着いたところは異世界でした。

千野恵

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第一章  異世界にこんにちは

13.魔法使いの弟子

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13.魔法使いの弟子

 夕食後に他の使用人とその家族に、物語を話すことになっていたので、家令の人に大広間にファンと一緒に案内された。
 すると、大広間に集まっていたのは使用人の家族や兵士だけでなく、近隣の街人たちも大勢いて、総勢百人以上はいるみたいだった。
 そりゃ町の人も来るとは聞いてたけど、こんなにいるとは思わなかった。
 とはいえ、話は決まってるし、親しみやすいものにしたから受けるかなとは思っていた。
 結果は拍手の強さが教えてくれたので、概ね皆に満足してもらったようだ。

 割れんばかりの拍手が俺を高揚させていたが、一番後ろにいた白髪の老人が気になった。
 年を取ったら、こちらでも髪は白くなるんだと変なところに感心しながら、話をしているときも時々目を向けて見つめてしまったが何となく居心地が悪かった。
 みんなこちらを向いて話に聞き入っているのだが、その老人は目を爛々とさせて、俺が話す物語ではない、何か違う興味を俺に持っているように思えたのだ。

 その老人は一度後ろの扉から出たので飽きたのかと思っていたら、しばらくしたらまた戻って来ていた。
 最後の話が終わり、皆が興奮気味で三々五々に帰って行ったあと、その老人は徐(おもむろ)にこちらに近づいてきた。
 そして俺の傍にいるファンに話しかけていたが、その間もじっとこちらを見つめていた。

 『イチロー、あのね、きのうまでおうとにいたんだけど、イチローにあいたいからおうとからもどってきたんだって。いつもはくらこにいるまほうつかいのイカルスだよ。イチローにききたいことがあるんだって。』

 「初めまして。鈴木一郎と言います。イチローと呼んで下さい。お聞きになりたいと言われましたが、どのようなことですか。」

 俺が問うと、両手を差し出すようにと言ったらしいので両手を出すと、老人は俺の両手をまとめて包み込んでブツブツ呟つぶやいていたかと思ったらなにやら歌を唄いだした。
 
 それは、するりと心に響く歌で、しみこんでいくような歌だった。

 懐かしい様な、郷愁を思い出させるような、涙が出るようなそんな感じだったと思う。

 そして、その歌が終わったら・・・。

 『これで私の声が聞こえるかね。』

 驚いた。言葉が分かる。魔法で言葉が分かるようにしてくれたのか?

 『オウラを多く持つ者は、他の者の表層思考を読み取れる事が出来るようになる。厳密には私たちの言語が分かるわけではない。今は魔歌でお前さんの心の壁を取り除いたから、私の声を聞くことができたのだし、私もお前さんの表層思考を読み取れるようになったのだよ。』

 「そうか。超能力のテレパシーみたいなものか。でも表層思考は読めるけど、深層思考は読み取れないのですか?」

 『 そうだな。深層思考は読み取ることはそうそうできんな。表層思考の方はコツが分かれば、私とだけでなく、一般人の思考も読み取れるようになる。』

 「凄い。それなら、言葉を覚える手間がなくなる。」

 『 そうだな。しかし、書籍を読んだり字を記したりするには困るから、いずれは言葉を学んで行かねばならん。今はオウラの声で意思の疎通ができるが、後々のためには言葉はおいおい覚えねばならんよ。』

 だよね。あんまり楽に生きて行けるはずないよね。

 『 ところで、お前さんはこれほどオウラがあるのに魔法が使えないと聞いたが、なぜなのかね?』

 「元の世界では魔法使いとかいなかったし、魔法使いと言う人も見たことがなかったので、よくわからないんです。オウラの力とかも知りませんでした。」

 『 では、魔法が使えるとは知らなかったと?』

 「そうです。もし自分にも使えるものなら、使いたいなって思いますけど。」

 『魔法が使いたいとな。よろしい。では今日からお前さんは私の弟子になりなさい。魔法が使えるようにしてあげよう。ここまで魔法の要素が真新ら(まっさら)と言うのは喜ばしい。癖もないから何でも吸収するだろうよ。』

 いひひひ、と不気味な笑いをしたので、ちょっと引いてしまった。

 「えっ?え?ナニ?弟子?弟子って。魔法使いの弟子?ホントに俺に魔法が使えるんですか?」
 『そうだ。これだけのオウラを持っているのだから、使えんはずはない。お前さんのことは、国王と王都の魔法使い協会には、明日になったら魔道通信で報告しておかねばならん。魔法の要素を持っているものは直ちに報告の義務があるから、私といえどもそれは秘密には出来ん。ただ、その者と子弟の絆を結ぶのは早い者勝ちと決まっておるのだ。』

 いや、決まった風に言ってるけど、いいのか?王都に行かなくていいのか?

 「え~っと、王都へは行かなくってもいいんですか?それと、このお屋敷でその魔法の訓練とかするんですか?」

『王都へはもちろん予定通り行くとも。道が開くのは明後日であるから、それまでできることはしておかねばならん。訓練はこの屋敷ではなくて先ほどサラジェン伯と話して、今日から私の屋敷でお前さんを預かることにするからそこで始めるぞ。そして寝泊まりは私の屋敷でするように。これだけのオウラをもっている男を見たのは久しぶりだ。何から始めるかな。おお、そうだ、あれも試してみたら良いかな。いや、それは後か。うんうん。そうしよう。』

 イカルスさん、なんか大丈夫かな。ちょっと、マッドサイエンティストみたい。

 でもまあ、弟子にしてくれるっていうんなら、魔法使いになってみたいかな。

 「えと。では、弟子入りさせてもらえるっていうことでいいんですか。」
 『お前さんは嫌なのかね。』
 「嫌だなんてとんでもない!ぜひよろしくお願いします!」
 『では、子弟の絆は明日正式に結ぶ。二十年ぶりの弟子となるからな。びしばしきたえるぞ。』

 と言う事で、急転直下、俺は魔法使いの弟子になることになった。

 そして、このイカルスと言う魔法使いとの出会いが、俺の異世界での魔法使いとしての第一歩となったのだった。
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