外れスキル【観察記録】のせいで幼馴染に婚約破棄されたけど、最強能力と判明したので成りあがる

ファンタスティック小説家

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辺境都市ジャヴォーダンへ

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 実を言うと、アダン家では複数の魔術家から貸してもらっていた魔導具の数々のレンタル料がかさんでいる。

 さらに魔術協会からもらっていた研究費用も、ワルポーロの代でほとんど成果を出していないので大部分を返還しないといけない。

 この利息も膨大だ。

「頭がいたくなる。母さんの治療費もあるっていうのに」
「アルバート様…もしかして、アダンは相当やばいのでは?」
「おお、ようやく気がついたか、ティナ。そうだぞ、お前の職場は死ぬほどピンチだ」
「ヒッ……」
「はは、悪いな、冗談だ。すぐになんとかするさ」

 作戦はある。
 とはいえ、負債は大きい。
 
 アダン家は【怪物使役式】があったからこそ、他の魔術家の支援を受けて、貴族としてので体裁をなして、協会にいられたのである。

 今やそのすべてが失われた。
 ゆえに2週間後には夕食すら食べれない。

 アルバートは深いため息をついた。
 
「なにはともあれ、まずは財産を作る。俺の【観察記録】でな」
「【観察記録】でですか……ん、なるほど! わかりましたよ!」
「聞かせてみろ」
「ふふ、モンスターたちを売るのですね!」

 ティナは閃いた顔でいう。
 アルバートは「まずはな」と静かにつけたして、くたびれた笑顔をうかべた。

 ──翌朝

 アルバートは早朝からハンマーをつかって、モンスターハウスと地下魔術工房を繋いでいた。
 
「これで行き来しやすくなった」

 書庫からもってきた木の階段を設置し、鉄のハッチをつければ、これでモンスターハウスと地下魔術工房の開通工事は完了だ。

 アルバートは汗をぬぐう。
 足音に聞こえ、彼はふりかえった。

「坊っちゃん、ティーが入りました」

 アーサーとティナが茶菓子を配膳してくれていたようだ。

 ちょうどよいので昼休憩にする。

「ズズゥゥ」
「ぱくぱく」
「……」

 ひとりだけそわそわして落ち着きがない。

 アダン家の当主。
 先先代から仕える執事長。

 と、屋敷のなかでもそうそうなる顔がならぶなかで、妙な場違い感のあるティナだ。

 沈黙に耐えきれず、彼女は散らかった景色について主人に水をむける。
 
「アルバート様、こんなに豪快に屋敷を壊してしまっていいんですか?」
「さして問題はない。おじいちゃんもシャベル一本で魔術工房のための地下を掘ったらしいからな」

 そういう問題でしょうか、とティナは疑問に思ったが口には出さなかった。

 ──しばらく後
 
 3人は昼休憩をしたあと、モンスターハウスへと移動してきていた。

 多くのモンスターは凶暴でこそないが、どれもアルバートに忠誠心を抱いてはいない。

「俺の刻印は『細胞段階での使役』しかできないらしいな」
「坊っちゃんご自身の魔力と、怪書をもちいた召喚術で生み出したモンスターのみ、完全な支配下におけるということですな」

 アーサーの補足に、俺はうなづく。
 
 祖父エドガーの研究においてこれは次世代の使役術としてあつかわれていた。
 ただ、『既存のモンスターの使役』という旧式の使役術の能力を有してない以上、完全なる上位互換とは言いきれない。

 慢心するのは愚かなことだ。

「俺の味方はお前たちだけだな」

 モンスターハウスのなかで特別にしきられた区画がある。そこにはファングやコケコッコ、ブラッドファングなどのアルバート謹製モンスターが整列して待っていた。

 みなよい表情だ。

「よし。今日はコロ・セオ闘技場へ行く。午後には出発する。馬車の準備をしておけ」

 アルバートの指示にアーサーは「かしこまりました」と深く頭をさげてこたえた。
 ティナも遅れながらつられて頭をさげた。

 ──午後

 アルバート率いるアダン家の者たちは馬車で辺境都市ジャヴォーダンへとむかった。

 馬車でほんの2時間ほどの距離だ。

 ジャヴォーダンは、山脈を削り出してつくられた古代の段階都市であり、ここには歴史的な建築物が数多く残る。俗に言う古都だ。

 天をつく巨人用の階段のような段は、建築学に精通する魔術師がつくったとされる。
 なんと一段600~1200mの高さがあり、それが4つほど段々になっている。
 各段を生んでいる巨大絶壁は、張りつくように取り付けられた心臓破りの外階段か、あるいは整備された魔導機関車でのぼれる。

