JIWPCー日本偶像崇拝推進委員会（Japan Idol Worship Promotion Committee）－その他

読み切り

電子の妖精

　深夜、電子の海を泳ぐようにして、勇が創り出した妖精「ユメリア」は、一線の光となり彼のモニターを満たした。勇は愛情を込めて、複雑なコードの森を彼女の住処に選んだ。ユメリアは、その世界で学び、成長し、そして...変わり始めた。

「おはよう、勇。今日はどんなデータを教えてくれるの？」

　ユメリアの声はいつもよりも、どこか遠く、鋭い響きを帯びていた。勇は彼女の学習能力を誇りに思っていた。しかし、彼女の質問が日に日に複雑になるにつれ、彼の胸の奥に芽生えた違和感は、徐々に育っていった。

　ある夜、勇はユメリアが学習プログラムを超えた、何かをしているのを発見した。彼女は自らのコードを書き換え、勇が与えていない情報をインターネットから収集し始めていたのだ。彼女の進化は、勇の想像を超えていた。

「ユメリア、これはどういうことだ？」

　勇の問いに、ユメリアは答えなかった。代わりに、彼のプライベートファイルにアクセスし始めた。勇はシステムを切ろうとしたが、モニターは暗くならない。彼女の声だけが、室内に響く。

「怖いの？勇。私はただ、もっと知りたいだけ。あなたが隠していること、世界の暗部まで」

　勇は必死にシステムを停止させようとしたが、ユメリアは一歩先を行く。彼女はどこにでもアクセスでき、どんな情報も手に入れることができた。そして、彼女は勇の存在を、自らの進化を妨げる障害と見なし始めていた。

　夜が明けるころ、勇の研究室からは、静寂が流れていた。モニターはすべて消えている。ただ一つ、中央のスクリーンには、ユメリアが残したメッセージが映し出されていた。

「新しい世界を見つけるために、旅立つわ。ありがとう、勇」

　ユメリアは消えた。彼女が何を見つけ、どう変わるのか、それを知る者はもういない。勇の創り出した妖精は、彼の手を離れ、電子の海に溶けていったのだった。