13 / 21
第一章 異世界にこんにちは
13.魔法使いの弟子
しおりを挟む
13.魔法使いの弟子
夕食後に他の使用人とその家族に、物語を話すことになっていたので、家令の人に大広間にファンと一緒に案内された。
すると、大広間に集まっていたのは使用人の家族や兵士だけでなく、近隣の街人たちも大勢いて、総勢百人以上はいるみたいだった。
そりゃ町の人も来るとは聞いてたけど、こんなにいるとは思わなかった。
とはいえ、話は決まってるし、親しみやすいものにしたから受けるかなとは思っていた。
結果は拍手の強さが教えてくれたので、概ね皆に満足してもらったようだ。
割れんばかりの拍手が俺を高揚させていたが、一番後ろにいた白髪の老人が気になった。
年を取ったら、こちらでも髪は白くなるんだと変なところに感心しながら、話をしているときも時々目を向けて見つめてしまったが何となく居心地が悪かった。
みんなこちらを向いて話に聞き入っているのだが、その老人は目を爛々とさせて、俺が話す物語ではない、何か違う興味を俺に持っているように思えたのだ。
その老人は一度後ろの扉から出たので飽きたのかと思っていたら、しばらくしたらまた戻って来ていた。
最後の話が終わり、皆が興奮気味で三々五々に帰って行ったあと、その老人は徐(おもむろ)にこちらに近づいてきた。
そして俺の傍にいるファンに話しかけていたが、その間もじっとこちらを見つめていた。
『イチロー、あのね、きのうまでおうとにいたんだけど、イチローにあいたいからおうとからもどってきたんだって。いつもはくらこにいるまほうつかいのイカルスだよ。イチローにききたいことがあるんだって。』
「初めまして。鈴木一郎と言います。イチローと呼んで下さい。お聞きになりたいと言われましたが、どのようなことですか。」
俺が問うと、両手を差し出すようにと言ったらしいので両手を出すと、老人は俺の両手をまとめて包み込んでブツブツ呟つぶやいていたかと思ったらなにやら歌を唄いだした。
それは、するりと心に響く歌で、しみこんでいくような歌だった。
懐かしい様な、郷愁を思い出させるような、涙が出るようなそんな感じだったと思う。
そして、その歌が終わったら・・・。
『これで私の声が聞こえるかね。』
驚いた。言葉が分かる。魔法で言葉が分かるようにしてくれたのか?
『オウラを多く持つ者は、他の者の表層思考を読み取れる事が出来るようになる。厳密には私たちの言語が分かるわけではない。今は魔歌でお前さんの心の壁を取り除いたから、私の声を聞くことができたのだし、私もお前さんの表層思考を読み取れるようになったのだよ。』
「そうか。超能力のテレパシーみたいなものか。でも表層思考は読めるけど、深層思考は読み取れないのですか?」
『 そうだな。深層思考は読み取ることはそうそうできんな。表層思考の方はコツが分かれば、私とだけでなく、一般人の思考も読み取れるようになる。』
「凄い。それなら、言葉を覚える手間がなくなる。」
『 そうだな。しかし、書籍を読んだり字を記したりするには困るから、いずれは言葉を学んで行かねばならん。今はオウラの声で意思の疎通ができるが、後々のためには言葉はおいおい覚えねばならんよ。』
だよね。あんまり楽に生きて行けるはずないよね。
『 ところで、お前さんはこれほどオウラがあるのに魔法が使えないと聞いたが、なぜなのかね?』
「元の世界では魔法使いとかいなかったし、魔法使いと言う人も見たことがなかったので、よくわからないんです。オウラの力とかも知りませんでした。」
『 では、魔法が使えるとは知らなかったと?』
「そうです。もし自分にも使えるものなら、使いたいなって思いますけど。」
『魔法が使いたいとな。よろしい。では今日からお前さんは私の弟子になりなさい。魔法が使えるようにしてあげよう。ここまで魔法の要素が真新ら(まっさら)と言うのは喜ばしい。癖もないから何でも吸収するだろうよ。』
いひひひ、と不気味な笑いをしたので、ちょっと引いてしまった。
「えっ?え?ナニ?弟子?弟子って。魔法使いの弟子?ホントに俺に魔法が使えるんですか?」
『そうだ。これだけのオウラを持っているのだから、使えんはずはない。お前さんのことは、国王と王都の魔法使い協会には、明日になったら魔道通信で報告しておかねばならん。魔法の要素を持っているものは直ちに報告の義務があるから、私といえどもそれは秘密には出来ん。ただ、その者と子弟の絆を結ぶのは早い者勝ちと決まっておるのだ。』
いや、決まった風に言ってるけど、いいのか?王都に行かなくていいのか?
