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333・心溢れる感謝

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 ひとまずローランの為に別室を確保して、彼にはそこに移ってもらった。そして今、私は戻ってきた雪風と話し合いをしていた。

「――それで、ローラン殿と協力する事になった……という訳ですか」

 呆れるような声だけど、顔は「仕方がないですね」と言いたそうだ。雪風も私の事がわかっているだろうしね。

「ですが、お一人でダークエルフ族と事を構えるのは反対です。エールティア様も知っておいででしょう?」

 強めの口調で諫めてきた彼女の言い分もわかる。ダークエルフ族は聖黒族の怨敵だ。初代魔王様以降の歴史でも度々彼らの名前は出てくる。
 現在の魔物を造ったのも彼らだし、血を絶やそうと赤ん坊を殺した事もあった。

 世界の嫌われ者。エルフ族と姿が同じだから度々彼らの名前を使って悪事を働くのも問題になっている。
 魔筆跡ルーペなどの魔道具で見つける事は出来るけれど……それでは手間も時間が掛かりすぎる。現在でも判別できる魔道具の研究が盛んに行われている。

 そんな疎まれている連中だからこそ、野放しにするわけにはいかない。また何を考えているのか――

「……エールティア様?」
「――なんでもない。お父様に報告してもらえる?」

 それだけ告げて、窓から外の景色を見る。
 既に夜も深まってきたけれど、街は明るさを失っていない。それどころか空が暗いのなら、地上を明るく染めろと言わんばかりだ。
 いくら星々の明かりでも、これには遠く及ばないだろう。

 ……さっき、一瞬思った事。それはあの時の私はそう思われていたのだろうか? という事だった。
 転生前。私はずっと一人だった。強大すぎる力は自らを孤独にする。今だからこそわかるけれど……当時の私はまだ幼かった。子供の頃から化け物だと呼び続けられ、親からも捨てられて。

 誰かに必要とされたかった。愛されたかった。だけど現実は……。
 都合の良いように使い倒された挙句、国家に対する反乱分子としてお尋ね者扱いだ。誰もが手のひらを返して私を追い回した。
 この女は自分達とは違いすぎる。何を考えているかわからない化け物だ。野放しにするわけにはいかない――。

 それが私に向けられた悪意の全てだ。過去に何があったのか……その時の想いは今を生きる私達には理解できないだろう。
 だけど、ダークエルフ族は……彼らは確かに、昔の私と同じように思えた。

 唯一違うのは実際に事を起こしていたか、そうでないかくらいなものだ。

「……だからといって、同情するつもりはないんだけどね」

 似通っている事が多いとはいえ、彼らはファリスに手を出して、また何かをしようとしている。なら、それは止めないといけない。何もしていなかったなら、放っておいても良かったんだけどね。

 ――コンコン。

 別室に行ってもらっていたローランの部屋に行くと、そこには思い悩むような表情をしている彼がいた。
 その姿は前世で同じ姿をしていた彼を思い出す。戦ってる時も彼は……悲しみ、思いつめるような目をすることがあった。

 ちょうど……そんな彼に似ていて、心にくるものがある。背も顔も全部同じ。でも、彼は私が良く知る『彼』じゃない。それがわかっているからこそ、寂しいものがあった。

 ――いま、本当に彼がそこにいたら……。

「……エールティア姫」

 なんてくだらない妄想から引き揚げてくれたのは、ローランの呼ぶ声だった。

「待たせたわね。それで、どこにいるかわかる?」
「……一緒に来てくれるのか?」

 不安そうな目をして見つめてくるけれど……これが庇護欲ってやつなのだろうか? 中々悪くない。

「当たり前じゃない。それとも……行かないと思った?」

 少し意地悪そうな笑みを浮かべると、ローランは困った顔で微笑みを返してくれる。
 ……こういうところは私の知ってる彼とは違うかもしれない。

「君にとって、俺達は嫌悪すべき存在だからさ」
「……どういうこと?」

 もしかして、まだ何か隠している事があるのか? と勘ぐってしまうほどのおかしな態度だ。
 だけど、なんだか悪い事をしてバツが悪そうにしている子供のようにも思える。

「うっすらと気付いているだろう。俺とファリスは……初代魔王様の『複製』なんだ」
「『複製』?」

 いきなり何の話をするのかと思ったけれど……その言葉が心の中にストンと落ちて行った。
 なるほど。確かにそれなら納得できる。初代魔王様――ティファリス・リーティアスの複製体というのなら、あの方が使っていた魔導を使えるのも納得だ。

「髪の毛や血、衣類に残っている本人の『情報』を元に魔力を大量に含んだ素材と悪魔族とダークエルフ族の魔導で造られた存在――それが俺達なんだ」

 それにしても――何か関係があると思ったら、そんな形でなんて思ってもみなかったけれど、これで一つすっきりした。
 そして同時に、彼らの元になった初代魔王様が私のよく知るローランだった……という事も。

「エールティア姫……」

 何をそんなに驚いているんだろう。そんなに驚くことがあったんだろうか?

「……な、なに?」
「なんで、泣いているんですか?」
「え……」

 ローランに言われて私は初めて気付いた。自分が泣いていた事に。
 悲しいわけじゃない。寂しい訳じゃない。心はむしろ温かった。

 今私がここにいるという事。それが確かな証となって心に響いて来たから。

 ――彼は、いいや彼女は。本当に『愛してくれる人々』を見つけられたって気付いたから。
 同じ痛みを背負って、同じ苦しみを抱えて……それでも別の道を進んだ片割れは幸せを手に入れてくれた。

 それがわかっただけで、感情が一気に溢れてしまった。
 悔しいのは、それを成し遂げたのが私じゃないって事くらいか。彼と同じ道を歩めるのは自分だけだと思っていたけれど……それは私の驕りだったみたいだ。

「ありがとう」

 なんで礼を言われたのかわからない――そんな顔をしていたけれど、それで良かった。
 彼に伝わらなくても……前世の『彼』にはきっと届いただろうから。
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