病ン照レワンダーランドへようこそ

笹石鳩屋

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デートイベントは唐突に

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 「さて、次はゲームセンターにいきましょう!」 
 「まあ、ゲームセンターなら帰りに立ち寄る生徒は多いけど……」

 ただ楽しみたいだけじゃないのか、と疑いたくなる。

       * 
 
 「鳴斗君、あれしましょう!あれ!」
 
 はしゃぐ天峯が指さしたのはクレーンゲーム。
 
 「お前、ああいうの好きなんだな」
 
 そもそもゲームセンターで喜ぶこと自体が驚きだが、ぬいぐるみを欲しがるなんて、天峯も一人の女の子なんだな、と実感する。
 
 「俺は伊達にここで遊び倒してないからな。欲しいものがあれば何でも取ってやるぞ」 
 「頼りになりますね。じゃあ~、どれを取ってもらいましょうか?」
 
 色々なクレーンゲームの筐体を回りながら、天峯は夢中で景品を選ぶ。その横顔を見ていると、昨日からのことが全部夢なんじゃないかと思えてくる。
 
 「この犬が欲しいです!色んな人に愛想を振りまいて尻尾を振るんだけど、ご主人様に見捨てられてそうなところが、誰かさんそっくりで、可愛らしいです」

 なに、その可哀そうな設定。リアルにありそうで怖い……
 
 「だったら、この狸のぬいぐるみも誰かによく似てるよな。おしとやかで誰からも好かれるんだけど、実は計算高い腹黒なところが」 
 「おやおや、負け犬の遠吠えにしか聞こえませんね……でもね、そんなワンちゃんだからこそ、私が拾ってあげるんですよ」
 
 よほど犬のぬいぐるみが気に入ったのか、目を細めてガラスケースを撫でる。慈愛の表情を浮かべる天峯を不覚にも可愛いと思ってしまった。昨日の本性を見た後でも、それでも、可愛いと。 

 「さあ、早く百円玉を入れてください」 
 「……結局ぬいぐるみを取るのは俺なのかよ。しかも、金も俺持ちだし」 
 
 天峯がやたらめったらおだてるせいで、調子にのって取りすぎてしまった。俺にぬいぐるみの趣味はないし、天峯一人で持って帰るにも多すぎる。両手いっぱいにぬいぐるみの入ったビニール袋を持っているのだ。 

 「梨桜、このぬいぐるみどうする?」

 天峯がいるはずの隣に目をやるが、そこにはいなかった。 

 困ったな。だんだんと人も増えてきたし、見つけるのも一苦労だ。天峯が行きそうな場所なんて見当もつかないし、この音じゃまともに電話も出来ない―――と、うろうろしているとゲームセンターには珍しい人物を見つけた。
 
 「遠読、丁度よかった。天峯を探してるんだが、見なかったか?」 

 遠読がいたのは、プリ〇ラの筐体の前。同じ学校の女子生徒が談笑しながら中に入っていく様子をぼお~っと眺めていた。
 
 「―――って、何してるんだ?」 

 遠読は制服で、俺たちと同じように学校帰りであり、確認するまでもないが一人だった。 

 「質問がある」 

 またか……
 
 「はいはい、何でも聞いてくれ」 

 半ば呆れて投げやりな俺を、遠読は全く気にせず言葉を続ける。 

 「なぜこの撮影機を女子学生が何組も利用している?」 
 「なぜって…それは盛って撮りたいからじゃないか。お前みたいに、みんながみんな素で可愛いわけじゃないからな」 
 「スマートフォンでも撮影して加工することは出来る。人間に認識できる差異は微少であるが、金銭的損失を伴ってまで、この機械を利用する理由が不明」

 盛る、の意味を遠読がわかったことにちょっと感心した。 

 「ああ、たしかに遠読の言う通りだ。でもな、女子たちはここでみんなで撮って、出来た写真についておしゃべりすることが一つの遊びになってるんだ。だから、わざわざ足を運んで―――もしかして、してみたいのか?」 
 「……興味は、ある」 
 「一人で入りづらいんだったらいっしょに入るぞ」 

 俺の言葉は断じて純粋な善意からではない。プリ〇ラで撮影するとなれば、遠読は眼鏡を外して素顔を見せるはず、という下心に基づいた言葉だ。 

 遠読は黙って頷いた。 

       *

 「あの、これだと普通に写真撮ったのと変わらないのでは」 

 遠読は眼鏡を取らなかった。というか、真顔で何のポージングもせず撮った。そんな遠読の横で俺は何か表情やポーズを作るのが気恥ずかしくなり、同じようにただ棒立ち無表情で写ったのだ。
 
 「何の加工もしないつもりじゃないだろうな?」

 さすがに、撮った写真そのままでは味気がなさすぎる。 

 「データは収集した」 

 遠読の言葉を日本語に訳すと多分、実際に体験してみたが、特に面白くもなかった、であろう。 

 「まだ半分だぞ。加工しないと、きっと他の女子の気持ちはわからないはず」 
 「理解した」 

 加工ブースに移る遠読。その表情は微塵も楽しそうに見えないが、俺の言葉を本当に理解しているのだろうか? 

