転生姫様の最強学園ライフ! 〜異世界魔王のやりなおし〜

灰色キャット

文字の大きさ
345 / 676

345・明けた日の事

しおりを挟む
 ファリスを救出して、シュタインから色々聞いて……ようやく次の日を迎えた。
 既に様々な国の有力者に宛てた手紙をしたためていた。帰ってからずとこの調子だ。

「エールティア様、少しは休憩されてはどうですか?」

 部屋で可能な限り執筆していると、雪風が部屋の中に入ってきた。
 手には深紅茶と菓子が乗ったトレイがあって、心配そうな表情をしていた。

「ありがとう。でも、少しでも早くしないといけないからね」
「ですが……どれだけ急いでも間に合わないのでは?」

 雪風の言葉は事実だろう。どんなに急いでも確実に間に合わない。それはわかっている。だけど――

「無理だから諦める。そんな事……出来る訳ないでしょう。最善を尽くす。それが聖黒族の女王になるものとして正しい行いではないかしら」

 ……この世界で様々な事に触れた。どれも私にとって、大切な思い出達。それらを見捨てるなんて……とてもじゃないけれど出来ない。
 もう何も見捨てないと誓った。今更何を……と自分でも思う。だけど、私を温かく迎え入れてくれたこの世界を守りたい。

 だから、どんな些細な事にでも最善を尽くしてみせる。

「少しでも被害を減らす。可能な限り助ける。それが今の私に出来る事」

 既にフォロウを経由してお父様の耳には入っているはずだ。
 あの姉弟は特殊な方法で会話しているみたいだから、今頃は女王陛下にも報告が済んでいて、準備を整えていてもおかしくはない。

「エールティア様……」

 私の言葉に感極まったとでも言いたげな表情を浮かべている雪風の後ろの扉から音がなる。

「入ってちょうだい」

 静かに扉を開けてきたのは……普段は隠れ潜んでいるはずのフォロウだった。

「姫。姉者から連絡。領主様に伝えた。気を付けるように」
「ええ。ありがとう」
「用があるなら鈴を三度」

 それだけ言ってフォロウは消えてしまった。相変わらず素早い。端的に物事を放して消える姿は鬼人族の忍びそのものに見える。

「相変わらずですね。彼も」

 呆れた雪風は去っていったフォロウを見送っていった。
 初めて会った時は凄く言い合ったそうだ。彼女は真面目な性格だから、目上の相手にあんな態度を取る彼が許せなかったのだろう。
 よくそれで互いに許し合えるような仲になったものだ。私も知らない特別な事があったんだろう。

 みんな自分の人生を生きて未来へ向かっている。この二人が分かり合えたような世の中を守って見せる。

「そういえば、二人はどうなったの?」
「彼らはとりあえず見張りを付けて部屋にいてもらっています……が、大丈夫なのでしょうか?」

 再び不安そうな雪風の言いたいことは理解できる。二人を匿う上で、ファリスとローランの身の上を雪風にも話さなければならなかった。だから疑うのも無理もないだろう。
 それに、ファリスはあの子――ジュールを傷つけた。それが余計に不安なんだろう。

「心配?」
「当然です! 彼女は……!」
「わかってる。それを含めて、側に置くことを決めたの」
「ですが――!」

 強く食い下がるのも無理もないけど、もう決めたことだ。一度決めたら頑固だということを彼女も知っているだろう。

「大丈夫。私の側にいる以上、彼らに私達が不利になるような真似は決してさせない。もし裏切ったら……その時は私が始末をつける」

 それすら覚悟して私は彼らを側に置くことを決めた。しばらく二人でじっと見つめ合う。
 部屋に二人っきり。互いに熱を帯びた瞳で見つめ合う。

 これがもっと甘い雰囲気だったり、男の人だったりしたら……他人に見られたら大分不味い状況になっていただろう。

「エールティア様がそこまで仰られるのでしたら、僕もこれ以上何も言いません。ですがこれだけは忘れないでください。僕達は貴女様を慕っております。危険な目に遭って欲しくない……それだけはどうか――」
「……大丈夫。これが片付けば面倒事は大体片付く。決して貴女達を悲しませるような事はしないから」

 危険な事はしない――それを断言する事は出来なかった。だけど、可能な限り誠実に答えたつもりだ。
 この戦いが終われば……ダークエルフ族との『戦争』に勝利すれば、後継者問題以外の面倒事は残っていない……はずだ。そうしたら、また学園生活に戻ればいい。魔王祭も何もない平穏な生活にね。

 だからこそ、精力的に取り組んでいるんだけど……そんなに心配させては逆に負担をかけてしまうかもしれない。なんでもダメダメと言われれば余計に、ね。

「……少しだけ、休憩しましょうか」
「エールティア様!」

 机にペンを置いて一息つくと、雪風が嬉しそうな声を上げて明るい笑顔を向けてくれていた。
 尻尾があったら喜んでぶんぶん振り回していそうだ。

「ほら、用意してちょうだい。貴女も一緒に、ね?」
「……! ありがとうございます!」

 あまりにも嬉々として準備するものだから、思わず頬がにやけてしまう。
 忙しいのは確かだけれど……こういう時間があってもいい。

 穏やかな時間を守るために戦っているのだから……ね。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...