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517・シルケットの大拠点(アイシカside)
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警備の厳重な拠点に入り込む事に成功したアイシカとガルファの二人はまずは共に行動する事にした。ここは二手に分かれるという手もあった。そちらの方が情報収集に関しては効率が良いし、片方が危険になった場合、残った者は素早く脱出するか助けに入るか選択する事も出来るというメリットが存在した。
だが、それをあえて選ばなかったのは二人で別々に行動した結果、互いの状況を知る事が出来ない事を避けたかったからに尽きる。町や村ならともかく、敵基地で合流地点を設定する事はかなり難しい。
合流地点を敵に予測されていた場合、待ち伏せされる可能性もあり、一人では逃げきれない展開も十分に考えられる。どちらがよりメリットが大きいか考え抜いた末の結論だった。
「さてと……まずは他のエルフ族から話を聞きましょう」
「……わかった」
軽々と話すアイシカだが、ガルファにとって彼らはダークエルフ族であり、決してエルフ族ではない。しかし、ここでそれを言えば自分達こそが真のエルフ族だと思っている彼らに吊るしあげられることは間違いなかった。
「……大丈夫? あんまり下手な事、言わないでよ」
「わかっているさ。行こう」
信用出来ないのか? と悲しむような表情をしてみたガルファだったが、むしろ憐みの視線を向けられてしまう。それを無視するように先を進もうと促した。
実際、猫人族訛りがない事に強い違和感で胸の辺りがもやもやしている彼にとって、普段慣れ親しんでいる話し方や言葉を口に出来ない時点で苦痛以外の何物でもなかった。しかし諜報員としての活動。こうした潜入任務でも国の役に立つ事が出来るのを誇りにしている。だからこそ決して表情には現さず、口調も間違えないように細心の注意を払っている。
「それで、まずは同胞から話を聞くんだったな」
「そうそう。私達は遠い北国からはるばるやってきた仲間、だからね」
ウインクをして可愛らしさをアピールしてみたアイシカだったが、元々猫人族であるガルファがそれにときめく事はなかった。
「……もう少し愛想良く出来ない?」
「無理な注文をするな」
そもそもダークエルフ族が好きな種族は少ない。悪魔族くらいなものだろう。『メタモルミスト』によってダークエルフ族に姿を変えている今のアイシカに嫌悪感はありこそすれ、好意を感じる事など有り得なかった。
「先が思いやられそうね」
やれやれと肩を竦めたアイシカだったが、すぐに気を取り直して周囲に誰もいない事を確認して拠点の内部をマッピングし始める。それに呼応するように彼女の姿をあまり見られないようにやや先頭に立って様子を見るガルファ。言い争いをしてもすぐに思考を切り替える事が出来る。それは彼女達の強みだった。
「……あれ? 見かけない顔だな」
散策とマッピングをこなしながら歩き回っていると、ちょうど曲がり角からやってきた兵士の一人に出会う。出会った瞬間にすぐさまマッピング用の紙とペンを隠すアイシカの動きはかなり慣れた手つきだった。
「実はついさっきここに来たばかりで……ドゥルガンにある拠点以外行った事がないから見て回っているんだ」
「ああ……北からな。あそこは防寒設備を整えないといけないからこっちとは違うよな。良かったら案内しようか?」
「だったら助かる」
内部構造を知るのに案内してくれる者がいれば渡りに船。喜んで頭を下げたガルファに若干照れくさそうにする兵士は気を取り直すように先導してくれる。
「幸先良いね。これで構造が粗方わかるよ」
「そうだな。新しい住処になるのに迷うなんてまっぴらごめんだ」
軽口を言い合いながらも、視線は真剣そのもの。それに気付かない兵士は呑気そうに案内を続けていた。
「それにしても二人だけっていうのは珍しいな。あんたら恋人か何かか?」
「まさ――」
「そんなものだ」
真っ先に否定しようとしたアイシカの言葉を遮るようにガルファは口を挟む。
いきなり肯定されてしまい、なんでよ! と鋭い視線で睨みつけるアイシカを涼し気な顔で無視するガルファは肝が据わっていると言えるだろう。
「やっぱりな。じゃなきゃこんなところに来ないか」
「……何か関係があるのか?」
適当に吐いた嘘から全く違う反応があったため、いつも以上に戸惑ったガルファだが、それはこの拠点を守っている者達からしたら違和感のない反応だったようで、兵士は朗らかに笑っていた。
「ここの地下は俺達の居住区が中心なんだよ。あんた達がいたドゥルガンの拠点は軍事用のしかないからな。俺達エルフ族の種は貴重だ。それを繁栄させるためにもそれが出来る環境が必要だからな。そんな場所を守っているなんてそれだけで誇らしくなるってもんだ」