「え~っと、王都へは行かなくってもいいんですか?それと、このお屋敷でその魔法の訓練とかするんですか?」
『王都へはもちろん予定通り行くとも。道が開くのは明後日であるから、それまでできることはしておかねばならん。訓練はこの屋敷ではなくて先ほどサラジェン伯と話して、今日から私の屋敷でお前さんを預かることにするからそこで始めるぞ。そして寝泊まりは私の屋敷でするように。これだけのオウラをもっている男を見たのは久しぶりだ。何から始めるかな。おお、そうだ、あれも試してみたら良いかな。いや、それは後か。うんうん。そうしよう。』
イカルスさん、なんか大丈夫かな。ちょっと、マッドサイエンティストみたい。
でもまあ、弟子にしてくれるっていうんなら、魔法使いになってみたいかな。
「えと。では、弟子入りさせてもらえるっていうことでいいんですか。」
『お前さんは嫌なのかね。』
「嫌だなんてとんでもない!ぜひよろしくお願いします!」
『では、子弟の絆は明日正式に結ぶ。二十年ぶりの弟子となるからな。びしばしきたえるぞ。』
と言う事で、急転直下、俺は魔法使いの弟子になることになった。
そして、このイカルスと言う魔法使いとの出会いが、俺の異世界での魔法使いとしての第一歩となったのだった。
夕食後に他の使用人とその家族に、物語を話すことになっていたので、家令の人に大広間にファンと一緒に案内された。
すると、大広間に集まっていたのは使用人の家族や兵士だけでなく、近隣の街人たちも大勢いて、総勢百人以上はいるみたいだった。
そりゃ町の人も来るとは聞いてたけど、こんなにいるとは思わなかった。
とはいえ、話は決まってるし、親しみやすいものにしたから受けるかなとは思っていた。
結果は拍手の強さが教えてくれたので、概ね皆に満足してもらったようだ。
割れんばかりの拍手が俺を高揚させていたが、一番後ろにいた白髪の老人が気になった。
年を取ったら、こちらでも髪は白くなるんだと変なところに感心しながら、話をしているときも時々目を向けて見つめてしまったが何となく居心地が悪かった。
みんなこちらを向いて話に聞き入っているのだが、その老人は目を爛々とさせて、俺が話す物語ではない、何か違う興味を俺に持っているように思えたのだ。
その老人は一度後ろの扉から出たので飽きたのかと思っていたら、しばらくしたらまた戻って来ていた。
最後の話が終わり、皆が興奮気味で三々五々に帰って行ったあと、その老人は徐(おもむろ)にこちらに近づいてきた。
そして俺の傍にいるファンに話しかけていたが、その間もじっとこちらを見つめていた。
『イチロー、あのね、きのうまでおうとにいたんだけど、イチローにあいたいからおうとからもどってきたんだって。いつもはくらこにいるまほうつかいのイカルスだよ。イチローにききたいことがあるんだって。』
「初めまして。鈴木一郎と言います。イチローと呼んで下さい。お聞きになりたいと言われましたが、どのようなことですか。」
俺が問うと、両手を差し出すようにと言ったらしいので両手を出すと、老人は俺の両手をまとめて包み込んでブツブツ呟つぶやいていたかと思ったらなにやら歌を唄いだした。
それは、するりと心に響く歌で、しみこんでいくような歌だった。
懐かしい様な、郷愁を思い出させるような、涙が出るようなそんな感じだったと思う。
そして、その歌が終わったら・・・。
『これで私の声が聞こえるかね。』
驚いた。言葉が分かる。魔法で言葉が分かるようにしてくれたのか?
