし、だからといって何をする訳でもない。
仕方がないから宿題に、読書に町の散策と学園がお休みの時にするような事ばかりしていた。
ジュールは夏休みだからとウォルカと一緒に雪風と訓練しているし、リュネーは事の顛末を報告する為にシルケットに戻った。
レイアはアルフとの戦いに向けて自主トレーニングをするって言ってたし、フォルスは鍛治の勉強の為に北の方に行ってくるって言ってたっけ。
アルティーナは自室。フラウスは修行しているジュールの代わりに執事として働いている。
つまりみんなやる事があって、そんな中私は本当に一人になってしまったというわけだ。
仕方がないから、今日も暇を潰す為に何かお菓子を作ってみようかな……なんて思っていると――
「エールティアねーさまー! アルティーナお姉様ー!!」
どこか聞き覚えのある声が大きく響き渡ってきた。部屋の方まで聞こえてくる。ついでに、ちょっと乱暴に扉を開く音も。流石にドタバタ音は聞こえてこないけれど、気になった私は、ホールの方に足を進める事にした。
――
「アルティーナお姉様……会いたかったですぅー」
「ちょ、っと、苦しいから、はな……れてっ!」
ホールの中央で、苦しそうなアルティーナをぎゅーっと抱きしめている小さな女の子がいた。久しぶりに出会うミシェナ姫だ。
離れて、なんて言っても、力ずくな手段は取っていない。なんだかんだいっても嬉しいんだろう。
……まぁ、半泣き状態のミシェナを無理矢理離そうだなんて出来ないんだろうけど。
「あ、エールティアねーさま!」
ひとしきり再会の抱擁を楽しんだミシェナは、こちらに気付いた様子でとことこと近付いてきた。一般的な民だと、大体初等部の三年生ってところかな。
聖黒族特有の黒い髪と白い目は、純粋さも合わさって綺麗に見える。
そのまま私に向かって飛びついて来たミシェナを抱き止めると、そのまま強く抱きしめてきた。
「久しぶりですね。元気にしていましたか?」
「そんな他人行儀な態度はやめて下さい。私、悲しくなってしまいます」
全くそう思ってないのは顔を見ればわかるけれど、本当に元気でよかった。
ふとアルティーナの方に視線を向けると、何か言いたそうにこっちを見ていた。結局何も言わずに視線を逸らしたけど。
「相変わらずねーさま達は仲が悪いんですね。アルティーナお姉様なんて、前はエールティアねーさまの事をよくお話ししてくれたのに……」
「ちょ、ちょっと! あまり変なこと言わないで! 私が!? エールティアさんを!? じょ、冗談じゃないわ!!」
ミシェナが頬を膨らませて文句を言うと、顔を真っ赤にして怒りながら否定するアルティーナ。
……そんなに必死だと、逆に本当のように思えてくる。
「いつもエールティアねーさまが相手をしてくれなくて悔しいって――」
「どこでそんな嘘を仕入れてきたのか知らないけれど、全部デタラメ! 良いわね!? エールティアさん!」
キッとこっちを鋭く睨むアルティーナだけど、そう言う事はミシェナの方に言って欲しい。いいとばっちりだ。
……なんだか、それで言う事を聞くのはあまり面白くない。本当なら傷心の彼女を気遣った方が良いんだろうけど……。
「わかった。デタラメ、ね。よく覚えておくわ」
「あ、その顔! 全然信じてないわね! 本当なんだから!」
いつもの外行き用の言葉遣いじゃない、彼女本来の姿を見る事が出来た気がして……思わず表情に出してしまった。
「ふふ、ふふふふ……う、ふ、うっ……ひぐ、ぐすっ……」
相変わらず顔を真っ赤にしているアルティーナに、ちょっとニヤニヤしている私。そんな二人に囲まれたような状態になっているミシェナ。彼女は、笑いながらも涙を流していた。
辛かったのか、悲しかったのか……それとも、またアルティーナと再会出来たのが嬉しかったのか。それはわからない。
だけど、少なくとも今流している彼女の涙は、決して悪いものではない。
それだけははっきりわかった。
だから、背中をぽんぽん、と軽く叩いてあやしてあげる。静かに、噛み締めるように泣いているミシェナに気付いたアルティーナも、それ以上は怒ったりせずにじっとミシェナを見ていた。
「よしよし、ミシェナ。今はいっぱい泣いていいから。その後はまた、笑顔を見せてね?」
「う、ううっ、ぐずっ、はいぃぃっ……!」
律儀に返事をしてくれるミシェナは、私の服の胸元を握りしめて、遠慮なく顔を埋めるように泣いた。
……少しはお母様に近づけただろうか? あの時のアルティーナとは違うけれど、同じように涙を流すミシェナの心を、少しは救う事が出来ただろうか。
それはわからないけれど……ミシェナが泣き止むまではこうしてあげたい。そんな気持ちで胸がいっぱいになる。
こんな感情も、意外と悪くはなかった。
とは言っても、アルティーナに関わっても悪い事が起きそうだし、だからといって何をする訳でもない。
仕方がないから宿題に、読書に町の散策と学園がお休みの時にするような事ばかりしていた。
ジュールは夏休みだからとウォルカと一緒に雪風と訓練しているし、リュネーは事の顛末を報告する為にシルケットに戻った。
レイアはアルフとの戦いに向けて自主トレーニングをするって言ってたし、フォルスは鍛治の勉強の為に北の方に行ってくるって言ってたっけ。
アルティーナは自室。フラウスは修行しているジュールの代わりに執事として働いている。
つまりみんなやる事があって、そんな中私は本当に一人になってしまったというわけだ。
仕方がないから、今日も暇を潰す為に何かお菓子を作ってみようかな……なんて思っていると――
「エールティアねーさまー! アルティーナお姉様ー!!」
どこか聞き覚えのある声が大きく響き渡ってきた。部屋の方まで聞こえてくる。ついでに、ちょっと乱暴に扉を開く音も。流石にドタバタ音は聞こえてこないけれど、気になった私は、ホールの方に足を進める事にした。
――
「アルティーナお姉様……会いたかったですぅー」
「ちょ、っと、苦しいから、はな……れてっ!」
ホールの中央で、苦しそうなアルティーナをぎゅーっと抱きしめている小さな女の子がいた。久しぶりに出会うミシェナ姫だ。
離れて、なんて言っても、力ずくな手段は取っていない。なんだかんだいっても嬉しいんだろう。
……まぁ、半泣き状態のミシェナを無理矢理離そうだなんて出来ないんだろうけど。
「あ、エールティアねーさま!」
ひとしきり再会の抱擁を楽しんだミシェナは、こちらに気付いた様子でとことこと近付いてきた。一般的な民だと、大体初等部の三年生ってところかな。
聖黒族特有の黒い髪と白い目は、純粋さも合わさって綺麗に見える。
そのまま私に向かって飛びついて来たミシェナを抱き止めると、そのまま強く抱きしめてきた。
「久しぶりですね。元気にしていましたか?」
「そんな他人行儀な態度はやめて下さい。私、悲しくなってしまいます」
全くそう思ってないのは顔を見ればわかるけれど、本当に元気でよかった。
ふとアルティーナの方に視線を向けると、何か言いたそうにこっちを見ていた。結局何も言わずに視線を逸らしたけど。
「相変わらずねーさま達は仲が悪いんですね。アルティーナお姉様なんて、前はエールティアねーさまの事をよくお話ししてくれたのに……」
「ちょ、ちょっと! あまり変なこと言わないで! 私が!? エールティアさんを!? じょ、冗談じゃないわ!!」
ミシェナが頬を膨らませて文句を言うと、顔を真っ赤にして怒りながら否定するアルティーナ。
……そんなに必死だと、逆に本当のように思えてくる。
「いつもエールティアねーさまが相手をしてくれなくて悔しいって――」
「どこでそんな嘘を仕入れてきたのか知らないけれど、全部デタラメ! 良いわね!? エールティアさん!」
キッとこっちを鋭く睨むアルティーナだけど、そう言う事はミシェナの方に言って欲しい。いいとばっちりだ。
……なんだか、それで言う事を聞くのはあまり面白くない。本当なら傷心の彼女を気遣った方が良いんだろうけど……。
「わかった。デタラメ、ね。よく覚えておくわ」
「あ、その顔! 全然信じてないわね! 本当なんだから!」
いつもの外行き用の言葉遣いじゃない、彼女本来の姿を見る事が出来た気がして……思わず表情に出してしまった。
「ふふ、ふふふふ……う、ふ、うっ……ひぐ、ぐすっ……」
相変わらず顔を真っ赤にしているアルティーナに、ちょっとニヤニヤしている私。そんな二人に囲まれたような状態になっているミシェナ。彼女は、笑いながらも涙を流していた。
辛かったのか、悲しかったのか……それとも、またアルティーナと再会出来たのが嬉しかったのか。それはわからない。
だけど、少なくとも今流している彼女の涙は、決して悪いものではない。
それだけははっきりわかった。
だから、背中をぽんぽん、と軽く叩いてあやしてあげる。静かに、噛み締めるように泣いているミシェナに気付いたアルティーナも、それ以上は怒ったりせずにじっとミシェナを見ていた。
「よしよし、ミシェナ。今はいっぱい泣いていいから。その後はまた、笑顔を見せてね?」
「う、ううっ、ぐずっ、はいぃぃっ……!」
律儀に返事をしてくれるミシェナは、私の服の胸元を握りしめて、遠慮なく顔を埋めるように泣いた。
……少しはお母様に近づけただろうか? あの時のアルティーナとは違うけれど、同じように涙を流すミシェナの心を、少しは救う事が出来ただろうか。
それはわからないけれど……ミシェナが泣き止むまではこうしてあげたい。そんな気持ちで胸がいっぱいになる。
こんな感情も、意外と悪くはなかった。
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