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第一章 解放
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スグルは大きなくしゃみとともに目を覚ました。
「ううっ、さぶっ。…あれ? なんで俺、床で寝てんだ?」
昨日の晩のことが、なんかぼんやりしてよく思い出せない。
「にゃーん」
ミケが腕にすり寄ってきた。
「ああ…、ご飯か。なあ、ミケ。昨日なんか…いやなんでもない」
スグルは立ち上がって、ミケのカリカリを取りに行ったのだが、その後ろから小さく声がした。
「なんでもない、はないでしょ」
スグルは驚いて振り返ったが、誰もいなかった。
「気のせいか…」
ミケの器にカリカリを入れる。そのとき、スグルの指先が淡い光に包まれた。
カリカリが器に当たる乾いた音が何か変わった。粒が真珠のように輝き、香りも非常に芳醇なものになっていた。
ミケが我慢しきれずに、スグルが呼ぶ前にやってきて食べだした。
「え、なんだこれ。ミケ、大丈夫なのか」
ミケは一心不乱という感じで、いつもよりもすごい勢いで食べている。
大丈夫なようだし、美味そうに食べているからいいか、とスグルは考えて仕事に出かけた。
スグルの今日のシフトは前夜勤であったので、結構多めの作業が残っていた。そのためであろう。緊急で入っている人もいた。体力に余裕がある人や稼ぎたい人が休日出勤をするのは、ここではよくあることだ。もちろん、管理された状態での話で、連続して何度も入ることはできない。ただ、自発でなく召集された場合は5割増という破格の支給となるので、若い者には連絡待ちをする者も多い。
スグルはいつも使っているエリアに腰を落ち着けて、処理待ちの剣を取った。演習用の量産型のロングソードだ。今まで何百本と手掛けてきた慣れたもので、いつものよう砥石を手にして研磨魔法を使う。
キイイィィーンといつもより甲高い音を立てて、剣の反りや欠けが修正されてゆく。そしてさらに仕上げの研ぎを入れた時に今までにない変化が起こった。
「な、何だこれは」
スグルはつい大きな声を上げてしまい、それを聞いた隣のエリアの同僚が目を向けたが、また驚いていた。
剣がとんでもない光沢を持っていたのだった。
量産で製造される剣は、その材質もB級品が用いられており、きれいに研磨しても表面には多少のくすみが残る。強度が出てさえいればそれで問題ない。
ところが、今スグルの手元にある剣はA級品の素材を使っても簡単には出せないような光沢を放っていた。表面の凹凸すらほとんどなく、まるで鏡で剣を作ったかのような様相となっていた。
こんな外観となるような剣と言ったら…。
ちょっと呆けていたスグルをよそに、その同僚が作業主任を呼んだ。この道30年にもなるベテランで皆からの信頼もあるし、ちょっとした鑑定眼も持っている。その主任をして目を剥いた。
「どっ…」
主任は何かを言いそうになって思い止まった。そしてすぐさま、部下に指示して、騎士団の百人隊隊長を呼びに行かせた。
主任は作業場の一角で何やら準備を始めている。
しばらくして、のそのそと入ってきたのは、今日の当番で騎士団としても体躯の大きな百人隊隊長だった。
主任が用意していたのは、剣の簡易鑑定器で、硬度の異なる数本の棒が立ててある。それでどのくらいまで切れるかを試すのだ。
通常の剣なら騎士団員なら誰でもいいのだが、百人隊隊長を呼ぶとなると、かなり高度な出来ということになる。
「これを試してみてくれ」
主任が百人隊隊長に剣を渡す。
「うん? やけに軽い…いや、なんだこの軽さは」
「変なのか?」
「いや、逆だ。しっくりくるというか、とても扱いやすい軽さだ。剣を振るうのに丁度いい軽さ。これ以上軽ければ気流が邪魔になり、また振りにくくなる。しかし、このタイプの剣でこんなに軽くしてしまうと…」
「とにかく試してみてくれ」
「万一ダメになってもいいのか? なんか勿体ない気もするが」
「多分、大丈夫だろう。訓練用の数打ちの剣…だったからな」
主任と百人隊隊長は改めて剣を見る。しかし、このようにちょっとした騒ぎになっていたのに、剣を作ってしまった当のスグルはちょっとボーっとした感じで座ったままだった。
百人隊隊長が剣を振るう位置を決めるために、測定器の一番外側の棒に軽く当てた。だが。
「なっ…」
「バカな」
本当に軽く当てただけ。百人隊隊長も力を全くかけていないのは誰の目にも明らかだったし、本人も実際そうだった。それなのに、触れた場所に剣がすっと入ってしまい、棒が切り落とされてしまった。
「おい、これってまさか」
「いやいやいや。そんなバカな」
“聖剣”
「本来の職が剣士ではない勇者や聖職者が振るうために、極限まで使いやすく、極限まで切れ味を追求し、教皇など最高の聖者によって神の祝福を受けた剣」
もしくは、ただ単に
「神が用いた剣。もしくは神によってもたらされた剣」
とある。
