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457・少女への使者
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なんとか鳥車に乗ってクルテルに戻った私は、それなりに疲労していた。生まれて初めて鳥車の御者台に座ってラントルオを操ったけれど、この子達は速度の緩急が激しかったりして、手綱で操るよりもお願いする方が早かった。一応私の言葉は理解できるみたいだから、普通に操るよりは大分楽だったとは思うけれど……それでも鳥車から彼らが落ちないように配慮しないといけないから、ラントルオがあまりスピードを出し過ぎないように注意しながら見てあげないといけないし、急に何かが起こっても対処することが出来るように気を張っていたからね。正直戦っているよりもずっと疲れた。
やっぱり乗ってるだけの方が楽だ。乗り物を操作するのは私の性には合わないとつくづく思い知らされた。
もう運転はしたくないなぁ……なんて考えていたら、何故かジュールが複雑そうな顔をしていた。
「どうしたの?」
「ティア様を追いかけて随分森の中を歩いていたはずなのに、こうもあっさり帰ってしまえるなんて……」
ファリスの問いかけにどこか悲し気に返事をしていたけれど、そんな事を言われても困った顔をするしかない。
「そういう時もあるって」
「元はといえば、ファリスさんが原因じゃないですか!」
「ええー……」
「抜け駆けするのが悪いんですよ!」
私にキスした事で揉めているようだけれど、こちらに火花が飛んでこないように祈っておこう。私にも原因があるとはいえ、あまり語りたくはないしね。
「二人ともそこまでにしておいて。私も疲れてるから早く終わらせましょう」
若干不機嫌な顔をする事によって、有無も言わさず宿に戻る為にラントルオを停車場に案内する。
これ以上私がその話題に触れて欲しくない事を察してくれた二人は、これ以上もめる事もなく鳥車に施錠したりラントルオが休める場所に案内したりと手伝ってくれた。
早めに終わる事が出来た。既に向こうに行って一日は経過しているわけだし、当初の目的通り宿に戻る事にした私達を待っていたのは暖かい食事やふかふかのベッド――なんてものではなく、執事風の服を着た男の人と鎧に身を包んだ魔人族の男性だった。
彼らは宿の入り口で待ち構えるように佇んでいて、こちらの姿を見つけた途端に歩み寄ってきた。
多分、あちこち宿を探して私達を探していたのだろう。そうじゃないと確証もないのに宿屋の前で待っているなんてことは普通しない。
「エールティア・リシュファス公爵令嬢でお間違いありませんか?」
「……そうだけど、貴方は?」
「これは失礼しました。私はヒュッヘル様の使いで貴女様を館へ招待するように仰せつかっております。コッテルと申します」
丁寧に頭を下げているけれど、こんなところで自己紹介と言うのも締まらない。おまけに彼の後ろに控えている兵士はどこか警戒しているというか……とてもじゃないけれど貴族に相対する感じじゃない。
「貴女様を探しておりました。ヒュッヘル様が是非館へいらして欲しいと――」
「それは明日ではだめなのかしら。夜も深まりつつある中、いくら招待されているとはいえ礼を欠いている言えるでしょう」
というか、そもそもこんな風に待ち伏せしていること自体あり得ないんだけど……それについては触れない事にした。既に面倒な事になってるのに変な方向に行ってファリスの我慢を超えるような事にはなって欲しくないのだ。
案の定渋るような顔をしているけれど、こちらにだって譲れない事がある。これ以上の譲歩はないと強く睨むと、コッテルはあっさり後ろに一歩下がる。
「でしたら明日の朝。改めてお迎えに伺います。宜しいでしょうか?」
「……ええ。それで構わないわ」
私の態度に表情を崩す事なく、そのまま一歩後ろに下がって緩やかに頭を下げる。無理矢理連れて行こうとするかも……と身構えていたけれど、思ったより簡単に引き下がってくれた。
「ありがとうございます。夜分遅くまでお引き止めして申し訳ございませんでした。また明日……よろしくお願い致します」
兵士の方は何か言いたげにコッテルを見つめているけれど、彼はそれに意を介さず沈黙を保ったままだった。やがて諦めた兵士は、コッテルに引き連れられてそのまま帰ってしまった。本当に帰るんだ……なんて思いながら見送った。
「なんだったんですかね」
「ここのいやーな子爵のお使いでしょ。こんな時間にご苦労様だよね」
ファリスとジュールは彼らが去っていくのを嫌そうにながめていた。やはり兵士達の態度が気に入らなかったのだろう。
「あまりそう言わないの。ここまでやらないといけないくらい、彼らも大変だって事なのだから」
