上 下
6 / 21
第一章 追放の宮廷魔術師

6.まずはポーション薬学

しおりを挟む
 
 睨みをきかせてくるメイドたちに見送れ、俺はメイド長室をでた。

「痛ぇ……」

 顔の形がかわってないか心配しつつ、ロープの内側から、透き通った水色のポーション小瓶をとりだし、ぐいっと一口あおる飲む。

「あー、サリィ、なんかのんでるー」

「ん、レティスお嬢様、待っていてくれたんですか」
「うん! レティスののシモベをかってに連れていくなんて、許せないわ!」

「本当です、本当です。なんで俺がこんな目に合わなくちゃ……おっと、部屋の中にはこわいメイドさんたちがいますから、すこし歩きましょうか」

「いいわよ! サリィといっしょに歩いてあげる!」

 ちいさなレティスお嬢様と手を繋ぎ、見知らぬ廊下をあるく。
 足裏からつたわる赤絨毯が分厚すぎて、足音が鳴らないところは魔法省とそっくりだ。

「ねぇねぇ、サリィ、さっきは何飲んでたのー?」

「レティスお嬢様はご存知ないですか? あれはポーションと呼ばれる特別な霊薬れいやくです」

「へぇー! サリィってポーション作れるんだー!」

「えぇ、多少は。ですけど、一番純度の低い青ポーションだけですけどね。
 ポーション薬学は触ったていどですので、本職の錬金術の学徒がくとたちには、とても及びませんよ」

 レティスはニコニコ笑い、タッタッタっとかけて前へ。すこし先でこちらへ振り返って手をひろげた。

「すごいわー! サリィ、わたしもポーションを作ってみたいっ! サリィは、ママと違って、わたしにたくさんの事を教えてくれるんでしょー?」

 無邪気に目を輝かせる少女、いや、幼女。

「ええ……手取り足取り、なんでも教えてあげます」

 邪念なく、純粋すぎる愛でこたえる。
 レティスお嬢様の顔がパーっと明るくなった。

「わーい、やったーっ! それじゃ、今日はポーションを作ってエゴスにいたずらしましょーっ!」
「ええ、いいですよ。たくさん困らせてやりましょう!」


 ⌛︎⌛︎⌛︎


 パールトン邸にやってきて、まだ1時間しか経っていないにも関わらず、俺はさっそく初回授業をレティスへほどこすことになった。

 無邪気に手をひいてくるレティスに先導されて、俺はパールトン邸の魔術工房へやってきた。

 狭く、換気のできてない薄暗い部屋。

「ここね、レティスのお気に入りのばしょー! むかし、ママが使ってたんだってー!」
「レトレシア魔術大学校長の、かつての工房……なるほど、とても興味深いですね」

 自慢げに薄い胸をはるレティスの頭をなでる。
 レティスは「特別なんだからねっ」と言いながら、すごく気持ちよさそうに、頭をこすりつけてきた。

 がわいぃ……ッ。

「それじゃ、とりあえずポーションの基礎から学びましょうね」

 整理という言葉を知らない雑多な作業台のうえから、薄汚れたフラスコと、腐った魔力溶液を手にとる。

「うぅ、これは……」
「ねぇねぇー! はやくポーション作ろー!」
「レティスお嬢様、とりあえず買い出しに行きますか」

 俺はレティスの手をひいて、工房をあとにした。

しおりを挟む

処理中です...