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476・クーティノス
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急いで駆け寄ったファリスの傷は予想通り深い。命に別状はないけど、それもいつまで保つかわからない。急いで治療が必要だろう。
「待っていなさい。【テリオスセラピア】!」
私が持ちうる中でも最高峰の回復魔導。今までだって数々の傷を癒してきた。だけどそれの光は非常に弱く、傷が癒える速度が明らかに遅い。
「嘘……!?」
驚愕の出来事に、私は言葉が漏れる程絶句してしまった。イメージは完璧。体内に張り巡らされている魔力にも異常はない。それでも治癒力は目に見えるほど落ちている。
「な、なんで――」
「……答えが知りたいか?」
聞き覚えのある声に振り向くと、先程の老人が鉄の獣の後ろでにたにたといやらしい笑みを向けていた。
……その笑みが今は物凄く癪に障る。ファリスの治療が上手くいかない事も相まって、苛立ちが募るが、それでも冷静さだけは失わないようにしないといけない。ローランとの一件で随分心に迷いが生じていたからこそ、ダークエルフ族の前で聖黒族の私が取り乱す訳にはいかなかった。
「くふ、ふふふふ、はっはっはは! このクーティノスこそ我らダークエルフ族が長年かけて作り出した最高傑作!! 禁断の地に辛うじて埋もれていた古代の英知。その全ての結晶だ!!」
自慢げに笑いながら説明してくれる姿は殴りたくなるほどどうでもいい。私にとってそんなもの路傍の小石よりも価値はない。
「それで、その大層なものがなんで私の魔導を妨げているのかしら?」
「……なんだ、思ったよりつまらない反応だな。まあいい。これはな、初代魔王と呼ばれている賢しい小娘が使っていた【マジックミュート】を参考にしている。クーティノスの稼働に要した魔石に失われた魔法と現在の魔導を組み合わせ、付与。術式を刻印することで魔力を妨害する魔導の常時発動を成功させ、周囲に顕現する魔力を用いたあらゆる効果を著しく低下させるのだよ!」
少し早口だけど、なんとか聞き取れた。まさか魔導を魔石に付与するなんて発想があるなんて……。
ダークエルフ族の事を少し見くびっていたようだ。こんな方法でこちらの魔導を封じるとは。
「……随分と嬉しそうね」
「もちろんだよ。私達の悲願。それは聖黒族を徹底的に滅ぼすことに他ならないのだからね!」
愉快そうに笑っているその声が酷く耳障りだ。そのつまらないプライドで今を生きる私達を巻き込むその姿。これほど煩わしいと思った事はない。
「そう」
「クーティノスがそれを成し遂げる! 所詮紛い物に聖黒族は倒せんという事を奴らに証明するのだ!! 行け!!」
『グルゥオォォォォォ!!!!』
老人の言葉に反応して雄叫びを上げる鉄の獣――クーティノス。最初に見た時は一体どんな原理で動いているのかとも思ったけれど、そんな事はどうでもいい。あの男のくだらない悲願とやらに付き合う気は全くない。
獣は咆哮しながら襲い掛かってくる。本物以上の迫力だけど、こんなもの、チープでしかない。
「【アグレッシブ・スピード】!」
牙が触れるギリギリに魔導を発動させる。やはり炎や氷など、自らの体外で具現化する物にのみ効果が及ぶみたいだ。私の体の中にある魔力をそのまま体内で使う分には何も問題ないという訳だ。だからと言って簡単に打開できる状況ではない。絶えず【テリオスセラピア】をファリスに流し続け、そちらに気を回しながら彼女に攻撃がいかないようにしなければいけない。
そして、体外で扱える魔導の威力が低下するという事は、少なからず【人造命具】にも影響があるという事。自らの心象の無意識な部分さえ表現し、形にするこの魔導にどれだけ効果があるかはわからない上、私の物はどれもが非常に強力で、一歩間違えて暴走なんて事になったら本当に手に負えなくなる。
「ほう、まだ使える魔導があったか。これは今後の課題だな」
先程怯えていたのが嘘のように余裕な表情が更に苛立ちを感じる。ここは変わらず地下で、下手に強力な魔導を使ってしまえば、崩落してしまうかもしれない。強力な魔導は封じられ、ここで扱えそうな魔導は全て威力が低下してい――ちょっと待った。
ふと自分の考えが正しいかどうか確かめる為に私はクーティノスに手をかざし、魔力を込め、イメージする。強く、強く。更に。
「はははは! 馬鹿が! 魔導は効かないと一度の説明では理解できなかったか! ならばその足りない頭に自らの死を刻み込んで逝け!!」
「【プロトンサンダー】!!」
全力を込めた魔導は、いつもの極太な線じゃなく、力をかなり加減した手のひらを覆う程度の雷だった。突進してきたクーティノスは顔面に叩きこまれた衝撃でのけぞって数歩後ろに後退した。
「な……!? ば、ばかな……!」
「なるほど。確かにこれは割に合わないわね」
元々初代魔王様の魔導と全く同じ性能を魔石に込めるなんて不可能だ。だからこそ辛うじて魔導を発動できる程度まで性能が落ちてしまう。
それでも不発に終わるって訳じゃない。魔力は大きく消耗してしまうけど、これなら……なんの問題もなく戦える!
