「Death Game」ーその他

読み切り

ポルノスター（俺）は親友を仕事場へ誘う

　彰人あきとは、風に吹かれながら、懐かしい町の小道を歩いていた。彼の心は、久しぶりに再会する真まことへの期待でいっぱいだった。彼とは子供の頃からの幼馴染で、お互いの秘密を知り尽くした仲だ。しかし、彼らが選んだ人生の道は大きく異なっていた。彰人はポルノスターとして、遠く離れた世界で生きている。

「彰人、本当に久しぶり！」

　真が橋の上で彼を見つけ、明るく呼び止めた。彼の声には、変わらぬ暖かさがあった。

「真、変わらないね。元気そうで何よりだよ」

　彰人は嬉しそうに答えた。

　二人は橋の上で立ち話を始め、まるで時間が戻ったかのように、昔話に花を咲かせた。そして、やがて会話は彰人の近況へと移っていった。

「実はね、俺、今ポルノスターとして働いてるんだ」

　彰人は少し照れくさそうに、しかし正直に自分の仕事について話した。

　真は少し驚いた表情を見せたが、すぐに笑顔を取り戻した。

「へぇ、彰人らしいね。いろんな経験をして、広い視野を持ってる」

「実はさ、もし興味があったら、仕事現場に来てみない？」彰人は躊躇しながらも、真に提案した。

「えっ、本当に？ でも、大丈夫なの？」

　真は少し戸惑いながらも、彰人の提案に興味を示した。

「もちろん、無理にとは言わないよ。でも、俺たちの世界も、一つの表現の形だと思ってて。真にも、その一端を見てほしいんだ」

　真は彰人の真剣な眼差しを受け、しばらく考え込んだ後、勇気を出してうなずいた。

「わかった、彰人が言うなら、一度見てみるよ」

　その日、二人は昔話をしながら、夕暮れの町を歩いた。

　◇

　夕暮れの町を後にし、彰人が真を仕事現場に連れて行く日がやってきた。真は緊張と期待が入り混じった複雑な気持ちを抱えながら、彰人の案内に従った。彼らが到着したのは、外見からはその活動を推測できないほど控えめなスタジオだった。

　スタジオの中に一歩足を踏み入れると、真は目の前に広がる光景に圧倒された。数多くの機材、忙しく動き回るスタッフたち、そして、中央でカメラに向かって準備を進める彰人の姿があった。彼はいつもと変わらない、穏やかな笑顔で真を迎え入れた。

「さぁ、始まるよ。見ててね」

　彰人がそう言うと、真は静かに彼の働く姿を見守り始めた。カメラが回り始めると、彰人はまるで別人のように変貌した。彼は相手の男優と共に、自分の役割に没頭し、その場の空気を完璧にコントロールしていた。彰人の動き一つ一つには、相手を引き立て、同時に視聴者を引き込む計算された美しさがあった。

　特に印象的だったのは、彰人が相手の男優に対して見せる配慮だった。彼は相手の表情や動きに細心の注意を払い、その人の魅力を最大限に引き出そうと努めている。その姿には、彰人のプロフェッショナルとしての誇りと、人としての優しさが垣間見えた。

　現場での仕事が一段落すると、彰人は真のもとへ戻ってきた。彼の顔には満足そうな笑顔が浮かんでいた。

「どうだった？」

　彰人の問いかけに、真はしばらく言葉を失い、ただ彼を見つめていた。しかし、やがて心からの感動を込めて答えた。

「すごかったよ…。彰人がこんなにも一生懸命に、そして素晴らしい仕事をしているなんて。本当に感動した」

　その瞬間、彰人と真の間には新たな理解と尊敬の絆が生まれていた。二人は改めて、どんなに人生の道が異なっても、お互いを深く理解し、支え合うことができるという確信を得たのだった。 

　◇

　真は、休憩中の彰人から思いがけないお願いをされた。

「真、ちょっと困ってるんだ。今日のパートナーが体調を崩してしまって…」

　彰人の声には、申し訳なさと切実さが混ざっていた。

　真は、彰人の言葉の意味を理解するのに少し時間がかかった。彼らは昨日、彰人の仕事現場を訪れ、真は彰人がポルノスターとしての仕事にどれほど真摯に取り組んでいるかを目の当たりにしていた。しかし、まさか自分がその世界に足を踏み入れることになるとは思ってもみなかった。

「えっ、僕が…？でも、そんな経験ないし、うまくできる自信が…」

「わかってる。でも、真は僕のことを理解してくれる数少ない人だから。無理にとは言わないけど、一緒にやってみないか？」

　彰人の目には、真剣さと、どこか頼りなさが混ざっていた。真は彰人との長い友情を思い返し、彼が困っている時に背を向けるわけにはいかないと感じた。

「わかった、やってみるよ。でも、本当にうまくいくかな…」

「大丈夫、僕がいるから。一緒に乗り越えよう」

　そして、時がやってきた。真は、まるで別世界に足を踏み入れたような気持ちで、彰人と共にスタジオに向かった。スタジオ内は、と変わらず忙しく、しかし今は真がその一部となる。

　カメラが回り始めると、真は緊張でほとんど動けなかったが、彰人の穏やかな指導と支えで徐々にリラックスしてきた。彰人は真の不安を感じ取り、彼をリードしながらも、真のペースに合わせて進めていった。

　スタジオの灯りが遠くまで続く光の海は、この上なく美しく、二人の心を優しく包み込んでいた。彼らは言葉を交わすことなく、ただその瞬間を共有していた。

　そして、ふとした瞬間、彰人は真の方を向いた。真もまた、彰人の瞳の中に自分を映し出していた。二人の目が合ったその時、まるで時間が止まったかのように、静かで深い感情が流れた。

　彰人はゆっくりと真に近づき、彼の手を優しく握った。真はその温もりに応えるように、彰人を見つめ返した。二人の間には言葉は不要だった。その目と目のやり取りがすべてを語っていた。

　そして、自然と二人は互いに抱擁し、静かに接吻を交わした。その瞬間、心の奥底から湧き上がる暖かさと幸福感が、二人を包み込んだ。彼らは互いの存在の大切さを改めて感じ、その絆がさらに深まることを確信していた。

　そのとき、真は新しい自分を発見した。彰人との間にある深い信頼と理解が、彼を支え、未知の経験を乗り越えさせてくれたのだ。二人が共有したこの特別な経験は、彼らの友情をさらに強固なものに変えた。

「真、今日は本当にありがとう。君がいてくれて、僕はとても心強かったよ」

「彰人、僕も新しい自分を見つけることができた。一緒に乗り越えられてよかった」

　彰人と真は、人生の道がどれほど異なっても、互いに理解し、支え合いながら前進していけることを改めて確認した。この経験は、彼らにとって忘れられない貴重な記憶となり、二人の絆を永遠に深めるものとなった。