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287・戦いの証明
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「……なるほどね」
ジュールの決闘を最後まで見た私の感想は、至ってシンプルだった。
ちらりと雪風の方を見ると、彼女も真剣な表情で画面を食い入るように見つめていた。
そこには先程まで魔導を立て続けに放っていたジュールが、まだ会場から歓声を浴びていた。
確かに、あれだけ魔導を連発して倒せるなら、見栄えもいいだろう。まさか雪風との稽古があまり役に立ってないとは思わなかったけれど。
「あの子……ほとんど剣を使ってなかったけれど、雪風に稽古つけて貰ったのよね?」
今回一番気になっていた事を聞いてみると、雪風はむしろ当然だと言うかのような顔をしていて、尚更首を傾げてしまう。
「彼女には剣術の才能がほとんど感じられませんでした。ですから、守りにのみ重点を置いて教えました。今回の戦いはそれが現れた形となりました」
先程の決闘を脳内で再生しているのだろう。画面を見つめたまま、考え事をしているように見えた。
「エールティア様はどう思われますか? 全体的に、彼女を見て」
雪風の問いに対して、私が口にする言葉は最初から決まっている。
今回、ジュールは新しい可能性を見せてくれた。ただ剣で斬り合っている時よりもずっと動きが良かった。戦闘中も焦らずにイメージを続けて魔導を放つ訓練を積んだのだろう。多少焦りは見えたけれど、あの決闘に関して言えば誤差の範囲内だろう。
だけど――
「まだまだ詰めが甘いわね。魔導の選択、放つタイミング。今のままでは魔王祭での戦いには勝ち抜けないでしょう」
「厳しいお言葉ですね。ですが……僕も仰る通りだと思います。彼女はようやく成長を始めた途中。この戦いを勝ち抜くにはまだ未熟でしょう」
やはり、雪風の目から見ても同じ意見だったか。
彼女はいずれ、ファリスと当たる。今のあの子の実力ではファリスにどれだけ迫る事が出来るか……。
決闘の内容はそれほど悪くないから、尚更惜しい。ファリスが何を考えているかわからないけれど、少なくとも彼女との決闘では何も得られないだろう。
成長に繋がる戦いを少しでも積ませてあげたい。それは親心にも似た感情なのだろう。
出来ればジュールには、強敵との戦いで何かを掴んで欲しかった。だからそれが出来そうな――雪雨やアルフと戦ってくれるのが一番理想だったのだ。
「やっぱり、なんでも思う通りには出来ないって事なのかしらね」
ため息が漏れそうになるけれどこればっかりは私でもどうしようもない。
せめて、何か教えてあげれたら――
「……エールティア様。僕も貴女様にお仕えしている身。だからこそ、言わせていただきたい事がございます」
なんでか改まった言い方をしてるけれど、急にどうしたんだろう?
「エールティア様は些か、考えすぎです。ジュールは確かに今回の魔王祭で花を咲かせる事はないでしょう。ですが、それにあまり思い悩まれるのは貴女様の悪い癖です。甘やかす事と手助けをする事――それは非常に似ていて、違う事なのですよ」
まっすぐ私の事を見ている雪風は、いつになく真剣な表情だ。甘やかす――私は、ジュールを甘やかしているのだろうか? ……改めて思い返しても、むしろ厳しかったような気がする。
「言ってもそんなに優しい事はしなかったと思うけれど」
「今、『せめて何か出来たら……』なんて思いませんでしたか?」
一瞬、心を読まれたのかと思ったけれど、多分顔に出ていたのだろう。
「あの女王の後継者を決める決闘の時もそうでしたが、エールティア様は妙に優しい。だからこそ、あのように不器用な事をしてしまうのです。時には他人の成長を信じ、何もせずに見守るのも必要なのですよ」
「見守る……ね」
確かに、今のジュールをどうにかするのは難しい。別に手助け出来ない訳じゃないけれど……それをしたら、彼女の為にもならない――そういう事だろう。
なら、私がするべきことは、ジュールを信じて自分の事を第一に考える事だろう。
「……ありがとう。雪風。私も他人の事を考えてる場合じゃないわね」
「その通りです。ただでさえ貴女様が背負っている荷物は重くて大きい。他者を気遣うのは美徳ですが、民を導く者として、時には真っ直ぐに前だけを見る事も大事です」
あまり諭されると、自分の不甲斐なさを思い知らされるようだ。
だけど、やっぱりこの世界は面白い。こんなにも私の事を思ってくれる人が大勢いるのだから。
「肝に銘じておくわ。……それじゃあ、今日はそろそろ帰りましょうか」
既に会場は観客も少なくなっていて、次の日の準備をしているようだった。
これ以上、ここにいても仕方ないし、私達も明日に備えて宿に戻って休むとしよう。
……まあ、明日も私、試合はないんだけどね。
「そうですね。これ以上ここに留まる理由もないでしょう。明日の決闘も楽しみですね」
「そうね」
とは言っても、魔王祭の序盤だからそんなに期待できる対戦カードはないんだけどね。
流石に最初っから本命同士が戦いあうなんて早々起こることじゃない。序盤ばっかり盛り上がって、中盤と終盤に盛り上がりに欠けるような事になったら、困るだろうしね。