「待っていなさい。【テリオスセラピア】!」
私が持ちうる中でも最高峰の回復魔導。今までだって数々の傷を癒してきた。だけどそれの光は非常に弱く、傷が癒える速度が明らかに遅い。
「嘘……!?」
驚愕の出来事に、私は言葉が漏れる程絶句してしまった。イメージは完璧。体内に張り巡らされている魔力にも異常はない。それでも治癒力は目に見えるほど落ちている。
「な、なんで――」
「……答えが知りたいか?」
聞き覚えのある声に振り向くと、先程の老人が鉄の獣の後ろでにたにたといやらしい笑みを向けていた。
……その笑みが今は物凄く癪に障る。ファリスの治療が上手くいかない事も相まって、苛立ちが募るが、それでも冷静さだけは失わないようにしないといけない。ローランとの一件で随分心に迷いが生じていたからこそ、ダークエルフ族の前で聖黒族の私が取り乱す訳にはいかなかった。
「くふ、ふふふふ、はっはっはは! このクーティノスこそ我らダークエルフ族が長年かけて作り出した最高傑作!! 禁断の地に辛うじて埋もれていた古代の英知。その全ての結晶だ!!」
自慢げに笑いながら説明してくれる姿は殴りたくなるほどどうでもいい。私にとってそんなもの路傍の小石よりも価値はない。
「それで、その大層なものがなんで私の魔導を妨げているのかしら?」
「……なんだ、思ったよりつまらない反応だな。まあいい。これはな、初代魔王と呼ばれている賢しい小娘が使っていた【マジックミュート】を参考にしている。クーティノスの稼働に要した魔石に失われた魔法と現在の魔導を組み合わせ、付与。術式を刻印することで魔力を妨害する魔導の常時発動を成功させ、周囲に顕現する魔力を用いたあらゆる効果を著しく低下させるのだよ!」
少し早口だけど、なんとか聞き取れた。まさか魔導を魔石に付与するなんて発想があるなんて……。
ダークエルフ族の事を少し見くびっていたようだ。こんな方法でこちらの魔導を封じるとは。
「……随分と嬉しそうね」
「もちろんだよ。私達の悲願。それは聖黒族を徹底的に滅ぼすことに他ならないのだからね!」
愉快そうに笑っているその声が酷く耳障りだ。そのつまらないプライドで今を生きる私達を巻き込むその姿。これほど煩わしいと思った事はない。
「そう」
「クーティノスがそれを成し遂げる! 所詮紛い物に聖黒族は倒せんという事を奴らに証明するのだ!! 行け!!」
『グルゥオォォォォォ!!!!』
老人の言葉に反応して雄叫びを上げる鉄の獣――クーティノス。最初に見た時は一体どんな原理で動いているのかとも思ったけれど、そんな事はどうでもいい。あの男のくだらない悲願とやらに付き合う気は全くない。
獣は咆哮しながら襲い掛かってくる。本物以上の迫力だけど、こんなもの、チープでしかない。
「【アグレッシブ・スピード】!」
牙が触れるギリギリに魔導を発動させる。やはり炎や氷など、自らの体外で具現化する物にのみ効果が及ぶみたいだ。私の体の中にある魔力をそのまま体内で使う分には何も問題ないという訳だ。だからと言って簡単に打開できる状況ではない。絶えず【テリオスセラピア】をファリスに流し続け、そちらに気を回しながら彼女に攻撃がいかないようにしなければいけない。
そして、体外で扱える魔導の威力が低下するという事は、少なからず【人造命具】にも影響があるという事。自らの心象の無意識な部分さえ表現し、形にするこの魔導にどれだけ効果があるかはわからない上、私の物はどれもが非常に強力で、一歩間違えて暴走なんて事になったら本当に手に負えなくなる。
「ほう、まだ使える魔導があったか。これは今後の課題だな」
先程怯えていたのが嘘のように余裕な表情が更に苛立ちを感じる。ここは変わらず地下で、下手に強力な魔導を使ってしまえば、崩落してしまうかもしれない。強力な魔導は封じられ、ここで扱えそうな魔導は全て威力が低下してい――ちょっと待った。
ふと自分の考えが正しいかどうか確かめる為に私はクーティノスに手をかざし、魔力を込め、イメージする。強く、強く。更に。
「はははは! 馬鹿が! 魔導は効かないと一度の説明では理解できなかったか! ならばその足りない頭に自らの死を刻み込んで逝け!!」
「【プロトンサンダー】!!」
全力を込めた魔導は、いつもの極太な線じゃなく、力をかなり加減した手のひらを覆う程度の雷だった。突進してきたクーティノスは顔面に叩きこまれた衝撃でのけぞって数歩後ろに後退した。
「な……!? ば、ばかな……!」
「なるほど。確かにこれは割に合わないわね」
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