同情するような事は言ったけれど、別にあの三人が可哀想だと思っての事じゃない。ただ、こんな時間までよくも待ち伏せてくれたなという気持ちの方が大きい。
ただ、それを言葉に出すのは大人気ないから寛大な心で言っただけなのだ。
「さ、早く休みましょう。明日もきっと……面倒事になりそうだからね」
明日はここの領主と顔を会わせる事になるだろう。精神的に疲れる事は必定。なら、少しでも英気を養っておかないとね。
やっぱり乗ってるだけの方が楽だ。乗り物を操作するのは私の性には合わないとつくづく思い知らされた。
もう運転はしたくないなぁ……なんて考えていたら、何故かジュールが複雑そうな顔をしていた。
「どうしたの?」
「ティア様を追いかけて随分森の中を歩いていたはずなのに、こうもあっさり帰ってしまえるなんて……」
ファリスの問いかけにどこか悲し気に返事をしていたけれど、そんな事を言われても困った顔をするしかない。
「そういう時もあるって」
「元はといえば、ファリスさんが原因じゃないですか!」
「ええー……」
「抜け駆けするのが悪いんですよ!」
私にキスした事で揉めているようだけれど、こちらに火花が飛んでこないように祈っておこう。私にも原因があるとはいえ、あまり語りたくはないしね。
「二人ともそこまでにしておいて。私も疲れてるから早く終わらせましょう」
若干不機嫌な顔をする事によって、有無も言わさず宿に戻る為にラントルオを停車場に案内する。
これ以上私がその話題に触れて欲しくない事を察してくれた二人は、これ以上もめる事もなく鳥車に施錠したりラントルオが休める場所に案内したりと手伝ってくれた。
早めに終わる事が出来た。既に向こうに行って一日は経過しているわけだし、当初の目的通り宿に戻る事にした私達を待っていたのは暖かい食事やふかふかのベッド――なんてものではなく、執事風の服を着た男の人と鎧に身を包んだ魔人族の男性だった。
彼らは宿の入り口で待ち構えるように佇んでいて、こちらの姿を見つけた途端に歩み寄ってきた。
多分、あちこち宿を探して私達を探していたのだろう。そうじゃないと確証もないのに宿屋の前で待っているなんてことは普通しない。
「エールティア・リシュファス公爵令嬢でお間違いありませんか?」
「……そうだけど、貴方は?」
「これは失礼しました。私はヒュッヘル様の使いで貴女様を館へ招待するように仰せつかっております。コッテルと申します」
丁寧に頭を下げているけれど、こんなところで自己紹介と言うのも締まらない。おまけに彼の後ろに控えている兵士はどこか警戒しているというか……とてもじゃないけれど貴族に相対する感じじゃない。
「貴女様を探しておりました。ヒュッヘル様が是非館へいらして欲しいと――」
「それは明日ではだめなのかしら。夜も深まりつつある中、いくら招待されているとはいえ礼を欠いている言えるでしょう」
というか、そもそもこんな風に待ち伏せしていること自体あり得ないんだけど……それについては触れない事にした。既に面倒な事になってるのに変な方向に行ってファリスの我慢を超えるような事にはなって欲しくないのだ。
案の定渋るような顔をしているけれど、こちらにだって譲れない事がある。これ以上の譲歩はないと強く睨むと、コッテルはあっさり後ろに一歩下がる。
「でしたら明日の朝。改めてお迎えに伺います。宜しいでしょうか?」
「……ええ。それで構わないわ」
私の態度に表情を崩す事なく、そのまま一歩後ろに下がって緩やかに頭を下げる。無理矢理連れて行こうとするかも……と身構えていたけれど、思ったより簡単に引き下がってくれた。
「ありがとうございます。夜分遅くまでお引き止めして申し訳ございませんでした。また明日……よろしくお願い致します」
兵士の方は何か言いたげにコッテルを見つめているけれど、彼はそれに意を介さず沈黙を保ったままだった。やがて諦めた兵士は、コッテルに引き連れられてそのまま帰ってしまった。本当に帰るんだ……なんて思いながら見送った。
「なんだったんですかね」
「ここのいやーな子爵のお使いでしょ。こんな時間にご苦労様だよね」
ファリスとジュールは彼らが去っていくのを嫌そうにながめていた。やはり兵士達の態度が気に入らなかったのだろう。
「あまりそう言わないの。ここまでやらないといけないくらい、彼らも大変だって事なのだから」
同情するような事は言ったけれど、別にあの三人が可哀想だと思っての事じゃない。ただ、こんな時間までよくも待ち伏せてくれたなという気持ちの方が大きい。
ただ、それを言葉に出すのは大人気ないから寛大な心で言っただけなのだ。
「さ、早く休みましょう。明日もきっと……面倒事になりそうだからね」
明日はここの領主と顔を会わせる事になるだろう。精神的に疲れる事は必定。なら、少しでも英気を養っておかないとね。
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