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274・圧勝の姫君
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『さあて両者の舌戦に盛り上がってきたぞ! 会場の方も十分温まってきたし、リディーク決闘官、後はよろしく!』
『……両者、準備も宜しいという事で、試合開始です!』
「いっくぜぇぇぇぇ!!」
司会側の開始宣言と同時に大きな声を上げながら、ドシドシと巨大な戦斧を振り回して迫ってきた。
本人はかなり本気なんだろうけど……いかんせん、実力が違いすぎる。
私にとってそれは、ゆっくり歩いてきているのと同じだ。
『おや? エールティア選手、棒立ちだ! このままでじゃ、あっという間に決着だぞ!』
実況の言葉により笑みを深めたアガムの斧が真っ直ぐ私に振り下ろされて――ギリギリ当たらない位置まで移動して、更に距離を詰める。私の動きに全くついていけていないアガムは、反応できずにそのまま拳を鳩尾に叩き込んであげる。
「ぐおぉっ……!?」
なす術なく地に這いつくばったアガムの頭を蹴飛ばしてやると、会場の端にごろごろと無様に転がっていった。
武器も地面に深々と突き刺さって、あっさりと主人の手から離れているし、やはり大した事なかったか。
『な、な、ななな、なにが起こったんだぁぁぁ!? 全く見えなかったぞぉぉぉ!』
実況席と観客席から一斉に大きな声が上がる。彼らからしてみたら、いきなり苦しみながら地面に足を付けた挙句、蹴られたと同時に壁の方まで転がっていったのだから仕方がないだろう。
『……アガム選手、戦闘不能。勝者、エールティア・リシュファス!!』
響き渡る声援に、片手を上げて返す。なんというか、かなり拍子抜けだったけれど、予選なのだから所詮この程度なのだろう。
この調子なら、予選での鬼門は……間違いなく雪風になるだろう。なら、楽しみ待とうかな。しばらくはこの退屈な決闘が続くとしても、ね。
――
それから数日が経過して……予選は想像以上に順調だった。
……まあ、私と雪風があっという間に決闘相手を倒してしまうからなのだけど。
アガムよりはマシ程度の連中じゃ、どうしようもない。私と一合以上交そうというのなら、もう少しまともになってから出直してきて欲しいくらいだ。
雪風の方も同じように感じていたのか、決闘が終わった後でもどこか物足りない表情を浮かべていた。やっぱり、彼女も鬼人族の武士ということだ。普段は自分の信念の貫くように刃を振るっていても、強敵と戦いたいという欲求が高まってくると、僅かに表面に現れる。
それを満足させてあげられるのは、きっと私くらいしかいないだろう。……なんて、ね。
『さぁ、とうとう魔王祭予選の最後の試合だ! 泣いても笑ってもこれに勝利した選手が本選へと足を進める事が出来るぞ!』
勝ち抜いて辿り着いた予選の決勝戦。私はいつも以上に頭が冴えていくのを感じていた。それはアガムやそれ以外の連中の時とは違う。精神が研ぎ澄まされていく感覚だ。
今から戦うのは、私が良く知っている相手。私に憧れて、側にいる為にお父様に果敢に立ち向かった鬼武者。相手に相応しくない訳がない。
『まずは様々な相手を瞬殺してきた、正に最強に相応しい実力を備えているエールティア・リシュファス選手ぅぅぅぅ!!!』
わぁぁぁぁぁっ!! と大きな歓声と共に会場へと入った私は、観客席の全員に応えるように淑女として笑みを浮かべた。
「エールティアちゃぁぁん! 頑張ってねぇぇぇ!」
聞き慣れた声が聞こえて、そちらに視線を向けると――案の定ニュンターが護衛を引き連れて貴賓席にいた。
それに気づいた観客席の何人かが驚いた表情を浮かべていたけれど……まあ、大体内容は予想がつく。
『対しましては……エールティア選手が連れてきた鬼人族の武士! 数々の敵を薙ぎ払い、この場に立つが、主に刃を向ける事が果たして出来るのか!? 雪風・桜咲選手だぁぁぁぁ!!』
湧き上がる大興奮の歓声と共に現れたのは、鬼人族の礼服を着込んでいた。袴に淡い桜色の上衣を着て、麗人と言った感じだ。白に良く映える色だと思う。
歓声を受けても、その凛とした表情は崩れることなく、視線は私の方を……いや、今一瞬違うところを見ていた。あれは……司会・実況席の方だ。
「エールティア様」
「……雪風。言っておくけど、手加減なんて必要ないからね」
「わかっておりますよ。貴方様と戦う以上、僕も全力でお相手致しますよ」
「そう。良かった」
にっこりと微笑んだ私には、既に彼女が抜いた刀が首を刎ねようと一閃しているのが見えていた。
それを薄皮一枚で回避して、余裕の笑みを返す。
『ゆ、雪風選手! 開始は未だ……!』
「構わないわ」
慌てて止めようとする司会に首を振ってそれを制する。
「このまま続けさせて」
『だ、だけど――』
『決闘開始。……これでいい。だろ?』
リディーク決闘官の方は、わかってくれたかのように決闘開始の合図を出してくれた。しかも、既に魔王祭本選で使う魔導具を起動させているおまけつきだ。
多分、雪風の殺気に当てられるように魔導具の準備をしていたのだろう。魔王祭で見慣れた結界があったしね。粋な計らいとして受け取っておこう。
