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637・本拠地潜入
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城の様子を窺うため、建物の影に隠れていた私達は、監視塔が二つに番兵が二人。それに城壁の通路を歩いている兵士達の姿を確認した。流石に本拠地の中心とも言えそうな大きな城。警備もそれなりのものだと感心する……が、あくびをしたり気だるそうにしている様子はとても真面目に働いているとは思えない。
「……なんだか気が抜けていますね」
「こんなもんだろ。各国はゲリラ戦をしている奴らに一生懸命で、未だ見つかってすらいないここがいきなり襲われることなんて有り得ない。それが奴らの思考だからな」
馬鹿にした口調で語るヒューの言葉は間違っていない。暗躍している時は中々頑張ってはいたみたいだけど、表舞台に出てくるにはまだ早すぎた。彼らの計画性のなさを考えたらこれくらい楽観的なのも仕方がない。私達にはその方が好都合だ。
「やはり夜を待って――ああ、いや……」
言いかけて言葉を濁した雪風はここが地下である事を思い出したのだろう。私だってこんなに明るい場所が地面の下にあるなんて言われたって中々信じる事はできないだろう。
「夜が来る保証がどこにもない以上、それは期待しない方がいいかもね」
天井に存在するであろう魔導具次第だけど、今そんな賭けを行うわけにはいかない。かがり火を灯す台があるから可能性としては高いかもだけどね。
「ならどうしますか? 見たところ壁に穴が開いているとかはないでしょうし、正面突破はありえない……ですよね」
ジュールの言う通り、ここで見つかっては意味がない。何のために潜入したのかと言う話になる。なら――
「城壁の上を歩いている兵士をなんとかする方が良いかもな」
「……それしかないみたいね」
正面は無理で後ろも同じようになっている。穴を開ければ間違いなく気付かれる。なら隙を見て壁を飛び越えていくしかない。
「なら行動あるのみ。私が音を消す魔導を発動させるから、その間に各々壁を上がれるような魔導をイメージしておいて」
「でしたら魔導で音を消して穴を開けるのは難しいのですか?」
雪風の質問はナイスだ。丁寧に行えば可能なのかも知れない。しかしそれも限度がある。
「こんな壁を壊すほどの破壊力の攻撃が完全に音を消し切れるとは思えない。それに衝撃や振動が身体に伝われば、何かがあったと気付く者が出てくるはず。それらに悟られないようにしるには、やっぱりこの方法が最適なの」
なるほど……と頷く雪風を他所に頭の中でイメージを構築させる。私を起点とした周辺に膜を張り、あらゆる音を逃さないように包み込む感じ。
「【バリアサウンド】」
発動と同時に淡い黄色の膜が私を包んで一定の範囲を覆って――ある程度広がると透明になってしまった。これなら魔導が発動しているともわかりにくいし、見つかる可能性を減らすことが出来る。
「……姫様」
「なに?」
どうやら膜の範囲外にいたヒューの声は普通に聞こえてくるようだ。思わず返事をしてしまって、失敗したかな……? なんて思っていると、微妙そうな顔をしてきた。
「どうしたの?」
「とりあえず魔導を解除してくれ。姫様が何言っているのかさっぱり聞こえん」
それでようやく彼には私の声が聞こえていないと理解できた。魔導を解除しても本当に解けたかどうかわかりにくいのはこれの欠点の一つと言える。
「解けてる?」
「ああ」
今度はちゃんとこっちの声も届いたみたいだ。ホッとした反面、一体どうしたのだろう? と気になった。
「それで、どうしたの?」
「いや、音が聞こえないようになるなら見えなくすれば簡単に正面から潜入できるんじゃないかと」
しばらくの間沈黙が周囲を支配する。どこか気まずい空気がたちこめている。
「……で、ですが、二つの魔導を同時に使用するなんて」
「いや、俺と姫様で手分けすればいいだろう。一度他人から姿を見えなくするだけの魔導を試してみたことがあるし、それが複数人になったって考えたら問題なくいけるだろう」
あっけらかんと言ってくれるけれど、そういうのはもう少し早く言って欲しい。
「それなら私とヒューの魔導を交互に発動させて、ジュールと雪風に確認してもらってから突入……。その流れでいい?」
「ああ。一度は試しておかないとな」
気軽に同意してくれたヒューが先に魔導――【ステルスノーカラー】を発動させ、次に私が【バリアサイレント】を展開する。
「……どう?」
私からはヒューの姿が見えている。どうやらきちんと声も聞こえているらしく――
「こっちは問題ない」
きちんと答えを返してくれた。ジュールと雪風はきょろきょろと周囲を見回して私達をさがしているようだ。どうやらちゃんと魔導は機能しているみたいだ。私達は話すことが出来るし、ヒューの姿も問題ない。ただ、本当に発動しているのか本人ではわからないというのが欠点だけど……見た感じではちゃんと効果を発揮しているみたいだし大丈夫だろう。
