転生姫様の最強学園ライフ! 〜異世界魔王のやりなおし〜

灰色キャット

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644・信じる事

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 城を通り抜けて更に先。私達はようやくその場所にたどり着いた。古びた遺跡。そこは異様な雰囲気に包まれていて、どこか肌寒さすら感じる。

「……ありましたね」

 半ば信じていなかったジュールの呟きにそっと頷く。あの男の言う通り、遺跡は存在して私達を今か今かと待ち受けているように思えた。

「……これで本当に終わるのでしょうか?」
「さあな」

 不安そうな雪風を適当にいなすヒュー。彼も知っている。ここまできてもダークエルフ族がいる限り、何も変わりはしないことを。だから今、この戦いが終わっても争いは続く。唯一違うのは……これを何とかしないとそんな未来も消え失せてしまうというところか。

「覚悟はいい?」

 改めて三人の士気を確認する。雪風は先程の不安な表情を押し殺して。ジュールは私を心底信じる瞳を向けて。ヒューはさも当然のように。各自違ってはいても答えは同じだった。

「出来ています!」
「ティア様の為に!」
「早く終わらせるぞ」

 頷き合って遺跡の内部に入った。見た感じ敵の姿や気配は見つからない。明るさは魔導具を用いているお陰か足元がきちんと見えるくらいには明るく、影になっている場所も少ないから死角を突かれる心配もあまりない。索敵の魔導を展開すると反応はあるのだけど、数的に兵士には思えない程度しかいない。たかだか数人で切り札を守り通せると思うほど緩くはないはずだしね。

「……どうですか?」
「罠かもしれない。慎重に進んでいきましょう」

 ジュールとヒューを後ろ。私と雪風を先頭にして警戒する。大体そつなくこなせる二人が前後を警戒しているのだから何が起こっても対処は容易なはずだ。

 ――

 奥へと続く道を進むと大きく開けた場所へとたどり着いた。ここまで幾つか部屋はあったけれど、そのどれもが生活空間だったり何かを保管する場所だったりと大きく違いがある場所ではなかった。

 特に見るべきものもなく、最後に着いた場所がこの開けた部屋というわけだ。こういう場所には大抵扉が付いているはずだけど、ここにはそういう類のものは一切ついていなかった。経年劣化で崩れているだけなのかもしれない。

「随分と古い場所ですよね。本当にここにあるのでしょうか?」

 辿り着いた場所がここなのだから疑問は残る。確かに私達では想像も付かないものが幾つもあるけれど……どうにも本当にこんな古臭い場所に彼らの切り札があるとは思いにくい。何かしらの研究施設――なのはまあ、間違いないだろうけど。

「……なるほど。本当にここまで潜り込んでくるとはな」

 とりあえず調べてみようと思ったら、奥からダークエルフ族の男達が数人。索敵の魔導で引っかかった敵性体全てが集っていた。

「聖黒族……忌々しい小娘が……!」

 憎悪で睨まれるのは慣れていたけれど、ここまで負の感情を露わにされるのは初めてだ。余程『聖黒族』を恨んでいるように思える。

「ようこそ聖黒族の姫君。よくもこのような地下深くへとお越しいただきました」

 仰々しく挨拶をするダークエルフ族の男。恐らく他の人達を率いているのはこの男だ。悠々とした物腰に佇んでいるだけで放たれる覇気。黒いローブを着込み、フードを深くかぶる事によってあまり顔を見えないようにしている者もいる中で、彼は堂々とした顔で私を見下ろすように視線を向けていた。
 切れ長の瞳には知性を感じる。だけど覗き込むとその中はどろどろに汚れているようだった。輝くような緑色の髪も、やや白い肌も……エルフ族の中にいても不思議ではない。端正な顔立ちも含めて、ね。

「ええ。このくだらない争いに決着を付けに、ね」
「何だと……!?」
「まあまあ、少しは落ち着け。安い挑発だ」

 カッとなって声を張り上げそうになった後ろの男を彼は落ち着き払って宥めていた。

「クロイズが反旗を翻した時点でこうなる事は予期していた。……が、少々遅かったようだな」
「……遅かった?」
「ああ。この世界に眠る最古の魔導具――【グランジェ】。それの起動がついに実現したのだ」

 大げさに両腕を広げてアピールするのはいいけれど、悲しいかな。彼ら以外はよくわかっていない。こちら側は最古の魔導具と言われても全くピンとこないのだ。

「ふん、よくわからない……そんな顔をしているが、今ティリアースに向かっているであろう【ユミストル】で大地をならし、我らが【グランジェ】が世界を統べる。既に最終計画は動き出しているのだよ」

 彼の発言にジュールとヒューに動揺が走る。ヒューにはラミィがいる。ジュールや私、雪風にも思い出が詰まった場所だ。そこに他の魔導兵器を向かわせている……そんな事実に動揺しない人はここにはいなかった。

「ふはは、どうする? 今更慌てて引き返すか?」

 それを滑稽なものを見ているかのように嘲笑う彼らに虫唾が走る。だからこそ私は余裕のある表情を浮かべてあげた。

「くだらない夢想をするのは大概にして欲しいわね。貴方達はここで死ぬ。何の目的も達することなく、ただ無様に死に急ぎなさい」

 ティリアースに残された人達。そして必ず戻ってくるであろうファリスの事を私は信じている。彼女達なら――きっとなんとかしてくれるはずなのだから。
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