転生姫様の最強学園ライフ! 〜異世界魔王のやりなおし〜

灰色キャット

文字の大きさ
529 / 676

529・無残な報告(ファリスside)

しおりを挟む
 兵士が次の口を開くのにはそう時間が掛からなかった。苛々し始めているのがファリスの態度で伝わってきたのもあるが、このまま時間を潰すのは得策ではないと彼の冷静な部分が囁いたからであった。

「実は……と目的地に到着した後、近くに敵がいないか索敵していたのですが……斥候の一人が明らかに戦闘があった後を見つけたそうで……」
「戦闘? そんなところで?」
「はい。恐らく炎系の魔導でしょう。地面はまるで融けたかのような黒い跡があり、妙な形で固まっていました。多少焦げた匂いがする事から炎だと判断した次第です」
「……へぇ」

 ファリスは兵士の報告を最初は大した事ではないと思っていたようだが、最後まで聞いて多少興味が湧いてきたようだった。
 戦闘が起こることなどは珍しくはない。ダークエルフ族は悪魔族以外の他種族と戦争中なのだ。近くに拠点が存在するのだから襲撃の一つもあるだろう。
 では何に興味を惹かれたのか? それは単純に地面を融かす程の魔導を扱える者がいた――ということだ。
 おまけに――

「……おかしいですね。いくら離れているとはいっても派手な戦闘音であれば耳に入るはずです。しかも高威力の魔導となれば尚更。静かに敵を始末するなんてこと、中々出来ませんよ」

 ルォーグの言葉にファリスも言葉なく同意した。ここしばらくは特に爆発音などは聞こえてこなかった。それは他の者も同じはずだ。何かあればすぐに彼女の耳に入るのだから。

「しかし、それなりの規模の戦闘があった事は確かです。辛うじて残っていた武器の残骸から、わが軍のものである可能性が高いと判断いたしました」
「……恐らくジックとヒューンの部隊だろうな」

 こちらの拠点から抜け出し、敵の防衛拠点を狙おうとする輩など彼ら以外ありえなかった。実際にそのまま音信不通になっていたのだから、尚更だろう。
 しかし――

「そう」

 それを知ったところで死んだ者達の事など何も気にしていなかった。馬鹿な奴は死んで当然。相手との力量もわからない程度の兵士など彼女には必要なかった。

「……二つの部隊は全滅しているだろうな」
「ゲンマン隊長もその可能性が高いと仰っておりました。しかしそうなると……」

 伝令兵が言葉を濁すのもオルドはわかっていた。隊にも色々とある。ジックとヒューンを合わせて大体二十人前後といったところだ。元々ジックは明確な戦果が欲しかっただけで命を賭けたくなかった。だからこそあまり数の多い部隊の隊長になりたくなくて策を巡らせた結果だが……軍的に言えばそれは当たりだっただろう。少ない損害に態度の悪い連中を一掃する事が出来た。おまけに強敵は興が削がれてどこかに行ったのだからシルケット軍にとっては最期に役に立ってくれた存在だっただろう。

 しかしファリスにとってはむしろ逆だった。強敵を倒せば多少は自分の気持ちを満足させることが出来る上、エールティアにも褒めてもらえただろうからだ。それと軍の損害を天秤に掛けれない辺りがまだ彼女が未熟である証だった。

「まだ近くにいる可能性は?」
「それは低いと思われます。戦闘の跡から索敵範囲を広げましたが、他には何も見当たりませんでした」
「そうですか。それならすぐにどうにかなる事はないですね」

 まだ近辺にいたら別動隊やこの本隊が壊滅させられるかもしれない――ルォーグの頭によぎっていた。もちろん考えすぎだと彼も思っていたのだが、その可能性を捨てきれない不思議な直感があったのだ。

「うん、大体わかった。死んだのは当然だし、今は敵もいないって事でいいんだよね?」
「え……はい。その通りですが……しかし、それも絶対とは言えません。いつ戻ってくるかわからない敵を警戒しながらの作業になりますので今しばらく時間が掛かるかと……」

 実際、跡形もなく数十人の兵士を消した敵が徘徊しているかもしれないなど、普通の兵士には恐怖でしかない。そんな中の作業など捗る訳もなく、常に広い範囲の警戒を絶やさずにいる。おかげで少なくなった兵士が次々とやってくるダークエルフ族の相手をしているのが現状なのだ。

「こっちは大体処理できたからそっちに兵を向けて手早く作戦を終えてちょうだい」
「わかりました」
「それで良いよね?」

 命令を下した後に確認を取ってくるファリスにルォーグは呆れた顔をして頷くしかなかった。

「そうですね。部隊の編制をしてこちらにある程度部隊を残して向かいましょう。準備はこちらにお任せください」
「よろしく」

 既に興味を失いかけていたファリスが適当に返事をしたのをきっかけに部隊は別動隊を支援する組と拠点に帰還する組の二つに分けられることになった。ファリスは面倒くさいと帰る方に付いて行く事にし、後の事はルォーグに任せる事にした。多少信頼した証……ではあったが、結局名前は覚えておらず、都合の良い存在に昇華しただけだとも言えたのだが、それをルォーグが知る由もなかった。

 部隊の編成を終えたルォーグは別動隊と合流し、ダークエルフ族の捕虜を全て拠点に連行したのだが……それは作戦が終わった次の日の出来事だった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

薬漬けレーサーの異世界学園生活〜無能被験体として捨てられたが、神族に拾われたことで、ダークヒーローとしてナンバーワン走者に君臨します〜

仁徳
ファンタジー
少年はとある研究室で実験動物にされていた。毎日薬漬けの日々を送っていたある日、薬を投与し続けても、魔法もユニークスキルも発動できない落ちこぼれの烙印を押され、魔の森に捨てられる。 森の中で魔物が現れ、少年は死を覚悟したその時、1人の女性に助けられた。 その後、女性により隠された力を引き出された少年は、シャカールと名付けられ、魔走学園の唯一の人間魔競走者として生活をすることになる。 これは、薬漬けだった主人公が、走者として成り上がり、ざまぁやスローライフをしながら有名になって、世界最強になって行く物語 今ここに、新しい異世界レースものが開幕する!スピード感のあるレースに刮目せよ! 競馬やレース、ウマ娘などが好きな方は、絶対に楽しめる内容になっているかと思います。レース系に興味がない方でも、異世界なので、ファンタジー要素のあるレースになっていますので、楽しめる内容になっています。 まずは1話だけでも良いので試し読みをしていただけると幸いです。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

異世界召喚された俺の料理が美味すぎて魔王軍が侵略やめた件

さかーん
ファンタジー
魔王様、世界征服より晩ご飯ですよ! 食品メーカー勤務の平凡な社会人・橘陽人(たちばな はると)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。剣も魔法もない陽人が頼れるのは唯一の特技――料理の腕だけ。 侵略の真っ最中だった魔王ゼファーとその部下たちに、試しに料理を振る舞ったところ、まさかの大絶賛。 「なにこれ美味い!」「もう戦争どころじゃない!」 気づけば魔王軍は侵略作戦を完全放棄。陽人の料理に夢中になり、次々と餌付けされてしまった。 いつの間にか『魔王専属料理人』として雇われてしまった陽人は、料理の腕一本で人間世界と魔族の架け橋となってしまう――。 料理と異世界が織りなす、ほのぼのグルメ・ファンタジー開幕!

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...