病ン照レワンダーランドへようこそ

笹石鳩屋

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ヤンデレなんて危険思想はこの世界に存在しない

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 「砂上君」

  満開の桜の下、二つの制服を穏やかな春風が包み込む。一方は春先には少し分厚すぎる学ラン、もう一方は袖の長いカッターシャツの上にベージュ色のセーター、腰から下は、少し丈の長いスカートだった。

 「わ、わたしは」

 女子生徒は震える声を絞って、男子生徒を直視できずにちらちらと目線をずらしながらも、
 
 「砂上君のことが、好きです。付き合って、下さい!」

 頭を下げて、右手を突き出した。女子生徒の視界には男子生徒は入っていない。ただひたすらに、手のひらに触れられる感触を待った。
 
 「ごめん」

  男子生徒は申し訳なさそうにしながらも、淡々と告げた。

 「今は誰とも付き合うつもりはないんだ」

 もちろん女子生徒は目の前の男子生徒、砂上鳴斗さがみめいとが色恋に興味がないということを知っていた。これまでにも鳴斗に告白した女子は数えきれないほどおり、鳴斗は全て同じ文言で断り続けているのだ。

 「断った身で図々しいかもしれないけど、これからも仲良くしてくれると嬉しいな」

  鳴斗の爽やかな笑顔に女子生徒は思わず頬を赤く染める。
 
 「それじゃあ、俺は用があるからもういくよ」
 
  女子生徒が気まずくならないように気づかい、速やかに去っていく鳴斗の背中を眺めながら、女子生徒は呟きを漏らす。
 
 「かっこいい……」
 
         ※ 
 
  俺はモテる 

 ラブレターによる告白回数は十八回、テキストチャットアプリによる告白回数は二十一回、対面での告白回数は三十三回にのぼる。しかも、これら全て俺が高校に入学してから一年の間での回数だ。ゆえに俺はモテる。まごうことなきモテの最中さなかにいるのだ。

 「鳴斗君、おはよー」
 「あ、メイト君だ!」
 「キャー!砂上君がこっちを見たわ!」

 俺の一番好きな時間は朝だ。 俺が教室に入ると、たちまちに人だかりが出来る。

 「はいはい、どいてどいて~。メイトンが歩けないよ」

 栗髪のショートカットが似合う女の子がたかってきたクラスメイトの交通整理をする。ビー玉のように大きく澄んだ目と、口元からちょっぴり見える八重歯が特徴的だ。

 「おはようメイトン!今日も大人気ですなっ」

 本庄早紀ほんじょうさき、中学からの付き合いでいつも俺の周りをうろちょろしている。
 俺を時代に取り残されたゆるキャラのようなあだ名で呼ぶことは腹立たしいが、鬱陶しい女子を近づけさせないという点では丁度よかった。
 何よりもそこそこ顔が良い。俺に侍らせておくには悪くない。

 「おはよう早紀、みんなもおはよう」

 挨拶一つでこの歓声。クラス中の視線が俺を向いている。

 ふう~、心地よい時間だ。俺の存在価値を確かめるに相応しい。

 「ねえ、サキとメイトって付き合ってんの~」

 群衆から投げられた一言で波紋が広がる。

 「えっ?私と?いや~そんなことはないんだけどな~そう見えちゃう?」

 ざわつきが大きくなる。

 「絶対今の反応嘘だって~」
 「え~砂上君が、付き合ってるの~」

 まずい。このままだと収集がつかなくなる。

 「みんな落ち着いて!俺は今誰とも付き合ってないから!」
 「メイト君が?メイト君が?メイト君が?メイト君が?許せない許せない許さない!許さない!許さない!」

 「えっ?」

 視界が淀む。人混みの隙間から突如現れた包丁が俺の腹に突き刺さって―――

 「砂上君は渡さない!私のモノだから、私のモノ私のモノ私のモノワタシノ…」

 お゛あ゛あ゛!!

首が、千切れる―――

「本当に勇気を出して告白したのに……なのに…裏切り者がああああああ!」

 昨日、告白してきたブスだ。両手で椅子を持ち上げて俺に振り下ろそうとしている。
 とっくに意識はなくなってるはずなのに、鮮明にこの女の顔だけが焼き付いて――――――

 ゴンッ!

 ―――天井があった。

 ……夢か。四肢は無事だ。代わりにベッドから転がり落ちて腰が痛い。

 ブスに告白されたところまでは、現実だ。もちろん俺がモテすぎるのも現実だ。現実の俺は刺されたりなんかはしない。ヤンデレなんて危険思想は現実にはそうそうはびこっていないのだから。
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