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家出と河童と雨
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「なあ、どこまで行くんだよ」
ぬかるんだ道をAはどんどんと進む。
「知ってるか?なんで雨に日には川に近づいちゃいけない、って大人たちは言うか」
「そんなことどうでもいいだろ?もう日も暮れそうだし、早く帰ろうぜ」
Bは目的のないAの家出に、純粋な興味で着いていった。どうせ家出といっても、夜には帰るのだろう、と、そう鷹を括っていたのだ。
「この先には、皿がすっごくでっけー河童が住んでるって噂らしいぜ」
Bが幼稚園に入ったくらいのころ、河童が見つかった、という事件が世間を賑わせた。
「もしかして……河童を見に行くとか言うんじゃないだろうな?」
「そうだよ、この目で確かめてやるんだ!」
Aは防水性抜群の長靴を履いており、父親のものであろう大きな傘をさしていた。
「行く当てもなくふらふら歩いてると思ってたけど、お前最初から川を目指してたのか」
「おかしいと思わないか?河童が出たってあんなにニュースになったのに、今じゃ誰も河童の話しないんだぜ」
「河童って子どもを川に引きずり込むって聞いたことある。もしほんとに河童に会えたとして襲われたらどうするんだよ」
「わかってないなあ。それ自体も大人の嘘かもしれないじゃないか。だって、俺たちは誰も河童を見たことがないんだから、何があったって不思議じゃない」
Aの足は緩むどころかどんどん調子づいていき、会話をしているうちに川へついてしまった。
「へ~、雨の日ってこんなに水増えるんだ」
「河童いないってわかったんだし早く帰ろうよ」
Aは水没しかかった川岸に腰を降ろした。
「B、お前は俺が何しにここに来たのかをわかってない」
「何って、家出だろ」
「いつもいつも、大人ってわかったようなこと言うけどさ、実際何にもわかってない。きっと河童も俺たちを川に近づかせないための嘘なんだ。絶対、何かあるはず」
それから、完全に日が落ちて、雨が止むまで、Aはじっと川を観察し続けていた。
「そろそろ諦めたら?」
「いや、俺は見つけるまで帰らない」
Aの言葉にBは悟った。何が何でもAは帰らないのだと。
「じゃあ、俺は帰るから」
本当はAを一人残したくはなかった。だが、こうでもしないとAは動かないのだ。
返事はなかった。
Bは逡巡の後に、Aを置いていくことにした。Bがこの場からいなくなれば、否が応でも諦めると考えたのだ。
夜の帰り道、河童はいないとわかっていても、風に揺れる草がついつい何か不気味なものに見えてしまう。
目の前の河童に見える生き物だって実はそう見えているだけで―――
草の塊が動いた。風とは反対方向に。見間違いではなかった。どんどんBのほうへ近づいて―――
「うわっ!」
全速力で逃げた。方向なんてわからず、ひたすらに走った。そうして、気づけばAのいる川岸まで戻ってきていた。
「河童が出た!こっちへ来てる」
Bの慌てようとは裏腹にAは落ち着いた。
「やっぱりいたんだな」
「このままだと川に引きずりこまれちゃう!」
Bの行く先はもう氾濫しかかった川しかなかった。他に逃げ場はない。
「河童が何に弱いか知ってるか?」
Aは落ち着きはらった声でそう言うと、暗闇を走ってくる影に向かって何かを投げた。
ぐちゃり、粘土が潰れるような音をたてて影は止まった。
「何、投げたんだ?」
「河童ってさ柿ピーに弱いって話を聞いたことがあるんだ。本当に信じてたわけじゃないけど、本当に死んだんだな」
その後、AとBはまっすぐ帰宅した。
河童の正体はたしかめなかった。
*
「昨晩、陸の中で四歳の子どもが亡骸となって発見されました。死因は、毒物によるものとされています」
家族団らんのお茶の間。和やかな雰囲気を凍り付かせるようなニュースが流れた。
「お父ちゃん、怖いね」
「ああ、陸には出ないようにするんだぞ。こうやって家出した子が一生を無駄にすることだってあるんだから」
ぬかるんだ道をAはどんどんと進む。
「知ってるか?なんで雨に日には川に近づいちゃいけない、って大人たちは言うか」
「そんなことどうでもいいだろ?もう日も暮れそうだし、早く帰ろうぜ」
Bは目的のないAの家出に、純粋な興味で着いていった。どうせ家出といっても、夜には帰るのだろう、と、そう鷹を括っていたのだ。
「この先には、皿がすっごくでっけー河童が住んでるって噂らしいぜ」
Bが幼稚園に入ったくらいのころ、河童が見つかった、という事件が世間を賑わせた。
「もしかして……河童を見に行くとか言うんじゃないだろうな?」
「そうだよ、この目で確かめてやるんだ!」
Aは防水性抜群の長靴を履いており、父親のものであろう大きな傘をさしていた。
「行く当てもなくふらふら歩いてると思ってたけど、お前最初から川を目指してたのか」
「おかしいと思わないか?河童が出たってあんなにニュースになったのに、今じゃ誰も河童の話しないんだぜ」
「河童って子どもを川に引きずり込むって聞いたことある。もしほんとに河童に会えたとして襲われたらどうするんだよ」
「わかってないなあ。それ自体も大人の嘘かもしれないじゃないか。だって、俺たちは誰も河童を見たことがないんだから、何があったって不思議じゃない」
Aの足は緩むどころかどんどん調子づいていき、会話をしているうちに川へついてしまった。
「へ~、雨の日ってこんなに水増えるんだ」
「河童いないってわかったんだし早く帰ろうよ」
Aは水没しかかった川岸に腰を降ろした。
「B、お前は俺が何しにここに来たのかをわかってない」
「何って、家出だろ」
「いつもいつも、大人ってわかったようなこと言うけどさ、実際何にもわかってない。きっと河童も俺たちを川に近づかせないための嘘なんだ。絶対、何かあるはず」
それから、完全に日が落ちて、雨が止むまで、Aはじっと川を観察し続けていた。
「そろそろ諦めたら?」
「いや、俺は見つけるまで帰らない」
Aの言葉にBは悟った。何が何でもAは帰らないのだと。
「じゃあ、俺は帰るから」
本当はAを一人残したくはなかった。だが、こうでもしないとAは動かないのだ。
返事はなかった。
Bは逡巡の後に、Aを置いていくことにした。Bがこの場からいなくなれば、否が応でも諦めると考えたのだ。
夜の帰り道、河童はいないとわかっていても、風に揺れる草がついつい何か不気味なものに見えてしまう。
目の前の河童に見える生き物だって実はそう見えているだけで―――
草の塊が動いた。風とは反対方向に。見間違いではなかった。どんどんBのほうへ近づいて―――
「うわっ!」
全速力で逃げた。方向なんてわからず、ひたすらに走った。そうして、気づけばAのいる川岸まで戻ってきていた。
「河童が出た!こっちへ来てる」
Bの慌てようとは裏腹にAは落ち着いた。
「やっぱりいたんだな」
「このままだと川に引きずりこまれちゃう!」
Bの行く先はもう氾濫しかかった川しかなかった。他に逃げ場はない。
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「何、投げたんだ?」
「河童ってさ柿ピーに弱いって話を聞いたことがあるんだ。本当に信じてたわけじゃないけど、本当に死んだんだな」
その後、AとBはまっすぐ帰宅した。
河童の正体はたしかめなかった。
*
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