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観察記録Ⅱ
しおりを挟む予想外の訪問を受けて心ざわめくアルバートは、あたりを気にしながらこそっと話す。
「あの2人には何があっても魔術工房に入られたくない」
アーサーは目の色をかえず、ただ静かに一礼をする。
「モンスターハウス係と書庫係を任命して、それぞれ魔術工房まわりの管理と監視をさせておけ。警護にはモンスターをまわす」
「かしこまりました」
アーサーは主人の命令をうけてさっそく行動にうつりはじめた。
アルバートは書庫をぬけて魔術工房へおりてきた。
アイリスとサアナになにかしらの魔術をかけられてないか確認した。
大丈夫、遠隔で情報を獲得するタイプの魔術はかけられていない。
アルバートは注意しながら宙空にむかって指をつまんではなして、アナザーウィンドウを開いた。
───────────────────
アルバート・アダン
スキル:【観察記録Ⅱ】
レベル2
体力105/105
魔力228/228
スタミナ105/105
───────────────────
いくつか確認するべき事がある。
まずは【観察記録Ⅱ】に関してだ。
アルバートは手記をとりだして、そこに昨日からの午前中のうちにたしかめたデータを記録していく。
同時にこれまでの検証をまとめた。
①魔力がなくても使役したままでいられるのか
→およそ可能である。魔力が底をついても使役したモンスターたちは叛逆をする素振りを見せなかった。
②産み出せる数に限りはあるのか
→現状、限界は見られない。数による使役術の不安定化もおこってはいない。
③使役できる数に限りはあるのか
→こちらも同様だ。現時点において『エドガーの怪書』によって産み出したモンスターすべては、筆記者アルバート・アダンとの繋がりの中におさまっている。
④生み出せるモンスターの最大個体(強さ)→個体名:ブラッドファング。ゴールド等級の冒険者パーティを撤退させる戦力を有する。ただし、怪書モンスターは最大のポテンシャルを秘めた個体がでてくるので、具体的な戦力把握はさらなる検証が必要。
「うーん、相変わらず素晴らしい魔術だな」
古びた背表紙を指でなぞる。
アルバートは思う。
俺にも彼とおなじだけの発見と発明ができればいいのだが……。
「今はそんなこと考えても仕方がないか」
【観察記録】と【観察記録Ⅱ】の差についての所感。
刻印魔術の進化した点は2つある。
ひとつ目、怪書モンスター以外の使役が可能になったこと。
ふたつ目、白紙のページが増えたこと。
前者に関しては、およそ野生のファングくらいなら、使役できると確信できるだけの魔術的強度をもっている。
後者のページの増加は、この先において役立ってくるだろう。現状ではまだ10体前後の種類しか登録されていないので恩恵はない。
「野生モンスターの質は怪書モンスターより劣るから使い方は考えないとだな」
とはいえ、これにて【観察記録Ⅱ】が従来の使役術を包括できると判明した。
これがエドガー・アダンの設計によるものか、俺の功績なのかはわからないが、この刻印が次世代の使役術であるのは確かなようだ。
「こんなところか」
手記をとじて、怪書を手に取る。
次は魔力を使う時間だ。
俺はブラッドファングの項目を開いて、まよいなく召喚をおこなった。
消費魔力はわずかに少なくなっていた。
「また、ブラッドファングを召喚するんですか?」
魔術工房につめているティナは、資料整理の手をとめて手元をのぞき込んでくる。
おや、平気なのか。
てっきり怪書に目を通したら苦しむものかと思っていたが。
「ティナ、頭痛はするか?」
「しませんけど?」
ふむ。
正式な所有者である俺が閲覧しているかぎりにおいては、ほかの人間にも閲覧許可がでて、図鑑を見れるわけだ。
「ブラッドファング、お金にかえたらすっごく値がつきそうですね!」
「いや、こいつを売る予定はない」
「え? そうなんですか? …あ、すみません…。てっきり、モンスターはみんな売ってお金に変えるものと……」
モンスター売買は使用人たちによからぬイメージを与えているらしい。
金の亡者だと思われている。
「モンスターを売って金にかえるのが、ただひとつの使い方ってわけじゃない。いろいろ考えてはいるが、現状、ブラッドファングはアダン家の戦力という扱いだ」
「強いですもんね、この子」
ティナはまだ出来上がっていない、ブラッドファングの元、とも言える赤黒い液体溜まりをみてつぶやいた。
この光景も慣れてきたらしい。
「まあな。ただ、ブラッドファングだけじゃ強力な魔術師を相手とる場合、非力だ。より強力なモンスターの登録は必須だな」
「そうなんですか……でも、ブラッドファングが2匹もいれば安心なのでは?」
「まだまだ。これではアイリスの気まぐれでアダンを壊滅されかねられない」
アルバートそう言って、残った魔力を何に使うか頭をつかいはじめる。
結果、はじめて召喚するモンスター、トレントを呼び出すことにした。
トレントは呪樹とも呼ばれる、木がなんらかの魔力的働きで魂をもったモンスターだ。
2体しか呼び出せなかったが、相変わらず樹木によく似ていて、いろいろと用途の可能性を感じさせるモンスターであった。
「ティナ、このトレントたちは将来的にこんな感じにしようと思う」
彼女に計画書をわたしておく。
計画書にはトレントの役割が書かれている。
「全部トレントにするんですか……?」
「ああ。全部だ」
ティナは目丸くしていた。
計画があまりにも脳筋だったからだ。
「だが、スマートだろう」
「ま、まあ、そうとも言うかもしれません」
「とにもかくにも、まずは、拠点を固める」
「……はい」
「モンスター販売ビジネスの優先度はひとつ下げる。家、亡くなったアダンの使用人、そして、父さんの失敗は繰り返さない。我々は魔術世界で生きるにはまだ弱すぎるんだ」
アルバートは覚悟の表情でそうつげた。
ティナは主人の決意に敬意をはらい、かたわらで身を引き締めていた。
──翌朝
朝からアルバートは庭にでていた。
魔術工房で大量に生成したトレントたちを、モンスターハウスの後方の森にまぎれこませて待機させるためだ。
ファングと同じく消費魔力『5』でつくりだせるトレントたちは、頭数をそろえること自体は楽であった。
「もっと自然に木っぽくしてろ。お前たちならできるだろう」
なぜか、大根役者なトレントたちにカモフラージュの大切さを説いて言い聞かせた。
「メシメシ、ミシミシ」
「悪くない。やればできるじゃないか」
1時間ほどの指導をおえて、トレントたちは立派に自然な木になれるようになった。
一見してこれだけのトレントが敷地内に潜んでいるとは思うまい。
これから毎日、すこしずつ増やしていく。
数がそろって、周囲の森すべてをカバーするだけの広域防衛網を築きあげれば、アダン家の守りは盤石なものとなるだろう。
アダンを敵にまわすこととどうなるか、徹底的にわからせてやらなければな。
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