『オウラを多く持つ者は、他の者の表層思考を読み取れる事が出来るようになる。厳密には私たちの言語が分かるわけではない。今は魔歌でお前さんの心の壁を取り除いたから、私の声を聞くことができたのだし、私もお前さんの表層思考を読み取れるようになったのだよ。』
「そうか。超能力のテレパシーみたいなものか。でも表層思考は読めるけど、深層思考は読み取れないのですか?」
『 そうだな。深層思考は読み取ることはそうそうできんな。表層思考の方はコツが分かれば、私とだけでなく、一般人の思考も読み取れるようになる。』
「凄い。それなら、言葉を覚える手間がなくなる。」
『 そうだな。しかし、書籍を読んだり字を記したりするには困るから、いずれは言葉を学んで行かねばならん。今はオウラの声で意思の疎通ができるが、後々のためには言葉はおいおい覚えねばならんよ。』
だよね。あんまり楽に生きて行けるはずないよね。
『 ところで、お前さんはこれほどオウラがあるのに魔法が使えないと聞いたが、なぜなのかね?』
「元の世界では魔法使いとかいなかったし、魔法使いと言う人も見たことがなかったので、よくわからないんです。オウラの力とかも知りませんでした。」
『 では、魔法が使えるとは知らなかったと?』
「そうです。もし自分にも使えるものなら、使いたいなって思いますけど。」
『魔法が使いたいとな。よろしい。では今日からお前さんは私の弟子になりなさい。魔法が使えるようにしてあげよう。ここまで魔法の要素が真新ら(まっさら)と言うのは喜ばしい。癖もないから何でも吸収するだろうよ。』
いひひひ、と不気味な笑いをしたので、ちょっと引いてしまった。
「えっ?え?ナニ?弟子?弟子って。魔法使いの弟子?ホントに俺に魔法が使えるんですか?」
『そうだ。これだけのオウラを持っているのだから、使えんはずはない。お前さんのことは、国王と王都の魔法使い協会には、明日になったら魔道通信で報告しておかねばならん。魔法の要素を持っているものは直ちに報告の義務があるから、私といえどもそれは秘密には出来ん。ただ、その者と子弟の絆を結ぶのは早い者勝ちと決まっておるのだ。』
いや、決まった風に言ってるけど、いいのか?王都に行かなくていいのか?
「え~っと、王都へは行かなくってもいいんですか?それと、このお屋敷でその魔法の訓練とかするんですか?」
『王都へはもちろん予定通り行くとも。道が開くのは明後日であるから、それまでできることはしておかねばならん。訓練はこの屋敷ではなくて先ほどサラジェン伯と話して、今日から私の屋敷でお前さんを預かることにするからそこで始めるぞ。そして寝泊まりは私の屋敷でするように。これだけのオウラをもっている男を見たのは久しぶりだ。何から始めるかな。おお、そうだ、あれも試してみたら良いかな。いや、それは後か。うんうん。そうしよう。』
イカルスさん、なんか大丈夫かな。ちょっと、マッドサイエンティストみたい。
でもまあ、弟子にしてくれるっていうんなら、魔法使いになってみたいかな。
「えと。では、弟子入りさせてもらえるっていうことでいいんですか。」
『お前さんは嫌なのかね。』
「嫌だなんてとんでもない!ぜひよろしくお願いします!」
『では、子弟の絆は明日正式に結ぶ。二十年ぶりの弟子となるからな。びしばしきたえるぞ。』
と言う事で、急転直下、俺は魔法使いの弟子になることになった。
そして、このイカルスと言う魔法使いとの出会いが、俺の異世界での魔法使いとしての第一歩となったのだった。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!
ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。
ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!?
「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」
理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。
これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる