転生姫様の最強学園ライフ! 〜異世界魔王のやりなおし〜

灰色キャット

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655・ユミストルの騎士(ファリスside)

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 一度、二度と斬撃を交わし、ファリスは改めてユミストルの騎士の異常さを感じ取っていた。【フィールコラプス】は触れただけで影響を及ぼす破壊の象徴。崩壊の化身と呼んでも良い人造命具だった。それと数合打ち合っても平然と機能を維持している剣と盾は何らかの細工がしてあるに違いなかった。

(面白いじゃない……!)

 切り結ぶ度に鋭さを増していく動きはユミストルの騎士が成長するゴーレムの亜種であることを示している。最終的にファリスと同等の剣術を扱えるようになる。その前になんとか潰したいと画策するのだが、あまり上手くいってはいなかった。

「【フラムブランシュ】!」

 発動する魔導はユミストルの騎士が盾を構えると魔力を吸収され、威力を減衰させてしまう。それが騎士の身体中を駆け巡り、剣に集中する。魔力を纏い、より一層強固さを増したそれを一つの刃として解き放つ。斬撃は風の刃となってファリスを襲い、弾くと同時に騎士が接近戦を挑んでくる。
 互いに切り結び、苛烈さが増していく。

(くぅっ……速い……!!)

 どんどん加速していく騎士の動きにファリスは次第についていけなくなっていく。明らかに彼女から奪い取った動きではない。鋭く洗練になっていく騎士はファリスが一度斬撃を行うごとに二、三度と動けている。体格差から放たれる重い一撃。ファリスの身体は悲鳴を上げて後方にずり下がる。

「……! 【タイムアクセル】!」

 既に実力差が開きつつあるファリスと騎士の状況を打開する魔導を発動させる。緩やかに進む時間に周囲は支配され、騎士の動きも大幅に鈍る。
 ここぞとばかりに次々と斬撃をたたきこむ。騎士も負けじと反撃するが、ファリスが時を支配する空間では成す術も無い。一方でファリスの方も騎士の頑丈さに辟易していた。
 何らかのコーティングが施されているのは理解していたが、僅かに黒い傷をつける程度に留まっている。ユミストルの時のように何度も斬撃を加える事が出来れば可能性はゼロではない。が、後々の事を考えるとどうしても暗い気持ちになってしまうのだ。

 何度となく交わされた刃を弾き、飛び退ったファリスは自らの身体に魔力を巡らせる。

「【シックスセンシズ】!!」

 魔力の消耗が激しい【タイムアクセル】の連発を避けるように六感の全てを研ぎ澄ませる魔導を発動させる。身体がついていかないならそれなりのやり方があるというかのように速さで圧倒するユミストルの騎士を視覚、聴覚、直感を用いて追い縋る。掠めるだけで通常よりもはるかに超える痛みを感じ、苦悶の声を上げそうになるのを堪えて息もつかさぬ斬撃の交わし合いを繰り広げる。
 ファリスの肢体に僅かな傷が入る度に騎士の鎧にも同様の傷がつく。

 徐々に侵される黒を意に介さないその姿は退く事を知らない益荒男ますらおのようにも見える。中身があれば言葉を交わすこともできたのに……とファリスは心から残念だった。
 彼女にとって戦いは対話の一つだった。愛を知ってほしい。自分がどんな思いをしていたのか感じてほしい。それ故に刃を振るうこともある。
 だからこそもし目の前の敵が知性のあるものなのであれば、どんな対話が生まれるのかと密かに気になっていたのだ。

「ちっ……はぁ……はぁ」

 斬り払い、避け、突き、防ぎ、回転しながら斬り、合わせ、下から掬い上げるように放ち、上から叩きつける。短い時間で繰り広げられる数々の攻防。その全てを騎士は受け止め、反撃の一手を繰り出す。
 幾度となく続けられたそれはファリスの精神と体力を削るのに十分だった。

 息切れが出始め、疲れが見え隠れする今の状況は明らかなファリスの劣勢。同じように斬撃を続ける騎士はゴーレムであり疲れ知らずだ。繰り出す刃が段々と重くのしかかる。僅かに精彩の欠いた一撃は容易く見切られ、左肩を切り裂く一撃を受ける。血飛沫が舞い、全身を駆け巡る痛みに頭が壊れそうになるファリス。

 それでも剣を離さなかったのは彼女の気力が未だ衰えを見せていない事に関する証拠だろう。

「がっ……くっ……う、く、ま……だまだぁぁぁぁ!! 【タイム……アクセル】ゥゥゥゥ!!」

 自分を鼓舞するように発動された【タイムアクセル】は最後の輝き。痛みを押し殺すかのように放った魔導はより自らを加速させる。全てを振り切るかのように放たれた斬撃は【シックスセンシズ】の効果も相まって最速の一撃を放ち続ける。絶好調とは程遠い状態であるにも関わらず、ファリスの斬撃は止まることなく振り下ろし、返す刃で更に連撃を繋ぎ、ユミストルの騎士は瞬く間に傷だらけになる。ほぼ棒立ちの相手に息をつく暇もなく休まず剣を振るい続ける。

「……はぁ、はぁっ、くっ」

 永遠とも思えるほどの長い時間が経ったかと思われるほどの濃密な刹那。ファリスの感覚では一日以上はとうに過ぎていると錯覚しているだろう。【タイムアクセル】の効果はいつの間にか解けていた。それでも構わず剣を振るう。ユミストルの騎士は腕をもがれ、鎧を砕かれ、無残な姿に変わっていき――最終的には他のゴーレム達と同じ運命を辿る。いくら頑丈に作られ、魔力に耐性をもった兵器であっても、加速の末に放たれる無数の斬撃の前には成す術がなかったのだ。

 それは同時にファリスの魔力の大半を注ぎ込んでしまった結果となり――彼女は急激に体内から魔力が減った事によるめまいを感じ、騎士が消え失せたと同時に倒れてしまったのだった。
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