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第四章 悪逆の道化師
明らかな異分子
しおりを挟むエレントバッハは逞しい少年の背中に隠れる。
どう見ても農民が剣ぶら下げているようにしか見えないアーカムであるが、そのたたずまいは戦士の覇気を纏っている。
「エレンちゃん、わたくしと戦うつもりかしら?」
「エリザベスお姉さまに悪魔祓いの任は重すぎます。私がその役目、引き受けましょう」
「生意気ですわ。属性式魔術も三流、教会魔術も三流、そして、『守護者《ガーディアン》』も見るからに三流、いえ、四流ですわ。そんな体たらくでなにができると?」
「できます。私と、アルドレア様なら」
「口だけは達者ですわ。……で、どうするつもりなのかしら。魔術師としての実力はわたくしの方がうえですわ。加えてこちらの『守護者《ガーディアン》』は超一級、あなたが端た資金で雇った冒険者とは比べ物になりませんのよ」
エリザベスがそう言うと、彼女の前に黒い剣士が出てくる。
剣士は細身の直剣を抜くと、アーカムへ視線を定めた。
鋭い眼光だ。弱者ならその人間圧をまじかに受けただけで気絶してしまうだろう。
剣気圧が剣士の身に充足されていく。
この時点で二段以上の剣士であると確定した。
つまり、相当な猛者である。
「事情も知らずにノコノコ現れた冒険者ともども、斬ってくださいませ」
「俺はお前を勝たせるためにわざわざこんな異国まで来たんだ。当然、勝つさ」
剣士は相当に自信があるようだった。
アーカムへ一つ視線をむけ「悪いが、これも仕事だ」と、剣士はこれから斬り捨てる相手への謝意をつげ、そして、突撃する。
ダッ、ダッ、ダッ。赤い絨毯のしかれたふかふかの廊下を風のような速さで迫る。
息を飲むエレン。
アーカムはアマゾディアを右手に、コトルアを左手に、迎え撃つ。
剣士の上段からの斬りこみ。
狩人流で受け流し、ゼロ距離で《ウィンダ》を撃った。
至近距離からの無詠唱。
黒い剣士は成すすべなく撃たれ、大きくふっとんだ。
廊下をまっすぐに飛び、着地、立ちあがる。
──が、次の瞬間、口から大量に血を吐くと、膝から崩れ落ちた。
そのまま、剣士は動かなくなった。
「……ぇ?」
エリザベスは目を丸くする。
血だまりのなか、うつぶせに白目を剥く剣士。
動かない。動く気配がまるでない。
「殺してはない。だが、胸骨の複雑骨折位は覚悟したほうがいい」
アーカムはそう言いながら、杖と剣をしまい、何気ない様子で「大丈夫ですか」とエレントバッハへたずねた。
「え、えっと……はい……」
エレントバッハはそれだけ答えるので精一杯だった。
「ちょッ……ちょっと、待って!!!!!!」
ようやく状況を飲み込んだエリザベスはヒステリックに叫ぶ。
(なになになになになになになになになに?????!!!!!!
訳わからない!!!!!!!!
なにこれなにこれなにこれなにこれ!!
わたくしが楽勝で勝つはずでしょ!!?
そのためにわざわざ帝国へ赴いて剣聖流三段の超腕利きの剣士を雇ってきたのよ!!?
半年もの旅をして!!!!
たくさんお金も使った!!
たくさん苦労もした!!!
たくさん時間だってかかった!!!
すべては最高の『守護者《ガーディアン》』を雇って、この儀式に望むためだったのに!!!
なにそれ、エレンちゃん、ずるいでしょ?
なにそれ、なにその男、意味わからない!!!)
