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425・決着の瞬間(雪風side)
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あらゆる属性の魔導が入り乱れ、雪風の持ち味である刀での戦闘を行う事が出来ず、あまり慣れない魔導戦を強いられている事もあり、苦戦し、徐々に圧されていく。
「【風土・瞬足撃】!」
魔導による攻撃の隙間を縫うように加速の魔導を発動し、一気に間合いを詰めようと画策する雪風だったが、それを見透かしていないヒューではなかった。
「【バインドリキッド】!」
直線しか進むことが出来ない弱点を見切り、進路上に相手を拘束する水の罠を仕掛けられてしまう。急に止まって曲がるなどという事が出来ない以上、罠に容易く引っかかり、再び全身を水で拘束されてしまう雪風。
しかし、彼女には最初からそんな事は承知の上だった。
「【炎風・燃刃】!」
自らの武器に炎を纏わせ、辛うじて動かせた腕を駆使し、拘束している水を全て斬り捨てる。
「遅い。【フレアボム】!」
拘束を断ち切って攻勢に移ろうとしたその瞬間、雪風の身体に赤く引きある球体が触れると同時に爆発を引き起こす。
「【リアマエンハンブレ】!」
追撃と言わんばかりに放たれた魔導は、空中に幾つもの小さな炎の塊を出現させ、まるで流星群のように雪風に向かって降らせていく。
続々と地上に落ちていく炎の星屑達が襲い掛かる中、雪風は体勢を低くして一気に突き抜ける選択肢を選んだ。
荒れ狂うように地表に振ってくる炎を掻い潜りながら走る雪風。それを遮るように魔導で造られた雷が次々と行く手を遮り、彼女の肌を焼いていく。
「――っ!」
疾る痛みに耐えながら前に突き進む雪風の振り抜いた刃が雷の光で煌めき、魔力を宿したかのような軌道を描いて斬撃が放たれた。首の皮一枚で避けたヒューは、そのまま水面を狩るように蹴りを放った。
それを後ろに飛ぶように避けた雪風は、放たれた炎の槍を刀で防ぎ、着地と同時に襲い掛かる炎を斬り払う。
「【マルチプルランス】!」
「【光風・流反鏡】!」
複数の魔力の槍が同時に出現し、一斉に雪風に向かって解き放たれる。広範囲に展開されているそれらの槍は、隙間も少なく普通に避けるのも難しい一撃。雪風は刀で宙を描くように身体ごと回転させる。その軌道が光り輝く輪になって前方に出現する。それはまるで鏡の様であり、ヒューの生み出した魔力の槍がそれに触れた瞬間、大きな音が鳴り響き、その力のまま彼の方へと弾き返されていく。
予想外の反撃に驚いたヒューの動きが一瞬鈍り、魔力の槍が飛んでくる前に同じ魔導で迎撃する。
同じ魔導が激しくぶつかり合い、小さな爆発が引き起こされる。視界を遮るそれらを切り裂くように突っ込んでいく雪風は自らの感覚を信じて駆け抜けていく。
その体内に封じ込められた力を爆発させるように身体能力を解放させる雪風。自らの魂である【凛音天昇】を敵に切っ先を向けるように構え、ヒューへと肉薄した彼女は最速の一撃を浴びせるべく、突きを繰り出す。
それは彼女がこの世に産まれ、刀を振り続けた人生の中で最も速く――そして鋭い一撃だった。
「――っ!?」
回避が間に合わなかったヒューの右肩を縫い留められるように突き刺され、辛うじて持っていた剣を落としてしまう。
今更壊れた剣など使う気も起きなかったヒューだったが、緩んだ手の方に意識を向けたその一瞬が勝敗を分けた。
自らと相手の動きに意識を集中させていた雪風がその隙を見逃すはずもなく、抜き放たれた刃はなんの迷いもなくヒューの首を狩るべく襲い掛かる。
ほんの僅かな時間での攻防。明暗分かれたヒューにはその斬撃が緩やかに見えた。自らの命が絶たれる瞬間――それはまるで今まで殺してきた者が受けた恐怖をお前も味わえと言いたげにゆっくりと迫りくる。
……しかし、肝心のヒューはそれを全く感じていなかった。今までの戦いで自らを上回る者などただの一人もいなかった。卑怯な弱者に殺されるのではなく、真に自分を上回る強者によって命を絶たれる。その事に対し、彼はなんの不満もなかった。
――ただ一つ。心残りがあるとすればラミィの事だろう。
彼にとってラミィは守るべき存在であり、唯一心許している大切な子だった。そんな彼女がたった一人でこれから生きていかなければならない。それだけが心残りだった。
かといってこれ以上何も出来る事はない。もはや後は死を待つのみ――だったのだが、ラミィの事が頭によぎったのは彼だけではなかった。
(どうして。どうしてこんな時に……!!)