 「……完了した」 
 「うん、どれどれ~」 

 印刷された写真を手に取った。 

 俺と遠読は全く盛られておらず、代わりに六月十五日十七時三十二分と機械的に書かれていた。 

 「アリバイ工作にでも使う気なのか…」 
 「いいえ」 
 「答えなくていい」 

 思わずため息が出る。逆にここまでよくやり取りが続いたと割り切るべきなのだろう。遠読が何を感じたかは知らないが、彼女なりに満足しているのだし、俺がとやかく言うことではない。

 「ああ…そうだ。ぬいぐるみが多すぎて困ってたんだが、欲しいのあれば持って帰るか?」

 どうせ欲しがらないだろうと思いつつも、一応声をかける。 

 「種類を確認したい」 

 そう言った遠読はビニール袋からいくつかのぬいぐるみを取り出して見比べる。この間も全く表情が変化しないので、何が気に入って、何が気に入らなかったのか見分けがつかない。

 「これ……」 

 天峯が砂上鳴斗だと形容した犬のぬいぐるみ。 

 「欲しいの何でも、と言っておいて悪い。これだけは、渡すわけにはいかないんだ」 

 別にあげてしまってもよかった。天峯が欲しがったぬいぐるみの一つにすぎないのだから。
 一つくらいなくなってもあいつは何も思わないだろう。 

 なんとなくだ。なんとなく遠読ではなく天峯にもらってほしかったのだ。 

 「了承した。代替にこれを希望する」 
 「ああ、それなら大丈夫だ」 

 次に選んだ海月のぬいぐるみは遠読のイメージにぴったりだった。 

 「感謝する」

 大きなぬいぐるみを抱いた遠読の頬はほんのちょっぴり朱が差しているように見えた。 
 
 「じゃあ、俺は天峯を探してるからそろそろ行くわ」

 去ろうとする俺の袖は小さくつままれた。 

 「天峯梨桜はアーケードゲームコーナーにいる」 
 
       * 
 
 「待ちくたびれましたよ。いつまで待たせるつもりですか」 

 アーケードゲームの一角を陣取っていた天峯の手は動き続けていた。 

 「これは渋い格ゲーだな」 
 「噂には聞いていたんですけど、ゲームというものがこれ程難しいとは思いませんでした」

 画面にはLOSEの字が浮かび上がる。 

 「どこで油を売ってたんですか?私がいながら他の女の子と遊んでたとかじゃないでしょうね?」 

 天峯の手から百円玉がするりと筐体に吸い込まれていった。 

 「そもそもお前がいなくなったんだろ。俺は今までずっと探してたんだよ」

 言ってもいいことは何もないし、遠読のことには触れない。 

 「鳴斗君が来るまでに五回程挑戦したんですけど、一度も勝てませんでした」 

 天峯が口を動かしている間にも、天峯の操作キャラの体力バーが半分になっていた。 

 「でたらめに動かすからだ。見本を見せるから、ほら、貸してみな」 

 コントローラーに手を伸ばす。天峯はすぐ手放すと思っていたが、ぎりぎりまで自キャラを操作したかったらしく、俺が触れる直前で手を離した。 

 手と手が触れ合う。 

 ちらりと天峯と視線が交差するが、天峯は少し逸らす。 

 「まさか鳴斗君は手が触れた程度で動揺してるわけじゃないでしょうね」

 そっくりお前に言い返したい。 

 だが、俺も気になってしまったのは事実だ。変な反応見せるからうつったじゃねえか。 

 「ああっ!負けちゃいます!」 

 天峯に気をとられている隙に、画面ではあと一回攻撃を受ければ体力がゼロになるところまで削られていた。 

 「見てな。これから一回もくらわずに倒してやるよ」 

 俺の動かすキャラの動きは敵キャラの動きがスローに見える程に洗練されていた。そして、宣言通り一方的に攻撃を与え続けて、画面にWINの字が浮かんだ。

 「鳴斗君、上手いんですね」 
 「まあな、これでも中学時代やりこんだからな」
 
 モテたいなんて思い始める前の話だ。あの頃は、暇さえあればゲームばかりしていた。今だって、誰にも遊びに誘われない休日は家でゲームをしている。人には絶対言わないが。
 
 「次は自分の手でやりたいです」 
 「じゃあ俺は傍でアドバイスするわ」 

 天峯の呑み込みは早かった。俺の言葉に素直に従ったからだ。真剣に格ゲーをする天峯は新鮮でなんだか妙な感覚だった。
 
 そして、三回敗北した後、ついに勝利の瞬間は訪れた。 

