異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家

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第五章 都市国家の聖獣

釣り針

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 アーカムは現場に残っていた弾を集めきり、次に、薬莢がどこかに落ちていないかを探しはじめた。

 聖獣が倒れているのは広場の真ん中。
 広場周辺には壊れた建物が何棟かある。
 ただ、そんなに多い数じゃない。
 被害があった範囲も広場のまわりに限定されている。
 
 聖獣を倒した英雄とやらは、ごく一方的に攻撃し、さしたる戦闘をせずに倒しきった可能性が高い。──と、アーカムは推測した。

 広場の外周部分を歩くと、案の定、薬莢らしき物が落ちていた。

「確定だな」

 先程までは土属性式魔術で金属質の石を撃ち、敵へ刺した可能性があった。
 だが、薬莢が発見されては、もはやほかの選択肢を考えるほうが困難だった。

 薬莢を拾い集め、アーカムは近くのカフェで調べてみることにした。
 布を敷いて、拾ったものを並べる。
 鼻を近づければ、火薬の匂いが残っている。

「薬莢にIsekai Tecの印字があるな……」

 アーカムは頭を抱えた。
 最悪が実現したと思ったからだ。

(まさか、イセカイテックはもうこの世界に橋をかけたのか? それとも、第二、第三の異世界転移船が? 緒方の言った通りになった? ……想像よりずっと早いじゃねえか)

「とにかく、今は聖獣殺しを見つけて話を聞く必要がある……」

 弾を引き続き調べる。

「8.55mm×54mm超粒子徹甲弾……」

(対超能力者、対マナニウム装甲のライフル弾だ)

 集めた薬莢のなかに、サイズの明らかに違う薬莢が混ざっていることに気づく。

(これはなんだ? ちいさいし、ライフル弾じゃない……緒方の使ってたIT5か。……50口径の拳銃の弾だ。なんで2種類の弾を使った? こっちはたった5発しか撃ってないし、威力的に聖獣サイズへ使うのは効果的じゃないように思える)

「……弾切れ?」

 アーカムの灰色の頭脳が冴え渡る。

(8.55mmが無くなったから、サイドアームのIT5を使った……だが、IT5はたしか10発装填の自動拳銃……だが、撃たれたのは5発……)

 導き出される答え。

「装備の枯渇、か。敵は弾切れを起こした。あるいは弾切れを嫌がって、剣での戦闘へ移行するほど、装備が不足してる。……今なら、俺でもなんとかなるかもしれない」

 アーカムは結論を出した。

(この世界で活動してるということは、緒方の言葉を信じる限りでは、少なくとも敵は超能力者だ。最低でも緒方と同等、あるいはそれ以上の戦力を誇っている。もし仮に緒方よりも強力なカテゴリー5、6、7……あるいはカテゴリー8、そういうやつがあらわれた時、俺に勝算があるかはわからない。だが、無力化さえ出来れば、『災害封じの鉄棺アイアンコフィン』で再生の隙間に閉じ込めることができる)

 アーカムは立ちあがり、カフェを後にし、記者の元へ向かった。

「おや、君はさっきの」
「大スクープです。どうやら、イカイ・テンセイと名の男が聖獣を倒した英雄に関して、重大な情報を持っているらしいです」
「な、なんだって?! もっと詳しく話を聞かせてくれないかね!」

 
 ──翌昼


 広場の一角には、人混みが出来ていた。
 なんでも新聞社が重大なニュースをするとかで、朝からビラを掲示板に貼ったり、市民へ配ったりしていたのだ。
 
「アンナ、いいですか。シルバーの髪の、これくらいの身長、明るい色が入った黒い外套を着た女の子です」
「わかった、女ね」
「見つけたら捕獲です。殺しても構いません。やつらは死にませんから」
「わかった、殺すよ」

 アーカムはアンナに情報を告げて、なにか言い忘れがないかを確認する。

(能力については教えた……うん、アンナならうまく対処できるはず)

 アーカムは顔が分からないようペストマスクを付けた。
 先日、雑貨店で購入したものだ。

(イカイ・テンセイの名を出せば、イセカイテック社の人間なら確実に喰いつく。姿を表したそいつをアンナが取り押さえる。悪くない作戦だ)

