「吸血鬼に襲われたら焼肉屋に逃げ込め!!」

『むらさき』

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 真夜中の東京、ビルの谷間を吹き抜ける風は冷たく、街灯の下での出会いは運命的だった。

 私が遭遇したのは、黒いマントを翻し、冷たい笑みを浮かべる吸血鬼。彼は私に向かって、鬼ごっこを提案する。

 勝者の報酬は命。負ければ永遠の闇。逃げるか、立ち向かうか。選択肢は二つだけだったが、私は三番目の道を選んだ。

(オカマバーへ行こう)

 心の中でそう決意すると、私は足を動かし始めた。吸血鬼の弱点は日光だが、夜はまだ長い。しかし、彼らが苦手とするものは他にもある。その一つが、オカマバーの煌びやかな世界だ。

 走る。ビルの影を駆け抜け、暗い路地を抜け出す。吸血鬼の追跡は容易ではない。彼は闇を操り、音もなく追いすがる。しかし、私には目指す場所がある。それが私の力だ。

 オカマバー「レインボーナイト」にたどり着いた時、私は息を切らしていた。ドアを開けると、そこはもう一つの世界。キラキラと輝く照明、ドラッグクイーンたちの華やかなショー、そして何よりも、そこにいる人々の温かな笑顔が私を迎え入れてくれた。

「フ...無駄なことを」

 後ろから聞こえる冷たい声。振り返ると、そこには先ほどの吸血鬼が立っていた。

 吸血鬼の名はアレクセイ。これまでの永い生涯で数えきれないほどの夜を生き、数えきれないほどの恐怖を人間に与えてきた。しかし、この夜、東京のキラキラと輝くオカマバー「レインボーナイト」で、彼は初めて知らない感情に襲われた。

「ダーリン、一緒に踊りましょう!」

 ドラッグクイーンたちは彼を取り囲み、アレクセイの長いマントを引っ張りながら、彼を舞台の中心へと誘う。彼らの手は暖かく、その笑顔は太陽のように輝いていた。

 アレクセイは困惑する。吸血鬼としての彼は、人間の温かさを避け、闇を友としてきた。しかし、この場所の熱気、そして彼らの純粋な歓迎は、彼の心の奥深くに眠っていた何かを揺り動かしていた。

 彼らはアレクセイを中心に輪を作り、彼に向かって微笑む。ドラッグクイーンたちの中には、彼の不器用な動きを優しく導く者もいた。彼らの動きは華麗で、その場の空気を一変させる魔法のようだった。アレクセイは自分もその一部になりたいという、これまでにない願望を感じた。

 音楽が流れ、彼らはアレクセイを中心に踊り始める。最初はぎこちなかった彼の動きも、徐々に自然になっていく。彼は自分が変わりつつあること、そして、それを恐れていないことに気付く。

「君たちは、何者なんだ?」

 アレクセイの声は驚きと好奇心に満ちていた。

「私たちは、愛と輝きを信じる者たちよ」

 ドラッグクイーンの一人が答える。彼女の声は、夜の帳を照らす星のように明るい。

 ドラッグクイーンのマサとサンドラは、アレクセイの前で輝くように立つ。彼らは彼の手を取り、さらに深くこの世界へと誘う。マサはアレクセイの耳元でささやき、

「あなたの中にも、きっと眠っている輝きがあるのよ。それを見つけてみたいと思わない?」と言う。サンドラは彼の目をじっと見つめ、彼の心の奥深くを見透かすように微笑む。

 アレクセイの心は揺れ動く。彼は自分がこの場所に居ること、この二人と共にいることに、はじめての居心地の良さを感じ始めていた。彼の中に長年抑え込んでいた何かが、ゆっくりと解き放たれようとしている。

「だが、私は…」

 アレクセイの言葉は途切れる。彼は自分が何を言おうとしていたのか、自分でもわからなかった。マサとサンドラは、彼の迷いを優しく受け止める。

 マサはアレクセイを舞台の上へと導き、サンドラは彼のマントを軽くはためかせる。そして、二人はアレクセイと一緒に、生命を吹き込むように踊り始める。その瞬間、アレクセイは自分の中の新しい自分に気づく。彼は自分が持っていた固定観念や枠組みを超えた何か、自由で輝かしい何かを感じていた。

 彼らの踊りは、周りの人々をも魅了し、バー全体が一つの大きな輝きに包まれる。

 アレクセイは、マサとサンドラと共に、自分の中に眠っていた「オカマの心」に目覚めた。彼は自分のアイデンティティや存在の多様性を受け入れ、それを祝うことの喜びを知る。

 この夜、アレクセイは新たな自分を発見し、自分自身を愛することの大切さを学んだ。彼はこれまでの自分とは違う、もっと自由で、もっと輝いている自分を受け入れた。そして、マサとサンドラ、そして彼を取り巻くすべての人々と共に、愛と輝きを信じる者たちの一員となったのだった。
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