私と雪風の間に、お行儀の良い『決闘開始』なんて必要ない。ひりつくような戦いこそ始まりの鐘。後は……どちらが上か、徹底的に叩きこんであげるだけだ。
『……両者、準備も宜しいという事で、試合開始です!』
「いっくぜぇぇぇぇ!!」
司会側の開始宣言と同時に大きな声を上げながら、ドシドシと巨大な戦斧を振り回して迫ってきた。
本人はかなり本気なんだろうけど……いかんせん、実力が違いすぎる。
私にとってそれは、ゆっくり歩いてきているのと同じだ。
『おや? エールティア選手、棒立ちだ! このままでじゃ、あっという間に決着だぞ!』
実況の言葉により笑みを深めたアガムの斧が真っ直ぐ私に振り下ろされて――ギリギリ当たらない位置まで移動して、更に距離を詰める。私の動きに全くついていけていないアガムは、反応できずにそのまま拳を鳩尾に叩き込んであげる。
「ぐおぉっ……!?」
なす術なく地に這いつくばったアガムの頭を蹴飛ばしてやると、会場の端にごろごろと無様に転がっていった。
武器も地面に深々と突き刺さって、あっさりと主人の手から離れているし、やはり大した事なかったか。
『な、な、ななな、なにが起こったんだぁぁぁ!? 全く見えなかったぞぉぉぉ!』
実況席と観客席から一斉に大きな声が上がる。彼らからしてみたら、いきなり苦しみながら地面に足を付けた挙句、蹴られたと同時に壁の方まで転がっていったのだから仕方がないだろう。
『……アガム選手、戦闘不能。勝者、エールティア・リシュファス!!』
響き渡る声援に、片手を上げて返す。なんというか、かなり拍子抜けだったけれど、予選なのだから所詮この程度なのだろう。
この調子なら、予選での鬼門は……間違いなく雪風になるだろう。なら、楽しみ待とうかな。しばらくはこの退屈な決闘が続くとしても、ね。
――
それから数日が経過して……予選は想像以上に順調だった。
……まあ、私と雪風があっという間に決闘相手を倒してしまうからなのだけど。
アガムよりはマシ程度の連中じゃ、どうしようもない。私と一合以上交そうというのなら、もう少しまともになってから出直してきて欲しいくらいだ。
雪風の方も同じように感じていたのか、決闘が終わった後でもどこか物足りない表情を浮かべていた。やっぱり、彼女も鬼人族の武士ということだ。普段は自分の信念の貫くように刃を振るっていても、強敵と戦いたいという欲求が高まってくると、僅かに表面に現れる。
それを満足させてあげられるのは、きっと私くらいしかいないだろう。……なんて、ね。
『さぁ、とうとう魔王祭予選の最後の試合だ! 泣いても笑ってもこれに勝利した選手が本選へと足を進める事が出来るぞ!』
勝ち抜いて辿り着いた予選の決勝戦。私はいつも以上に頭が冴えていくのを感じていた。それはアガムやそれ以外の連中の時とは違う。精神が研ぎ澄まされていく感覚だ。
今から戦うのは、私が良く知っている相手。私に憧れて、側にいる為にお父様に果敢に立ち向かった鬼武者。相手に相応しくない訳がない。
『まずは様々な相手を瞬殺してきた、正に最強に相応しい実力を備えているエールティア・リシュファス選手ぅぅぅぅ!!!』
わぁぁぁぁぁっ!! と大きな歓声と共に会場へと入った私は、観客席の全員に応えるように淑女として笑みを浮かべた。
「エールティアちゃぁぁん! 頑張ってねぇぇぇ!」
聞き慣れた声が聞こえて、そちらに視線を向けると――案の定ニュンターが護衛を引き連れて貴賓席にいた。
それに気づいた観客席の何人かが驚いた表情を浮かべていたけれど……まあ、大体内容は予想がつく。
『対しましては……エールティア選手が連れてきた鬼人族の武士! 数々の敵を薙ぎ払い、この場に立つが、主に刃を向ける事が果たして出来るのか!? 雪風・桜咲選手だぁぁぁぁ!!』
湧き上がる大興奮の歓声と共に現れたのは、鬼人族の礼服を着込んでいた。袴に淡い桜色の上衣を着て、麗人と言った感じだ。白に良く映える色だと思う。
歓声を受けても、その凛とした表情は崩れることなく、視線は私の方を……いや、今一瞬違うところを見ていた。あれは……司会・実況席の方だ。
「エールティア様」
「……雪風。言っておくけど、手加減なんて必要ないからね」
「わかっておりますよ。貴方様と戦う以上、僕も全力でお相手致しますよ」
「そう。良かった」
にっこりと微笑んだ私には、既に彼女が抜いた刀が首を刎ねようと一閃しているのが見えていた。
それを薄皮一枚で回避して、余裕の笑みを返す。
『ゆ、雪風選手! 開始は未だ……!』
「構わないわ」
慌てて止めようとする司会に首を振ってそれを制する。
「このまま続けさせて」
『だ、だけど――』
『決闘開始。……これでいい。だろ?』
リディーク決闘官の方は、わかってくれたかのように決闘開始の合図を出してくれた。しかも、既に魔王祭本選で使う魔導具を起動させているおまけつきだ。
多分、雪風の殺気に当てられるように魔導具の準備をしていたのだろう。魔王祭で見慣れた結界があったしね。粋な計らいとして受け取っておこう。
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