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アビスボス:深淵の番人

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「疲労回復秘孔?」

 ────────────────────
 『疲労回復秘孔』
 消費MP:2
 波動秘孔を突いて蓄積した疲労をわずかに回復させる
 効果:疲労回復2
    快楽度20
 解放条件:短期間の間に秘孔への処置で気力を500回復させる
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 波動秘孔を突ける前提のスキルだな。
 にしても解放条件が短期間での処置だったのか。
 気力回復スキルがある前提の条件だ。
 なおかつ短期間で500回復となると、結構厳しめだ。
 今回みたいにダンジョン環境で、制限時間があって、かなり無理して先へ進みたい動機でもないと、なかなか手に入らないだろう。
 運がよかった。
 
 試しに親指で心臓あたりを疲労回復秘孔で突く。
 溜まった乳酸がスーッと引いていくような、体の芯に溜まった澱みが浄化されていく快感がほとばしった。

 快楽度は20か。いいぞ。
 ゴッドフィンガーより威力の高いマッサージができる。
 現状、俺の素のマッサージ力で50。
 この疲労回復秘孔で20。
 あわせて快楽度70か。
 俺にとっての快楽度は、実質的モンスターへのダメージあつかいだ。
 今度からは疲労回復秘孔で攻撃という名のマッサージを仕掛けることにしよう。

 しかし、困った。
 本当にチュートリアル会場に戻る理由を失ってしまった。
 だって、レベルアップの度にMP全回復するから、疲労度を回復する手段を手に入れたら、ほとんど永久機関で動けてしまう。

 うーん、でも、レベルがあがれば上昇もしにくくなるのが鉄則。
 いずれは永久機関などとほざいていられなくなる。
 というわけで、行けるところまで進むことにした。
 タイムリミットもあることだしな。

「これはなんだ?」

 いままでとは違うおかしなオブジェクトを発見した。
 階段ではなく、鳥居のような形をしている。
 様子がおかしい。霧で先に進めない。
 霧には物理的な干渉力が強く働いているようだ。
 霧をよく見ると「アビスボス:深淵の番人」と白い文字で書かれている。
 指でなぞると、白い文字が黒く濁りが晴れた。

「進めということか」

 なかへ足を踏み入れる。
 鳥居の向こう側は異質な光景が広がっていた。
 とてつもなく広いドーム状の空間だった。
 おそらくだが東京ドームとかそういう規模の大きさだ。
 しかし、真っ暗なのでなんとも高さがつかめない。
 無限に続いているような錯覚さえ覚える。

 ドームの真ん中、まっくらの中心に焚火がある。
 焚火のそばに腰を下ろす人影が見える。
 近づいていくと、だんだんそいつが”デカい”ことがわかった。
 身長3mとすこし。恰幅《かっぷく》が良いではおさまらないデブだ。
 手には血で錆びた大ナタをもっている。
 イボだらけの顔がこちらへ向けられる。

「ぉ、ぉおお、ぉぅ」

 そんなダミ音をもらしながら立ち上がると、おもむろに突っ込んできた。

「面白い」

 俺はすこし楽しくなり、完全マッサージ体質を2%開放する。
 大ナタを躱して、すばやく疲労回復秘孔を16発連続で突いた。

「『秘孔十六連星《エデン・オブ・シックスティーン》』──ひと突き1億と言われた伝説のマッサージさ」
「おおおおおお!!!?」

 大男は痙攣してビクビクすると膝から崩れ落ちる。
 
『深淵の番人は倒されました』

 そんな声が聞こえた。
 例のミスター・ゴッドじゃないほうの声だ。

 デブの体が光の粒子となって空へ登っていく。
 すると、

 ピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコピコ!
 アビススキル「深淵の先触れ」を獲得しました。

 壊れたのかと思うほど、やかましい音が響いた。
 誤ってバズってしまったツイートみたいになっている。
 通知をオフにできない分こちらの方がたちが悪い。

 やがて、ピコ太郎がおさまったあたりで「ステータス」とつぶやく。
 まだ耳の奥でピコピコしてる気がする。

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 加納豊
 レベル67
 HP 4967/4967
 MP 1396/1396

 補正値
 体力   967
 神秘力  896
 パワー  921
 スタミナ 850
 耐久力  855
 神秘理解 340
 神秘耐久 322

 ユニークスキル
 ≪肉体完全理解者≫

 アビススキル
 深淵の先触れ

 スキル
 ゴッドフィンガー
 疲労回復秘孔

 装備品
 『追跡者の眼』

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 なんか凄いことになってんな。
 まずレベルが目標の50を大きくオーバーしている。
 それに補正数値もそろそろ四桁の大台に乗ろうとしている。

「そして、深淵の先触れか」

 ステータスの欄に指で触れる。

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 『深淵の先触れ』
 消費MP:1,000
 十分な熟練度に達したスキルを深淵のチカラで進化させる。
 効果:スキルレベルを1→2に突破させる
 解放条件:深淵の下僕を1体倒す
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 という感じだ。
 深淵の下僕というと、今のデブのことだろうか。
 ボスさん名前負けしてないですかね。大丈夫ですか?
 
 しかして、消費MPが半端じゃない。
 スキルレベルを突破させるってそんなに強いものなのだろうか。
 MPはレベルアップすると満タンに回復するので、今は1,000以上ある。
 試しにゴッドフィンガーを突破してみた。

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 ゴッドフィンガーlv2
 消費MP:4
 突いた相手の気力と体力とMPをわずかに回復させる
 効果:気力2回復 体力2回復 MP2回復
    快楽度10
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 MPの消費が増えたが、効果での回復量も増えているので、自分に打つ分には、実質的な消費は変わらない。そのわりには効果は2倍と順当に強化されている。

 快楽度は変わらない。
 瞬間快楽度50を越したら人間の命が危ない。
 lvアップするたびに快楽度が増えて行ったら、もがや敵専用の攻撃スキルの運用しかできなくなるので当然っちゃ当然だ。
 
「ん、これはなんだ」

 アビスボスの死体が消えた場所で石ころを拾う。
 表示を見れば「深淵の叡智」と書かれている。
 危なそうなのであとでミスター・ゴッドに訊いてみるか。

 それ以上の収穫がない事を確認してドームの奥へ進む。
 そこで下へと続く階段を見つけた。
 俺は深度11へ降りることにした。

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