自らを殺した相手。何の躊躇も情けもなく葬った敵。それは戦い。真剣な命のやり取りだったからこそ、納得している。だからこそ、自分も彼に対してはなんの迷いもなく命を奪う事が出来る。そのはずなのに、脳内にはあの幼くか弱い少女の姿がちらついてしまう。
今まで戦っていた時には全く考えもしなかったのだが、確実に殺れると思った事に対する油断か慢心か……。一度頭の中に現れた少女の残像を消すことは容易くなく……。
雪風は結局、最後まで刃を振るう事が出来なかった。殺す事に一点を置いたその刃は、ヒューの首の皮一枚を斬る程度にとどまり――エールティア達が見たのは、止めを刺せずにに歯噛みする雪風の姿だった。
「【風土・瞬足撃】!」
魔導による攻撃の隙間を縫うように加速の魔導を発動し、一気に間合いを詰めようと画策する雪風だったが、それを見透かしていないヒューではなかった。
「【バインドリキッド】!」
直線しか進むことが出来ない弱点を見切り、進路上に相手を拘束する水の罠を仕掛けられてしまう。急に止まって曲がるなどという事が出来ない以上、罠に容易く引っかかり、再び全身を水で拘束されてしまう雪風。
しかし、彼女には最初からそんな事は承知の上だった。
「【炎風・燃刃】!」
自らの武器に炎を纏わせ、辛うじて動かせた腕を駆使し、拘束している水を全て斬り捨てる。
「遅い。【フレアボム】!」
拘束を断ち切って攻勢に移ろうとしたその瞬間、雪風の身体に赤く引きある球体が触れると同時に爆発を引き起こす。
「【リアマエンハンブレ】!」
追撃と言わんばかりに放たれた魔導は、空中に幾つもの小さな炎の塊を出現させ、まるで流星群のように雪風に向かって降らせていく。
続々と地上に落ちていく炎の星屑達が襲い掛かる中、雪風は体勢を低くして一気に突き抜ける選択肢を選んだ。
荒れ狂うように地表に振ってくる炎を掻い潜りながら走る雪風。それを遮るように魔導で造られた雷が次々と行く手を遮り、彼女の肌を焼いていく。
「――っ!」
疾る痛みに耐えながら前に突き進む雪風の振り抜いた刃が雷の光で煌めき、魔力を宿したかのような軌道を描いて斬撃が放たれた。首の皮一枚で避けたヒューは、そのまま水面を狩るように蹴りを放った。
それを後ろに飛ぶように避けた雪風は、放たれた炎の槍を刀で防ぎ、着地と同時に襲い掛かる炎を斬り払う。
「【マルチプルランス】!」
「【光風・流反鏡】!」
複数の魔力の槍が同時に出現し、一斉に雪風に向かって解き放たれる。広範囲に展開されているそれらの槍は、隙間も少なく普通に避けるのも難しい一撃。雪風は刀で宙を描くように身体ごと回転させる。その軌道が光り輝く輪になって前方に出現する。それはまるで鏡の様であり、ヒューの生み出した魔力の槍がそれに触れた瞬間、大きな音が鳴り響き、その力のまま彼の方へと弾き返されていく。
予想外の反撃に驚いたヒューの動きが一瞬鈍り、魔力の槍が飛んでくる前に同じ魔導で迎撃する。
同じ魔導が激しくぶつかり合い、小さな爆発が引き起こされる。視界を遮るそれらを切り裂くように突っ込んでいく雪風は自らの感覚を信じて駆け抜けていく。
その体内に封じ込められた力を爆発させるように身体能力を解放させる雪風。自らの魂である【凛音天昇】を敵に切っ先を向けるように構え、ヒューへと肉薄した彼女は最速の一撃を浴びせるべく、突きを繰り出す。
それは彼女がこの世に産まれ、刀を振り続けた人生の中で最も速く――そして鋭い一撃だった。
「――っ!?」
回避が間に合わなかったヒューの右肩を縫い留められるように突き刺され、辛うじて持っていた剣を落としてしまう。
今更壊れた剣など使う気も起きなかったヒューだったが、緩んだ手の方に意識を向けたその一瞬が勝敗を分けた。
自らと相手の動きに意識を集中させていた雪風がその隙を見逃すはずもなく、抜き放たれた刃はなんの迷いもなくヒューの首を狩るべく襲い掛かる。
ほんの僅かな時間での攻防。明暗分かれたヒューにはその斬撃が緩やかに見えた。自らの命が絶たれる瞬間――それはまるで今まで殺してきた者が受けた恐怖をお前も味わえと言いたげにゆっくりと迫りくる。
……しかし、肝心のヒューはそれを全く感じていなかった。今までの戦いで自らを上回る者などただの一人もいなかった。卑怯な弱者に殺されるのではなく、真に自分を上回る強者によって命を絶たれる。その事に対し、彼はなんの不満もなかった。
――ただ一つ。心残りがあるとすればラミィの事だろう。
彼にとってラミィは守るべき存在であり、唯一心許している大切な子だった。そんな彼女がたった一人でこれから生きていかなければならない。それだけが心残りだった。
かといってこれ以上何も出来る事はない。もはや後は死を待つのみ――だったのだが、ラミィの事が頭によぎったのは彼だけではなかった。
(どうして。どうしてこんな時に……!!)
自らを殺した相手。何の躊躇も情けもなく葬った敵。それは戦い。真剣な命のやり取りだったからこそ、納得している。だからこそ、自分も彼に対してはなんの迷いもなく命を奪う事が出来る。そのはずなのに、脳内にはあの幼くか弱い少女の姿がちらついてしまう。
今まで戦っていた時には全く考えもしなかったのだが、確実に殺れると思った事に対する油断か慢心か……。一度頭の中に現れた少女の残像を消すことは容易くなく……。
雪風は結局、最後まで刃を振るう事が出来なかった。殺す事に一点を置いたその刃は、ヒューの首の皮一枚を斬る程度にとどまり――エールティア達が見たのは、止めを刺せずにに歯噛みする雪風の姿だった。
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