「こんなの絶対!! 絶対、ぜーーーーたっいおかしいんですわ!! 仕切り直しですわ!!! ノーカン! ノーカン! ノーカン! ノーカン!」
エリザベスは顔を真っ赤にし、涙をぽろぽろ流しながら「まだ終わってない、まだ終わってないのですわ……っ、わたくしの継承戦はまだ……っ」と涙声をもらす。
エレントバッハは、想像を大きく上回るアーカムの実力に脱帽していた。
「あ、アーカム様、あなたは一体……」
「『聖刻』を奪いましょう」
(言外に追及してくれるな、と彼は言っているような気がした)
エレントバッハは覚悟を決める。
(この継承戦、本当に勝てるかもしれない。運命が私とこの名もなき英雄をめぐり合わせたんだ)
「待って、待ってぇえええ!! エレンちゃん、わたくしはお姉さまでしょ? わたくしはあなたの実の姉妹なのよ!!」
「僕がトドメをやりましょう。手順さえ教えてもらえば、『聖刻』も。これでも神秘学の知識は修めてますので」
エレントバッハは、でしょうね、と思った。
(だって、アルドレア様、無詠唱魔術なんていう机上の空論を実戦で使える魔術師ですもんね……おそらく並みの魔法学校の学者たちよりも、神秘と深淵への理解は深いでしょう。もちろん、この場の誰よりも。──でも)
「いいえ、私がやります」
アーカムはコトルアの杖を抜いて、エレントバッハへ差し出す。
無言で渡されるそれは、アーカムの優しさだ。
エレントバッハは杖を受け取り、そして、実の姉に近づく。
「待って、待って…………──」
ちいさな声でつぶやかれる詠唱。
エリザベスはカッと目を見開くと「《アルト・ファイナ》!!!」と、近づいてきたエレントバッハを、猛熱で焼き払ってしまった。
とんでもない不意打ちにエレントバッハはまるで反応できなかった。
だが、彼女が焼かれることはない。決して。
狩人がそんなことをさせない。
アーカムは素手で炎を払いのける。
宇宙を内包したような瞳が、軽蔑の眼差しでもって、エリザベスを見下ろした。
「まだ覚悟ができないか。彼女はできてるぞ」
「っ!! お、お前、なんで、反応できるの……」
《アルト・ウィンダ》でもって、エリザベスの《アルト・ファイナ》に抵抗《レジスト》を掛けただけである。風霊の指輪をつけているので、手で払いのけたように見えたのだ。
「っ!! ま、待って、今のは冗談ッ!!! エレンちゃん、冗談よ! 貴族にはウィットあふれる会話が必要だってしっているでしょ、エレンちゃ──」
「不死鳥の魂よ、炎熱の形を与えたまへ
──《ファイナ》」
炎の弾丸がエリザベスの脳天を撃ち抜いた。
騒がしい命乞いは止み、静寂だけが廊下に残る。
「アーカム様……その、もう二回も命を助けられてしまいましたね……」
「護衛クエストですから」
「ふふ……どこの英雄様か、不勉強な者で存じ上げませんが、あなたのその力なら継承戦を勝ち抜けると思います。……今一度、問います。私、エレントバッハ・ルールー・へヴラモスの『守護者《ガーディアン》』になっていただけますか?」
「そういうクエストなので。護衛者も守護者も変わりませんよ」
エレントバッハはクスリと微笑む。
出会ってからごくわずかしか時間を共にしていない。
だというのに、アーカムという少年に大きな信頼を寄せていた。
命と信頼を預けるに足る人間だと判断していた。
「では、私はこれよりお姉さまの『聖刻』を引き剝がします。あたりを見張っていていただけますか、アーカム様」
そうして、エリザベスの腕の白い紋様は、エレントバッハへと渡った。
────
いきなり襲撃者来たねぇ。ていうか、あそのこセーフハウスみたいな場所じゃないの?
いきなり部屋ごと燃やされてるど?
継承戦監督委員会さん、これレギュレーション違反じゃないんですかね?
「エレンちゃん、わたくしと戦うつもりかしら?」
「エリザベスお姉さまに悪魔祓いの任は重すぎます。私がその役目、引き受けましょう」
バチバチです。
お、黒い剣士出て来たよ。
なんか強そう……うぇ、剣気圧まとってんじゃん……ちょまてよ……。
突っ込んできました。
だけど、スピードはアンナに比べたら子供みたいなもんですね。
はい、受け流しまーす。《ウィンダ》撃ちまーす。
お? 倒した?
《ウィンダ》で倒せちゃうかぁ……俺の魔術も日々進化してるね。
「殺してはない。だが、胸骨の複雑骨折位は覚悟したほうがいい(適当)」
アーカムさんの医学的な知見で言わせてもらうと、死んでるかどうかはあなた次第です(ぶん投げ)
杖と剣をしまい、何気ない様子で「大丈夫ですか」と俺の依頼主へ声をかけます。
気が利くのが一流の紳士だからね。
にしても、なんだか、厄災クラスの戦いを経験したあとだと、どうにも緊張感がでないな。
ふざけるつもりはないのに、命の危機を感じないせいで、結果ちょっと真面目になりきれんぞ。
「こんなの絶対!! 絶対、ぜーーーーたっいおかしいんですわ!! 仕切り直しですわ!!! ノーカン! ノーカン! ノーカン! ノーカン!」
それは通らないッ! 大槻ッ!
さりげなくエレントバッハさんに「俺がえぐい事やろうか?」と進言してみたけど、この子、自分でやると言い出す。
すごい。
覚悟が、全然違う。
たぶん、仲間を助けるために、時速150kmの電車から敵と心中できちゃうくらい覚悟決まってるよ。
確かに、今目の前でノーカンコールしてる大槻に比べたら、遥かに器がデカい。
って、あれ、大槻、お前、なんかボソボソ言ってるな。
って、それ……詠唱じゃねえか。
滑り込んでエレントバッハの首根っこつかんで引っ張り、《アルト・ウィンダ》で炎を打ち消しますっと。
油断も隙もねえ大槻だ、このエリザベスは。
エレントバッハはそのまま実姉に引導を渡して、『聖刻』の回収作業に入りましたよっと。
俺はその間、近くをうろちょろしてました。
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