これなら問題なく正面を通行できるだろう。
……本当は軽業師のように城壁を移動して潜入、というのもいいと思ったんだけどね。
「……なんだか気が抜けていますね」
「こんなもんだろ。各国はゲリラ戦をしている奴らに一生懸命で、未だ見つかってすらいないここがいきなり襲われることなんて有り得ない。それが奴らの思考だからな」
馬鹿にした口調で語るヒューの言葉は間違っていない。暗躍している時は中々頑張ってはいたみたいだけど、表舞台に出てくるにはまだ早すぎた。彼らの計画性のなさを考えたらこれくらい楽観的なのも仕方がない。私達にはその方が好都合だ。
「やはり夜を待って――ああ、いや……」
言いかけて言葉を濁した雪風はここが地下である事を思い出したのだろう。私だってこんなに明るい場所が地面の下にあるなんて言われたって中々信じる事はできないだろう。
「夜が来る保証がどこにもない以上、それは期待しない方がいいかもね」
天井に存在するであろう魔導具次第だけど、今そんな賭けを行うわけにはいかない。かがり火を灯す台があるから可能性としては高いかもだけどね。
「ならどうしますか? 見たところ壁に穴が開いているとかはないでしょうし、正面突破はありえない……ですよね」
ジュールの言う通り、ここで見つかっては意味がない。何のために潜入したのかと言う話になる。なら――
「城壁の上を歩いている兵士をなんとかする方が良いかもな」
「……それしかないみたいね」
正面は無理で後ろも同じようになっている。穴を開ければ間違いなく気付かれる。なら隙を見て壁を飛び越えていくしかない。
「なら行動あるのみ。私が音を消す魔導を発動させるから、その間に各々壁を上がれるような魔導をイメージしておいて」
「でしたら魔導で音を消して穴を開けるのは難しいのですか?」
雪風の質問はナイスだ。丁寧に行えば可能なのかも知れない。しかしそれも限度がある。
「こんな壁を壊すほどの破壊力の攻撃が完全に音を消し切れるとは思えない。それに衝撃や振動が身体に伝われば、何かがあったと気付く者が出てくるはず。それらに悟られないようにしるには、やっぱりこの方法が最適なの」
なるほど……と頷く雪風を他所に頭の中でイメージを構築させる。私を起点とした周辺に膜を張り、あらゆる音を逃さないように包み込む感じ。
「【バリアサウンド】」
発動と同時に淡い黄色の膜が私を包んで一定の範囲を覆って――ある程度広がると透明になってしまった。これなら魔導が発動しているともわかりにくいし、見つかる可能性を減らすことが出来る。
「……姫様」
「なに?」
どうやら膜の範囲外にいたヒューの声は普通に聞こえてくるようだ。思わず返事をしてしまって、失敗したかな……? なんて思っていると、微妙そうな顔をしてきた。
「どうしたの?」
「とりあえず魔導を解除してくれ。姫様が何言っているのかさっぱり聞こえん」
それでようやく彼には私の声が聞こえていないと理解できた。魔導を解除しても本当に解けたかどうかわかりにくいのはこれの欠点の一つと言える。
「解けてる?」
「ああ」
今度はちゃんとこっちの声も届いたみたいだ。ホッとした反面、一体どうしたのだろう? と気になった。
「それで、どうしたの?」
「いや、音が聞こえないようになるなら見えなくすれば簡単に正面から潜入できるんじゃないかと」
しばらくの間沈黙が周囲を支配する。どこか気まずい空気がたちこめている。
「……で、ですが、二つの魔導を同時に使用するなんて」
「いや、俺と姫様で手分けすればいいだろう。一度他人から姿を見えなくするだけの魔導を試してみたことがあるし、それが複数人になったって考えたら問題なくいけるだろう」
あっけらかんと言ってくれるけれど、そういうのはもう少し早く言って欲しい。
「それなら私とヒューの魔導を交互に発動させて、ジュールと雪風に確認してもらってから突入……。その流れでいい?」
「ああ。一度は試しておかないとな」
気軽に同意してくれたヒューが先に魔導――【ステルスノーカラー】を発動させ、次に私が【バリアサイレント】を展開する。
「……どう?」
私からはヒューの姿が見えている。どうやらきちんと声も聞こえているらしく――
「こっちは問題ない」
きちんと答えを返してくれた。ジュールと雪風はきょろきょろと周囲を見回して私達をさがしているようだ。どうやらちゃんと魔導は機能しているみたいだ。私達は話すことが出来るし、ヒューの姿も問題ない。ただ、本当に発動しているのか本人ではわからないというのが欠点だけど……見た感じではちゃんと効果を発揮しているみたいだし大丈夫だろう。
これなら問題なく正面を通行できるだろう。
……本当は軽業師のように城壁を移動して潜入、というのもいいと思ったんだけどね。
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