ジュールの決闘を最後まで見た私の感想は、至ってシンプルだった。
ちらりと雪風の方を見ると、彼女も真剣な表情で画面を食い入るように見つめていた。
そこには先程まで魔導を立て続けに放っていたジュールが、まだ会場から歓声を浴びていた。
確かに、あれだけ魔導を連発して倒せるなら、見栄えもいいだろう。まさか雪風との稽古があまり役に立ってないとは思わなかったけれど。
「あの子……ほとんど剣を使ってなかったけれど、雪風に稽古つけて貰ったのよね?」
今回一番気になっていた事を聞いてみると、雪風はむしろ当然だと言うかのような顔をしていて、尚更首を傾げてしまう。
「彼女には剣術の才能がほとんど感じられませんでした。ですから、守りにのみ重点を置いて教えました。今回の戦いはそれが現れた形となりました」
先程の決闘を脳内で再生しているのだろう。画面を見つめたまま、考え事をしているように見えた。
「エールティア様はどう思われますか? 全体的に、彼女を見て」
雪風の問いに対して、私が口にする言葉は最初から決まっている。
今回、ジュールは新しい可能性を見せてくれた。ただ剣で斬り合っている時よりもずっと動きが良かった。戦闘中も焦らずにイメージを続けて魔導を放つ訓練を積んだのだろう。多少焦りは見えたけれど、あの決闘に関して言えば誤差の範囲内だろう。
だけど――
「まだまだ詰めが甘いわね。魔導の選択、放つタイミング。今のままでは魔王祭での戦いには勝ち抜けないでしょう」
「厳しいお言葉ですね。ですが……僕も仰る通りだと思います。彼女はようやく成長を始めた途中。この戦いを勝ち抜くにはまだ未熟でしょう」
やはり、雪風の目から見ても同じ意見だったか。
彼女はいずれ、ファリスと当たる。今のあの子の実力ではファリスにどれだけ迫る事が出来るか……。
決闘の内容はそれほど悪くないから、尚更惜しい。ファリスが何を考えているかわからないけれど、少なくとも彼女との決闘では何も得られないだろう。
成長に繋がる戦いを少しでも積ませてあげたい。それは親心にも似た感情なのだろう。
出来ればジュールには、強敵との戦いで何かを掴んで欲しかった。だからそれが出来そうな――雪雨やアルフと戦ってくれるのが一番理想だったのだ。
「やっぱり、なんでも思う通りには出来ないって事なのかしらね」
ため息が漏れそうになるけれどこればっかりは私でもどうしようもない。
せめて、何か教えてあげれたら――
「……エールティア様。僕も貴女様にお仕えしている身。だからこそ、言わせていただきたい事がございます」
なんでか改まった言い方をしてるけれど、急にどうしたんだろう?
「エールティア様は些か、考えすぎです。ジュールは確かに今回の魔王祭で花を咲かせる事はないでしょう。ですが、それにあまり思い悩まれるのは貴女様の悪い癖です。甘やかす事と手助けをする事――それは非常に似ていて、違う事なのですよ」
まっすぐ私の事を見ている雪風は、いつになく真剣な表情だ。甘やかす――私は、ジュールを甘やかしているのだろうか? ……改めて思い返しても、むしろ厳しかったような気がする。
「言ってもそんなに優しい事はしなかったと思うけれど」
「今、『せめて何か出来たら……』なんて思いませんでしたか?」
一瞬、心を読まれたのかと思ったけれど、多分顔に出ていたのだろう。
「あの女王の後継者を決める決闘の時もそうでしたが、エールティア様は妙に優しい。だからこそ、あのように不器用な事をしてしまうのです。時には他人の成長を信じ、何もせずに見守るのも必要なのですよ」
「見守る……ね」
確かに、今のジュールをどうにかするのは難しい。別に手助け出来ない訳じゃないけれど……それをしたら、彼女の為にもならない――そういう事だろう。
なら、私がするべきことは、ジュールを信じて自分の事を第一に考える事だろう。
「……ありがとう。雪風。私も他人の事を考えてる場合じゃないわね」
「その通りです。ただでさえ貴女様が背負っている荷物は重くて大きい。他者を気遣うのは美徳ですが、民を導く者として、時には真っ直ぐに前だけを見る事も大事です」
あまり諭されると、自分の不甲斐なさを思い知らされるようだ。
だけど、やっぱりこの世界は面白い。こんなにも私の事を思ってくれる人が大勢いるのだから。
「肝に銘じておくわ。……それじゃあ、今日はそろそろ帰りましょうか」
既に会場は観客も少なくなっていて、次の日の準備をしているようだった。
これ以上、ここにいても仕方ないし、私達も明日に備えて宿に戻って休むとしよう。
……まあ、明日も私、試合はないんだけどね。
「そうですね。これ以上ここに留まる理由もないでしょう。明日の決闘も楽しみですね」
「そうね」
とは言っても、魔王祭の序盤だからそんなに期待できる対戦カードはないんだけどね。
流石に最初っから本命同士が戦いあうなんて早々起こることじゃない。序盤ばっかり盛り上がって、中盤と終盤に盛り上がりに欠けるような事になったら、困るだろうしね。
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