異世界に追放されました。二度目の人生は辺境貴族の長男です。

ファンタスティック小説家

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第六章 怪物派遣公社

月間決闘大会 2

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「先生、いまのどう考えても反則だろう!」
「あいつ無防備な先輩を容赦なく撃ちやがった……!」
「噂に聞いてたがやべえ奴だな、コートニー・クラーク」

 観客がどよめいた。
 俺もどよめく。

 コートニーさんは審判を務める先生へ視線をやり「あと2秒遅かったら私はあの悪漢に犯され、辱められていました」と淡々と言った。
 2秒でそこまで行くかは疑問だが、まあ乱暴な気配があったのは事実か。

「でも、無防備な相手を撃っちゃうのはなぁ……」

 審判は困った顔をする。

「無防備な相手? それならば無防備だったのは私も同じだと思います。無防備な私へ、それも体格で劣る女の子へ、暴力を振るおうとする。そんな野蛮な行為をドラゴンクランは認めるんですか」
「いや、そういうわけじゃないが……」

 結局、コートニーさんに丸め込まれるかたちで、反則負けになってのは先に手を出そうとした上級生のほうということになった。
 これには『ヴァンパイアスカーレット』さんもブチ切れです。
 
「どうしたの。去勢された畜生なわけではあるまいし、はやく決闘の場に立たないの」

「お前ら、絶対にあのクソ生意気な奴をぶっ倒せ」
「任せてください、一撃で伸びさせてやります」

 『ヴァンパイアスカーレット』は二人目の選手を決闘魔法陣のなかへ送り込んだ。

 とんでもないハプニングがあったのに普通に試合続行されていることに驚きだが、まあ、決闘こそすべてというのがこの国の魔術師たちの法典らしいので、ファンキーな展開も受け入れよう。

 審判は小杖を抜き「ファイっ」とキレよく掛け声をし、花火を撃ちだした。パンッ! 破裂音を鳴る。

 コートニーさんは手首のスナップを効かせて杖をちいさく振る。
 放たれる現象は岩石弾。先端の尖った殺意しかない例のアレだ。

 岩石弾はまだ魔術の発動をすらしていないヴァンパイアスカーレットの選手の胸に命中。
 胸の風穴を開けそうな勢いだ。
 が、決闘魔法陣の効果がここで発動。
 岩石弾は《ウィンダ》へと変換され、強力な風の打撃が選手を襲った。

「ぐあぁあああ!」

 選手は苦痛の声をあげてヴァンパイアスカーレットのメンバーたちに受け止められる。

「「「つ、つぇぇ……!」」」

 中庭が湧き立つ。
 コートニーさんは肩にかかった髪を払い澄ましている。
 
 あまりの無双ぶりに若干ヴァンパイアスカーレット側のやる気が削がれており、次に出て行くのを押し付け合ってる気がする。
 
 にべもない少女だが、その実力は特別なものであると言う訳か。
 ふむ。あんな性格が形成されたわけがわかった気がする。
 彼女はあまりに天才すぎたのだろう。
 ゆえに高みにいすぎるのだろう。

「コートニーさん、そのまま全員やっつけちゃってくださいよ」
「言われるまでもないわ。アルドレア君はそこで丸くなって見てなさい」

 俺は猫かな。

 その後もコートニーさんの快進撃は続いた。
 あんまりにも強すぎで、4対0でこちらが圧倒的な優勢で5本目の勝負がはじまろうとしていた。
 向こうはタイムアウトだろうか。なにやら作戦会議をはじめている。

 コートニーさんはさっきからずっと決闘魔法陣のなかで棒立ちだ。
 こんなに強いなら確かに相方は誰でもよかったのだろう。
 ただの人数合わせで呼ばれたと言うのは俺への悪態ではなく、普通に、素直に、純粋に彼女ひとりで十分だったと言う訳だ。

「よし、あれで行くぞ」
「ああ。あのガキをやるにはこれしかない」

 ヴァンパイアスカーレットの選手が重苦しい足取りでゆっくりと決闘魔法陣へ入ってくる。
 
「コートニーさん、頑張れー」

 どうせ勝つと思いながら応援。
 
「ファイっ!」

 審判の合図と同時だった。
 ヴァンパイアスカーレットの選手が風属性式魔術を放ったのは。

 無詠唱魔術? と一瞬驚いたが、そうではなかった。
 思い返せばクリスト・カトレアでカイロさんにも同じようなことをやられた。

 つまるところ……発動遅延《ディレイマジック》。
 決闘魔法陣に入る前に詠唱を済ませ、あとは発動のトリガーを引くだけの状態でキープする。
 そうすることでスタートの合図ではじまる決闘において理論上最速をだせる。