 ふと、アーカムは作戦の欠点を思い出す。

「アンナ、忘れてました」
「? どうしたの、アーカム」
「もしかしたら……相手は女ではないかもしれません。姿を変えている可能性は大いに考えられます」
「なにそれ」
「年齢も性別も、相手の思うがままに変えられる。そういう可能性があるって話ですよ」
「そんなのどうやって見つければいいわけ」
「……服装か、あるいは黒い大きな荷物を持ってる、かも」
「了解。そっちで見ておくよ。ほかにもおかしな雰囲気をやつがいたら取り押さえて見る」
「お願いします」

 アンナはササっと広場の建物の影に身を潜めた。
 もう気配すら感じない。流石はエリート狩人だ。

 アーカムは聴衆のまえへ出てきた。
 記者がインタビューする対話形式で謎の英雄について迫っていく番組──ということになっている。

「こんにちは、テンセイさん。本日はわざわざこのような場に来てくださりありがとうございます」
「はい、どうもどうも」
「さっそくですが、テンセイさんは謎の英雄のことを知っているとのことですが、一体どのような経緯で、その情報を得たのでしょうか?」

 アーカムと記者は事前に打ち合わせをしてあるので、対話の内容について、記者はこと細かに知っている。ただ、もちろん、この催しが敵を誘き寄せる、引っ掛かけるための釣り針だとは知らない。

 アーカムは雰囲気をつくって、適当に記者の質問に答えていく。

「あれは風の鳴り止まない夜のことでした。私は聖獣の死後、その魂が安らかに深淵の渦へ帰れるように祈ろうとこの広場へやってきたのです。その時でした──」

 気持ちよく作り話を進めていく。
 人々は黙して耳を傾ける。

 いやに静かであった。
 これだけの人数がいるのに、まるで声が聞こえない。

 そんな集中してるのか。
 みんなの興味を引く話ができているのだな。
 アーカムがそんなことを思っていた。

 だが、そんな呑気な感想は、一転してて、強烈な違和感へと変わった。

 集まった聴衆が皆、じーっとアーカムの顔を見つめて来ているのだ。
 まあ、そこまではいい。

 だが、誰一人として微動だにしていないのだ。
 さらには皆がまったく同じ棒立ちの姿勢だ。

 腕を組む者はいない。
 鼻をかくものもいない。
 咳払いをする者もいない。
 わずかだろうと身体が揺れることもない。

 まるで独裁国家の指導者の声を聞き洩らさないようにする統率された軍人ように、皆が一様に、ひたすらに、聞き入っている。
 
「……」

 アーカムはすぐ隣で対話している記者を見る。
 記者は目を見開いて、アーカムを見つめ返してきていた。

 アーカムは語りをやめた。
 もうすでに敵がやってきているとわかったからだ。

「──伊介天成。私の記憶が正しければ、それは人類初の異世界転移装置の設計者の名前だ」

 沈黙を破る男の声。
 アーカムは広場の向こうへと視線を移動させた。

 聴衆たちの人混みが、黙ったまま二つに割れていく。
 遠くから白衣を着た男が歩いてくる。

 年齢は30代前半。ボールペンサイズの金属の棒のようなものをくるくる回して弄びながら、カツカツと靴底を鳴らし、15mほど手前で立ち止まった。

 アーカムはごくり、とのどを鳴らす。

「どうやら、君もこちらの世界へ辿り着いていたようだな」
「あなたは誰ですか」
「声が若いな。相当に若作りしてるのか。……まあいい。元・人間なら何者であろうと若さへと羨望を捨てきれないものだ」

 男はくるくる回していた金属棒をバシッと握りしめて、白衣のポケットにしまった。

「私は神宮寺智久《じんぐうじともひさ》。『神々の円卓ドームズ・ソサエティ』の超能力者だ。伊介天成、話をしようじゃないか。いかにして、君がこの地にたどり着き、生き長らえたのかについて。そして、君がどっち側なのかについて」
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