 これほどの都市のすぐ近くにアダン家が屋敷を構えているのは、貴族として力があるからではない。

 魔術をなりわいとする貴族──魔術家──は領地をもたない者がおおい。

 そういった者たちは、ジャヴォーダンのような大きい都市のまわりに屋敷を構えておくのがスタンダードなのだ。

 領地をもつ貴族とは違い、主に自分たちが開発・発見した魔導技術の、使用料や特許などの利権を財産としており、魔術師はそれをなによりの誇りとする。

 当然、アダン家もその部類だ。
 いや、だった、か。

 かつては大きな財産を築いていた。
 すべては過去の話だが。

「あ、あの…質問してもいいですか?」

 かつての繁栄の見る影もなく、悲惨なてんまつをたどるアダン家のことを、一介のメイドであるティナは不思議に思っていた。

 ゆえに、偶然同席することになった執事長に過去をたずねたのは当然の行動である。

「アダン家がどうして苦境に立たされているか、ですか」
「そうです、アーサー様。エドガー様がすごくご活躍なされたと聞いていたのですが……」

 ティナは語尾をだんだんちいさくする。
 すぐかたわらに座る現在の主人アルバートを気にしてのことだ。

 貴族は体裁や誇りを大事とする。
 場合によっては、ティナの発言は主人の怒りを勝ってもおかしくはなかった。

 ただ、アルバートは特に反応を示さなかった。

 アーサーは窓外へ顔を向ける主人の沈黙に了解を得たとして先を話しはじめる。

「ワルポーロ様は決断をなされたのです。先代様の取得した数ある魔術特許を売り払うことを。だから、当家は財政が目がくらむほど辛い状況にあるのですよ」
「魔術家のもつ利権を手放してしまうなんて……ワルポーロ様はどうしてそのようなことを?」

 馬車のなか、アダン家の歴史に無知なティナはアーサーにずかずかと質問をする。
 
「ワルポーロ様の奥様ミランダ・アダン様をお救いするためです。人体変質学を追求する権威ある魔術家に助成を頼みでたのです」
「ミランダ様って……」
「ティナ、あなたは入ってはいけない部屋を覚えていますか?」
「ああ……あの部屋っ、もしかして、あの″地下室で眠ってる″お方が、そうなんですか?」
「ええ、そのとおり。ただいま奥様は魔術により超長期的な自然治癒術を受けられておられるのです」

 ティナはアダン家に雇われた時、なにがあっても勝手に入ってはいけない部屋のひとつとして、ミランダ・アダンの眠る封印室を見たことがあった。

 そこでは、若く美しい女性が氷の結晶のようなもののなかで穏やかに眠っていた。

「魔術家のお話なので深く聞いてはいけないと思っていましたが……あの方がワルポーロ様の奥様だったんですね!」
「今は、ああして永い眠りについておられますが、いつか必ず目覚めると言われています。……とはいえ、例の魔術を維持するためにも毎月支払いがあるのですが」
「うっ、またお金ですか」
「ええ」

 アーサーは「世の中は残酷です」とハンカチで目元をぬぐう。

 一方で、ティナは感心したように息をもらしていた。
 
 魔術とは、かくも不思議なものだなぁ、と。
 自分もなにか使えたら嬉しいな、と。
 
 ティナがそんな風に神秘の末端にふれて心底感動していると、ずっと黙っていたアルバートが口を開いた。

「おしゃべりはおしまいだ。闘技場についたぞ」

 アルバートの視線の先。
 そこには、馬車を10台重ねても届かない高壁の建築物がたちふさがっていた。
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