転生姫様の最強学園ライフ! 〜異世界魔王のやりなおし〜

灰色キャット

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523・拠点攻略の不満(兵士side)

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 アイシカ、ガルファの両名が着々と拠点破壊の準備を進めている間、ファリスは別の事で悩まされていた。
 それはファリス派と呼ばれている武闘派の連中だった。彼らはファリスの後ろからとはいえ次々と敵を撃破し、ダークエルフ族達を退けてきた。数々の実績があるのだ。もちろんそれらはファリスがいたからこそなしえた功績なのだが……やはり、勝利は目を眩ませる。
 そんな彼らが集まるテントの中に入ってくる男が一人。魔人族の彼はティリアースから寄越された援軍の内の一人だった。

 テントの中には魔人族をはじめとしてオーク族や猫人族等――様々な種族が中で男の帰りを待っていた。入ってきた瞬間、彼らはどこか期待を抱くような表情をしていた……が、入ってきた男の顔を見てすぐに消沈してしまった。

「今回も駄目だったか……」

 がっくりと項垂れている彼らはファリスに攻撃の許可を取ろうとしていたのだ。結局取り合ってもらえなかったのだが、それが一層彼らの不満を増幅させてしまう。

「ファリス様は何を考えているのか。私達にお任せ下されば期待に応えて見せますのに……」

 うんうんと頷く彼らは今回の拠点制圧を参謀に任せた事が気に入らなかったのだ。しかも敵の懐に潜り込み破壊工作を行うなど、自分達の力を信じていないのではないか? と不安にさせる事でしかなかった。
 実際は何も思っておらず、一番戦果が上がりそうな方法を取っただけに過ぎないのだが、今までが突撃してそこから作戦を練り、瞬時に反応するという戦い方ばかりだったのだから仕方がないだろう。

「やはり今までぼくたちがファリス様の後ろで戦っていたのが悪かったのかにゃ……」
「いや、あの御方はそんな事は気にしない。むしろ下手に前に出れば諫められるだろう」

 猫人族の男性が力の無さに項垂れていると、頭を横に振ってそれを否定する狐人族の男性。多少なりともファリスの事を理解し始めていたからこその言葉だった。

「……どうしてもあいつらの作戦を認めなければならないという訳か」
「ファリス様がわたしたちの身を案じておられるのはわかるんにゃ。だけど、わたしたちだって出来る! それをなんとか証明したいんにゃ!」

 それぞれが重苦しい空気に包まれ、意気消沈している中。それを振り払うように強く拳を握り締めて立ち上がる猫人族の女性がいた。彼女の力強い瞳と意志は、最初はすっかり気を落としていたテントの中の兵士達に徐々に染みわたるように広がっていき、やがては一つの意志を生み出す。それは『ファリスに認められたい』というささやかながらも大きな願いだった。そしてそこからまた『ではどうすればいいのか?』というところまで戻ってしまう。

「はぁ……結局、奴らが成功するのを待って、そこから戦果を挙げるしかないのか」

 兵士の一人の発言に全員がそれを認めなくてはならないと感じてしまった。
 ファリス派と呼ばれている中でも彼女の強さに惚れ、助けになりたい。役に立ちたいと願う彼らだからこその団結だった。

「いいや、やっぱりもう一度打診しよう。最悪俺達だけで進軍すれば、ファリス様もきっと動いて下さる」

 その団結に水を差したのは彼らの派閥の中でも甘い汁を吸いたいと思っている連中。彼らは打算の中で生きており、軍の中でも一部とはいえまとまった兵士達が拠点の攻略に乗り出せば、損害を気にするファリスならば必ず来てくれる――そんな悪質な考えで周囲を煽ろうとしていた。

「ここでただ黙って引き下がっていたら俺達はあの参謀共に馬鹿にされるんだぞ? ファリス様がいなければ何も出来ない能無しだってな。そんなので本当にいいのか?」

 声高らかに訴えるが、それに対して返ってくるのは白けた視線。ファリスのやっている事に不満はあっても、彼女自身に不満はない。エールティアの数少ない配下の一人であり、実力も立場も上であるファリスに従うのは軍人として当然の事だと考えている者達にとって、気に食わない、妬ましい、彼女をダシにして美味しい思いをしたい……そんな感情を持っている者達の事など理解できなかった。

「ここで俺達が戦果を挙げれば上だって無視する事は――」
「……いい加減黙れ」
「なに?」

 尚も演説を続けようとしている男に向かって怒気を孕んだ言葉を投げ掛けたのはオーク族。かつて初代魔王の逆鱗に触れ、それでも辛うじて国民として生き残った種族だった。

「これ以上聖黒族の方々の侮辱をするな。死にたくないならな」

 反抗して声を上げようとした者はそのオーク族の濃密に立ち上る殺気に負け、言葉を引っ込めた。彼には歴戦の勇士と呼ぶに相応しい傷が幾つもあり、その一つ一つが彼という存在を高めていた。

「俺達はファリス様に従う。それがどんな作戦であれ、綺麗も汚いもない。誰もが納得できるほどの圧倒的や勝利を収めるのは常に『最強』の王冠を戴く我らが女王陛下率いる強者つわもの共だ。その次期候補であるエールティア様の家臣の者であれば、それを信じず何を信じる」

 強い意志と視線。今まで一言も言葉を発することのなかった者だからこそ重みが違う。最前線を戦い抜いた者の言葉の圧力に誰もが逆らえず、彼の言葉はテントの中全体に染み渡る。

 結果、彼らはこれ以上何も言わず、ファリスの指揮下でどこまでも戦い抜く事を誓った。それは彼女の下で楽をしようとしていた連中の思惑から外れ、彼らを救うことになるのだが……それはまだもう少し後の話。
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