前者は人間が人間のために作ったもの。後者は神が作ったものという解釈になっている。
「ううっ、さぶっ。…あれ? なんで俺、床で寝てんだ?」
昨日の晩のことが、なんかぼんやりしてよく思い出せない。
「にゃーん」
ミケが腕にすり寄ってきた。
「ああ…、ご飯か。なあ、ミケ。昨日なんか…いやなんでもない」
スグルは立ち上がって、ミケのカリカリを取りに行ったのだが、その後ろから小さく声がした。
「なんでもない、はないでしょ」
スグルは驚いて振り返ったが、誰もいなかった。
「気のせいか…」
ミケの器にカリカリを入れる。そのとき、スグルの指先が淡い光に包まれた。
カリカリが器に当たる乾いた音が何か変わった。粒が真珠のように輝き、香りも非常に芳醇なものになっていた。
ミケが我慢しきれずに、スグルが呼ぶ前にやってきて食べだした。
「え、なんだこれ。ミケ、大丈夫なのか」
ミケは一心不乱という感じで、いつもよりもすごい勢いで食べている。
大丈夫なようだし、美味そうに食べているからいいか、とスグルは考えて仕事に出かけた。
スグルの今日のシフトは前夜勤であったので、結構多めの作業が残っていた。そのためであろう。緊急で入っている人もいた。体力に余裕がある人や稼ぎたい人が休日出勤をするのは、ここではよくあることだ。もちろん、管理された状態での話で、連続して何度も入ることはできない。ただ、自発でなく召集された場合は5割増という破格の支給となるので、若い者には連絡待ちをする者も多い。
スグルはいつも使っているエリアに腰を落ち着けて、処理待ちの剣を取った。演習用の量産型のロングソードだ。今まで何百本と手掛けてきた慣れたもので、いつものよう砥石を手にして研磨魔法を使う。
キイイィィーンといつもより甲高い音を立てて、剣の反りや欠けが修正されてゆく。そしてさらに仕上げの研ぎを入れた時に今までにない変化が起こった。
「な、何だこれは」
スグルはつい大きな声を上げてしまい、それを聞いた隣のエリアの同僚が目を向けたが、また驚いていた。
剣がとんでもない光沢を持っていたのだった。
量産で製造される剣は、その材質もB級品が用いられており、きれいに研磨しても表面には多少のくすみが残る。強度が出てさえいればそれで問題ない。
ところが、今スグルの手元にある剣はA級品の素材を使っても簡単には出せないような光沢を放っていた。表面の凹凸すらほとんどなく、まるで鏡で剣を作ったかのような様相となっていた。
こんな外観となるような剣と言ったら…。
ちょっと呆けていたスグルをよそに、その同僚が作業主任を呼んだ。この道30年にもなるベテランで皆からの信頼もあるし、ちょっとした鑑定眼も持っている。その主任をして目を剥いた。
「どっ…」
主任は何かを言いそうになって思い止まった。そしてすぐさま、部下に指示して、騎士団の百人隊隊長を呼びに行かせた。
主任は作業場の一角で何やら準備を始めている。
しばらくして、のそのそと入ってきたのは、今日の当番で騎士団としても体躯の大きな百人隊隊長だった。
主任が用意していたのは、剣の簡易鑑定器で、硬度の異なる数本の棒が立ててある。それでどのくらいまで切れるかを試すのだ。
通常の剣なら騎士団員なら誰でもいいのだが、百人隊隊長を呼ぶとなると、かなり高度な出来ということになる。
「これを試してみてくれ」
主任が百人隊隊長に剣を渡す。
「うん? やけに軽い…いや、なんだこの軽さは」
「変なのか?」
「いや、逆だ。しっくりくるというか、とても扱いやすい軽さだ。剣を振るうのに丁度いい軽さ。これ以上軽ければ気流が邪魔になり、また振りにくくなる。しかし、このタイプの剣でこんなに軽くしてしまうと…」
「とにかく試してみてくれ」
「万一ダメになってもいいのか? なんか勿体ない気もするが」
「多分、大丈夫だろう。訓練用の数打ちの剣…だったからな」
主任と百人隊隊長は改めて剣を見る。しかし、このようにちょっとした騒ぎになっていたのに、剣を作ってしまった当のスグルはちょっとボーっとした感じで座ったままだった。
百人隊隊長が剣を振るう位置を決めるために、測定器の一番外側の棒に軽く当てた。だが。
「なっ…」
「バカな」
本当に軽く当てただけ。百人隊隊長も力を全くかけていないのは誰の目にも明らかだったし、本人も実際そうだった。それなのに、触れた場所に剣がすっと入ってしまい、棒が切り落とされてしまった。
「おい、これってまさか」
「いやいやいや。そんなバカな」
“聖剣”
「本来の職が剣士ではない勇者や聖職者が振るうために、極限まで使いやすく、極限まで切れ味を追求し、教皇など最高の聖者によって神の祝福を受けた剣」
もしくは、ただ単に
「神が用いた剣。もしくは神によってもたらされた剣」
とある。
前者は人間が人間のために作ったもの。後者は神が作ったものという解釈になっている。
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