 考えたなぁっと思い、コートニーさんを見やる。
 まあでもコートニーさんがその程度を見破れないわけがない。
 彼女の速さと決定力は上級生たちに囲まれて尚、屹立としたものがある。
 どうさばくのかぼーっと見ていると……コートニーさんが吹っ飛ばされた。

「あ」

 ふわっと浮いて、こっちへ飛んでくる。
 俺は慌てて受け止める。べしっとぶつかってきた。
 人の身体とは存外に重たいもので、そこそこの速度で衝突されると、かなりの衝撃力を感じた。
 思わず尻餅をつく。腕のなかのコートニーさんを傷つけないようとっさに守る。

「びっくりした……。コートニーさん、大丈夫ですか?」

 腕のなかにちんまりおさまる彼女。
 存外ちいさいのだなと思いながら顔をのぞきこむ。

「……ええ、怪我はないわ」
「よかったです。くそ、あいつら卑怯な手を」

 コートニーさんのために俺はムッとする。

「いえ、別に発動遅延《ディレイマジック》のせいじゃないわ。あれくらいなら見てから詠唱しても間に合わせられるもの」

 それはすごいな。俺は詠唱苦手だから絶対そんな早口できない。

「でも、それじゃあ、なんでコートニーさんがやられちゃったんですか……?」
「……立つの手伝ってくれるかしら。ちょっと疲れてしまったわ」

 コートニーさんはしょんぼりした様子で、ごくちいさな声で言った。
 普段とは違う弱った感じがする。
 
「5人くらい倒す分には問題ないと思ったのだけれど……魔力がもたなかったわ」

 魔力を使い切ってしまっていたのか。
 思えばコートニーさんが得意とする土属性式魔術は決闘において不利な属性だ。

 詠唱→集積→形成→威力指定→魔術発動

 この魔術発動から現象発生までのプロセスのなかで、必ず『集積』という段階を踏む。

 俺の一番得意な風属性式魔術なら風を集める。
 だいたいどこでも使える万能属性。とはいえ、完全万能でもなく、気流がない場所で風属性式魔術を使う場合──例えば屋内とか──は、触媒がないので、そういう時は『生成』を使って空気の流れ自体を生み出さないといけない。

 コートニーさんの土属性式魔術も万能な方だ。
 だいたいどこでも使える。ただ、決闘魔法陣のなかだと足元を削って岩石弾の素材を集められないので、魔力を圧縮し岩石弾自体をつくりだす『生成』を行わないといけない。

 詠唱→”集積”→形成→威力指定→魔術発動

 が、

 詠唱→”生成”→形成→威力指定→魔術発動

 になるのだ。

 『集積』と『生成』では消費魔力が段違いなのは、以前、ジュブウバリ族の里から旅をともにしたキャラバンの女性魔術師が教えてくれたことだ。

 コートニーさんは本日4人の上級生を吹っ飛ばすために4発の岩石弾を『生成』し、そして魔力を使い切ってしまったのだろう。

 ん。そういえば、俺も1発撃たれたな……。
 あの時、俺に撃たなければ……いや、やめてさしあげよう。

「あとはやっておきますよ。休んでいてください」
「……うん。よろしくね。アルドレア君」

 なんか塩らしい。
 こんなコートニーさんは新鮮だ。

「『にゃんにゃんキャット』、主将コートニー・クラークを失い大ピンチだああ! 副将はアーカム・アルドレア! コートニー・クラークが選びし謎の冒険者!」

「クラークさん、ついに学生じゃなくてお金で人数合わせしたんだ」
「可哀想に。きっとあいつも脅されたんだろうな」
「最後の被害者であることを祈ろう、同志よ」

 いくつか生温かい視線を感じる。
 コートニー・クラーク被害者の会の皆さんかな。

「冒険者か。その年でドラゴンクランの学生でないという事実がすでにがっかりだ」

 決闘魔法陣に入陣するなりヴァンパイアスカーレットの選手に言われた。
 がっかりかあ。俺って結構舐められやすい顔してるのかな。
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