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武装した暴力系派遣会社の社員
しおりを挟む悲鳴を聞いて俺と芽吹さんはすぐに現場へ駆けつけた。
木々を抜けると見えて来たのはひらけた道だ。
馬車がモンスターに囲まれている。狼のような四足獣。全部で12体もいる。
武装した者たちが3人、囲むようにして馬車を守っている。状況は悪そうだ。
「半分任せてください、加納さん」
駆ける勢いのままに道へ飛び出して、芽吹さんはマチェーテでモンスターを真っ二つにぶった斬る。
俺は疲労回復秘孔をモンスターに1発ずつ、計6発連続で命中させた。
少しして、モンスター6匹が続けざまに爆散した。
あれ?
おかしいな、気持ちよくなったやつはもっと煌びやかなご臨場をするはずなのだが。さっきもモンスターも黒く溶けてなかった。黒く溶けたり、光になるのはダンジョン内だけなのだろうか。
「たぁあああ!」
疑問を抱いている最中もキラーマシン芽吹さんはマチェーテをぶん投げたり、回し蹴りでモンスターを粉砕したり、やりたい放題です。
お淑やかな黒髪美少女が血塗れになった頃、すべては片付いた。
「大丈夫でしたかね? お怪我はありませんかね?」
芽吹さんはニコッと優しげに微笑んで訊く。
待て待て、この人たちめちゃ怖がってるぞ。
「芽吹さん、ここは俺が」
「むぅ、なんだか釈然としませんね」
「俺たちは怪しい者じゃないです。あなたたちの悲鳴を聞いて助けに来たんですよ」
俺が話すと彼女らは落ち着いてくれた。
芽吹さんが向こうのほうの草派の陰で、ウォーターボールで身体を綺麗にしている間、話を聞く。
彼女らは冒険者パーティ『ゲールズ団』。
艶やかな赤髪に、黄色い瞳が綺麗な三姉妹であった。
今は荷物の護送中らしい。運悪くモンスターの群れに遭遇してしまった現場に居合わせたわけだ。
にしても、冒険者ってなんだろう。
すごい当たり前みたいに自己紹介されちゃったけど。
知らないとまずい単語か?
「冒険者知らないんですか?」
「ええ、まあ、いろいろ、そのですね、ええ、そういうことになります」
「えーっと、冒険者がギルドっていうところがあって──」
仕事斡旋をしてくれる仲介組織。
それが冒険者ギルドらしい。
そして、冒険者とはそこの派遣社員だとか。
いや、こんな説明はしてなかったが、俺の理解できるものに置き換えた結果こうなった。
武装した暴力系派遣会社の社員と認識して間違いなさそうだ。
「それにしても、素手で倒してしまうなんて、すごかったです……一体何者なんです?」
リーダーの少女サドゥ・ゲールズはそう言って、遠慮がちに訊いてくる。どこか腰が低い。俺と同い年くらいの年齢だが、どうにも歳上と思われている気がする。デカいからだろうか。
ちなみに俺たちは遠国から来た流れ者という設定で通すことにした。
「まあ、こんな英雄さまに助けてもらえるなんて幸運ですねぇ」
サドゥの姉ルーヴァ・ゲールズは豊かな胸をなでおろす。
「お名前をお聞きしても良いですかっ!?」
一番背が小さい子が話しかけてきた。
「加納豊ですよ。君は?」
「カノウさんですか。私はリィ・ゲールズですっ! とってもお強いのですねっ!」
「多少は戦えるという程度ですよ」
「あの、さっきの戦闘でもしかしたら怪我をしているかもしれないので──」
末妹のリィは、俺に腕に手を当て「ヒール」と唱えた。
身体に癒しの力が駆け巡っていく。
「回復系スキルですか?」
「そうなんですっ! 私はスキル使いなのですっ!」
リィは薄い胸を張って、ふふん、と上機嫌に言った。
話を訊くとスキル使いというのはとても珍しい存在だそうで、才能あふれる者だけが身につけられる神秘の力なんだそうだ。
「へぇ」
「リィはあたしたちの村の出身で唯一のスキル使いなんです! すごいでしょう!」
「私たちのリィはゲールズ家の誇りなんですよぉ」
仲良い姉妹だ。
スキルがそんなに貴重な物だなんて知らなかった。
流石はミスター・ゴッドを名乗るだけある。勇者に大悪魔を倒させる為に、ポンポンスキルが手に入る環境を用意していたのだろう。
スキルの価値がわかると共に、ミスター・ゴッドなる存在の異常さも判明した。
ついでに、この世界の常識をもうすこし身につけようと思う。
「だれかステータスを見せてもらえたりしませんか?」
「ステータス? なんですかそれ?」
どうにもステータスの画面を出せるのは転移者である俺たちのだけのようだった。
彼らのステータスを見て、冒険者がどれくらいの強さなのか参考資料を手に入れようと思ったが、それ以前の問題だったようだ。
これから人前でステータスを開かない方がいいかもしれない。疑われてしまうだろう。少なくとも勇者としての足元を固めなければなるまい。
「変なことを聞くようですけど、ここら辺で一番大きな国ってどこですか?」
「本当に変な質問をするのねぇ、カノウさんは」
この近辺には都市国家連合と王国、帝国と獣人連邦政府の4つの国家規模の組織があり、最大勢力と言われるとなんとも言えない状態なのだという。
「この前の戦争は王国が負けてたのですっ!」
「帝国が負けたけどね」
「少し前までは帝国がよく負けていましたねぇ」
国土が大きいという意味では王国と帝国だという。
困った。どこの国行くべきかわからない。
「そうだ、アルフォベータ王って知っていますか?」
「んー誰でしょうかぁ……」
リィは首をかしげる。
次女のサドゥも長女ルーヴァも眉根をひそめている。
馬車の持ち主さんにも聞いてみるが知らないとのこと。
「この馬車の護衛を手伝ってもいいですか?」
俺と芽吹さんは放浪の旅の途中で、気の向くままに世直しをしていると告げた。
彼らについていき、文明圏につけばこの世界の情報や、大悪魔を見つける手がかりもつかめるだろう。
「もちろんだよ! あんたたちみたいな凄い英雄と旅できるなんて夢みたいだ!」
「とても光栄なことですねぇ」
「カノウさまほどの方と旅できるなんて、私たちついてるのですっ!」
こうしてゲールズ団美美少女三姉妹の面々とともに馬車の目的地──エスタの町を目指すことになった。
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