 「やった!鳴斗君、勝ちましたよ!」 

 天峯は立ち上がって、イェーイとハイタッチしてきた。が、すぐさま自分のしていることが恥ずかしくなって、顔を背ける。

 「ごほんっ…今の画面を撮影してインフォトにあげて下さい」 
 「こんなしょうもないので俺のインフォトを汚すのか」 

 フォロワーがほぼいないとはいえ、これまでこだわり続けてきたインフォトで、映えない投稿をするのは容認し難い。 

 「梨桜さんに完全敗北しました、という文字も添えて下さいね」 
 「なんで俺が負けたことになってるんだよ…」 

 結局、俺が折れて画像加工で魔改造して、どうにか人様に見せられる状態にして投稿した。 

      *

 「部活終わりの生徒が帰る時間帯ですので移動しましょう」 
 「どこに?」 

 俺としては大満足でもうちょっとゲーセンで遊んでもいいのだが。 

 「駅ですよ。私たちの本来の目的を忘れたんですか?」 
 「はあ」 

 そう言われても、俺は天峯の目的を聞いてはいるが、全くもって意味はわかってないから答えようがない。 

 「さあ、私と鳴斗君のいちゃつきっぷりを見せつけにいきましょう!」 
 
 夕方の一番人が増える時間帯に、駅の改札前で俺の腕に抱きつく天峯。決して小さくはない天峯の二つの膨らみが上腕部を包み込む。 

 「お、おい、さすがにやりすぎじゃないか!?」 
 「おやおや、多くの女の子を手玉にとってきた鳴斗君にしては可愛らしい反応ですよ」 

 フった相手にここまでするのかよ―――薄々気づいていたが、天峯は俺をからかっているだけなのではないか?今日のデートはいい雰囲気だったし、本当は俺に好意があるんだけど、からかい系というやつで、俺を振り回して、楽しんでいるのではないだろうか? 

 「そろそろ人も減ってきました」 
 「そうだな」 

 知人、他人に関わらず、駅に入ろうとする全ての人に見られながら、天峯に抱きつかれて銅像のようにただじっとしているのはとても恥ずかしいものがあった。 

 「はい、テイク1OKでーす」 

 カチンッ 

 天峯は俺から離れて、映画撮映の白黒の板のジェスチャーをとる。 

 その瞬間、天峯が別人のように見えた。四月当初の天峯に戻ったようだった。 

 「お疲れさまでした。ヤンデレの卵たちの心に揺さぶりをかけられたはずです。明日からは彼女たちも何かしらの行動に出ると思われます。明日の放課後の帰り道にヤンデレの兆しの疑いのあるものは全て教えてください」 

 天峯はあまりにもあっさりと俺から離れ、あまりにも淡々と口を動かした。まるで赤の他人のような距離感をとって、さっきまでのことが何もなかったかのように振る舞う。 

 だから、俺は手を伸ばしてしまったのだ。はっきりと意思があったわけでなく、ほとんど条件反射の無意識的に。 

 「砂上君、その手は何ですか?」 

 俺の腕は払われた。まるでホコリのように。さっと何の感情もなく。 

 「……何でもない」 

 俺への好意などみじんもなくさっきまでの態度は演技なのだと悟るのと同時に、恐ろしさが込み上げてきた。スイッチを切り替えるように、雰囲気や態度が一転するのは人間の為せる業には思えない。 

 やはり天峯は人間ではなく、悪魔か何かなのかもしれない。 

       *

 ピコン 

 一切光のない真っ暗な部屋でスマホが光る。 

 「今日のメイト様の投稿は~」 

 部屋の中には鼻歌交じりにスマホを触る女の子が一人。画面の光は部屋全体をぼんやりと照らし出す。壁や天井に至る隅々まで大小様々な写真が貼られている。共通点は一つ、どの写真にも同じ人物が映っていた。 

 「駅前の喫茶のピザトーストっと、これぞ芸術、なんと美しい写真なんでしょう」

 すぐさまいいね、をつけ、次の瞬間、彼女の表情は固まる。 

 「―――っ!#デート中!?きっと何かの冗談よね?冗談…もし万が一本当だったなら、あなたはもう本物ではないわ…私の慕ってやまないメイト様はそんなことしないもの」

部屋の写真に写っているのは砂上鳴斗だ。そして、そのうちの数枚には鳴斗の顔にナイフが刺さっていた。
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