予想外の情報に目を丸くする二人。しかし、それは願ってもない話だった。ここはダークエルフ族の町を守る防衛設備であり、地下で繁殖をしているということ。恋人であると言わなければ得られなかった情報に内心複雑になりながらも、今後の事を冷静に考えている自分に若干嫌気がさしてきたアイシカなのだった。
だが、それをあえて選ばなかったのは二人で別々に行動した結果、互いの状況を知る事が出来ない事を避けたかったからに尽きる。町や村ならともかく、敵基地で合流地点を設定する事はかなり難しい。
合流地点を敵に予測されていた場合、待ち伏せされる可能性もあり、一人では逃げきれない展開も十分に考えられる。どちらがよりメリットが大きいか考え抜いた末の結論だった。
「さてと……まずは他のエルフ族から話を聞きましょう」
「……わかった」
軽々と話すアイシカだが、ガルファにとって彼らはダークエルフ族であり、決してエルフ族ではない。しかし、ここでそれを言えば自分達こそが真のエルフ族だと思っている彼らに吊るしあげられることは間違いなかった。
「……大丈夫? あんまり下手な事、言わないでよ」
「わかっているさ。行こう」
信用出来ないのか? と悲しむような表情をしてみたガルファだったが、むしろ憐みの視線を向けられてしまう。それを無視するように先を進もうと促した。
実際、猫人族訛りがない事に強い違和感で胸の辺りがもやもやしている彼にとって、普段慣れ親しんでいる話し方や言葉を口に出来ない時点で苦痛以外の何物でもなかった。しかし諜報員としての活動。こうした潜入任務でも国の役に立つ事が出来るのを誇りにしている。だからこそ決して表情には現さず、口調も間違えないように細心の注意を払っている。
「それで、まずは同胞から話を聞くんだったな」
「そうそう。私達は遠い北国からはるばるやってきた仲間、だからね」
ウインクをして可愛らしさをアピールしてみたアイシカだったが、元々猫人族であるガルファがそれにときめく事はなかった。
「……もう少し愛想良く出来ない?」
「無理な注文をするな」
そもそもダークエルフ族が好きな種族は少ない。悪魔族くらいなものだろう。『メタモルミスト』によってダークエルフ族に姿を変えている今のアイシカに嫌悪感はありこそすれ、好意を感じる事など有り得なかった。
「先が思いやられそうね」
やれやれと肩を竦めたアイシカだったが、すぐに気を取り直して周囲に誰もいない事を確認して拠点の内部をマッピングし始める。それに呼応するように彼女の姿をあまり見られないようにやや先頭に立って様子を見るガルファ。言い争いをしてもすぐに思考を切り替える事が出来る。それは彼女達の強みだった。
「……あれ? 見かけない顔だな」
散策とマッピングをこなしながら歩き回っていると、ちょうど曲がり角からやってきた兵士の一人に出会う。出会った瞬間にすぐさまマッピング用の紙とペンを隠すアイシカの動きはかなり慣れた手つきだった。
「実はついさっきここに来たばかりで……ドゥルガンにある拠点以外行った事がないから見て回っているんだ」
「ああ……北からな。あそこは防寒設備を整えないといけないからこっちとは違うよな。良かったら案内しようか?」
「だったら助かる」
内部構造を知るのに案内してくれる者がいれば渡りに船。喜んで頭を下げたガルファに若干照れくさそうにする兵士は気を取り直すように先導してくれる。
「幸先良いね。これで構造が粗方わかるよ」
「そうだな。新しい住処になるのに迷うなんてまっぴらごめんだ」
軽口を言い合いながらも、視線は真剣そのもの。それに気付かない兵士は呑気そうに案内を続けていた。
「それにしても二人だけっていうのは珍しいな。あんたら恋人か何かか?」
「まさ――」
「そんなものだ」
真っ先に否定しようとしたアイシカの言葉を遮るようにガルファは口を挟む。
いきなり肯定されてしまい、なんでよ! と鋭い視線で睨みつけるアイシカを涼し気な顔で無視するガルファは肝が据わっていると言えるだろう。
「やっぱりな。じゃなきゃこんなところに来ないか」
「……何か関係があるのか?」
適当に吐いた嘘から全く違う反応があったため、いつも以上に戸惑ったガルファだが、それはこの拠点を守っている者達からしたら違和感のない反応だったようで、兵士は朗らかに笑っていた。
「ここの地下は俺達の居住区が中心なんだよ。あんた達がいたドゥルガンの拠点は軍事用のしかないからな。俺達エルフ族の種は貴重だ。それを繁栄させるためにもそれが出来る環境が必要だからな。そんな場所を守っているなんてそれだけで誇らしくなるってもんだ」
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